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Xenoverse  作者: 葉月はつか
phase two : anemotaxis
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第31話 The hall where the chandelier of light yellow shines

 星団連合所有の高層タワーの屋上庭園ホール、大都市が一望できる緑にあふれたその場で叙勲式が行われた。此度の戦を終結に導いた者の姿を宇宙に知らしめるため、多くのマスコミが駆けつけ、フラッシュを焚く。昨日の慰霊の場とは違う華やかな壇上に居るのは浅葱色のドレススーツを身に纏ったミリアム議長を始めとする連合の上層部達である。そして勲章を賜わるのは共闘、物資支援を行ったエーデル・シュタインの代表、アリーチェ・バルニエールと数名の連合所属兵、そして敵のARKHED(アルケード)を唯一撃破し戦いを終わらせたとなっている鳴鳥であった。

 壇上に上がる軍服を身に纏う鳴鳥はガチガチに緊張しており、その幼さの残る容姿も相まってこの場に居る者達は目を疑う。だが、彼らの疑念を晴らすようにスクリーンには彼女のARKHED(アルケード)に記録されていた交戦記録が映し出され、皆はその鮮やかな身のこなしに感嘆する。因みに止めを刺すシーンはカルラによって鳴鳥が天井を銃で撃ち抜いたように差し替えられており、その事を知るのは当人と上層部とジルベルト達、ごく一部である。

 緊張していた鳴鳥であったが、その映像と皆の讃える視線に申し訳なく感じ、委縮する。一方席に着いていたジルベルトはコロコロと表情を変える相変わらずの鳴鳥に苦笑いを浮かべていた。

 堅苦しいが、華々しい式を終え、鳴鳥の元にはマスコミが詰め寄ろうとする。困った様子の彼女にミリアムが配慮しようとしたが、その前に動いたのはアリーチェであった。ダンっと足を踏み鳴らして仁王立ちをする彼女は皆の前で宣言する。


「そんな小娘より宇宙一可愛いくて強いアタシの特集記事を書きなさい!」


 自身を褒め、堂々と言い放つアリーチェに皆は呆気にとられた。その隙に、彼女には悪いと思いつつも鳴鳥は手を引かれて人混みの中を脱する。


「じ、ジルベルトさん…?」

「走るぞ!」




       第31話 The hall where the chandelier of light yellow shines




 人波に逆らい、二人は人混みを脱する。途中アリーチェが何事か叫んでいたが、ジルベルトは気にするなと言い、鳴鳥の手を引くのを止めなかった。屋上から来賓用の通路を使い、館内に逃げ込む。空いている控室に逃げ込んだ二人はドア越しに人けがなくなるまで身を潜ませ、足音がしなくなった所でホッと溜息を吐いた。


「また助けられましたね。ありがとうございます」

「いや、まさかこうなるとは思わなかったからな。それにこうなった原因は俺にもある」

「やっぱり本当の事を公表した方が―――」

「勘弁してくれ。衆目に晒されるのは御免だ」

「…それも理由の一つだったんですね」

「まぁな」


 ジトっとした視線を向ける鳴鳥に対し、ジルベルトはニッと笑みを浮かべる。無論それだけの理由で無い事は鳴鳥も承知の様であり、彼を責める事はなく、こうして一緒に居てくれるようになった事に感謝をしていた。

 一先ず危機は脱したが、直ぐに表を歩いていては誰かしらに捕まるであろう。夕刻にある祝勝会もこの連合の所有タワーにて行われるが、それまでにパーティー用の着替えを済ませておきたい。その為には一旦宿舎に戻らなくてはならなかった。と、言っても鳴鳥の部屋はまだ用意されておらず、彼女は近場で行く当てがない。


「アルヴァルディまで戻る時間はないな。俺の宿舎で支度をするか?」

「それではお言葉に甘えさせてもらいます。あ、でも衣装は…」

「通販があるだろう」

「そ、そうですね」


 一瞬鳴鳥は二人でショッピングをして彼にドレスを選んでもらう事を想像したが、期待は見事に打ち砕かれた。だがそこで自分が何を期待していたのかと我に帰る。ジルベルトが女に付き合いショッピングなどする訳がないのは分かっていた筈であり、そしてそれを自分が望んでいた事が意外に感じる。鳴鳥はジルベルトから手渡された軍帽に纏めて束ねた髪を収めて被り、伊達眼鏡を掛けた。小型端末をミラーモードにして確認した自分はまるで別人のようである。どうやらこの眼鏡はただの伊達眼鏡で無く、瞳の大きさと色を変化して見せる事が出来るようだ。


