第四章「幻影の悪魔」一節
「アルバート!そっちの連中お願い!」
「ああ。」
拠点外の森の中でルナーとアルバートは船員達と共に戦闘に入っていた。朝起きたら外が騒がしいと思った船員の一人が見に行くと、ルナーの海賊団と対立している山賊団が拠点を見つけてきて、ルナー達をまとめて始末しようとしていたのだ。
「くそ!こんな奴が居るなんて聞いてねえぞ!」
山賊の長がアルバートの攻撃を受けて言った。今までも山賊団と海賊団で抗争していたが、アルバートのような卓越した剣術を使える者が居るのは今回が初めてだった。その結果実力がお互いにリーダーしか居なかったのが偏っていた。
「くそ!取り囲め!」
「無理っす!トシもソージもあの野郎にやられました!」
「それって俺とお前しか居ねえって事じゃねえか!」
「他人の心配している場合か?」
「ぐわぁぁぁ!」
山賊が揉めていると最後の部下もアルバートが一刀両断した。残るは山賊の長だけとなった。
「ルナー。こいつはどうする?」
「そうねぇ……」
「ま、待てルナー!同じリーダーなら堂々と一騎打ちしろ!」
山賊の長はサーベルを構え直して言ってきた。
「ふーん。良いわよ。あんたらは下がってて。」
そう言うとルナーもサーベル構えた。アルバート達が離れると両者の間に緊張した空気が流れていた。
「死ねえルナー!」
一風吹くと同時に山賊の長が素早く飛びかかった。
「ほい。」
飛んできた直後、乾いた発砲音が響く。ルナーは袖に隠していたピストルを発砲した。勢いあった山賊の長はサーベルが届く前に胸に銃弾の穴が開いて、崩れるように後ろへと倒れた。
「ルナー。お前最初から正々堂々とやる気無かったろ?」
「当たり前じゃん。だってあたしは海賊だもん♪」
ルナーはピストルを手のひらで回しながらアルバートに言った。
「グルゥァァ……」
その時彼らの近くから獣の唸り声のようなものが聞こえた。
「何だ?野犬か?」
「いや。野犬なら昨日狩ったよ?」
(待て?この気配は……)
アルバートは唸り声と一緒に邪悪な気配を感じ取っていた。
(これは闇の魔力!まさか近くに?)
まさかと思いアルバートは倒した山賊達を見回した。そして山賊の長の体がどす黒くなって動き出していた。
「危ない!」
死んだはずの山賊の長が起き上がり、ルナーの首を狙っていた。アルバートは咄嗟に剣を引き抜いて駆け寄った。
「ふん!」
その瞬間、アルバートではない何者かの大剣が山賊の長の体を真っ二つに斬り裂いた。
「誰だ?」
「死亡確認をしないとは、まだまだ青いな。」
大剣の主は血払いをしながら二人に話しかけてきた。アメジストの鎧を着用しており、顔からして年配の騎士だった。
「助かった。というか良く闇の魔力に気付けたな。」
「もう十年以上戦いに身を投じておる。これぐらいなら直感じゃ。」
ハッハッハ!と老騎士は笑った。しかしルナーは警戒していた。
「あんたは何者?あたしらに何か用?」
「失礼したな。儂はファルティウス。この国の聖騎士じゃ。」
ファルティウスは剣を礼儀ある構え方をして名を名乗った。
「それで?聖騎士様が何しに来たの?」
「別にお嬢ちゃんに用は無い。」
「は?」
ナメられたと思ったのか、ルナーはサーベルを手に取る。しかしファルティウスは動じずにアルバートに近づいた。
「アルバートだな。国王陛下がお呼びだ。」
「俺が?」
突然の言葉にアルバートは戸惑うが、ファルティウスは「共に城へ同行してもらう」
と告げた。その目は鋭く、冗談ではないのが伝わった。
◇
「だけどよく俺達の居場所が分かったな?」
城へ連れてられたアルバートはファルティウスに話しかけた。
