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Xenoverse  作者: 葉月はつか
phase two : anemotaxis
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第33話 White justice and dark reality

 連合本部での式典も済み、鳴鳥は正式に特務部隊配属となり、ジルベルトの部下としてアルヴァルディに乗船する事となった。改めてよろしくお願いしますと頭を下げる鳴鳥に対し、皆は温かく歓迎してくれた。特にコンラードはこれ以上ない程に笑顔を輝かせて喜んでおり、その事をマリアンにからかわれていた。

 現在アルヴァルディは本部に居るヘニング特務部団長からの指令でとある星へと向かっていた。そこでは先のテレンティア戦で起きた地上での混乱の際に、命を狙われた政治家が民衆に対して横柄な態度を取った事を発端とし反乱がおきている。つまりは反乱軍の制圧なのだが、鳴鳥としては複雑な所である。政治家は恨まれるような事をしていたのだから命を狙われるに至った。その上混乱の最中に民衆を守らず自分たちの保身に走ったのである。ここは民の方に肩入れしたい所であるが、支援要請はその星の上層部の方であり、彼らは汚職政治家を庇い立てる選択をした。これまでも見逃されていたという事はその者達は汚い事をしていても政において無くてはならない者なのだろう。

 ブリーフィングでジルベルトは今回の作戦を説明する。


「俺達は直接民衆に手を下す訳ではない。この機に乗じて暗躍する武器商人を叩くのが仕事だ」

「武器商人ですか?」

「ああ、現在山岳地帯、平原とARKS(アークス)同士の交戦が起きている。本来なら軍部、警備隊だけが保有しているARKS(アークス)を民衆が所有している。武器も一般市民が手に入れられる量を遥かに超えている。未だに拮抗しているのは供給源があるという事だ。テロ活動に使用される武器は不正輸出、星の認可を受けていないものだ。俺達はその武器庫の制圧、武器商人の捕縛の任につく」

「密輸ルートは大体の目星が付いています。ですが、その場には民間人も居ることが想定されるので、ARKHED(アルケード)はあくまで脅しとして利用しましょう」


 アランの状況報告と提案にジルベルトは頷く。今回鳴鳥は陽動としてARKHED(アルケード)に乗る事となった。

 危険な任務をこなすのはテレンティアへの潜入を含めれば二度目であり、戦場に立つのも初めてではない。緊張していた鳴鳥であったが、ARKHED(アルケード)ARKS(アークス)の戦力差は歴然であり、指示通り商人達の護衛のARKS(アークス)を引きつけている間に、ジルベルトは難なく商人達を捕らえる事に成功した。

 何箇所か同様の武器商人を捕らえ、武器を押収すると供給源を失った反乱軍は徐々に弱体化し、鎮圧化に向かった。




       第33話 White justice and dark reality




 ジルベルト達、アルヴァルディの面々の任務は此処までであったが、撤収する際に事は起きた。

武器庫を制圧する際は夜間に行われる。今現在は午前2時過ぎ、夜空に星が煌めく荒れた大地、その小高い丘を越えた先で立ち上る爆煙、それに気付いた鳴鳥は心配そうにジルベルトに問いかけた。


「あの先にある集落では大した戦力が残されていない筈ですよね…?どうして今頃…」


 鎮圧に向かいつつあるのだから無駄な争いは起こる筈が無い。あの小さな村に抵抗を図るような力は無い筈であった。

 鳴鳥の問いに対し、ジルベルトは険しい顔で忌々しげに答える。


「もしかすると、一部の連中が羽目を外しているのかもしれんな」

「それって…!」

「ああ、戦に乗じて自身の欲望を満たそうとする下種な連中だろう」

「…っ!」

「おい、何処へ行く気だ」


 一歩前へと前進した鳴鳥に対しジルベルトは制止を呼び掛ける。自分達の敵はあくまでも反乱軍であり、政府の方ではない。如何に暴虐の限りを尽くそうが、その部分には目をつぶらなければならない。それでも軍人の何たるかを未だ理解できていない鳴鳥には見過ごせない事である。