「これから暫く必要になるだろうからな。常に携帯しておけ」

「あ、ありがとうございます」

「礼には及ばない。お前の給金から差し引いておくからな」

「えぇ!?ジルベルトさん!」

「何を驚く。もう軍人なのだろう、給金を遣り繰りしなければならないのは当然の事だ」


 本人は否定しているが、相も変わらずジルベルトは金に関してシビアである。その事にほとほと呆れつつある鳴鳥はジトっとした目で彼を見てポツリと呟く。


「やっぱりジルベルトさんは意地悪ですよね」

「何でも買い与えるのは優しさではない。甘やかしだ。俺の部下になった以上は客人扱いも一般人扱いもしないからな。何なら部署替えを―――」

「分かりました。取り敢えず準備して頂いた事に感謝いたします」

「分かれば良い」


 ジルベルトの数歩後を歩く鳴鳥は彼の背中をじとっと睨みつけつつ、先程自分が考えてしまった妄想に内心腹立たしく感じていた。それでもこうして彼女を人混みの中から救い出しているのだから上司と部下の関係以上なのだが、その事を当人達は気が付かない。否、互いに気づかないようにしているのであった。

 変装した鳴鳥は取り囲まれる事も無く、無事に施設の裏口にまで出てこられた。そこではマリアンがヒラヒラと手を振り待っている。彼とコンラード、アランも宿舎に戻るようで裏口に車を用意してスタンバイしていたそうだ。因みにスティングは自宅の方向が反対な為、別行動である。


「マリアンさん、アランさん、コンラードさん、この間はお見舞いをありがとうございました」

「そんな事、気にしなくていいわ。元気になって何よりよ」

「貴女の元気そうな姿が見られて僕達も嬉しく思います」

「ナトリさん…本当に大丈夫っスか?」

「はい、大丈夫です!お陰さまでこの通りです」


 挨拶の後、鳴鳥はマリアンにエスコートされながらワゴンタイプの車に乗り込もうとした、が、彼女めがけて突進してきた人物に阻止された。

 ジルベルトを突き飛ばして現れたその人物は驚く鳴鳥の身体をぎゅっと抱きしめて叫ぶ。


「ナトリちゃんお久しぶりーーー!!」

「か、カルラさん!?」


 ぎゅっと抱きしめて頬をすりすりと摺り寄せてくるカルラは至極上機嫌である。だが、彼女が鳴鳥の名を大声で叫び周囲の注目を集めたせいで隠していた存在が周囲にバレてしまったらしく、裏口にも居た記者達が此方に向かって集まりだした。ジルベルトは少々乱暴に鳴鳥とカルラを押し込んで運転席に座ると急発進し、集まる記者を轢きそうになりながらこの場を去った。


「あてて、もー!ジルベルト君、女の子には優しくしなきゃ駄目じゃない!大丈夫?ナトリちゃん、ケガはない?」

「あ、はい私は大丈夫です」

「相変わらず騒がしい女ね」

「え゛っ!?その声は…」


 現在ワゴン車には運転席にジルベルトが居り、助手席にアラン、後部座席二列目にコンラードが居り、後部座席一列目には急に押し込まれた為、鳴鳥の両隣りにマリアンとカルラが座っていた。

 鳴鳥にしか眼中になかったカルラは恐る恐る顔を上げる。そこには笑顔を浮かべるマリアンが居た。その事に対して彼女は周りが驚くほど驚愕し、鳴鳥を抱きしめて走行中の車から降りようとする。一応危険を察したジルベルトがロックをした為未然に防いだが、カルラは気が動転したままである。


「おい、飛び降りるのはいいが鳴鳥は置いて行け」

「何を言っているのよ!こんな獣が居る場所にナトリちゃんを置いていける訳ないじゃない!」

「あら、獣ですってよ。コンラード」

「いや、今のは俺じゃないっスよね」

「そうよ!貴方の事よ!色情魔!」


 カルラは唸り声を上げてマリアンに対して威嚇をする。どうやらこの二人の間には過去に何かあったようだが、事情が分からない鳴鳥はカルラの胸元に埋められたまま困惑していた。なんとかそのふかふかな部分から身を捩って抜け出した彼女は妙な関係の二人に問いかける。


