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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
437/440

純粋なる闇

●登場人物

・ナル…生命の能力者となった異星の青年。植物や動物を意のままに動かす事ができる。加工された材木でさえも彼の指示のままに動き出す。

・ジェイ…重力の能力者となった女性で、やはり異惑星から仲間になった。重力の発生源や強弱を自在に操る事で物体を宙に浮かべる事ができる。

・フヨウ…土着信仰の神の巫女として地上で千年を生きる神の国の住人。見た目は十歳ほどの少女の姿をしている。

・タテガミ…剣に封印された大地の精霊。ナルの持つ生命の能力に呼応し、巨大な赤い獅子の姿として実体化できるようになった。

・キバ…タテガミと同じく剣に封印された表現の精霊。巨大な白銀の狼として実体化することができる。タテガミに比べ非常に冷静。

・クロム…魔族が手駒として生み出した機械人間であるエクスヒャニクの統括を一任されている幹部の一人。常に銀色に輝く仮面をかぶり、氷を操る。


●前回までのあらすじ

ナル、ジェイ、フヨウを欠いたまま東諸国の玄関口、ミルナダへと上陸したココロ達一行。海上で繰り広げられたゼクトゥムとの死闘によりアクーとアオメの二人も重症を負っていた。

一睡もせず冷たい船上で能力を発揮し続けたココロの疲労も限界に達していた。そんな仲間たちを見て、体力の回復こそ最優先と考えたシルバーであったが、心と愛眼は一刻も早く逸れた三人を探しに行こうとシルバーの意見に反発する。

主君に逆らえず困惑するシルバーを助けたのは大地とガイ、そしてアクーであった。彼らはうまくココロ、シルバー双方の意見を取り入れた中間策を提示するのだった






「インリー!!」

 叫んだのはジェイだった。それと同時にナルとタテガミの体がもつれ合うようにして横に平行移動を始めた。直前までナル達がいた地面が突然大きく(えぐ)れ土煙を上げる。

 次の瞬間、クロムの放った攻撃に掘り返された土の上に巨大な水溜りが生まれる。突如出現した水は瞬く間に地面に染み込み消えて行った。

「ジェ、ジェイ…」

 フヨウが慌てた声を出す。見れば今まで共に地に伏せていたジェイが立ち上がり、クロムに強い目を向けている。

「お前、何をした?」

 とどめとなる筈の攻撃を(かわ)されたクロムは、突然立ち上がったジェイに向け目を細めた。

 ジェイは無言のまま足を進めると、クロムの足元にまでやって来た。フヨウもナルも慌てたが、二人にジェイを止める事はできなかった。

「ぐああ!」

 ジェイが無言のまま左手を上げると同時に、キバが激痛に叫んだ。地面から突き出た微かに輝きを放つ氷の針に突き刺さっていたキバの体が上昇を始めたのだ。針から解放されると、(おびただ)しい血を流したキバの体は音もなく地面へと降ろされた。

