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Mono mondon regas ~金が世界を支配する~  作者: あまつか飛燕
アネクドートではない閑話
48/87

ラグナと竜

 ある日ある家族、待望の元に産まれた子供は女の子だった。

 その家のみならず周囲の家々にも福音の如く赤ちゃんの声は響き、それを聞いた近所の人々は皆一様にその夫婦を祝福した。


「遂に産まれたか!おめでとう!」

「ここ2、3年はどこも恵まれなかったからなぁ」

「女の子ね、私の娘のお下がりで良ければ色々とあるけど…」

 そう人々が口にする中で、ある男がその夫婦に尋ねた。


「名前は決まってるのか?」

 その問いに、産まれたばかりの赤ちゃんをあやす妻の代わりに夫が答えた。

「ラグナだ。この子の名前はラグナ、きっと妻に似て良い子に育つさ」

 その村の一族の誰もと同じ瞳の色をしたその赤ちゃんは、まだ泣き止まない。


 *


 ラグナと名付けられたその娘は、親や周囲の期待通りすくすくと育っていった。

 好奇心旺盛、1人で立てるようになれば父と母の後ろを追いかけ追いかけて。

 3つになれば村長の家の倉庫に忍び込んで怒られて、5つになれば頼みもしてないのに畑仕事のお手伝い。

 7つになれば母親のトゥミから文字の読み書きを教わりながら、オレスとラスァの2人の弟の面倒を見るお姉ちゃんとして大張り切り。


 その頃、ラグナは魔法に興味津々だった。母親のトゥミが料理をする為に魔法で火を付けたのを目にしたのを機に、ラグナは色んな人に聞いては魔法を使えるようにと頑張っていた。

 努力の賜物か天性の才能かラグナはすぐに魔法が使えるようになり、火を出したり水を出したり、代替わりで村長になったばかりのノーファンでさえも驚かせる程だった。

 特に火の魔法が得意で、7歳にしてその火力は大人にも引けを取らないぐらいに成長していた。


 そして8歳のある日、ある事件が起きた。

 母親にせがんで山菜採りについて行ったラグナは、森の中で親と逸れてしまったのだ。

 大人にとっては見慣れた森の中でも子供のラグナにとっては未知の場所、か細い声をあげつつ探し回るうちにすっかり迷ってしまった。


「お母さん…!おかぁさーーん!!」

 そうしてラグナは森の中で1人、大泣きしていた。

 村の中で逸れるならともかくここは鬱蒼とした森の中、誰かが近くに通りかからない限りその声が届く事は無い。

 いや、その森に住むある"存在"だけがそれを聞いていたのだが、そんな事を知る由もない。


 ひとしきり泣くと、猛然と心細さが襲ってきた。

 いくら森を歩くのに慣れた民とはいえまだ8歳、当然歩き方など知っているわけがない。陽はまだ高かったがそれもじきに沈む、夜の森に何も準備せずに入る事の怖さは、やんちゃ盛りのラグナでさえ身に染みて知っていた。


 少し歩いて森の少し開けている場所に着くと、近くの木の根元に座って膝に顔を埋めた。


 ーもう、お母さんにもお父さんにも、オレスにもラスァにも会えないかもしれない…


 閉じた瞼の裏に家族の顔を思い浮かべると、急にまた眉間がツンとなって涙が溢れてきた。

 だがその直後、ラグナの今後を決定的に変える存在が、空から降りてきた。

 《お主か、さっきから魔力を撒き散らして…ってどうした?》

 突然目の前が暗くなり、深い青色の体毛を持つ存在が覆った。それは大人達が"盟友"と呼ぶ存在、竜だった。あまりにびっくりして、出かけた涙が引っ込んだ程だ。


 ラグナも"盟友"には興味があった。少し前に親に連れて行ってもらった竜の(レンホイ)で見た盟友は、遠くから見ても美しく力強く、幼心に憧憬を抱かせるには十分であった。