「あの…お二人は一体どういう関係で?」

「…思い出したくも無いけど、昔コイツに穢されたのよ!」

「あら、言いがかりは感心しないわね。男の部屋にホイホ付いてくる方が危機感無さ過ぎでしょう?」

「だって!男だなんて思わなかったんですもの!紛らわしい格好をしている貴方が悪いわ!」


 二人の言い合いを聞き、鳴鳥とコンラードは少々引き気味な視線をマリアンに向け、アランは困ったように笑い、ジルベルトは我関せずといった表情である。話を聞く限りではマリアンの方が悪いように感じるが、彼は全く罪悪感がないようである。そのあっけらかんとしている様子にも腹が立つらしく、カルラはぐぬぬと歯ぎしりをして睨みつける。

 鳴鳥としては二人ともに世話になっており、二人とも信頼している仲なので喧嘩を止めて欲しく感じていた。どうにか場が収められないかと彼女は口を開く。


「あの…お話を聞く限りでは、マリアンさんが…その…強引に事に及んだって事じゃないですか」

「あら、心外ね。私はちゃんと同意を得てからじゃないと手を出さないわよ」

「え?そ、そうですか…早とちりしてすみません。えっと、でしたら穢されたってのは…?」

「その子の勝手な言い分よ」

「勝手じゃないわ!聞いていなかったのよ!二桁も彼女や彼氏が居るなんて!」

「…」


 今更な事なのでアルヴァルディの面々は驚かないが、鳴鳥はドン引きである。ニコニコと笑う気の良いお姉さんに見えるマリアンであったが、中身はとんでもない獣らしい。パッと見ただけで分かり、態度にも示すフラヴィオの方が幾分かマシではないかと鳴鳥は思うが、彼にされた事を思い返して同意を得なければ手を出さないマリアンの方が誠実であるとも感じた。


「と、とにかくこんな飢えた獣達の中にナトリちゃんを置いとくなんて私は反対よ!」

「全く、失礼な子ね。私達はナトリに酷い事なんて何一つしていないわ。そうよね?」

「は、はい。皆さんとてもよくして下さっていますよ」

「そんな!脅されているんでしょう!そうでしょう!?」


 がしっと肩を掴んで揺さ振りながらカルラは鳴鳥に真意を問う。けれども鳴鳥としては逆に迷惑を掛けていたぐらいなので、彼女の期待する言葉は言えない。この状況すらも自分が招いた事だと思い、申し訳なさそうな顔をして彼らの弁明をした。


「あの…、カルラさん。寧ろ私は皆さんにお世話になっている身なので…。大丈夫です、心配は要りません。…でも、私の事を心配して下さってありがとうございます」

「ナトリちゃん…。良い子!!」


 懇切丁寧に説明をした所、カルラは鳴鳥の事を健気だと感じてぎゅっと抱きしめる。どうにか彼女の被害妄想は抑える事が叶ったが、鳴鳥がジルベルトの部屋で支度をすると聞いた途端、彼女は怒りの矛先をジルベルトに向けて怒りだす。

 結局、鳴鳥のこれからの予定は強制的に変更となり、カルラとマリアンとコンラード達と衣装選びにショッピングとなった。カルラとマリアン、どちらのセンスが良いのか勝負をするそうだが、判定員が「何を着てもナトリさんは可愛いっス」と言うコンラードなので勝負はつきそうにも無い。

 鳴鳥達を商業区に降ろし、ジルベルトとアランは宿舎に向かっていた。車内は騒がしい者達が居なくなったので静かである。ふと、思い出したかのようにアランはクスクスと笑い声を上げる。


「いやはや、これからも賑やかな事になりそうですね」

「…まぁいいさ。今の状況は悪くない」

「ナトリさんが傍に居て、笑っているからですか?」

「…何故そうなる?」

「違うんですか?」

「…」


 ここで全否定できないくらいにジルベルトの中で鳴鳥の存在は大きくなっている。その事に関して、普通ならば微笑ましく感じてからかう筈だが、アランは少し残念そうな、眉を下げて悲しそうな顔をする。そして彼は再確認するようにジルベルトに問いかけた。