「お前…能力者だと言ったな?」

 キッとした目を上げ改めてクロムを(にら)みつけたジェイは大声を上げた。

「お前はやり過ぎたクロム。今すぐに訂正しろ、彼らは誰も、弱くない!」

「弱くない?この私一人にこうまで痛めつけられておきながら弱くないだと?」

「弱くない!」

「そのような戯言(ざれごと)は、せめてこの私に攻撃の一つでも当ててから言うのだな」

「そうかい。だったらここからはこの重力の能力者、ジェイズラーランク=ヴァンドルノット=アストラリーツが相手をしてやる!」

「何て…」

「二度は名乗らない!」

 そう叫びながらジェイがクロムに向けて手を振り上げる。その途端クロムの体が空高く打ち上げられた。すぐにジェイが走り始める。

「ジェイ!目の前に何かある!気を付けい!」

 ナルのもとへと駆け寄ったフヨウが大声で忠告する。その声にハッとして足を止めたジェイが恐る恐る手を伸ばすと、その指先に固く冷たい感触があたった。

「これは…、氷?」

 相当目を凝らさなければわからない程透明度の高い氷の柱が目の前に(そび)え立っていた。

「そうか」

 何かに気が付いたように顔を上げたジェイは、インリーの能力を発動させると、一気に空中に留まるクロムに向かって上昇を始めた。

「フヨウ、一体…?」

 苦し気な声で訊いて来るナルにフヨウが説明を始めた。

「どうやらあのクロムとか言うエクスヒャニク、氷を操る化け物のようじゃの」

「氷?」

「左様。奴の手から放たれる投てきの武器はすべて鋭く研ぎ澄まされた氷の破片じゃ。純度が高く透き通っているので目には見えんし、着弾と同時に溶けて消えてしまうから正体がわからんかった」

「なるほど、氷か…」

 タテガミが呟く。

「ガイの奴が氷漬けになったって話しを思い出してりゃすぐにわかったのにな…」

「奴が空を飛ぶのもやはり氷の力じゃ」

「目には見えない巨大な氷柱を生み出し、あいつはそこに乗っかったりその上を滑ったりしながら空中を移動していたって事?」

 フヨウの説明をナルが引き取った。

「その通りじゃ」

 フヨウは(うなず)きながら言うとナルに肩を貸した。

「とにかくここはジェイに任せ、まずはボロクソになった二匹を避難させい」

「ボロクソってなんだ!あと二匹って言うなチビ助が!」

「そんだけ吠えれりゃ心配はないの」

「タテガミ、戻って」

「チっ!」

 忌々し気に舌打ちをしたタテガミだったが、それでも重症の身である自覚はあるのか、素直に剣の中へと姿を消した。

「キバ…」

 ナルが痛みに耐えながら剣先を向けると、倒れたまま動かないキバの体も不定形な姿へと変わり、見る間に剣へと吸い込まれるように消えて行った。

「敵は三人…」

 フヨウが心配げな表情で顔を上げる。見つめる先には奇妙な姿をした二体のエクスヒャニクが空高く舞い上がったクロムを見上げている。

「どうやらあの二体はクロムの命令で動かずにいるようじゃが、あのままいつまでもじっとしているとも思えん」

「ジェイ一人でクロムの他にあの二体まで相手にするのは無理だ」

「じゃからお前は少しでも休んで、体力を回復させるんじゃナル。この際クロムはジェイの奴に任せ、お前はあの二体から目を離さずにおれ」

 フヨウのアドバイスに、何とか身を起こし地面に座り込んだナルは、二体のエクスヒャニクを(にら)みつけた。

「わかった…。今の僕じゃ、あいつらから逃げおおせるのは難しい。ここで決着をつけて、三人で町へ向かおう」

「頼みはジェイだけじゃが、奴もまだ完全ではなかろうからな…」

 不安そうな声で呟きながらフヨウは天を仰いだ。





「くっ!」

 突然無重力の中に放り込まれたクロムは態勢を維持する事ができず空中でもがいていた。その目に初めて(あせ)りの色が見えた。

「無駄だよ!君は既にインリーの支配下にある!」

 追いついたジェイは、クロムの体を追い越すと頭上を取った。

「ボラステイリア!」

「そうはさせるか!」

 無数の氷の槍を生み出そうとしたクロムだったが、ジェイが両腕を(ひね)るように回すと、その動きに合わせクロムの小さな体も回転を始めた。

 ジェイに狙いを定めていた筈の武器はクロムの動きに応じてあらぬ方角へと飛んで行く。

「考え違いをすんじゃないよおチビちゃん。もう一度言う!タテガミもキバも、ナル君も!誰一人弱くなんかない!」

「世迷いごとを!力を持たぬ者は弱き者だ!誰も守る事のできない奴は、ただ強き者の庇護(ひご)を受け、守られているべき存在なのだ!そんな者が、戦場になど立てるものか!」

「それ以上言うな!」

「ヴァリズム!」

 正面から迫るジェイに向かいクロムが手を上げる。一瞬にしてギルザードの巨体を氷漬けにしその動きを封じた技だ。至近距離から放たれたこの攻撃をジェイは(かわ)しきれなかった。

