第二章「闇の眷属」一節
先の戦いから数十分も経つと、大陸が見えてきた。しかし破損した船は港へは接近せず、方向を変えて岸沿いに見える洞窟へと入っていった。そして船は洞窟内にある木製の建物の前に停まった。
「着いたー!」
船が停まると女海賊ルナーは船から降りて背伸びをした。
「こんな所にアジトがあったのか。」
そう呟くのは不本意ながらルナーの部下になった騎士アルバートだった。彼は先の戦いで出現した海の怪物を倒した実力をルナーに見込まれて部下になっていた。
「バレないように工夫したからね。さ、アンタも早く降りてきて。」
「船はいいのか?」
「船員達に見張りと船の修復を任せるから大丈夫!そういう事だからアンタ達頼んだよ!」
「イエッサー!」
ルナーは自信ありげに答えて指示すると、船員達は備品(という名の略奪品)がある拠点の中と船を行き来して船の修復に取りかかった。そしてアルバートはその様子を見て一つ疑問が生まれた。
「おい。まさかとは思うが、船員はこの三人だけとか言うんじゃないだろうな?」
「え?そうだけど?」
「は?」
ルナーの返事にアルバートは自分の耳を疑った。
「これで全員なのか?船内で寝てるとかじゃ?」
「いいえ。これで全員よ。昔はもっと居たけど……今これ。」
笑いながらルナーが答えると、アルバートは頭を抱えた。
(俺・・・もしかしてろくでもない奴の仲間になってしまったのか?)
「ほらほら早く降りて!こいつらが船を直してる間にこの辺りで貴族からりゃくだ…近辺の様子を調べなきゃ!」
そう言いながらルナーはアルバートを急かした。アルバートは先が不安になりながらも、部下である以上、ルナーに従い、共に洞窟の外へと行くのだった。
◇
「ルナー。確かに俺はお前の部下になるとは言ったが、無実な人からの略奪だけはやらないからな。それに国の人間に見つかったら捕まって終わりだぞ?」
草むらにいるルナーにアルバートが背を向けて話した。洞窟から出るや否や、ルナーはアルバートに「あっち向いてて。」と言って草むらの中に入って何かをごそごそとやり始めた。アルバートはよく分からないまま後ろを向いていた。
「よし!いいよ!」
ルナーの許しが出たのでアルバートは草むらの方に振り向く。そして草むらの中からは海賊の服装から青色がベースの動きやすいドレス姿のルナーが出てきた。
「じゃーん!貴族のお嬢様みたいでしょ?確かに普段の服装なら捕まっちゃうけど、この姿なら貴族と思われるでしょ?」
「ああ。よく考えたな。」
ルナーの姿を見ながらアルバートは言った。
「よーしそれじゃお着替えもした事だし、早速この辺りで襲いがいのある悪徳貴族とかを見つけてぶっ叩こうぜ~♪」
「それが本音か!」
アルバートがツッコミながらもルナーは洞窟の前にある森の中へ行った。アルバートもそれに続いて行った。
◇
入った森はとても広かった。入り口から遠ざかるにつれて海の磯の香りも遠ざかり、森の木々の香りがしてきた。
「この森を出ると、この国……ヘイムダルの城下町に続くの。そこであたしは時々変装して火薬とかを調達するんだ。ま、たまに略奪して手に入れるけど、船が使えないからさ。ここはよく悪徳商人や散歩の貴族が通るから、あたしがこの格好で騙してアンタが隙を突く!民を苦しめる悪人を成敗して略奪もできるから一石二鳥よ!」