「ですが、その気持ちは恋ではありませんよね?」

「ああ、断じて違う。危なっかしい奴が気になるだけだ」

「そうですか…。それならば良いんです」


 きっぱりと言い切るジルベルトはハンドルを握る力を少しだけ強めていた。その表情は決して明るいものではなく、自分に言い聞かせるような真剣なものである。彼の返答で安心したのか、アランはホッと息を吐き、優しく微笑んだ。






 陽が落ちかける頃、星団連合保有のタワーの一階ホールと広大な庭園が祝勝会の会場となっており、そこには連合軍人だけでなく、連合に加盟する星の代表者、政治家達も集っている。

 先に着いたジルベルトとアランとスティングがエントランスで待ち合わせをしていた所、鳴鳥達が現れた瞬間、その場に居る者達の視線が一気に注がれた。鳴鳥はワインレッドのひざ丈ワンピースに黒いボレロを着ており、以前ミリアムとの食事会をした時の姿より大人っぽく見える。マリアンは小洒落たゴールドのインナーに黒いパンツスーツスタイルで、カルラは相変わらず派手なシルバー色のドレスを身に纏っている。注目を浴びたのは彼女達の姿が煌びやかであるせいかと思われた。だが、着飾った女性士官など他にも居る。理由はやはり叙勲式で目立ってしまった鳴鳥が原因である。

 そんな視線に気付いていないのか、鳴鳥は能天気に笑顔を浮かべてジルベルトの傍へと小走りで近づく。


「お待たせしました…!」

「いや、時間通りだ。それより…」


 鳴鳥を好奇の眼差しから守るようにジルベルトは彼女の傍で周りに睨みを利かせた。すると声を掛けようとしていた者達はサッと目線を逸らして離れて行く。彼の意図に気が付いていない鳴鳥は首を傾げてどうしたのかと尋ねたが、何でもないと流されてしまう。


「それにしてもやっぱりマリアンさんとカルラさんは美人ですから注目されますね」

「…いや、どちらかと言うと…。まぁ、いいか」

「…?」


 当人はまさか自分が原因であるとは思っていないらしく、一緒に来た者達のせいだと決め込んでいる。呑気な彼女はスティングに見舞いの礼を言っていた。

 確かに鳴鳥の言う通り、カルラとマリアンは華やかだが、二人の性格と正体を知っているジルベルトは全く興味をそそられない。寧ろ目の前に居る少女の方が…と思いかけて、その考えを振り払う。何にせよ、任務以外でも鳴鳥に関して気が抜けないと改めて思い知った。

 相変わらず仲の悪そうなカルラとマリアン、そして二人を仲裁するコンラードをその場に残して鳴鳥達は会場に入った。

 

「凄い…!目がチカチカします」

「随分と金を掛けているようで…」

「今宵の祝勝会には位の高い方々が多く来られますからね。金に糸目はつけられないんでしょう」

「…フム」


 深紅のふかふかとした絨毯に真っ白なテーブルクロス。その上には豪勢な料理が並べられており、様々な星の名物から高級食材を使った物まで選り取り見取りである。天井には柔らかな淡黄色の光を放ちキラキラと輝くシャンデリアと、会場は華々しく、華やかな光景に鳴鳥は軽く目眩を覚えた。ジルベルト達もこういった場は少々苦手らしく、中庭の方へと移動する。会場内は立食スタイルだが、テラスには席が設けられており、既に人波と会場の空気に酔った者達がちらほらと座っていた。

 端の方の一席、そこには瑠璃色のロングヘアに眼鏡を掛けて黒いドレスを身に纏った女性と、金髪をオールバックに三白眼で黒い燕尾服を着た男性が居た。ソフィーリヤとクヴァルである。彼女はジルベルト達の姿に気が付くと軽く手を振り声を掛けた。呼ばれたのだから近づいた筈だが、クヴァルはこちらを睨みつける。いつもの事なのでジルベルト達は意に介しないが、鳴鳥はその視線を恐れて二の足を踏む。それでも見舞いに来て貰った礼をソフィーリヤに言いたかったらしく、クヴァルに視線を合わせないようにしながら前に出て軽く会釈をした。