 だがそんな憧れはその年頃なら誰にでもあるような事で、まるで冒険活劇ものの小説を読んで夢見るそれと何も変わらないものだった。盟友だけではなく農作業から商いから、夏の氷の切り出しから祭りまで。ラグナにとって盟友とは、そんな日常の様々な出来事の中の一つに過ぎなかったのだ。

 だが目の前に降りてきた"盟友"は遠くから見た時とは違って、ラグナにとってともすれば呼吸するのを忘れてしまいそうになる程、大きい存在に見えた。まだ高い陽を反射してキラキラと輝くその羽根は、間近で見ると表面は透明でありながら虹色に光り、その羽根が重なると段々と青く濃くなっていった。眼の付近は白銀の羽に覆われ、目が身体と同じく深い青色をしていた。


「あの…わたしラグナって言います…」

 頭の中に直接響くような声に何と返していいかわからず、その吸い込まれそうな青い目を見ながら、とりあえず小さな声で名前を言ってみた。自分より背の高い竜に見下ろされているのに、不思議と恐怖心は無かった。

 《ふむ、その様子だと…迷子か》

 目の前に立った竜はそれだけ言うと、急に翼の先端の鉤爪でラグナの服を引っ掛けて持ち上げた。

 突然の事にラグナは声も出なかったが、その竜はラグナを器用に自らの背中に誘うと、そのまま地を蹴って空へと飛び出した。


 突然飛び始めた竜に驚いて慌てて背中にあった角を掴むと、顔面に叩きつけられる風に必死に耐えた。

「ま、まって…!」

 ラグナがそう言うと、心なしか竜の飛ぶ速度が落ちたように感じた。しかしそれでもまだ8歳のラグナにとっては未知の速さであり、怖くて顔もあげられなかった。

 少しするとその竜は静かに下降し、やがてラグナにも見覚えのある村の外れに降りた。竜と共に空を駆るコルナー達の竜以外が村に降りて来ることは珍しく村人がなんだなんだと集まっては来たが、ラグナは緊張やら恐怖やらでどうにかなってしまいそうで、とても周りを見る余裕など無かった。


 竜は乗せた時と同じ要領で地面に降ろすと、まだ何が起こったかわからず呆然としているラグナをじっと見つめてこう言った。

 《名は知らぬが少女よ、お前は見込みがある。己の力を鍛え抜いて再び竜の(レンホイ)に来るがよい》

 ラグナは言葉の意味もわからず、ただただ濃い青色をした"盟友"の姿を見ていた。


 やがて竜が飛び去ると、周りに集まっていた大人達が一斉に駆け寄ってきた。

「大丈夫か!?」

「ラグナちゃんじゃないか、さっきグロースが探してたぞ」

「怪我してない?大丈夫?」

 あまりの事にびっくりして、周りのその言葉にラグナは生返事でしか答えられなかった。

 だがこの体験は、ラグナの今後を決定付ける事となる。


 *


 それからと言うもの、ラグナはまるで取り憑かれたかのように魔法の練習に励んだ。

 "基礎魔力量は人によって多い少ないはあるが、たとえ多くてもそれを引き出せるかはその人の才覚か鍛錬に依存する。"と書いてあった魔法に関する本の文章を噛み砕いて教えてもらったラグナは、その日から来る日も来る日もひたすらに鍛錬を繰り返し、2年経ち10歳になった頃には周囲の大人にも引けを取らないほどの魔法を使う事が出来た。

 10歳にもなれば段々と将来のなりたいものが見えてくる年頃だ。とは言え男の子は狩猟か商い、女の子は商いをしつつ家事や内職の手伝いをするのが普通だった。

 しかしラグナは違った。


「わたし、コルナーになりたい」

 それを聞いた親のグロースとトゥミは、コルナーの何たるかを知った上でなお反対はしなかった。

 コルナーとはただ竜に乗れる人の事を言うわけでは無い。平時では村の衆と共に狩猟や農業に携わるが、いざ村人や"盟友"に危害が及ぶ事があれば"盟友"と共に空を駆り、いざという時は命を懸けて戦う事も厭わないのがコルナーという存在だ。