「確認をしてきます」

「放っておけ」

「出来ません!もしかしたら死ななくてもいい人が死ぬかもしれないんですよ!?黙って見過ごすなんて…!!」

「立場を弁えろ。それに、ここで死ぬならそれがそいつの運命だったんだ。お前が背負う必要など―――おいっ!!」


 現在ジルベルトは生身で地上に立っており、制圧し終えた武器庫で押収の指示を出していた。鳴鳥はARKHED(アルケード)に乗っている為、力ずくで止める事は叶わない。みすみすと彼女の命令違反を見逃したが、直ぐに自機を呼び出して後を追った。

 荒野をひたすらに進む白いARKHED(アルケード)はスッとその姿を消した。けれども後を追いかけるジルベルト機のレーダーにはその姿が捉えられている。鳴鳥は自身の身元を隠す為にステルス機能を利用したのだった。


「…お前の気転には驚かされるが、これは命令違反だ。大人しく引き返せ」

「大丈夫です!要は私が連合所属だとバレなければいいのです!」

「お前…。バレたら減給じゃ済まないぞ」

「ジルベルトさんが目を瞑ってくれれば良いんですよ」

「…俺はやはり判断を間違えたようだな」


 鳴鳥を部下に置いた事を後悔しつつもジルベルトは自身の機体を透過させた。何だかんだと言いつつも今回の任は気乗りしなく、どちらかと言えば反乱軍に肩入れしたい所であった。暴走する鳴鳥を瀬戸際までは見守ろうと腹をくくった彼はこのまま彼女と集落まで向かう事にした。


「…ひ、ひどい。こんなのって…っ!」


 目の前の光景に鳴鳥は目を疑った。家屋は破壊され、火を放たれ、荒れた地で懸命に育てたであろう作物もなぎ倒されている。蹂躙されたのは土地だけでなく、そこに住む住人達も例外ではない。広場には男や老人、子ども達が拘束されていて、その目の前で政府の軍人は若い女性の身体を貪り尽くす。

 このような惨たらしい場面に遭遇し、鳴鳥が黙って大人しくしている筈も無く、彼女は咄嗟に銃を構えて住人達を脅しに使っているARKS(アークス)に照準を定めた。彼女に引き金を引く迷いは無い。ジルベルトも彼女を止めようと思えば止められたが、溜息を吐きつつフォローに回る事にした。

 鳴鳥の放った弾丸は政府軍のARKS(アークス)の持つ火器部分を見事撃ち抜く。背後で起きた爆発音に驚いた地上の兵士は振り向くが、すぐさま敵の姿を確認しようと周囲を窺う。そのお陰か、下卑た行為に耽っていた者達も銃を手に取り辺りを警戒し始めた。政府軍のARKS(アークス)は五機、それらは散開して鳴鳥の方へと向かってくるが、正確な位置はつかめていないようで攻撃を仕掛けてこない。この場で撃ち合っていては住人に被害が及ぶ。その事を危惧した鳴鳥は相手の武器を破壊しつつもこの場から脱するように荒野に向けて走行する。姿の見えない相手に翻弄されつつも、敵はこちらを脅威だと認識したのか、銃弾の軌道を頼りに向かってくる。その間ジルベルトは機体を降り、広場に向かっていた。彼は現在テレンティアに潜入の際に使用した光学迷彩スーツとマスクを着用しており、その姿は視認されない。彼は突然の出来事に混乱する住人達を力ずくで鎮めようとしていた政府軍人を一人、また一人と鮮やかな手並みで沈めていく。

 ジルベルトが住人に銃を突きつけていた兵士を皆倒した所で鳴鳥もARKS(アークス)五機を戦闘不能状態にし終えた。住人の拘束を解いていた所に鳴鳥は駆け付けたが、その姿にジルベルトを含め、住人達、その場に居た者は皆驚き声を上げる。

 真っ先に乱暴をされていた女性に駆け寄り、途中でかき集めてきた布を渡して露わになったその身を隠そうとする鳴鳥であったが、怯えていた女性も彼女に対して目を疑うような様子である。


