みるくとミカエル
とくとくとくと、ミルクを注ぐ。
ミカエルのひたいに、ミルクをそそぐ。
それはひそやかでささやかな儀式……、
めくるめく転生を重ねた大天使の、女人に変わるための儀式。
白いしろいベッドの上、あおむけに半目をひらいて夢うつつの天使のひたいに、ルシフェルはとくとくミルクを垂らす。
転生を終えたルシフェルのひたいには、逆十字の傷跡がある。これはミカエルのつけてくれた、愛しいいとしい生の証……、
ーー忘れるものか、忘れてたまるか! これは我らがこの地球で命いっぱい生きたあかしだ、忘れてたまるか、忘れるもんか!!
くっと苦しげに目を閉じて、くちびるを噛みしめる弟に触れるばかりのキスをして、またたくたくとミルクを注ぐ。
ひたいから首すじ、胸からおなか……頭のてっぺんからつま先まで、とくとくたくたくミルクをそそぐ。
注がれたミルクはしたしたぴたん、ぴたんぱたんとしたたり落ち、ベッドの下からじわじわじわりと広がってゆく。
したした滴るしたたりに手を伸ばし、ルシフェルは指先から垂れるしずくをれろりと舐めとった。
ーー甘い蜜の味がする。八重のくちなしの花のエキスのような、甘いあまい蜜の味……、
『……起きてくれ、ミカエル……なあ、なぜ返事をしないんだ? どうして起きてくれないの? 死んじゃったのかよ、なあミカエル……!!』
少年みたいにおんおん泣き出す、双子の兄……と、ミカエルがふっと起き上がり、しゅらと抱きついてキスをした。
『んぅうう……っっ!』
甘く苦しい、息ができないーー舌と舌を絡め合わせてねちゃつくやらしいキスをして、窒息寸前で口をほどいて、ミカエルはふわりと微笑ってみせた。
『……全部見えてた、聴こえてた……ただいま、おにぃちゃん!』
あとはなんにも言葉にならず、双子の兄弟は蛇のように絡まり合って抱きあって、そのまま一夜をふたりで明かした。
……朝になって、ミルクまみれで目覚めたふたりは、白くしろく濡れた顔で、おんなじ顔で《にっ》と笑った。
『ーーこれからも末永く、よろしくな!!』
はっしとふたり手をつなぐ、部屋じゅうが甘く香っていた。くちなしとミルクと のにおいが、あまりにも甘く香っていた。
これは、いつかどこかで起きた話。
いつかどこかのこの地球の、これから始まる物語。
(了)