 しかしそれでも、やはりどこか自らの娘が普通では無い事を感じ取っていたのか、両親は反対しなかった。


 両親に自分の想いを打ち明けてからは一層魔法の練習に明け暮れ、トゥミに一応の家事や内職の手ほどきを受けつつも、ラグナの頭の中はいつしか"盟友"の事でいっぱいになっていた。

 その頃から練習の息抜きと称して、森に入る事が多くなっていた。周りの人には森を歩く練習だと言っていたが、本当は"盟友"の姿を見たいが為だ。そして森を歩くうちに、ラグナの今後を決定付けるもう一つの出来事が起きた。


 *


 それは12歳になったある日、薬草を取りに森に入っていた時だった。

「スゥリゥの葉、スゥリゥの葉と…あれは"盟友"の住んでる所の近くに行かないと無いから…」

 その日、ラグナは流行熱を出した次男のラスァの為に、森の中に自生する薬となる葉を取りに行っていた。探しているスゥリゥの葉はさほど珍しいものというわけでも無いが、竜の住む場所に近く、竜の生態や何なら良くて何が悪いかをしっかりと見極められる大人でないと本来は採取には行けないことになっている。

 そしてこの時に村にスゥリゥの葉が無かったわけではなく、コルナーになるならとグロースがこれも練習と採取に向かわせたのだ。採取できなかったからと言って困るわけでも無かったので、ラグナの気持ちも幾分気楽なまま森へと入っていった。


 森に入って少し経った頃、ゴロゴロという音が微かに聞こえてきた。何も知らなければなんというものでもない音なのだが、その正体を知っているラグナは反射的に身構えた。

 ー"盟友"の警戒音…!

 それは現役のコルナーと一緒に訓練を見学したり森を歩いた際に聞いた音だった。竜も妙に人間臭いところがあって、気の合わない竜が近づくと警戒音を発する。その他にも人間が不用意に近づいたり、或いは天気の急変の前などにもこの音を発する。つまりこの音を聞いたら、まずその場から離れるのが鉄則なのだ。

 しかし好奇心未だ旺盛なラグナはむしろその音の方へと近づいて行った。大人と一緒に居たらまず間違いなく手を引かれてその場から離れるのだが、それよりもそういう時の"盟友"を見てみたいという欲が勝ったのだ。


 音のする方に近付くにつれて、警戒音を発する竜の姿が見えてきた。しかしその姿を見たラグナは驚いて、思わず採取用の籠を落としてしまった。そこに居たのは仔竜であり、しかも翼から大量の出血があったのだ。基本的に竜に天敵はいないが、仔竜は一匹でいる所を野犬などに襲われる事があり最悪は死ぬ場合もある。その竜もまさに野犬の群れに襲われ、警戒音を発して助けを求めていたのだ。

 ラグナが慌てて駆け寄るとその竜は警戒音を止めた。しかしまだ呻り声をあげて、ラグナの事を見つめている。


「とりあえず血を止めなきゃだめだよね。えぇとだから…」

 そう言って森に入る時にはいつも持っている応急手当の道具を漁っていると、近くの草むらが俄かにざわめいた。すぐにその方向を見やると、竜を襲ったらしき野犬が2、3頭顔を出した。

 すぐに仔竜は警戒音を出し始めたが、そうは言っても傷ついた仔竜にはどうすることも出来ない。わずかな睨み合いの後、野犬が人間も子供だからと踏んだのか再び襲ってきた。


「どうしよう…いや、でも私が守らなきゃ」

 ラグナはそう決意して、突進してきた野犬を見ながら自分の指先に魔力を集中させた。魔法で作り出した火の玉はラグナの手を離れると、一直線で野犬の頭に吸い込まれた。いくら魔法が周囲の大人と引けを取らないものだとしても、それは生活の中で使う魔法の話だ。攻撃魔法やその応用はコルナーとして正式に訓練してから初めて教わるもので、当然ラグナは攻撃魔法は使えない。しかしこの時は、自分の知る知識の中から攻撃魔法を編み出して野犬に放ったのだ。