「大丈夫ですか?安心して下さい!悪い奴らは私達が―――いっ!!」

「お前は馬鹿か!」


 背後から頭を叩かれ鳴鳥は無様に前のめりにこける。殴られると同時に掛けられた声に聞き覚えがあり、振り向いた鳴鳥であったが、予想通り、そこには黒いタイトなスーツを身に纏ったジルベルトが立っていた。彼は溜息を吐き、しかめっ面をしながらその場に姿を現した。その事にも住人達は驚き声を上げる。そんな彼らを無視してジルベルトは鳴鳥のこめかみに握り拳を押し付けグリグリとしながらがなり立てる。


「何でその姿で降りてきた!折角姿を隠していたのが台無しじゃないか」

「ああっ!!そ、そうでした…」

「…ハァ」


 頭を抱えていたジルベルトであったが過ぎてしまった事は致し方ないと判断し、住人の拘束を解く。鳴鳥はすみませんでしたと頭を下げ、自分も拘束を解く事に取り掛かる。その間、住人は口々に二人への礼を述べ、感謝された。重大な命令違反をしたが、この瞬間だけは間違っていなかったと感じる事が出来る。

 昏倒させた兵士を適当な車に乗せ、ARKHED(アルケード)で荒野の先に居る政府軍のARKS(アークス)の所まで運ぼうとしていた所、ジルベルトの元に緊急の連絡が入ってきた。通信相手は上官であるヘニングであり、この現状をどう説明したものかと頭を悩ませつつも応答する。


「任務ご苦労さま。さっき三か所目の武器庫を制圧したと連絡が来たが、今、大丈夫かい?」

「あー…はい。その件ですが―――」

「ああ、良かった。たった今連絡が入ったんだが、状況が変わったんだ」

「は?と、言いますと」

「それがねぇ―――」


 最前線へ連合の介入に加え、ジルベルト達の活躍で反乱軍は弱体化していた。だが、このままでは力で押しつけるだけであり、いつまた同様の事態になりかねないと危惧した連合議会が諸悪の根源足る政治家を処罰するように要求を出した。無論、汚職政治家達が素直に言う事を聞く筈も無く、彼らは息のかかった政府軍部の者を引き連れ籠城しているのだという。


「つまりその場に行って汚職政治家どもを引きずり出せば良いのですか?」

「うん。まぁそうなんだけど、今回は君じゃ無く彼女にね」

「は…?」


 上からの指示であると前置きし、ヘニングは説明する。籠城する汚職政治家達を引きずり出す役目は鳴鳥に任せたいという事だ。彼女一人に全てを委ねる訳ではないが、彼女がこの混乱に終止符を打ったという事実がお上の希望なのだろう。今回の命令違反が不問にされそうではあるが、またもや鳴鳥が傀儡扱いされる事をジルベルトは腹立たしく感じた。けれども当人はというと、次の任務内容を伝えた途端、顔を引き締めて深刻に頷く。一見真面目そうに見えるが、自分が役に立てると知り嬉しそうなのを堪えているのがあからさまであった。


「お前、状況が分かっているのか?」

「はい!頑張ります…!」

「…やれやれだな」


 もう姿を隠す必要など無い、寧ろこの危機的状況を救った姿を印象付ける為に鳴鳥の機体のステルス機能を解く。傷一つない美しい純白の機体はさながら神か天使のように見えるようで、住民たちはその姿を救世主のように崇めて見送った。


「アルヴァルディの皆さんは?」

「連絡はしておいた。武器の回収作業と商人共は収容済みで現在首都に向けて航行中らしい。その後次の目的地に向かうそうだ。そこの手前で一旦落ち合い作戦の確認をする」

「了解です」


 夜が明け、朝焼けに空の色が変わる頃、鳴鳥達はアルヴァルディの面々と合流した。

 汚職政治家…逆賊が立て篭もっている場所は反乱軍が根城にしていた廃都市であり、どうやらこの星を脱する手配をしているらしい。程なくして運び屋の船が現れるであろうと目されており、それまでに拘束しなくてはならない。一休みしたい所だが、時は一刻を争うとのことで直ぐにアルヴァルディは廃都市に向かった。