「リポースグラビィ!」

 ジェイも叫びながらクロムに向かい両手を突き出した。その瞬間ジェイの体がグングンと上昇を始める。クロムの仕掛けた技に向かい半重力を作用させ、迫る攻撃から遠のいているのだ。

 クロムが驚きに目を開く。迫り来る攻撃それ自体を対極としているのだから追いつく筈がない。やがてクロムの放った攻撃は大きく散り、冷たい水滴となって技を放ったクロム自身の顔に降り注いだ。

「インパクトグラブ!」

 先に叫んだのはジェイだった。彼女の見せた何かを投げつけるような動きに応じてクロムの体が一気に落下していく。

 地面に達する前にクロムの体は大きくバウンドした。自身の生み出した氷の柱に背中から叩きつけられたようだった。

「インリー!」

 攻撃の手を休めないジェイがその腕を振り上げると、再びクロムの体は何かに引かれるように宙に浮きあがった。

「インパクトグラブ!!」

 ジェイが全身を使って腕を振り下ろすと、さっきよりも更に速い速度でクロムの体が落下を始めた。

「ぐはっ!」

 同じく氷の柱に叩きつけられたクロムが思わず苦痛の声を上げる。その衝撃に粉々に砕けた氷の柱が太陽の光を受け細かい粒子のように輝き舞い散った。

「クロム様!」

 無抵抗に地面に叩きつけられたクロムに向かい二体のエクスヒャニクが駆けつけようと動きだす。

「ガッシュリプト!」

 何とか身を起こしたクロムが右手で()ぎ払うように宙を()いた。その瞬間走り出したエクスヒャニク達の蹴る地面が凍り付き、二体は絡み合うように転倒した。

「手を出すな…。これは、私の戦いだ…」

 テリアンドスでは当初傍観に徹し、キイタの炎の攻撃を受けた際にはそのままあっさりと追撃を諦めたクロムだったが、ここでは徹底的に戦う覚悟のようだった。

「な、何だ…?」

 両手をついたクロムの姿を見ながらナルは思わず呟いた。地面を見つめるように(うつむ)いたまま動かないクロムの体から、奇妙なオーラが浮き上がって来た。それは青白い(もや)のように両肩から現れクロムの全身を包み込み始めた。

「リュートラグミィ!」

 叫ぶ声と同時にクロムの体は空に留まるジェイに向かい急上昇を始めた。目には見えないが再び頑強な氷筍を生み出したようだ。

「性懲りもなく…」

 風を切って迫るクロムにジェイはカウンターを喰らわせるべき手を伸ばした。

「ケーティヴィラ!」

 頭上のジェイに向かって顔を上げたクロムは、今までにない大音声で叫んだ。頭に被ったフードが大きくはためきながらめくれあがり、中から銀に青を混ぜたような不思議な色の長い髪が現れた。

 次の瞬間、凄まじい突風と共に想像を絶する冷気が周囲を覆った。今まで直線的に相手にだけ向かっていたクロムの技とは違い、これは地上に留まるナルやフヨウをも襲う程広範囲に渡る攻撃であった。

「ぐっ!」

 吹き付けて来る猛烈な冷気にジェイが思わず体勢を崩す。バリバリと奇妙な音が周囲に鳴り響き、美しい光の幕が彼女の体を覆った。

「これは…、空気が氷ついて…」

 ジェイの顔が色を失くす。クロムの生み出した冷気は空気中の水分を一瞬で凍り付かせ、ダイヤモンドダスト現象を引き起こしていた。

「ファング!」

 クロムは広げた右手で何かを掻き抱くように空を握った。その途端、ジェイの周りに(きら)めいていた光の幕が一気に集まりジェイに襲い掛かった。

「やば…」

 迫りくる光の玉を回避しようとジェイが重力を操り右手へと移動する。しかしクロムが技を仕掛けるのが一瞬早かった。一つに集まり巨大な光の玉となった凍った空気は逃げようとしたジェイの左腕を覆った。

 ジェイが驚きに目を見開き大きく息を吸い込む。左腕の感覚が一瞬で失われ、動かす事すらできなくなった。

(かわ)したか!しかしそこまでだ!」

 そう叫ぶなりクロムは更に高度を上げジェイへと肉薄した。

「心臓まで凍りつけ!ヴァリズム!!」

 再び強烈な冷気がジェイへと迫る。左手の自由を失い動揺するジェイに回避に移る暇はなかった。

(能力を発動して!ジェイズラーランク!)