ルナーの話をアルバートは黙って聞いていた。彼は歩きながら時々ルナーの姿を見ていた。ルナーはそれに気付いたのかニヤニヤしていた。
「どうしたのアルバート?もしかしてこの格好のあたしに惚れちゃった~?」
面白がったルナーはアルバートの前に出てドレスを揺らしながら煽った。だがアルバートはどこか上の空だった。
__見て見てお兄ちゃん!ドレスを着ると、あたしもお母さんみたいでしょ?
「ねえねえ?実際どうなの~?惚れてんの~?」
「……ああ。」
アルバートはかつて聞いた言葉を思い出してそれに返事をしてしまった。
「あ!いや、今のは返事とかじゃなくて!ちょっと昔の事を思い出してて……」
我に返ったアルバートは弁明をした。ところがルナーは立ち止まったまま顔を赤くしていた。
「どうした?」
「……か、勘違いしないでよね!」
アルバートが聞くとルナーは顔を赤くしたまま不機嫌そうにそっぽ向いた。
「言っとくけど、アンタはあたしの部下で、海賊団中でも下っ端だってのを忘れないでよね!」
ふん!とドレスを翻して歩き始めるルナー。アルバートはルナーの怒ってる理由があまり分からないたまま後ろをついて行った。そこからは何もなく歩いていたが、しばらく歩くと城らしき建物が見えてきた。
「お前が言ってた城下町が近いのか?」
「うん!もうこのまま町へ入っちゃおうか!」
そう言いながらルナーは道をどんどん進もうとした。
「避けろ!」
「え?」
突然アルバートはルナーの背中を押し倒した。その直後黒く巨大な鉄板が二人の間に落ちてきた。落ちた鉄板はそのまま地面を割った。
「敵襲?」
「誰だ!」
アルバートは大剣を引き抜いて鉄板が落ちてきた方向を見ると、鉄板が起き上がったと思いきや一人の巨漢が二人の目の前に立っていた。
「今の一撃を見切るとは…その肉体、飾りではないな?」
鉄板というなのグレートソードを担いで現れた一人の巨漢。その屈強な体は背丈のあるアルバートでさえも圧倒された。
「ここら辺では見かけない筋肉だな?つまり侵略者か!」
巨漢の戦士は二人に向けてグレートソードを横なぎに振るってくるのでアルバートは咄嗟に大剣を立てて防御した。
「俺達は敵じゃない!話を聞いてくれ!」
「とりゃあ!」
アルバートは必死に話そうとするが、巨漢は聞くどころか有無を言わさずグレートソードを振り回してくる。
「うわっ!」
「くっ!」
二人は何とか避けていた。
「この野郎!やられっぱなしだと思わないでよ!」
「待て!」
ルナーは避けながらサーベルを引き抜こうとしたが、アルバートはそれを止めた。
(海賊と知られたらまずい!)
アルバートはルナーにアイコンタクトを伝えると、巨漢の前に立ち塞がって大剣を向けた。
「誰だか知らないが、お嬢様に手を出したら容赦はしないぞ!」
グレートソードが迫る中、アルバートは見え見えな嘘をついた。国の人間なら貴族の違いを分かるだろう。そして巨漢のグレートソードは目の前まで迫ってきた。
「お嬢、様?」
アルバートの言葉を受けた巨漢は直前で動きを止めた。
「そう、お嬢様!お前が気軽に近づけない高貴な人って事だ!」
「高気……つまり気力がある。気力があるという事は…筋肉がある!?」
巨漢はハッとした様子でグレートソードを地面に刺してひれ伏せた。
「失礼した!!まさか同じ筋肉仲間だとはきづかず、失礼なマネを!」
「いや、そこまでしなくても分かってくれたなら…」
「全くだよ!もしこれであたしに怪我でもさせたら、出るとこ出たわよ!」
「それだけはやめてくれ!訓練場の出禁だけは見逃してくれ!」
「分かった!分かったから顔を上げてくれ!」
謎の被害妄想をする巨漢をアルバートは宥めると、巨漢は平静さを取り戻した。
「失礼したな。俺はサムソン。この王国の妃様にこの鍛え抜かれた肉体を見込んでくれて俺を闇の眷属の対処するために率いれてくれたのだ!」
「闇の眷属?」
聞いた事のない言葉にルナーは聞き返した。
「なんでも突如海を渡って現れたおぞましい連中らしい。国の敵とはつまり筋肉の敵。つまり俺の討つべき敵だ!」
闇の眷属について筋肉を見せつけながら話すサムソン。ルナーが鬱陶しくしている横でアルバートの顔が険しくなっていた。
(闇の眷属……まさか海で倒した魔物も奴らの影響か?だとすればいずれこの地も……)