「いいや、入り江に海賊の拠点がある事自態は知っていたぞ。だが海賊なんぞ儂の相手にならん。それにあの女海賊は対して国家レベルの犯罪やらかしているワケでもないしな。放っておいている。」
(相手にならないって……)
「むしろお主が相手どったという牛角の魔物や狩人を先に見つけて戦えば良かったなぁ。」
「知っているのか?」
「娘のビリーブから話は問いておる。家でも職場でもお主の話ばかりしておるぞ?」
(最初は疑ってたりルナーの事は殺そうとしてたクセに……)
「そろそろだぞ。この先に王が居る。」
ファルティウスは大きな金色の扉の前で立ち止まった。
「陛下。ファルティウスです。アルバ ―トを達れて参りました。」
__入るがよい。
ファルティウスがノックして言うと 、扉の先から威厳ある男の声で返事が聞こえてきた。そして左右の兵士が扉を慎重に開いていった。
「……え?」
扉の先にある玉座に座る人物を見たアルバートは言葉を失った。
「やはりそなただったのだな。」
銀色の髪と髪を生やした男が、青色の瞳でアルバートを見下ろしていた。
「我はヴァロウ。このへイムダルを統治する者である。そなたはアルバートだな?」
「貴方も俺を知っているのか?」
アルバートが聞くと、ヴァロウは静かに頷いた。
「そなたの事はよく知っている。この国に現れた魔物を退治してくれた事も、そなたの祖国の事も。」
「祖国の、事?」
「そなたの顔を見れば予想がつく。あの国は崩壊したも同然なのだろう?」
それを言われたアルバートは戸惑った。
「どうして、その事を?」
アルバートが聞くと、ヴァロウはため息をついた。
「あの"女王"の事だ。中途半端な優しさが災いを呼んだのだろう。」
ヴァロウは呆れた様子で、話し始めた。
「あの女はろくな奴ではなかった。民を愛すると言っておきながら慈悲深いのは建前で、自分とはそぐわない者 や魔術の才が無い者は身内であろうと冷遇する。そんな女が国を治められるワケかないだろう。」
アルバートは今にもヴァロウに殴りかかりたい気持ちがあった。けれどできなかった。ヴァロウの話を聞いていてあの言葉思い出していた。
__アルバートを殺せ。それが最後に聞いた、女王の言葉でした。
ブリューナクの言葉か彼の脳裏に過ぎった。その言葉は長年女王を疑う事が無かった彼が疑問を抱くには充分だた。
(もし全部が合っているのなら、俺は今まで何の為に……)
「陛下。」
そんな時、謁見の間に静かな女性の声が響びわたる。その声は扉の方から聞こえた。
「王妃様!」
ファルティウスが後ろを向いて頭を下げた。アルバートも流れで横へどいた。従者を連れて入ってきた女性は、アルバートの前で立ち止まった。
「陛下が深していた騎士ですね?私はアサンリア。このへイムダル王国の王妃です。」
「……アルバートです。」
悪意の無い優しい瞳で見つめられてアルバートは戸惑った。そんなアルバートにアサンリアは微笑むと、ヴァロウにゆっくりと近づいた。
「随分と豪語しておりましたね?陛下 」
「き、聞こえていたのか?」
ヴァロウの声は先程と変わって焦りが見えた。
「ええ。廊下からでも聞こえてきましたわ。とても流れ着いてきた魔女が美人で手放せない人の言葉とは思えませんでしたわ」
「ま、待て!よりにもよって部下や客人の前でそれを言うか?」
「ご安心くだされ。儂らは既に認識しております。」
「ファルテイウス!」
(こんな人がこの国を治めているのか?それにその魔女って……)
アルバートが色々と引いていると、ファルティウスが咳をした。
「陛下。そろそろ本題に。」
「おお。そうであったな。」
ヴァロウは威厳ある表情を直した。 アサンリアも隣の玉座に座ってアルバートを見る。