 岩場に船体を隠し、ジルベルト達は様子を窺う。まだ壊滅して間もない都市は焦げた建物や風化していない崩れた土壁が並んでいる。中心部には焼け残り、被害を免れた大きな屋敷があり、そこを中心として均等にARKS(アークス)が配備されていた。


「数は20機か。まぁARKHED(アルケード)なら問題は無い数だが…」

「さっきみたいにステルスを使ってでは駄目なんでしょうか?」

「俺はともかく、鳴鳥、お前はその姿を現して悪人を懲らしめる画が要る」

「はぁ…」

「雑魚は任せて指揮官を叩いてくれればいいわよ」

「そうっス!俺達に任せて欲しいっス!」


 今回は早めに事を片付けたいとの事で、マリアンとコンラードもARKS(アークス)に搭乗しており、ジルベルトと鳴鳥を含めて四機出撃する事となる。ただ単に制圧するのでは無く、上からは鳴鳥が活躍するようにという注文があった為、ジルベルトはステルスモードで援護、マリアンとコンラードが適度に露払いをし、指揮官を鳴鳥が倒して逆賊を捕らえるという筋書きとなった。


「本当はミサイルをぶち込めば一瞬で済むんだけどねぇ」

「ま、マリアンさんっ、いくらなんでもそれは…」

「フフ、冗談よ、冗談」

「顔が笑っていないっスよ」

「あら、女性の顔に関して余計な事を言うなんて、命知らずね」

「そ、そんなつもりで言ったんじゃ―――」

「一発なら誤射かもしれないわよね」

「か、勘弁して欲しいっス」


 冗談を言い合いながら進んで行くマリアンとコンラード。彼らのお陰で鳴鳥の緊張は幾分か解れた。それでもステルス機能を使用しない戦闘というものはいくら相手が性能差のあるARKS(アークス)だろうと躊躇い無くはいられない。敵は明らかな殺意を向けてくる。そしてそれを捩じ伏せ、出来るだけ無傷で倒さなくてはならない。ジルベルトは件の政治家さえ生きて捕らえればよいと言ったが、まだ直接手を下した事の無い鳴鳥には無理な話である。

 ARKHED(アルケード)の力は意志の力で左右される。先程も集落を救えた。その事を自信に繋ぐ様に言い聞かせ、前を向く。鳴鳥が決意を新たにしている所で自分だけにジルベルトからの通信が入ってきた。


「無理はするな。いざとなれば俺が手を下して後はまた画像を改ざんすれば良い」

「お気遣いありがとうございます。でも、私なら大丈夫です。先程迷惑を掛けた分も取り返さなくてはいけませんし」

「ほう…そうか、迷惑を掛けたという認識があるようで安心した」

「む!私だって、反省していますよ」

「頼むからその反省とやらを今後に生かしてくれ」

「うぅ…」

「二人とも、仲睦まじいのは良いけれど、そろそろ敵機の射程圏内よ!」

「は、はい!」「言われずとも分かっている」


 こちらの姿を捉えたデザート迷彩のARKS(アークス)は射程圏内に入った途端、誘導ミサイルを放った。それらは全て宙空で爆発し、被弾する事も、外して地面を抉る事も無い。ジルベルトが放った対空迎撃ミサイルのお陰である。

 爆煙が漂う中、突っ切って進むのは深緑と赤色のARKS(アークス)二機であり、今は鳴鳥とジルベルトの両機はステルス機能で姿を消している。レーダーにも捕捉されない二機に気が付いていない賊はたった二機だと勘違いをし、余裕を見せているようだ。陣形を崩して四機が突出してくる。


