偉大なマドンナたち
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俺は一瞬、言葉を失った。振り返るとそこにいたのは息を切らして、少し頬を赤くした莉子ちゃん。
「……浅倉くん」
名前を呼ばれただけなのに心臓が一段跳ねた。
「なんで……天城さんがここに」
俺は呆然としながらそう言った。そして莉子ちゃんの元へ数歩駆け寄る。その途中で優馬がニヤニヤしているのが目に入った。
「後半から出るって聞いて……だからその……」
視線を少し泳がせてから照れくさそうに笑う。
「……応援しにきたの」
脳内で理解が追いつく前に胸の奥から何かがドンッと爆発した。アドレナリンが一気に跳ね上がる。足首の違和感なんて、そんなもの一瞬で消し飛んだ。
「……なんで笑ってるの?」
莉子ちゃんが不思議そうに首を傾げる。
「いや……びっくりして」
俺は慌てて顔を引き締めたつもりだったがたぶん失敗している。
「負けてるけど浅倉くんがいるなら大丈夫だよね」
「もちろん。俺が決めて逆転してくるから見ててよ」
素直に言うと、莉子ちゃんはふわっと笑った。
「うん。がんばって」
小さく拳を握ってから俺に拳を差し出してくる。
「任せてよ」
俺も手を握りしめて、その小さくて白い拳にトンッと自分の拳を合わせた。
「おーい!浅倉!早く来いって!」
ピッチの方から飛んでくる大きな声。もう俺以外の全員はポジションについて俺を待っている。
「あ、やば……」
俺が慌てて振り返り、走り出そうとしたその瞬間――
「莉子ー!」
背後から聞き慣れた声が重なった。振り向くと少し息を切らした木南と水瀬がちょうどこちらへ駆け寄ってくるところだった。
「二人も来たんだ」
思わずそう口にすると、木南がにっと笑う。
「みんながんばってるし近くで応援したくて!浅倉くんも出るんでしょ?頑張ってね!」
「負けたら許さないからね。点決めてこい」
木南も水瀬もちゃんと応援してくれてる。その後、水瀬は莉子ちゃんの方を向いた。
「ていうか莉子早すぎ……」
「えっ、そ、そう?」
指摘された莉子ちゃんが少し焦ったように視線を泳がせる。
「だって……早く行かないと間に合わないと思って」
「ベンチまで行こうって言ったのも莉子だったもんね?」
「ちょっと鈴香……!それは言わないって……」
「そうだっけ?」
焦る莉子ちゃんとニヤニヤと笑う水瀬。そんなやり取りを見ているだけで、胸の奥がじんわり熱くなった。
「おい!まじで早くこいよ!」
「やばいやばい……もう俺行くね」
本格的に迷惑をかけ始めていることに気づいた俺は焦ってピッチに向かう。背中越しに莉子ちゃんの「がんばってね!」という声が聞こえ、俺は片手を上げて答えた。
俺はそのままピッチへ駆け込む。土の上に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。歓声、ホイッスル、スパイクの擦れる音。さっきまでの温度とはまるで違う試合の中の空気だ。
「やっと出てきたか。前半は君がいなくてつまらなかったよ」
声をかけてきたのはすでにポジションについていたシュガ男だった。
表情は落ち着いているが目だけがやけに鋭い。
「悪いな。後半は楽しませてやるよ」
俺は肩で息をしながら答える。シュガ男は俺を一度だけ見てから低い声で言った。
「こっからが本番だ。遊びじゃない。本気で来てよ」
その言葉に思わず口元が上がる。
「当たり前だ。勝ってるからって油断すんなよ?」
俺がそう言うと、シュガ男は一瞬だけ目を細めてからふっと笑った。
「そうこなくっちゃ」
俺はそのまま自分のポジションへ走る。一番ゴールに近く一番結果を求められる場所へ。
「お、来た来た」
同じくトップに入っている古川が呟く。
「悪い悪い。遅れた」
俺が軽く謝ると古川は俺を睨んだ。これから言われることがわかった気がする。
「その……あんまり言いたくないんだけどさ。お前だけ有栖ちゃんと鈴香ちゃんとついでに莉子ちゃんまで応援とかずるくね?」
やっぱり言われた。なんか試合中だから口調は落ち着いてるけど内心はブチギレてるんだろうな。あとついでやめろ。
「……すまん。でもたまたまだよ」
「たまたまでもだ!」
古川が声を裏返す。
「なんで俺には誰も来ねぇんだよ!」
「知らねえよ……」
「お前だけずるい!ずるすぎ!マジで腹立つ!」
完全に拗ね始めている。
「集中しろ」
俺が呆れて言った、その時――
「みんなー!!」
グラウンドを貫く元気な声。その声に古川の顔も上がる。
「頑張れー!!」
その声の主は木南だった。両手を口に当てて全力で叫んでいるのがはっきり分かる。その声が届いた瞬間、ピッチ全体がざわっと揺れた。
「「「うぉぉぉぉお!!!」」」
やっぱり偉大な木南有栖。クラスのマドンナのパワーはすごいな。
「しゃあああ!!!!」
さっきまで拗ねていた古川もすっかり目をギンギンにしてやる気マックスだ。
「鈴香も頑張れって言ってるよ〜!!」
さらに木南の追撃。全員の視線がそこに集まる。するとそこには少し俯いて照れながらもちゃんと俺たちを応援しようとする水瀬の姿があった。
「「「うぉぉぉぉお!!!」」」
再び舞い上がる。これで俺たちは完成した。今なら150%のパフォーマンスを出せる。
「行くぜ行くぜ行くぜ!!!」
古川は200%出せそうだ。
「ふっ……この試合が終わればあの二人も僕たちのクラスだと言うのに」
シュガ男が笑いながら俺たちを見る。
「よし……」
俺はもう一度、莉子ちゃんの方を見た。莉子ちゃんは両手を胸の前で握りしめて、真っ直ぐ俺を見ていた。「大丈夫だよ」と言ってくれてる気がして、自然と背筋が伸びる。
「古川」
俺は小声で古川を呼ぶ。
「最初、俺に預けてくれ」
「了解」
古川はニヤニヤしながら返した。
「行くぞ」
「ああ」
心臓が一度、大きく鳴った。
ピィッ――!!鋭く長いホイッスル。
古川がボールを軽く後ろに落とす。乾いた音が芝に響いた瞬間、世界が動き出す。
俺はボールを受け取り、一歩、前に踏み出した。
【北斗の所に行きたがる莉子】
「ねぇ……浅倉くんたちのところまで行かない?」
「え?ベンチまで行くってこと?」
「そう……その……応援したいし」
「いいね!行こうよ!」
「莉子が言うならついてくよ」
「ありがと……じゃあ行こっか」
莉子はこの後、結構な速さで走りました。
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