「最近この国では魔物だけでなく、闇に侵食された人間による被害が増えているのだ。」
「知っている。目の前で見たからな。」
「そうか。なら話は早い。ビリーブとファルティウスの調査によれば、侵食された人間は皆共通してアメジストの洞窟に入ったらしい。」
「アメジストの洞窟?」
「この国の財源であるアメジストが採れる、南西にある洞窟だ。ある事件以降は閉鎖しているからな。」
「事件?」
アルバートが聞くと、ヴァロウは顔をしかめて言った。
「 皆そろって人が悪魔に乗っ取られたと言ってきたのだ。我はそんなものなど信じないが、こうも連日報告が上がっては見過ごすワケにはいかぬ。アサンリアも不安になっているし、ここはアメジストを採りに行って生還しているファルティウスを派遣しようと考えていたのだ。」
ヴァロウはファルティウスを見て、アルバートを見て言った。
「自分以上に適任な男を連れて来ると返された。まさかそなただとは……」
「陛下。この男は現に二体もの闇の眷属を殺しております。なれば今回の件も、彼に協力してもらうのが最善策かと。」
ファルティウスが促す。
「そういう事だ。アルバートよ。そなたの武勇が本当ならばカを貸して欲しいのだ。」
ヴァロウは悪意の無い目でアルバートに頼んできた。
(闇の力で、人を狂わせる悪魔か……今回は厳しいものがあるな……)
アルバートは悩んだ。今までは魔獣や狩人といったある程度予想できる相手だったが、今日は悪魔と呼ばれている敵。流石のアルバートも考えてしまったが最終的に彼は頷いた。
「分かった。引き受けよう。アンタがこの国を守るように、俺にもその気持ちがある。」
「うむ。感謝する。」
ヴァロウはそう言って頷いた。アサンリアは心配そうにしていた。
「ところでヴァロウ王。」
「ヴァロウで良い。そなたに堅苦しい感じは似合わなそうだ。」
「ヴァロウ。これから少しサンに会いたい。良いだろうか?」
「構わん。 人ならざる者には人ならざる者への対抗の術を知ってるやもしれぬからな」
「それなら私も行きますわ。」
「え?」
「は?」
唐突なアサンリアの言葉に、ヴァロウとアルバートも困惑するのだった。
◇
監獄はいつ来ても薄暗かった。道中の牢にも囚人はいるが、アルバートが用があるのはこの先にある地下牢の囚人だった。
「それにしても意外だな。貴女のような人が自らサンに会いに行くなんて。」
アルベートは隣を歩くアサンリアに聞いた。
「実を言うと、私自身サン殿にはまだお会いした事が無いのです。それに陛下に色目つかう女性がどんな方なのかも気になりますし。」
(まさかサンに嫉妬する人がいるとはなぁ。)
「ですがアルバート殿。私は別に陛下を嫌っている訳ではありません。今よりも内戦で荒れていたこの国を統治してくれたのもあの人ですから。」
「え?そうなのですか?」
アルバートか聞くと、アサンリアはヴァロウとの出会いを話し始めた。
「本来は王家の直系である私が王位を継ぐべきなのですが、箱入り育ちだった私に政をする能力は無く、宰相の言われるがままでした。その結果宰相周りの人だけか得する政治になっていました。」
そう話すアサンリアの目には後悔を感じた。
「そんな時でした。ヴァロウ陛下が漂流してきたのは。十五年前に海辺で倒れているのを私が見つけたのです。回復して、この国の状況を知った彼は、私には無いリーダーシップと軍略で国内の内戦を鎮圧してくれました。内政の問題や幸相の処分までもしてくれてました。」
「すごい手腕ですね。けどそこまでやってく来ると逆に怪しいな……」
アルバートが言うと、アサンリアは首を横に扱った。