「ソフィーリヤさん、クヴァルさん、先日はお見舞いに来て頂きありがとうございました」

「そんな、気にしなくて良いのよ。こうしてまた元気な姿を見せてくれれば何よりだわ」

「私はソフィの付添だっただけだ。感謝される謂われはない」

「そ、…そうですか」

「ふふ、素直じゃないわね。予定調節してくれていたのは貴方でしょう?クヴァル」

「そ、それは、ソフィが望んでいる事を叶える為だ」


 ソフィーリヤに実情をばらされてクヴァルは慌てつつ弁明する。彼としてはソフィーリヤ以外の女性に優しくしていると思われたくないらしく、必死であるが、相も変わらず当人にはその思いは伝わっていないようである。ソフィーリヤはクスクスと笑っていた。クヴァルには悪いと思いつつも彼の微笑ましい姿に鳴鳥は思わず笑みを溢した。


「そろそろ始まるみたいね」


 会場の舞台、大階段を上がった先の扉が開き、浅葱色のドレスを身に纏ったミリアムが現れた。彼女はシャンパンが注がれたグラスを持ち、挨拶をする。


「―――今、この時を共に生きられる事を感謝し、我々に更なる繁栄を…!」


 祝杯が挙げられ、静まり返っていた会場が一気に賑やかになる。それと同時に各星の代表者はこの機会にとコネクションの為に挨拶回りに精を出していた。そして鳴鳥へは若い男性達が視線を向けてくる。しかしここでも彼女は自分で無くソフィーリヤが注目の的であると勘違いをしていた。


「(やっぱりソフィーリヤさんは凄いなぁ…。美人だし、胸も大きいし…)」

「…もしかして、この格好似合わないかしら?」

「い、いいえ!そんな事無いです。凄く似合っています!」

「そう言ってくれると嬉しいわ。ナトリさんも良く似合っていて可愛いわよ」

「あ、ありがとうございます」


 現在鳴鳥とソフィーリヤはテラスにて席に着いている。ジルベルト達は料理を適当に選んで来るからと言い、クヴァルに彼女達を任せて会場に戻っている。彼の視線は鋭い為、鳴鳥に声を掛けたそうにしていた者達は皆怯んで遠巻きに見ているだけだ。そんな中、勇気のある者達…と言うより他人の視線など気にしない者達が現れた。一人は真っ赤な赤髪にピンと立った獣耳、鋭い目つきに派手なスーツを身に纏った男で、もう一人は水色のツインテールに冷めた目をしている少女で、彼女は可愛らしい白色のワンピースを着ていた。男の方は鳴鳥の姿を見つけて、クヴァルの眼光を気にせず近づいて来る。


「ナトリちゃん、だよな?写真と違うから中々見付からなかったぜ」

「フラヴィオさん…!ラウナさんも、先日はお見舞いに来て下さりありがとうございます」

「あーいいよいいよ、大したことじゃない。それにしても今日のドレス、凄く似合っているな」

「あ、ありがとうございます」


 写真と言うのは彼がARKHED(アルケード)と契約した際に架せられたリスク、枷のせいであり、記憶を契約時まで毎日失う彼は大事な事を忘れぬよう毎朝確認をしているらしい。先の戦で連合に協力する条件に一つに、ジルベルトとARKS(アークス)でレースをし、勝利した暁には鳴鳥を手に入れられるという事が含まれており、その事を記憶する為なのだろう。

 毎日自分の写真を眺められていると思うと、恐ろしく感じる筈だが、決してフラヴィオが悪い人には思えないので、鳴鳥はこそばゆく感じるだけであった。


「あれ?あのクソ野郎は居ないワケ?」

「ジルベルトさんでしたら今、料理を取りに会場へ…」

「へぇ…そっかそっか。だったらこの先の庭に綺麗な場所があるから一緒にどうだ?」

「え…?ええっと…」


 獲物を目の前に舌なめずりするようにフラヴィオはニヤつく。クヴァルはというと、ソフィーリヤ以外はどうでもいいのか、鳴鳥を狙う彼に対して何もアクションを起こさない。反対にソフィーリヤが彼女を守るように口を挟んだ。