 威力の小さいものだったが、野犬を警戒させるには十分だった。鼻先に炎の塊をぶつけられた犬はすぐに反転し森の奥に消え、残りの野犬達も唸りながら様子を見るようにラグナと仔竜を取り囲んだ。


 すぐにまた1頭が襲い掛かると、それを同じ魔法でラグナが応戦した。しかし野犬もせっかくの獲物をそう易々とは諦めない。その合間にも断続的に他の犬がとびかかり、仔竜を攻撃していた。仔竜もボロボロの翼で応戦するもののその力は弱々しく、徐々にまた傷口が開いてきて見るからに弱り始めてきた。


 ーどうしよう、これじゃ助けも呼べないし…私が、私が何とかしなきゃ…でもどうやって?


 その時、ラグナの脳裏にはあの時出会った"盟友"の姿が思い浮かんだ。あの時助けてくれた、ならまた助けてくれるかもしれない。そんな何の根拠も無い事だが、それでもラグナは心の中で名前も知らないあの"盟友"に来てくれと願った。

 野犬を狙って放つ火球は徐々に外れることが多くなっていた、見切って避けられることが多くなっていたのだ。しかしラグナは放つのを止めない。もはや常人では魔力が枯渇している程の量の火球を放っていたが、そんな事は考えている暇もない。今はただ、この傷付いた仔竜を守るのだ。


 その時、近くの茂みで様子を伺っていた2頭の野犬の上から、直接炎が吹き下ろしてきた。直撃を喰らった野犬はその場で息も絶え絶えと言った風で動けず、他の野犬もこれまでとは違う強力な炎を恐れたのか再び周囲の茂みに隠れた。

 瞬間、空から風が吹き下ろしてきた。驚いてラグナが見上げると、そこには瞼の裏に刻み付けられたように忘れたことも無かった、4年前に自分を助けてくれたあの竜が居た。

 その竜は着地してラグナの事を一瞥するなり、再び天を仰ぐや強く嘶いた。取り囲んでいた野犬達が恐れをなして森の奥に消えると、奇妙な沈黙が辺りを覆った。


 《お前か、確かラグナと言ったな》

 また頭の中に直接語り掛けるかのように声が聞こえた。4年前の時は何が何だかわからなかったが、12歳になった今ならわかる。これはこの"盟友"の声だ。

「はい…ありがとうございました」

 そう言ってラグナが頭を下げると、その竜は驚いたようにラグナに顔を近づけた。

 《…私の声が聞こえているのか?》

「え?はい、頭の中に響いてくるような不思議な感覚ですけど…」


 そう言うとその青い竜は、何かを考えるように頭を上げた。そして竜はおもむろに身体を伏せた。

「…乗れってこと?」

 ラグナがそう呟くと竜は頷いた。馬が人が乗ろうとした時に自分で座って乗りやすいようにしたのを見た事があったのでそういう事かと聞いただけなのだが、まさか本当にそうだとは思わなかった。

 背に乗るとコルナーの人みたいに背中の角を持った。すると竜が再び声を発した。


 《角にある、石を持て》

 急にたどたどしくなった言葉を気にする事も無く、ラグナは言われた通り角に引っかかっていたペンダントを持った。

 村の大人達から聞いた事がある。竜は卵で産まれ、その殻の中に一緒に透明な石が入っているのだそうだ。その石は"竜魂石"と呼ばれていて、村の大人達は新しい竜の誕生を知るとその石を入れるペンダントを作ってその竜の元へ行くのだそうだ。