「私も疑いましたが、彼には何の悪意もありませんでした。彼はただ、「卑怯な宰相と弱者が虐げられる状況を治めたかった」と。仰いました。」
アサンリアは微笑みながら話す。その事からアルバートは本当の事だと思った。
「それで私は思いました。この方なら共に王国を守ってくれると。そして私は彼に王の位を託しました。それでも彼は最終的な決定権は君に託す」と言っていましたが。」
「人格者な王様ですね。」
「ええ。とっても。」
アサンリアが徴笑む一方で、アルバートは複雑な顔をしていた。
(虐げる奴を許さない……"あの人"と大達いだな……)
頭の中で色々比較してしまったアルバート。そして気づけば地下牢の奥へと着いた。相変わらずおしゃれな内装の牢屋だった 。
「サン!」
牢屋の前でアルバートは太陽の魔女の名前を呼ぶ。
すると寝床から眠たそうなサンが起きて近づいてきた。だがアルバートの顔を見るなり眠そうな顔を切り替えて色目を使いそうな顔になった。
「アルバ ―ト〜♡嫌いとか言っていたのに来てくれるなんて~!やっぱり妾の事が忘れられないのね〜 ♡」
「そんな奴居たらせも未だぞ。相談があって来たんだ。」
「ええ!?何々?妾にプロポーズするコツ?それとも妾へのギフト?」
「違う今日は…」
「あ、ところでこっちの人は?」
「…この国の妃様だ。」
「始めましてサン殿。アサンリアです。」
「へえ~。何か風俗に居そうだね。」
「ふ、風俗?」
「サン、お前マジでいい加減にしろ。不敬罪確定になるぞ。」
「あの…風俗というのは一体?」
「風俗ってのはね…」
「俺の質問にだけ答えろサン。アメジストの洞窟に居る悪魔について何か知っている事は無いか?」
事態が悪くなる前にアルバートは本題に入った。サンは少し顔を膨らませたが、気持ちを切り替えた。
「知っているよ。というか祖国にも現れた奴だし。」
「だけど俺はそんなの見た事が無い。」
「うん。だって貴方あの時ヌアザ大陸に遠征に行かされて居なかったもん。」
「俺が居ない時に出現したのか?」
「そういう事。でも普通に話すのも面白くないからなねえ〜。せっかく妃様も居る事だし…」
そう言うとサンソはいつものヴァイオリンを取り出す。するとそれを見たアサノリアが「あ!」と声を出した。
「王室に飾っていたヴァイオリン!最近無くなかったと思ったら……」
「ああこれ?この間空間移動で王室に忍び込んだ際に妾好みだったから借りパクしてるの。あ、でも心配しないでね〜気が向いたら返すカモだから~♪」
「えぇ……」
「申し訳ありません。こいつ昔からこういう神経しているんです。どうかお許しを。」
戸惑うアサンリアに詫びるアルバート。サンはそんなの知らんと言うようにヴァイオリンを引き、 詩を語り始めた。
__紫の光が静寂の中でゆらめく 悪魔の光は心に入り込み 忌むべき幻を映し出す それは逃げ場もなく 悪夢として魂を侵し静かに崩していく だか忘れるな 天を裂く雷鳴が轟く時 幻は消え去り 悪魔は焦りと共に砕かれん__
詩の終わりと共にヴァイオリンの音色も自然に終わりを迎えた。
「美しい声…」
詩に聞き入っていたアサンリアは純粋な感想を呟いた。
「ティビグラーティアース・アゴー♪(ありがとう)妃様に褒められるだなんて、語った甲斐があったよ~♪」
アルバートがあまり褒めないからか、サンはいつもより嬉しそうだった。
(つまり洞窟に潜んでいるのは、相手の心を覗いたり幻影を作り出せる悪魔って事か。)
アルバートは詩の中にあった手がかりをまとめていた。
「あとは直接洞窟に行くしかないな。」
「本当に行くのですか?」
アサンリアの心配する言葉に、アルバートは頷いた。
