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優希の新しい生活です。

 翌日、父と弟、祖母、そして主李かずい実里みのりとお別れをきちんとし、何とか車椅子と点滴姿で飛行機に乗った優希ゆうきは、降り立った空港ですぐ救急車に乗り、京都の大病院に搬送された。

 両親と竜樹たつき、そして従兄になる標野しめのと共に、うとうとと病院に到着した優希は、すぐに診察を受け入院病棟に運ばれた。




 すると、


「しぃ……」


 標野に瓜二つの、落ち着いた浴衣姿の青年。

 眼鏡をかけている。

 しかし、無表情にまばたきをする。


「ゆうちゃん、たっちゃん。あての双子の兄の紫野むらさきのや。さきってよびや」

「さきおにいはん?」


 竜樹は大人びたワンピース姿である。


「優希ちゃんは……」


 優希は手を動かす。

 そして口を動かそうとして、


「あいさつはせんでよろし。それにしても……」


眉間にシワにおろおろする優希に、標野は、


「さき。ゆうちゃんがこもぉとるえ?堪忍な?さきは口下手やさかいに、ゆうちゃんやたっちゃんが従妹になったってうれしいてしょうないんやて」

「シィ‼」


頬を赤くした紫野は、


「お、おかあはん……あてらのおかあはんと優希ちゃん、竜樹ちゃんのおとうはんが兄妹なんや。時々遊びにおいで……」

「まぁ、あてらの店は、優希ちゃんたちの家から遠いなぁ」


パンフレットの地図をみせ、優希は父親に印をつけてもらった家の場所を示す。

 そして、紫野を見上げる。


「……ここ。ここが松尾大社まつのおたいしゃ。そして、ここが店。ひらがなで『まつのお』」

「『まつのおむらさきのって綺麗なお名前ですね。それに標野って、風情があって、額田王ぬかたのおおきみの恋の歌です』」


 カキカキと書いて見せる少女に、


「受験?」

「いや趣味らしいで。超賢いってだいちゃん言うてたわ」

「『イングランドの妖精、伝説とかの美術展でお会いしました』『サー・アーサー・コナン・ドイルの心霊主義についてや、アーサー王伝説とか……』」

「あぁ、イングランド……テディベアもそれで……」

「『京都大好きなんです‼たっちゃんも大好きで、たっちゃんは東寺の立体曼荼羅りったいまんだら。私は太秦うずまさ広隆寺こうりゅうじ半跏思惟像はんかしゆいぞうが好きで、賀茂御祖神社かもみおやじんじゃただすの森も』」


せっせと書いていく少女に、


「何々『一条戻り橋のたもとに住みたい』あきまへんがな⁉さき‼言うたり‼」

「……えっと、あてらは松尾大社の水を頂いて、菓子を作るさかいに……松尾大社なら」

「ますますあきまへんがな‼ゆうちゃん‼おとうはんがおこるえ?多分、店にはあてらのおとうはんとおかあはんが住んどるさかいに、そこならかましまへんいうやろうけど、他はあきまへんやなぁ」

「東寺行けんのですか?」


シューン……13才の従妹のしょげっぷりに、双子は慌てる。


「かましまへん‼あてらが休みの時につれていくさかいに」

「わぁぁ……‼さきおにいはん、しぃおにいはん、おおきに」


目をキラキラさせた少女に、べそをかく少女。


「『行きたいです……蚕ノかいこのやしろとか、嵐山あらしやまの紅葉』」

「それは元気にならはってからや。あかんえ?ゆうちゃん。このあにさんがまっさおどしたわ」


 笑いながら近づいてくる女性と、きりっとした眼差しの職人と言いたげな雰囲気の男性。


「ようおかえりやす。優希ちゃん、竜樹ちゃん。あては、叔母の櫻子さくらこ申します。夫の嵐山と書いて『らんざん』て読みますのや」

「しゃべったらあかん。寝とき」


 低い声で優希を制止する。


「元気になったら、あてが菓子を贈るさかいに……」

「『菓子……京菓子ですか?本当ですか?嬉しいです。ありがとうございます‼』『おじさまもおばさまも初めまして。優希と申します。よろしゅうおたのもうします』『未熟で、足りないところはぎょうさんあると思います。おじさま、おばさまにご迷惑、ご心配をお掛けしないように致します』『ですので……』」

「ゆうちゃん……」


 息子がノートとペンを取り上げ、櫻子は頭を撫でる。


「怖がらんでかましまへん。あてらは家族や。一人で……たっちゃんとよう頑張らしました。もうかまいまへん。ゆうちゃんはええこや」

「……ふっ……ふえぇ……」

「大丈夫や……涙は心の悲しみを苦しみを押し流すもの。我慢はあきまへん」


 嵐山と紫野に手を握って貰い、櫻子に頭を撫でてもらっていた優希はいつのまにかスゥスゥと眠っていた。




 優希は約一ヶ月入院し、歯の治療と弱った身体を、心を癒すために夏休み一杯を費やした。

 竜樹は6月に入ってから転校して、然程経たず慣れたらしい。

 新しい制服にバッグが嬉しいらしく、そして、京言葉も教わっているのだという。

 優希も見舞いに来てくれる家族に、時々手紙をくれる主李と実里に返事を返し、両親に相談し、進学できるかを学校に問い合わせてもらった。

 すると、


「編入試験の際に確認しましょう」


と言われ、渡された教科書と参考書、資料集で勉強をして、苦手だった英語は父に教わり、編入試験に望んだ。


「……へ?」


 試験内容に呆気に取られる。


「どうしましたか?」

「い、いえ。申し訳ありません」


とシャープペンシルを手に、書き始める。




 後日結果をと言われて帰ったのを、優希は奇妙な顔で見送った。

 退院前だったので、父の賢樹さかきが、


「どうしたのかな?」

「いえ、おとうはん。なんかたいぎょうな試験かと思ったんどす……簡単どした……」

「どれどれ……」


問題用紙は、細かく答えなどがかかれているが、問題は難問だらけである。


「簡単?これが?」

「へぇ。おとうはん。問題集の方が難しおしました」

「問題集……は?これは誰が?」

「しぃおにいはんどす。醍醐おにいはんの所にあったから解いてみぃひんかって、解りやすく書いとりました」

「しぃ……」


 頭を抱える賢樹。

 優希に解かせていたのは、大学入試問題過去出題集である。

 15才になる中学生に解かせるものではない。


「おとうはん。本が読みたいんどす。退院したら、おうちの近くに図書館ありますやろか?」

「あぁ、あるよ」

「あぁ嬉し」


 本当に喜んだ娘の笑顔に嬉しかった賢樹だが、後々後悔する。

 優希の半端ない知識欲によって、読み尽くされる本の量に……。

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