アルバートの脳裏に闇に侵された祖国の姿が過った。そして自分と共に生きた仲間達の叫びも。
__ここは我らで抑えます!
__あなたはどうか……女王様と姫様のもとへ向かってくだされ!
__お二人の事、頼みましたぞぉ!
(皆……)
仲間達の声がアルバートの耳に響く。自分を信じて戦った者達の声が今は刃のように胸を引き裂き、彼は腕を震わせた。
「ねえ。あたし達でそいつをぶっ倒してあげようか?」
「何!?」
ルナーの言葉にサムソンは腕立て伏せを止めた。
「正気か!?相手は筋肉の尊さも分からぬ人ならざる存在なんだぞ!?」
「それなら心配ないわよ。ねえ?アルバート。」
「は?」
自信ありげにルナーがアルバートを見ると、彼は動揺した。
「ほお…貴公には相応の筋肉が備わっているのか?」
「いや違う!俺はそこまで……」
「そうよ!」
「こいつは海の魔物を一人で倒してるんだから!ねー!」
「いや担ぐなって!」
アルバートはルナーの言葉を否定するも、サムソンはルナーの話を聞いて熱意ある眼差しをアルバートに向けていた。
「おお!その筋肉は飾りではないのだな!俺がてこずっている闇の眷属は夜になると西にある火山に現れるんだ!」
「おい!俺は行くなんて一言も…」
「では夕方頃にこの森の西側で落ち合おう!それまで俺は筋肉を愛でる!では!」
「お、おい!」
アルバートは呼び止めようとするも、サムソンはランニングしながら去ってしまった。
「…どうするんだよあんな事引き受けて!」
アルバートが怒ると、ルナーはチッチッチと指を動かした。
「アルバート。あたしは利益にならない事はしないわよ。恩を作って後で金なりなんなり貰うつもりだから♪」
「そういう話じゃないんだよ!闇の眷属と戦うなんて自殺するようなものだ!俺は絶対にやだからな!」
そう言ってアルバートは背を向けてどこかへ歩き始めた。
「別に去るのは良いけど、アンタに行く宛てあんの?」
ルナーの挑発気味な言葉にアルバートの足が止まった。
「それにアンタは壊れた船の代わりなる戦力になるから部下にしたのに・・・居なくなったら消費した火薬や壊れた武器の修繕費になりそうなもの探そうかな~?」
ルナーはチラッとアルバートが身に付けている武具を見る。その視線にアルバートは彼女の意図を察した。
「分かったよ。お前の案に乗る。」
それを聞いたルナーはニヤリと笑う。
「ふっふっふ~。そうこなくっちゃね!」
アルバートを脅す事できてルナーは満足げだった。
◇
「ルナー。海で出くわした魔物は咄嗟でも倒せるくらいの相手だったから倒せたが、今度はそうもいかないかもしれないんだぞ?」
「あ、見てアルバート!これとか従来の火薬よりも強そうじゃない?」
アルバートの話をルナーは全然聞く耳持たず、露店の火薬を見ていた。城下町に入ってから二人はずっとこれの繰り返しだった。
「ルナー。聞いているのか?」
「はいはい。」
「…なあルナー。お前もしかして何も考えずに引き受けたのか?」
しびれを切らしたアルバートの言葉にルナーはピクッと震えた。そして少し間を置いてアルバートに振り向いた。
「アルバート。アンタは新参者だから分からないだろうから教えてあげるわ。」
ルナーは彼に近づいて口を開いた。
「当たって砕けろ。どんな相手でも戦ってみなきゃ分からない。それが海賊の基本よ。」
自信ありげに話すルナー。それに反してアルバートは余計不安になった。
「それにサムソンも詳しい事を伝えてくれなかったし、あと知ってそうな人も…」
アルバートは文句をたれていたが、言葉は途中で途切れた。
「どうしたの?」
ルナーが訪ねると、彼の視線の先にはこの国の者と思わしき四人の騎士が歩いていた。その四人に包囲される形で一人の女性が連れていかれていた。赤い帽子に、赤いドレスの女性だった。
「あんなに警備を固めて、一体どんな罪人なんだろうね?」
ルナーが気になって見ていると、騎士の間から女性が二人に向いてきた。
「あっ!」
するとアルバートは突然顔を隠した。
「アルバート?」
「行くぞルナー!あいつに関わったらめんどくさくなる……」
「そこのお二人さん。」
二人がその場を立ち去ろうとした時、四人の内の一人である女騎士に呼び止められた。
(ちょっと。どうするのよ?)