 頭の中にインリーの声が響き渡った。その瞬間、考えるよりも先に体が動いた。

「リポースグラ…」

 しかしジェイが技を繰り出すよりも早くクロムの放つ冷気がその体を包み込んだ。逆巻く髪がその形のまま白く凍り付いた。

(ジェイズラーランク!)

 ジェイが動きを止めたのを見たクロムは激しい空中戦に終止符を打つべく一気に上昇する。

「勝負あった!砕け散れ、重力の能力者!」

「ジェイ!」

 地上からこの様子を見上げていたナルとフヨウが思わず叫び声を上げる。その間にもクロムは凍り付いたジェイの体を粉々にしようと接近していく。

「弱く…ない…」

(ジェイズラーランク!)

「誰も、弱くなんかないんだ…」

 凍り付いた頬を不自由そうに動かし、ジェイの口から震えた声が切れ切れに(こぼ)れ出る。

「何だと!?」

 クロムが驚愕の声を上げる。ジェイの体を覆った氷の鎧は瞬く間に(ひび)割れ、次の瞬間音を立てて粉々に砕け散った。

「ニーツグラヴィ!」

 ジェイは大声で叫びながら右手を大きく振った。再び無重力状態に陥ったクロムが空中で大きくバランスを崩す。先の技をまともに喰らったジェイの左手はまだ凍り付いたままだった。

「クロム、確かに君は強い…」

 何とか体勢を安定させようとクロムがもがく。その手は既に次の攻撃を出そうと準備を整えていた。

「だからあたしも!今の全力で君を倒す!」

 ジェイの体が強烈な紫色の光を放つ。重力の能力を最大限にまで高めているのだ。

「ニーツグラヴィ…」

 ジェイが自由に動く右手を横に広げる。ナルやフヨウ、二体のエクスヒャニクが立つ地面が大きく振動を始めた。

「メギスト!」

 ジェイの声と共に地面がせり上がり、恐ろしく巨大な岩が宙へと浮かび上がった。ナル達が声もなく見つめる中、地中から浮かび上がった巨大な岩は恐ろしいスピードでクロムに迫った。

「くっ!サーラヒュウジィ‼」

 身の危険を感じたクロムは咄嗟(とっさ)に自分の足を凍り付かせ氷柱と一体化すると、更にその氷柱を育て迫りくる岩からの回避を図った。

 クロムの移動する下には目には見えない氷柱が地面から長く伸びている。クロムは決してジェイや同じ魔族のダキルダのように空中を浮遊している訳ではないのだ。

 軌道を変えず真っ直ぐに上昇した巨大な岩は、クロムと一体となった硬い氷柱を粉々に砕いた。

 足場を失い空中に放り出されたクロムを視界に捉えたまま、ジェイが更に右手を振るう。

「デストヘレス!」

 ジェイが呪文でも唱えるように声を発した途端、氷柱を砕き宙高くに浮かび上がった大岩が(すさ)まじい速度で落下していくクロムに迫って行った。このままその小さな体を地面に叩きつけ、圧し潰そうとしているのだ。

「クロム様!」

 この様子を地上から見上げていた二体のエクスヒャニクが地面を蹴る。一体はクロムの体を受け止め、もう一体は大岩に向かって行った。

 絶叫が響く、ジェイの落とす大岩に組み付いたエクスヒャニクが叫んでいるのだ。その怪力をもってしても大岩の落下を食い止める事ができなかった。

 ただ岩が重たいだけではないのだ。そこにはジェイが発する最大級の重力が掛かっている。エクスヒャニクは僅かな抵抗もできぬまま勢いよく地面に突き刺さる大岩の下敷きとなって消えた。









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