 そのペンダントと角を片手ずつに持つと、急にその竜の声がはっきりと聞こえるようになった。

 《これでまともに話せるな》

「え?え?これって…?」

 《本来お主らユラフタスと我ら竜が話すときは、こうして意思を介して行うのだが…その雰囲気だと知らなかったようだな》

 そこまでの事はラグナも初耳だった。コルナーの人に聞いてみたことはあったが、"盟友"との意思疎通の方法は秘密だと言って教えてくれなかったのだ。だがコルナーは皆会話するように"盟友"を乗りこなしていたので、ラグナも何も無しにその竜と会話できることを不思議だと思わなかったのだ。


 《ラグナよ、4年ぶりか。前に比べて格段に魔力制御が上手くなっているが、まだあのような時には無遠慮に魔力を拡散させてしまう癖があるな》

 ラグナの心に矢が撃ち込まれた。ような気がした。それは重々自分でもわかっていて、絶賛訓練中だったからだ。

 《まぁいい、恐らく何も無しに私とお前が話せたのも、その魔力を辿ってのことだろうしな。それよりこの仔竜を親の所へ返さなければならんな。ラグナよ、生産系の魔法は使えるか?》

「えっと、少しなら…商いの帰りなんかで簡単な布や縄ぐらいなら作ったことあるので」

 《好都合だ。頑丈で長い縄を作ってくれ、あの仔竜を吊って運ぶ》

「えっ、でもそんなに頑丈な縄なんて…」


 しかしラグナは自分の心配と裏腹に、その青い竜の言われるがままに仔竜が運べる程の頑丈な縄を作り上げた。実際コルナーは"盟友"の魔力を借りることでより強大な魔法を放つこともあるのだが、当然ラグナは知る由もない。

 仔竜を親元へ届け、偶然その近くにあったスゥリゥの葉を摘みその竜の背に乗って村に戻った時には、4年前を彷彿とさせるような大騒ぎとなった。


「ラグナがまた"盟友"と一緒に!」

「あの子は将来は化けるぞ」

「次のコルナーは決まりじゃないのか?」


 "盟友"の背で笑う少女には、周りの村人の目線や声など全く気になっていなかった。肝心のスゥリゥの葉を入れた籠を落とさないように手首に縄を巻き、竜の上で見た『世界』が頭の中から消え去ってくれなかったからだ。


 *


 それから3年、ラグナは15歳になった。

 コルナーには本来は成人の年である16歳からなれる。しかしその類稀なる才覚と8歳の時と12歳の時の"盟友"に関わる騒動、そして何より本人の強い要望により、ラグナは竜の丘(レンホイ)の頂上に立った。後ろには様子を見に来たラグナの両親と現役のコルナーが数名、そして村長のノーファンがいた。

 本来ならここで天に向けて何か魔法を放ち、その魔法を見て"盟友"が応えてくれればその"盟友"がコルナーとしての相棒となる。だがラグナは違った。


「おい…あれ…」

 見に来ていたコルナーの一人が天を指差して声を上げた。そこには竜が一頭、猛然とこちらを目指してきて飛んで来ていた。

「何故…まだラグナは何もしておらんじゃろう?」

 そう漏らしたノーファンの声に、答えられる人は誰もいなかった。

 ラグナは自分のところに向かって飛んできたその青い竜を見るや、振り返って両親に向かって爽やかに笑いかけた。そうして両手を広げ、まるでその"盟友"を迎えるかのようにそこに立った。

 その青い竜はラグナの前に静かに降り立つと、何も言わずにペンダントを差し出した。ラグナもそれを何の疑いもなく受け取ると、竜はまた静かに飛び立った。その間、誰も何も喋る事が出来なかった。