「ヴァロウ王と貴女が余所者の俺の力を貸りてでも国を申ると言っているんです。 闇の眷属が相手ならファルティウスが言っていたように、俺が一番戦い方を知っています。」
「…申し訳ありません。流れ者の貴方に任せる形になってしまって……」
「そんな謝らないで下さい。 俺が自ら行く事なので。」
「待って、アルバート。」
アルバートとアサンリアが去ろうとすると、サンが呼び止める。アルバートはまた気持ちと言って何か渡してくるのかと思った。
「チュッ♡」
「は?」
突然の投げキッス。
アルバートは思わず吐き気がしたような顔をした。
「何のつもりだよ?」
「妾からのメッセージ。ガンバ♡」
「……ふざけてんのか?」
「もう。あなたなら打ち破れるってコト♡」
ウフン♡と色気をと出してくるサンだったが、その目には何かを確信しているのを感じた。
◇
「ここが、アメジストの洞窟…」
その日の夜、アルバートはファルティウスに例の洞窟へと案内された。やはり今回も夜に被害が出ていたという事で、夜での行動になった。 中は暗い所もあればあちこちにあるアメジストの光で照らされている所もあった。
「それにしても……」
ファルティウスはアルバートの隣を見て呟いた。
「わーお!見て見てアルバート!宝石かこんなにあるよ!この国買い取り屋居ないかなあ?」
アルバートの隣では目をキラキラさせながらアメジストを拾いまくるルナーが居た。
「元々連れて行くつもりは無かったんだ。だけどアメジストの話をしたら……」
「駄々をこねてきたと。」
「よく分かったな。」
「海賊だし、そんなとこじゃろ?」
「まあそうなんだけど……」
「だがどんな魔物でも包囲すれば勝機が生まれる。人が多いのは好都合じゃ。」
(いやむしろ今回みたいなのが相手なら少数が良いんじゃ……)
そんな不安を覚えながらアルバートは洞窟を進んでいく。まだ闇の眷属らしき魔物は姿を見せてこなかった。このまま闇の眷属の所まで何事も無ければ良いのだがとアルバートは願うばかりだった。
__あんたって真面目そうな顔してるけど、融通きかなさそうだよね~
(は?)
突然アルバートの耳元に彼への悪口が囁かれた。その声はルナーの声だった。だが本人はアメジスト集めに夢中だった。
(気のせいか?)
__だいたいいつも無口だけどただの根暗って感じだねえ。正直戦力としては良いけど、部下としてはつまらなくて中身薄っぺらそうだし。
「おい!」
「あのさあ!」
アルバートがルナーに強いで呼ぶと、 ルナーも同時に怒った様子で彼の方を向いた。
「お前さっきから騙って聞いてたら好き勝手言いやかって!融通利かなそうだと?この間他の海賊倒した時物資待って帰れるように事前に船員たちを連れて来たり釣りの時だってお前が大カニ釣るって言うから頼まれた網の他に獲物が暴れた時に備えて大剣持って来たら案の定暴れて俺が仕留めただろう!」
「はぁ?こっちも言わせてもらうけど、誰が若造り女よ!あたしはデフォで十九歳だよ!ってか海賊イコール不潔って何!?あたしは夜に服もパンツも洗ってるよ!」
「いや俺そこまで言ってないぞ!」
「でも確かあんたの声で悪口が聞こえたんだけど!」
「止めんか二人共。」
二人がケンカしていると、ファルティウスがしびれをきらしたように問に入った 。
「先程から互いの悪口で怒っているようだが、お前さんたちケンカするまで何も喋ていなかったぞ?現に儂も何も聞こえなかったしな。」
「はっ?じゃあ今までのは?」
「幻聴か……それにしてはハッキリ聞こえたな…まさか。」
疑問に思ったアルバートはサンの詩を思い出した。
(だとすればもうこちらには気づいているのか!)