(下手に動揺したらまずい……)
アルバートは平静を装って、振り向いた。
「……何か用か?」
「これ、落としたわよ。」
その言葉と共に女騎士は一枚の折られた手紙を差し出してきた。
「いや、何も落としていないぞ。」
「「大事なものを落としてる。」との事よ。」
予想外の事に戸惑いながらもアルバートは否定したが、女騎士は結局アルバートに手紙を渡して騎士達に合流して去って行った。
(言い回しからしてあいつだな……)
「ねえアルバート。なんて書いてあるの?」
ルナーが聞いてくるので、騎士達が去ったのを見てアルバートは手紙を開いた。
__牛角は咆哮する
怒る雄叫びは岩をも砕き
剛毅の角はあらゆる生命を抉り刺す
屈強な者でも魔獣が振るう
鉄塊を前に立つ術無し
だが鋼鉄なる肉体も病牙を受ければ
腐敗の運命を辿るだろう__
「これって、詩?」
「そのようだな。だが相変わらず何を伝えたいのかまでは……ん?」
詩の内容が分からず困惑していると、アルバートは紙の裏に何か付いている事に気づいた。それは暗い緑色の液体が入った小袋が付いていた。
「緑茶?」
「いや。茶にしてはどろどろしている。それに……」
「それに?」
「どうせいつものいたずらに決まっている。」
怪訝そうに小袋を見ながらアルバートは答えるのだった。
◇
「おお!来たか!」
日が暮れた時間にアルバートとルナーが町を出て西側の森に来ると、サムソンがスクワットしながら待ち構えていた。
「それでサムソン。闇の眷属が居る火山はどこなんだ?」
「ふむ。あそこだ!」
そう言ってサムソンは西に見える大きな火山を指さした。煙も小さく、地震も起きていないことから、現状噴火の心配はなさそうだった。
「というか、そこそこ近いのによく町は被害が見られないな。」
「当然だ!暴れだしたら俺が根性とガッツで食い止めて入り口を岩石で塞いでいるからな!」
「どうせ壊されるだろうによく被害を防げるな。」
アルバートに言われてサムソンはガッハッハ!と笑った。
「それではこの岩石をどかすとしよう。」
そう言うとサムソンは入り口を塞ぐ岩石を「いち、にの…」と呟きながら掴んだ。
「さんっ!」
三つ数えたと同時に持ち上げて森の方に投げ捨てた。投げられた岩石が地面に重く落ちて、砕ける重い音が響いた。サムソンの筋肉が本物であるのを見て二人は棒立ちしていた。
「よ、よし!それじゃ脳筋。その例の化け物の所へ連れて行きなさい。」
「脳筋……良い響きだ。」
褒めてはないであろうルナーの言葉にサムソンはうんうんと頷いた。それから二人はサムソンと共に火山の中へと歩き始めるのだった。
◇
「なあサムソン。お前が苦戦している闇の眷属はどんな奴なんだ?」
「俺と同じくたくましい肉体を持った怪物だ。」
アルバートが眷属について聞くと、サムソンは悔しそうに話し始めた。
「初めて出くわしたのも火山付近だった。筋肉を愛でるために筋肉を磨いていたら火山の方から地響きが聞こえてきた。何だと思い火山に入ると、見た事のない怪物が岩石でベンチプレスをしていたんだ!」
「それが闇の眷属だったと?」
「学者によればそうらしい。同じ筋肉を愛する者に出会えたと喜んでいたら、奴は赤い目を光らせて睨んでくるや否や、岩石を俺目掛けて投げてきたんだ!こちらも応えねばと打ち返したら、今度は真正面から俺に戦いを挑んできた!俺も応戦したが、筋肉愛は向こうが上だった。結局俺は入り口を岩石で塞ぐことで全力だった。まさか同じ筋肉で俺が負けるとは……」
「こいつの話半分筋肉で埋め尽くされてんだけど?」
サムソンの話を聞いていたルナーはアルバートに言った。