「フフ、私を誰だと思っているのかしらねぇ!」

「甘く見ないで欲しいっス!」


 余裕綽々の言葉通り、マリアンとコンラードはそれぞれ二機ずつ相手にしても全く怯む事無く銃器を巧みに扱い、無力化させていく。機体性能としてはさほど差が無い筈だが、こうまで戦力差が明らかであるという事は、乗りこなす腕の違いなのだろう。それは無理も無い。マリアンとコンラードは数多くの危険な任務をこなし、荒事に慣れている一方、賊は民間人の反乱の制圧くらいしか経験していない。力の差は歴然であった。

 直ぐにマリアン達の戦力を認めた敵司令官は屋敷の周りに居る四機と自身の機体を残して全機、11機を差し向ける。流石に物量戦ともなると手こずるようで、マリアンとコンラードは互いに背を預けるように包囲網を敷かれてしまった。それでも二人はまだ余裕である。見えない二機、鳴鳥とジルベルトが彼らの道を阻む機体を無力化し、突破口を開く。無駄な戦闘はなるべく避けるよう、一刻も早く汚職政治家を捕らえるよう、このARKS(アークス)の一団を率いている司令官らしき機体、他の機体よりも装甲が分厚い機体目がけて進む。

 司令機を目の前にした瞬間、鳴鳥はステルスを解く。眼前に突如として現れた機体に驚いた敵機は直ぐに対応がとれず、構えていた銃器は火を吹く事も無く、バラバラに切り刻まれる。武器破壊を見事に成功させた鳴鳥は続けて赤く光る剣でARKS(アークス)の手足をスパッと切り落とす。地に落ちたコックピットがある胴体に部分に光剣を突き付けて投降を促した。


「わ、我々は星団連合より遣わされた者です。大人しく投降するならば命は取りません…!」


 前もって用意された鳴鳥の台詞。それは冷静に聞くと緊張しているのが丸わかりだが、ARKHED(アルケード)に剣を向けられた側としては気が付かないようだ。青ざめた顔の司令官の男性は両手を上げてコックピットから這い出てきた。上官の降伏と共に屋敷を守る四機のARKS(アークス)も武器を下ろす。念の為にジルベルトはそれらの武器を破壊した。

 程なくしてマリアン達が合流し、彼らに降伏したARKS(アークス)への威嚇を任せてジルベルトと鳴鳥は屋敷に突入する。

 室内にも兵士がいたが、ジルベルトの敵ではない。敵は躊躇いもせずに近づく彼に対して恐れおののきながら銃を乱射する。掠った所でさして気にしない様子に敵わないと絶望を感じたのか、腰を抜かした所でジルベルトに銃撃を食らい、痺れで体の自由を奪われ地に伏した。

 屋敷の奥、分厚い扉を開いた先にはガタガタと震えてボルト式ライフル銃を構えた肥えた初老の男性が居た。そして彼の背後には彼の妻と子ども達と思われる男の子と女の子が、大きな背中に守られる様に身を隠している。その姿に鳴鳥は銃を構えていたのを降ろしてしまう。それを好機だと思ったのか、一発の弾丸が鳴鳥に目がけて放たれた。


「死ねェェェ…っ!!」

「させるかっ!」

「…!ジルベルトさん…っ!!」


 咄嗟の事にジルベルトは鳴鳥を庇うように前に出て、彼の伸ばした手は弾丸によって撃ち抜かれた。どばっと流れ出る血にだらりとぶら下がる右手。けれども当人は冷静さを欠いておらず、鳴鳥に銃を撃つよう命じた。赤く染まる床に正気を失いかけていた鳴鳥であったが、彼の声にハッと意識を取り戻し、銃を構え直して今度は躊躇わずに撃ち、ターゲットを沈めた。

 力無く倒れた父親に妻と子どもはすがりつき、鳴鳥もまたジルベルトに身を案じて傷口の手当をしようとする。けれども彼には心配など必要無いようであった。自身の千切れかけた右手を左手で持つと癒着させるようにくっ付ける。すると細胞は急加速で増殖し、繋がり、傷口を塞ぐ。特殊なスーツは穴が開いてしまったが、腕は元通りに、動きを確かめる為の何度か握る動作にも異常は無かった。


