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デモンズ・ゲート  作者: 梅
第1章
4/50

肉を切らせて骨を断つ


 魔法学校の授業で行われる戦闘訓練では、なぜかアンジと当たる場合が多かった。剣術はアンジが上、魔法ならこちらが上。今までの勝敗で言えばほぼ互角だろう。

 これから軍に入れば、本気で勝負をする事も無くなるだろう。それはお互いに分かっているからこそ、この試合でどちらか強いか、白黒ハッキリさせようと思っていた。



 「始めっ!」



 審判の試合開始の言葉を聞くと、両者共に「魔装」を展開する。

 魔装は全身に魔力を纏う技術であり、物理と魔法、両方の防御力を上げる。

 例えば一般人に雷の魔法を放てば、ダメージは勿論だが電気ショックにより、麻痺あるいは気絶するだろう。しかしこの魔装の力が強ければ強いほど軽減される。戦闘に置いては基礎の技術だ。


 左手に持っていた木製の短刀を右手に持つと、左手をアンジに向けて照準を合わし雷魔法を放つ。


 「やっぱりな」


 まずは牽制して様子見。アレンの癖をアンジは知っていた。左腕の魔装を厚くし、防御の体勢を取る。


 防御しても多少の麻痺が残るだろう。そうすれば長刀を扱うアンジは回復するまで前に出てこない。その間に更に距離を取ろうと、アレンは考えていた。だが予想とは違う事が起こる。


 アレンが魔法を放つと同時に、アンジは防御の構えを取ったまま踏み込んで来る。


 魔法が左腕に当たり帯電したのが見える。魔装に防がれ勿論全身麻痺はしないだろうが、左腕は麻痺を起こしたはずだ。いくら力自慢とは言え、片手で長刀を振ればたいして威力は出ない。

 そう考えるアレンを余所に、アンジはガラ空きとなっているアレンの左半身を狙い、右腰に構えた長刀を片腕のみで力任せに斬り上げる。


 魔法を使う為に左に持っていた短刀は、まだ右手にある。防御は間に合わない。そう判断し少しでもダメージを減らす事を選択する。

 後ろへ飛びながら、盾状の防御魔法「ディンゲ」を発動させる。


 アンジの振る長刀は防御魔法をいとも簡単に砕き、アレンの左脇腹にヒットする。


 苦悶の表情を見せるアレン。バランスを崩しながら後退する。


 よろめきながらも構えを取り直す。しかし、同期では最もパワーのあるアンジの一撃を、食らってしまったのだ。呼吸が乱れ、嫌な汗が吹き出す。



 「いきなり良いのを貰ったな」


 観客席で見ていたケイムが言う。


 「片手とは言え、遠心力を使う様な大振りだったからね。ダメージは相当だよ。あの一撃で流れは完全にアンジに持っていかれたね」


 傍らのダートンが冷静に見る。


 「しかしアレンは防御系の魔法は下手くそだな。薄いガラス程度の強度しか無いんじゃないか?」


 ため息を付くケイム。


 「アレンは術者から離れた場所に発動させる魔法は苦手だからね」


 医務室から戻って来たマナが答える。



 厄介だ。

 アンジの防御しながら突っ込んで来る戦い方への率直な感想だ。


 雷魔法の長所はダメージと共に、麻痺を起こさせる事にある。

 麻痺に対する警戒心があれば、相手も被弾せぬよう慎重に行動するだろう。そうなれば、雷魔法をチラつかせる事で相手の動きをコントロールしやすくなる。事実これまでに学校で戦闘訓練をしていた時のアンジもそうだった。

 

 だが今は違う。

 肉を切らせて骨を断つ戦法だ。多少の被弾は意に介さない。魔法を撃てばその隙を確実に突いてくる。かと言って剣術では正直、アンジの相手にならないだろう。あのパワーで防御をいとも簡単に崩されて終わりだ。

 ならばどうする?


 考えが纏まらぬ内に、アンジが距離を詰めてくる。


 「どうしたアレン! 戦意喪失か?」


 いちいち声がデカイ。


 突進を止めようと、アンジの足に向けて雷魔法を放つ。

 それを見たアンジは前宙返りに飛び、魔法を回避する。そして、そのまま上から長刀を振りかぶる。

 アレンは右手の短刀でそれを止めようとするが、押し込まれる。必死の防御も虚しく肩に長刀がめり込んだ。


 「ぐっ!」


 アレンは思わず声を漏らす。

 動きの止まるアレンにアンジはすかさず押し蹴りで、闘技場の端までアレンを蹴り飛ばした。


 会場から歓声が上がる。


 「おい、馬鹿力の一方的な展開じゃないか。私の知らない間に、こんなに実力差が付いたのか?」


 どうやらケイムはアレン側の応援の様だ。


 「いやアンジは普段、もっとドッシリと構えて戦うはずだから、アレン対策をしっかりして来たって事だと思う」


 よろめきながら起き上がる。ふと観客席で話をしているケイムとダートンが目に入った。


 短刀が一本無い。蹴り飛ばされた時に落とした様だ。


 随分と雷魔法の対策して来てるじゃないか。

 アンジに対し心の中で賛辞を送る。

 試合前に想定していたより、早い展開でボロボロにされてしまったが仕込みは充分だろう。


アレンは短剣を杖の様に使い立ち上がる。


 アンジがこちらに走ってきているのが見える。左手をアンジに向け。三度目の魔法を打つ構えを取る。


 「フラッシュ」

 小さな声で唱えた。


 アンジはアレンが魔法を打つ構えを見せた時、複雑な心境になった。

 学校に入学した時から切磋琢磨し、自分とずっと互角で居てくれたアレンが、雷魔法を打とうとすれば、俺はこう反撃するぞ! と言う事を見せたのに、また魔法を打つ構えをしている。打ってこようとも、防御して刀を振り抜くだけだ! アレンに対し、怒りとも悲しみとも取れる感情が沸き上がり、ポツリと漏らす。