 翌日、森の神殿で"縁の儀"を済ませたラグナは、めでたく正式なコルナーとなった。とは言え特例で成人前にコルナーになったのに加えて、コルナーとしての訓練もある。

 訓練によって縁を結んだ竜、リッシュをより自在に乗りこなせるようになった頃には、ラグナは16歳になっていた。


 そんなある日、ノーファンに呼ばれたラグナは、村のはずれにあるノーファンの家にいた。

「ラグナよ、お前もコルナーになって多少は自信もついてきたころじゃろう」

「はい。だいぶ緊張も取れて、ちゃんと"盟友"と飛べるようになってきました」

「それは良かった。ではラグナ、初仕事じゃ」

 そう言われて仕事の内容を聞いたラグナは、大いに張り切っていた。仕事自体は簡単なもので、外つ土地のある人を村に連れて来いというものだ。だがもし連れて来られないと、その後の作戦に影響が出るとのことで、責任重大なものだった。


 その後にラグナは2回ほど村を出て、連れて来る人の姿を見に行った。2人とも同じぐらいの年代で、同世代の友達が村にいないラグナにとってはこんなことでなければ友達になりたいと思うほどだった。

 そして作戦決行の日、夜の闇に紛れるようにしてリッシュの背に乗って飛び立つと、一直線にその人の住むというシナークという町のはずれにある屋敷に向かった。

 2人連れて来ることになっていたのだが、片や家族と暮らし片や一人暮らしなのだそうだ。ならばまず家族の説得と、家族と暮らしている人のほうに向かったのだ。


 しかしその屋敷の上空に近づくと、何やら家の前で言い争っている姿が遠目に見えた。気づかれないように近くに寄ってみれば、家の玄関の灯りの中に何やら軍服を着た数名に取り囲まれている男女が見えた。

「あれって…まずい!」

 そう言うとラグナは、真っすぐその屋敷に向けて急降下していった。何があったか知らないがその男女に縄が打たれたのだ、助けなくては。


 玄関の真上に着くと、兵士達が血相を変えて銃を乱射してきた。しかし反射的に展開した防御魔法により、それらは悉く弾かれていく。

 ラグナは角を通してリッシュに、男女に繋がれた縄を焼き切り、兵士の誰かを幻覚魔法で焼くように命じた。リッシュがその通りに魔法を放つと兵士たちは狼狽えた様にその場から一歩後ずさった。視線の端に捕まっていた男女が逃げたのを確認すると、ラグナはもう一つの命令をリッシュに伝えた。


 *


 10分もしないうちに、兵士たちは全員無力化された。と言うのも強力な睡眠魔法を放ち、周囲に近づいていた援軍もろとも眠らせただけなのだが。

 連れて来る2人の女性の方は、事前の資料によれば体内に保有する魔力量が極めて高いそうだ。ならばそのような魔力も見えるリッシュに任せておけば間違いない。

 再び高いところまで飛んで上空からリッシュにそのような人がいないか探してもらうと、屋敷のある丘を降りたところにある街に、その人が居るという。


「それじゃリッシュ、少し経って私が帰ってこなければ帰っていいからね」

 《いいのか?》

「大丈夫よ、それに外つ土地だとあなた方"盟友"は伝説の生き物って扱いだからね。騒ぎが大きくなっちゃうし。何かあったら呼ぶから」

 町はずれに降りたラグナはそう言って、リッシュを森へと返した。ここからは1人だ。町にも警戒の兵士がいたが、その人達にも全員眠ってもらったので、深夜の街だが大手を振って歩ける。


 やがてある角に差し掛かると、その路地に入った。リッシュの示した場所だ。

 慎重に奥に向かって歩くと、路地の端にうずくまっている影が見えた。だがその影は急に立ち上がり、路地の奥へと走り去ろうとした。


「待ってください!」

 ラグナが思わず声を上げると、影は立ち止った。

 外はいつの間にか薄ぼんやりと明るくなってきて、その影は男の人の輪郭となり、黒い瞳がいやに目立った。


「危害を加えるつもりはありません!ただ…あなた方を探しに来たのです!」


 そう言うと廃材を持って立つ男の影から、もう一人の女の人が顔を覗かせた。

 それが自らのみならず国の運命をも左右する出会いになるとは、この時はまだ誰も知らない。

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