「どちらにせよ、戦うまでは分からない。」
愚痴るルナーにアルバートは返事をする。しかし彼の腕は少しだけ震えていた。その姿はまるで処刑台へと連れて行かれる囚人のようだった。
「ていうかやっぱり火山ね。この服薄手だけどそれでも暑いよ…」
ルナーは歩きながらドレスをヒラヒラさせた。
「そうだな。水を持ってきてるとはいえ、この暑さだとすぐ消費しそうだ。」
水を飲みながらアルバートも答える。一方のサムソンはピンピンしていた。
「何を言う?むしろ汗を大量にかけるこの状況こそ鍛えるには贅沢な状況ではないか。いっそジョギングしながら…むむっ!?」
突然サムソンは立ち止まると筋肉をピクピクさせた。その光景に二人は困惑した。
「サムソン?」
「筋肉が躍動している……!奴は近くにいるぞ!」
上腕二頭筋を見せつけながらサムソンは二人に言った。アルバートも同感して頷く。
(火山に入ってから邪悪な魔力が強まっている。それにこの気配、以前にも感じた事があるが、まさか!)
その時だった。突如火山中に凄まじい轟音が鳴り響き、アルバートの思考を遮った。
「おお!今日は随分暴れているようだ!」
「かなり近いな。ルナー気をつけろ…」
「わぁぁぁ地震怖いぃぃぃ!!」
警告するよりも先にルナーがアルバートの腕にしっかり掴まっていた。
「る、ルナー?」
ルナーがいきなり自分に掴まっていて困惑していると、ルナーは「はっ!」とアルバートの顔を見上げて顔を赤くした。
「こ、怖いからって掴まないでよね!?」
態度の変わりが激しいルナーにアルバートは戸惑うしかなかった。そうしている今も火山の中は激しく揺れていた。
「むーん!」
するとサムソンが上腕二頭筋をピクピク動かした。
「この躍動感・・・・どうやら向こうから来てくれるみたいだぞ!気を引き絞めろ!」
サムソンはグレートソードを取り出した。気配を感じ取ったアルバートも剣を引き抜いた。
「ここからは筋肉の戦いだ。お嬢は安全な所へ……」
「おい!何か来るぞ!」
サムソンがルナーを避難させようとした瞬間、三人の頭上めがけて大きな影が落ちてきた。そしてそれは三人を分断させるようにアルバートの目の前に轟音と共に着地した。
「お、お前は!」
落ちてきたものを見てアルバートは目を見開いた。サムソンの倍はある屈強な巨体。歯ぎしりを立てる巨大な歯。重い鉄柱のような特大の鉄槌を握る牛角の怪物がアルバートを睨んでいた。アルバートもまた、怪物を睨んでいた。しかしその腕は海の魔物の時のように震えていた。
(こいつ……一体どうやってこの地まで?)
「グオオオオウ!!」
岩をも砕く雄叫びが火山中に響き渡る。その直後に牛角は大槌を持ち上げてアルバートに向かって突進してきた。
「はっ!」
棒立ちしていたアルバートは咄嗟に横へ飛び込んで身をかわした。大槌が落ちてきた地面が遅れて粉砕される。そこには大きなクレーターが出来上がった。
(あの怪力……今受け止めていたら確実に死んでいたな。)
しかしアルバートが冷静に分析していると、牛角は方向転換して勢い強く突進してきた。アルバートは避けようと左右を確認したが、 山岩壁に囲まれていて、選択肢はなかった。
「耐えてくれ!俺の剣!」
アルバートは背負っていた大剣を引き抜いて地面に向けて突き刺して盾となた。そして牛角の大槌の一撃を受け止めたが、牛角は下がる事なく、大剣もろともアルバートをすり漬そうとしてきた。アルバートも負けじと大剣で押し返し、そのまま鍔返り合いが始まった。
「この突進力…その折れた角……お前、ゴルドーか!」