アルバートは近くに闇の眷属が居ないか見回した。 するとルナーの後ろから剣を振り上げた兵が走って来た。
「危ない!」
アルバートは地嗟に剣を引き抜いて兵を斬りつけた。アルバートの剣は確かに当たった。ところが斬られたはずの兵の死体が消えていた。
(どういう事だ?まるで最初から無かったように…まさか!)
「めお?」
その時ファルティウスが何か言ったのと同時に金属音が鳴った。何かと思ったらファルティウスが今のと同じ兵の攻撃を盾で受け止めていた。
「気をつけろ!こやつら幻影のクセに攻撃が普通に当たってしまうぞ!」
ファルティウスは兵を斬り伏せなから言った。ところがその丘とやはり突如として消えた。
「ちょっと何なの?殺しても殺しても出てくるくだけど!」
銃を乱射しながらルナーは叫んでいた。アルバートも斬り続けていたが、次々と兵士の幻が現れてキリが無かった。
(このままでは闇の眷属の元へ着く前にスタミナが持たないぞ!こうなったら……)
「ルナー!走るぞ!俺が一気に斬り伏せていく。そこから一気に走り出すぞ!」
「分かった!」
「そういう事なら任せろ!」
大剣を構え直したファルティウスが横へと兵を薙ぎ払った。アルバートも大剣と剣の二刀流で現れる兵たちを連撃と重撃で難ぎ倒していった。
「走れ!」
アルバートのかけ声と共に三人は斬り開いた道を一気に走り出した。その間も兵の幻が迫って来ていたが、ファルティウスが強引にねじ伏せ、アルバートとルナーは無意識に互いの手を握ってはぐれないようにしていた。
「どんどん闇の魔力が濃くなっている!ルナー、離れるなよ!」
「うん!」
アルバートも大剣で幻を斬り伏せて進んだ。だがそれでも兵の幻は次々と出てきて思うように前へと進まなかった。
「かくなる上は……」
その時ファルテイウスが背を向けて兵たちに大剣を向けた。
「ファルティウス!」
「先へ進め!ここは儂が引き受ける!」
「しかし!」
アルバートは止めようとしたが、ファルティウスの迷いの無い姿勢を見て、結局彼はそのままルナーと一緒に洞窟の奥へと進んで行くのだった。
◇
「はぁ……はあ…ルナー、居るか?」
「大丈夫。ちゃんと付いてきてるよ。」
アルバートはルナーが居る事を確認した。兵たちの幻も見えなくなったが、ファルティウスが追いかけてくる様子も無かった。
(ファルティウス……強いし大丈夫だと思うが…)
ファルティウスを信じてアルバートは今居る場所を確認した。他の場所と比べてアメジストが沢山あり、 ルナーは早速目がキラキラしていた。
「あ!あの宝石とか一番良さげしゃん♡」
ルナーは一番奥に生えている大きなアメジスに近づこうとした。だがアルバートはそのアメジスに何か不吉なものを感じた。
「ルナー離れろ!!」
「へ?」
ルナーがアメジストに触れた瞬間、そのアメジストから怪しげな光が放たれた。物理的な衝撃がある光にルナーは吹き飛ばされてしまった。
「きゃ!」
「ルナー!」
アルバートは咄嗟にルナーを受け止めた。
「この闇の魔力 ……あのアメジストがやっぱり!」
「カカカカカ…」
アルバートが確信を持ったと同時に大きなアメジストから不気味な声が聞こえてめた。そして光がアメジストの周りに集束すると、少しずつ不気味な姿へと変えていった。
「貴様だな?ゴルドーとブリューナクを葬った人間は。」
その体は人。だが馬の頭をした悪魔が不気味な顔で一人を見下ろしていた。
「お前は何者だ?」
アルバートは怯みそうになりながらも悪魔を睨み返した。
「我が名はヴァルヴァ。魔神ヴァールに仕えし、至高なる幻魔である。」