「仕舞った…。まさかスーツを損傷させるほどの威力とは…。侮っていたな」

「ジルベルトさん!スーツの心配よりもご自分の心配を…!」

「見ていなかったのか?ほれ、この通りだ。問題無いだろう?」

「だからって…!寿命が縮むかと思いましたよ…」

「実際俺が身を乗り出さなければお前の寿命は縮んでいたかも知れんがな」

「そ、それは…―――っ!」


 ターゲットの無力化が出来て安心したのか、鳴鳥とジルベルトは脅威を感じる事はもうないだろうと油断し、警戒を解いて言い争いをしていた。けれどもその判断は甘かったらしい。二人が目を離している隙に倒れていた父親に縋りついていた息子が落ちていたライフル銃を拾い上げ、ガタガタと震えながら此方に向けてきていた。涙と鼻水を垂らしながら睨みつけてくる10歳くらいの少年は化け物を見たかのように怯えながらも、家族を守ろうと勇気を振り絞り銃を構える。一瞬身構えた鳴鳥とジルベルトであったが、いくら引き金を引こうとも弾は発射されない。次弾の装填は手動で行わなければならないらしく、少年には無理であったようだ。

 このような年端もいかない少年を追い詰めた事に鳴鳥は心が痛むのか、ただただ悲しげにその様子を見つめていた。一方ジルベルトはこういった事にも慣れているのか、銃を構えて撃ち、ターゲットの家族にも電気ショックを与えて鎮圧した。

 その後、ターゲットは家族ごと駆けつけた政府軍が捕らえ首都に移送された。

 星団連合軍も根源を断つ事と鳴鳥が活躍したという画を取る事が出来たという事で、全部隊撤収が命じられた。

 アルヴァルディのハンガー。収容されたARKHED(アルケード)から降りてきた鳴鳥は肩を落としてとぼとぼと歩いていた。

 正しい事をした筈なのに、向けられた感情は憎悪であった。その事に鳴鳥は今でも納得できないようで、やりきれない気持ちを抱いている。本当にこれで良かったのかと自問自答している彼女にコンラードは明るく声を掛けた。


「初任務完了、お疲れ様っス」

「…はい。お疲れ様でした…」

「ん?もしかしてどこか怪我をしたとか…っ」

「だ、大丈夫です!この通り、なんの問題もありませんよ」


 暗い顔をして心配を掛けさせては駄目だと自分に言い聞かせた鳴鳥は笑顔を作り、平気である事をアピールする。その様子で察したコンラードは引っかかりを感じつつも深く追及することなく、元気づけるような笑顔を向ける。マリアンも気遣うように優しく接するが、ジルベルトは違った。彼は険しい顔で彼女に問いかける。


「もう音を上げるのか?この程度で辛いようならば、やはり内勤に―――」

「大丈夫です…!ただ…理想と違っていて…戸惑っているだけなんです」

「無理はしなくていい」

「無理なんて…。…すみません…っ」


 これ以上耐えられなかったのか、目尻に涙を浮かべた鳴鳥は皆に頭を下げた後に逃げるように自室に向かった。

 今回の任務で鳴鳥を危険に晒してしまったジルベルトとしては、やはり安全な場所に彼女が居る方が良いと判断した上での発言であったが、その意図は伝わらない。突き放すような言い草にマリアンとコンラードはジトっとした冷たい目線で責め立てる。


「今のは無いわねぇ」

「今のは無いっスね」

「…チッ」


 二人に咎められたジルベルトは舌打ちをした後に煙草を取り出して咥えた。ハンガーからは暫く一本道の通路である為、鳴鳥と顔を合わせないようにという考えなのだろう。それならばとコンラードは張りきった様子で自分に任せて欲しいとフォローを買って出る。彼は意気揚々と軽い足取りで鳴鳥の後を追いかけて行った。