 「残念だ……」


 アンジは左腕の魔装を厚くし、雷魔法に対し防御の体勢を取る。


 その時、閃光が走る。


 突然の強い光に視界を奪われるアンジ。何が起きたかは分からない。分からないがこの状態はまずい。とっさに身を守る。

 左側頭部に衝撃が襲う。恐らく短刀による一撃だろう。

長刀を横に振り、反撃に掛かるが、今度は右手を掴まれた感触がすると激痛を感じた。

 痛みで長刀がすっぽ抜けそうになるが、左手で踏ん張りそれを阻止する。


 先ほど感じた右手の痛みが無くなっている。……いや、感覚が無いのだ。

 つまりこれは麻痺。回復するのに数分は掛かるだろう。

 これ以上の追撃はまずいと判断し、アンジは火の魔法で自分の周りに炎を巻く。


 炎を見たアレンは、アンジと距離を取り落としていた短刀を拾う。

 渦巻いている炎は時間稼ぎだと直感し、右手に魔力を集中させる。


 「カーレント」


 そう唱えると、人間の腕くらいの太さを持つ電気が放たれた。


 電気は炎を貫通し、アンジに直撃する。


 「ぐああああぁぁっ!」


 叫び声を上げるアンジ。痛みと共に身体の自由が効かず、膝から崩れる。



 「おや? 麻痺したんじゃないか?」

 崩れ落ちたアンジを見て、ケイムは緩んだ顔をしている。


 「これは、アレンの勝ちかな」

 勝敗を確信したのか、観客席の柵にもたれ掛かる。


 「いやいや、忘れてるでしょ? ケイム」


 マナの言葉が、何の事か分からなかった。


 「あの状態からでも、あの馬鹿力には奥の手があるのか?」


 「アンジは負けず嫌いでしょ。ピンチになればなるほど強くなるの」


 ああ、なるほど。

 魔力は感情によっても、威力、精度が増減する。あの筋肉馬鹿は怒りで魔力が上がりやすいタイプなんだろうと、ケイムは思った。



 「A・エンハンス」


 そう唱えると、アンジの魔装に薄く赤みが現れる。筋力を増幅させ、力を上げる魔法だ。

 体の痺れはまだ残るが、長刀を握り直し間合いを詰める。


 それを見たアレンが、右手をこちらに向けた。


 さっきの閃光か!

 そう思ったアンジは左腕で目を隠す。しかし閃光は起こらず、左足に衝撃が走り足が止まる。


 「くそっ、攻撃魔法かよ」


 更にアレンが、手に魔力を溜めているのが見える。攻撃魔法に備え腕を身体の前に交差し、魔装を厚くする。



 するとアレンの手からは、閃光が放たれる。


 アンジは再び視界を失い立ち止まる。



 「カーレント」

 そう聞こえたかと思うと、全身に激痛が走る。怒りで魔装が増しているのか麻痺はしなかったが、この痛みのせいで動くことが出来なかった。




 「同じ構えから、電撃か閃光が放たれ相手の動きを止める。そして動きの止まった所にあの太い電撃を放つ。馬鹿力は自慢の耐久力で耐えてるが、もう勝負は見えただろう」


 手を横に振りながらケイムが言った。確かに今のアンジでは、あれは突破出来ない。マナも同意見だった。


 話を黙って聞いていたダートンが、飛ぶ様に立つ。


 「アンジはまだ何かする見たいだよ」



 アレンはアンジの行動に驚いた。

 体に纏う魔装を、全て長刀に注ぐアンジ。攻撃力は上がるだろうが、魔法を喰らえばひとたまりもない。馬鹿げていると思えた。


 覚悟を決めた表情をし、アンジが突っ込んで来る。

 すかさず電撃を放つ。アンジは長刀でそれを弾いた。


 「フラッシュ」


 アレンの手から閃光が放たれる。

 眩い光が収まってくると、片目を閉じたアンジが見える。


 「そう来たか」


 アレンは後ろへ距離を取り、カーレントを打つための時間を作るために電気を自分の周りに拡散させた。

 拡散する電気を見たアンジが止まる。


 アレンは魔力を溜め、カーレントを放った。

 アンジは自身の全魔力を込めている長刀を下から振り払うと、カーレントは上空へと弾き飛ばされた。


 最も威力のある魔法が通用しなかった。焦りからか、鼓動が早くなる。


負ける。頭にそうよぎった時、一つの決断をした。


 アンジは長刀を左から、アレン目掛け振り払う。

 アレンは右脇腹から体が、くの字に折れ足が宙に浮く。


 アレンの口が動く。

 声は聞こえないが「チェックメイト」と言っている様に見えた。


 次の瞬間、アンジに激痛が走る。電撃を受けたようだ。

アレンはアンジの肉を切らせて骨を断つを真似たのだ。


 生身で電激を食らってしまったアンジは、気を失った。


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