第19話 一人勝ち……
形勢は逆転した?
冒険者は残り4人。
勇者アレス、剣士ギド、神官ティーナ、魔法使いオーウェスの4人。
倒れている2人はまだ生きているけど、ドラゴンが見てるので問題はないと思う。
先ほど騎士クラインが近づいたのは間違いだ。
狩った獲物に近づくなんて、ドラゴンの怒りをかうのに決まっている。
…… …… ……
「撤退する」
戦士ギドが言う。
「ああ、そうしたいが囲まれてしまっている」
勇者アレスが返事をする。
「まったくもう、あのローパーのせいでこんなことに」
魔法使いオーウェスが言う。
「そうだな、ちょうどあのローパーのところが穴だ。
あいつをやってそこから脱出しよう」
「そうね、すべてあのローパーが悪いのだからね」
「でも、どうするガリウスとクラインはまだ息があるみたいだが」
「それは残念だけどあきらめよう。この状況じゃどうにもならない」
「それじゃ、あのローパーを殺して道を切り開くってことでいいのね」
「ああ、それでいい」
……ちょっと待って、いきなりまたピンチか、なんでそうなるの?
せっかく少しだけ生き残るすべが見つかったと思ったのに
それにおまえたちの言っていることが、全部聞こえているぞ……
こうなったら殺られる前に殺れだ。
「氷結魔法」
私は氷結魔法を冒険者たちの足元に唱えた。
「シュイーン、パリン、パリパリパリパリ」
氷結魔法で冒険者の足場を凍りつかせ、体制を崩すのに成功する。
「くそう、あのローパーめ」
剣士ギドは怒鳴る。
その瞬間にドラゴンは足を大きく上げ床面を蹴り揺らす。
「ドゴーン」
部屋全体が揺れる。
「うぉ」
剣士ギドは凍りついた床とドラゴンが蹴り揺らした振動のためにバランスを崩す。
その瞬間ドラゴンが尻尾を振りかざす。
ドラゴンテイルだ。
ドラゴンの尻尾が剣士ギドに直撃し、壁まで吹き跳んでしまう。
頭から壁に打ちのめされる。
首が曲がり折れたようで剣士ギドは絶命した。
魔法使いオーウェスは私のほうに魔法陣を作り魔法を唱えようとするが、1匹のインプが素早く跳躍して顔を引っ掻いた。
「キャー」
悲鳴を出した瞬間に足元から這い上がるようにインプが出てきた。
鋭い爪で魔法使いオーウェスの全身を切り刻まれる。
魔法使いオーウェスは絶命した。
神官ティーナが魔法使いオーウェスの悲鳴を聞いて振り返った瞬間に隙が出来た。
私は頭上の触手の2本を先端を槍状に変化させ、神官ティーナに向けて発射する。
神官ティーナはまったく反応できずに2本の触手は胸に当たった。
胸に当たった2本の触手は体を貫通する。
神官ティーナは即死した。
それを見た勇者アレスが、
「くそう、よくもティーナを、神剣・神威よ、われに力を」
アレスの持っていた神剣が青く輝きだす。
胸を貫いた触手を神剣で切り裂く。
「くっ」
アレスが私に近づく。
「べちゃり」
私は前方へ足元から粘液を出し後ろに下がる。
「ズルリ」
「うわー」
勇者アレスは粘液に足を滑らせ転んだ。
「どさん」
私は転んだアレスへ覆被さった。
「ズブリ」
勇者アレスは倒れながら神剣を私に突き刺す。
「くうぅ」
私は体から無数の触手をだし、アレスの体に絡めはじめる。
一部の細い触手を先端を鋭い針に変える。
アレスの鎧の隙間から体内に侵入し体の中を引っ掻き回す。
これだ、これしかアレスを殺る方法はない。
アレスは私を刺した神剣を握っているが、力が抜け落ち放してしまう。
「そんな、ば、か、な」
と言って……
私は起き上がる、体から出る無数の触手を使い自分に刺さった神剣を引き抜く。
神剣はまだ青い輝きを放っている。
私はアレスを見下ろしている。
そして私はなぜかアレスに話しかけてしまう。
「おいおまえ、聞こえるか」
勇者アレスは口から血を吐きながら驚いている。
私もしゃべっているので驚いている。
私は言う。
「先に仕掛けたのはおまえたちだ。
これは自業自得ってやつだよ。
ここにはモンスターたちが住んでいて縄張りがある。
おまえらだって人間が住む世界にも国と言う縄張りがあるだろう。
よそ様の家に入って暴れていれば、報復を受けるのは当たり前の話だ。
おまえら冒険者だったな、私たちから見ればただの遺跡荒らしなんだよ。
おわかり、盗賊のアレス君」
私は体から出す触手を集めて神剣を強く握りしめる。
触手で握り絞めた神剣は青い輝きを変化して淡い緑色に輝く。
「スパン」
触手で握った神剣を振おろし、勇者アレスの首を撥ねた。
「ゴロリ」
アレスの首が胴から離れ転げまわった。
…… …… ……
戦いは終わったか?
上位インプたちはすでにこの場からいなくなっていた。
自分で倒した獲物は持ち帰ったらしい。
レッドドラゴンもやはり3人の人間を持ち移動している。
ふぅ、助かったのか、この状態だとさすがにあいつらには勝てないからな、私は一安心する。
さてと、この人間どうしようかなと思ったら、私が胸を貫いて絶命している神官ティーナの前に相棒のローパーが居た。
えぇ、いつのまにてっ、おまえ何してんの?
神官ティーナの前に立ち、体から無数の触手を出しているのだ。
食べる気か? と思っていたら神官ティーナを食べはじめてしまった。
えぇぇ、おまえ、何もしていないじゃないか、と言うか私が逃がしてやったのに……
私は死にかけるほどの戦闘をおこなったというのに、こいつは先に食ベてしまった。
…… …… ……
あぁ、そうか そうね そうだよね。
まぁ、彼女が来たからドラゴンやインプが逃げていったのかも知れないし、今回は良いとしましょう。
この状態じゃ一人で寝床部屋に帰れないしね。
さすがに部屋までついて来てくれるでしょう。
そうそう、前向きに考えよう。
せめて、こちらの獲物は私のだから取らないでよね……