「気持ちは分からないでもないのだけれどねぇ…。結局、船長はどうしたいの?あの子を遠ざけたいのか、傍に置いておきたいのか、矛盾しているように思えるわ」

「俺だってまだ分からない。ただ一つ言えるのは、出来るだけアイツの思うようにさせたいという事だ」

「そう思っているならもっと言葉を選んで―――」


 クドクドと小言をマリアン言われてジルベルトはうんざりとした様子でしかめっ面になる。言われずとも分かっていると言い返したい所ではあるが、先程の事から反論はできない。ほとんど聞き流してはいるが、自覚している事を言われ続けるのはイラつくらしく、反省する気も削がれてしまう。

 決して彼女を悲しませたい訳ではなかった。ただ、あの瞬間、銃を撃たれた時に間に合わなければどうなっていたかを考えると恐ろしく感じる。自分ならば守れると高を括って力を過信していた事を反省して、ならばいっその事と思い鳴鳥に安全な場所に居る事を勧めたが、想いは伝わらない。

 どんなに危険な目に遭おうとも、辛い光景を目の当たりにしようとも、彼女は此処に居る事を選んだ。まだ気持ちの整理は付いていないようだが、きっと逃げたりはしないだろう。そうなれば自分がすべき事は言われずとも分かっている。ジルベルトに出来る事、望み、それは彼女の傍に居て守る事だ。

 決意を新たに、吸い終わった煙草を携帯灰皿に入れるとジルベルトは歩き出した。

 キチンと聞いていないと分かりつつも小言を言い続けていたマリアンであったが、ジルベルトの顔つきが変わった事に眉をハの字にして呆れたように溜息を吐いた。






 アルヴァルディの長い通路を鳴鳥は一人歩く。そこは航行中にもかかわらず、比較的静かであり、自身の足音が響いていた。暫くは早歩きで歩いていた鳴鳥であったが、そのペースは気持ちと共に徐々に落ちて行く。

 今回も足を引っ張り、助けられてしまった。被害を受けている当人が言うのだから、彼の助言には従うべきなのだろう。その上、今回の出来事で自分の中の正しいと思っていた事が揺らいでいる。それでもまだ、彼女はここを離れたいとは思わなかった。

 タタッと駆けてくる足音が背後から聞こえ、振り返るとそこにはコンラードが居た。一瞬だけ、先程辛辣な言葉を掛けてきた彼なのかと期待したが、そんな事はある訳無い、やっぱり違ったと内心乾いた笑い声を上げる。


「ナトリさん!さっきの事、そんなに気にする事無いっスよ」

「でも…私は…、迷ってしまって…。それに、ジルベルトさんを危険な目に遭わせて…」

「船長なら大丈夫っス。なんたって不死身なんっスから、そこまで気遣う必要も―――」

「でも!いくら怪我が瞬時に治るとはいえ、痛みを感じるんですよね?」

「まぁ…そうっスけど」

「だったら…!痛みに耐える事を当たり前に、強要なんて出来ない…!」


 いくらこの宇宙髄一の軍と言えども、星団連合軍にも己の利益、保身の為ならば階級の低い兵を駒扱いする者もいる。手柄を上げる為に同期の者を出し抜こうとする輩もいる。ジルベルトもその不死という体を良いように利用されている。そうなるに至った理由もあるのだが、ぞんざいな扱いであるのは変わりなかった。

 そんな中、鳴鳥は彼の身を案じている。本来ならその反応が普通なのかもしれない。そう考えてしまったコンラードは自身がすっかり軍人として染まりきってしまった事を気付かされた。

 少し青臭くもあるが、捕らえた者の家族の事やジルベルトの身を案じる鳴鳥の姿は眩しく映る。出来る事ならば彼女はこのまま、悩み続けていて欲しいとさえ思えた。


「こんな所で立ち止まっていては駄目なんです。私は、久城センパイの為に、正しく在りたい。彼に証明しないといけないんです。全てを無に帰す事が正しい訳じゃないと…」


 今回の事で学んだ事を忘れぬように、失敗を繰り返さないように、心に刻みつけるように、鳴鳥は頬を両手で叩いた。






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