「生憎私達は先程彼女が言った通りここで人を待っているの」

「ん?へぇーこっちのお姉さんも美人だ。俺はフラヴィオ・フェデェーリと言う名の宇宙一レーサーだ。君の名は?」

「私はソフィーリヤ・ソルニエール、連合の少佐よ」

「おい、ソフィに馴れ馴れしく近づくな!」

「あ、ヤローは興味ねェからすっこんでな」

「何だと貴様!」

「あ、あの…喧嘩は…!」

「そうそう、俺は此処に喧嘩をしに来た訳じゃないんだぜ」


 そう言うとフラヴィオは鳴鳥の手を取り駆け出した。ソフィーリヤが止めようと立ち上がって後を追いかけようとするが、ラウナが行く手を阻む。ソフィーリヤの邪魔をするならば黙っては居ないとクヴァルも席を立つが、彼らに向かってこれまで無言であったラウナがハッキリと言い放つ。


「彼の、フラヴィオの邪魔はさせない」

「相変わらず、融通の利かない性格だ」

「貴方も大して変わらないでしょう」

「え…?二人は知り合いなの?」

「…っ!」


 これまでと変わらずラウナは冷めた表情であるが、クヴァルの方はソフィーリヤの問いに動揺を隠せないようだ。これを好機だと感じたのか、ラウナはソフィーリヤをこの場に留めようと意味深な言葉を発する。


「昔からの知り合いだけど、ご存じなかったのかしら?」

「…そう、なの」

「いや、別に深い関係ではない。彼女とは…幼少期を共に過ごしたような関係だ」

「あ、クヴァルは施設の出だったわね」

「ふふ。確かに共に育ったと言う言葉は真実ね」


 何か含みがあるようなラウナの言い方が気になるソフィーリヤであったが、孤児院での事を深く知ろうとするのはプライバシーの侵害であると思い、口を閉ざした。一方余計な事を知られたくないと内心焦るクヴァルはラウナを睨みつける。だが、彼女は全く意に介していないようだ。

 気になるけれども訊けないソフィーリヤは連れて行かれた鳴鳥が心配だと思い立ち、後を追おうとする。彼女が第一であるクヴァルは放っておけと言ったが、逆に窘められ肩を落とす。彼にジルベルト達が戻ってきた時の為にこの場に残るよう言いつけ、ソフィーリヤは後を追いかけ庭園に向かった。

 渋々ながらもその場に残ったクヴァルと、充分時間は稼いだと役目を終えたラウナ。二人は互いに視線を通わせ、忌々しげにそっぽを向いた。クヴァルは目線を合わせぬまま、瞳を閉じて黙りこむ。けれども彼は会話を、彼女としていた。それは周りの誰にも聞く事の出来ない、二人だけの会話、念話である。


「奴らの様子はどうだ?」

「気になるならば自分の目で確かめれば良いじゃない」

「私はソフィを守ると決めた時から奴らと手を組む事を止めた」

「よくそれで生かして貰えられるわね。あの一番目の庇護下に居るからかしら?」

「データだけは送信しているからな。そう言う貴様も私と大して変わらないだろう」

「そうね…互いに甘いわ」

「だが、私は今の状態を守る。何があろうとも…」

「そうね。どうしてか…私達は報われる筈など無いのに」


 フッと自嘲気味にラウナが笑い、クヴァルも悲しげな表情になる。最初は突き放すような事を言っていたラウナであったが、状況が似ているせいか、会話を交わし、クヴァルに対して思う所があったようで、最初の質問に答えた。


「聖王を見限った奴らは新たな戦を起こす可能性がある」

「あの場には現れていないのか」

「ええ、でもあの程度で大人しくなるような奴らではないわ。貴方も十分用心しておきなさい」

「言われずとも。分かっている」


「おい、寝ているのか?」

「!」


 声を掛けられハッと目を見開くと、そこには怪訝な表情のジルベルト達が居た。一番間抜け面を晒したくない相手に油断した所を見られ、クヴァルは内心舌打ちをする。

 テーブルに料理を並べていたジルベルトはキョロキョロとあたりを窺っていたが、この場にラウナが居た事に嫌な予感を感じたようで、彼女に問いかけた。


「ここにナトリとソフィが居た筈だが、何処に行ったか知らないか?」

「女性には色々とあるのよ」

「…?」

「女の子に皆まで言わせるの?察しなさいよね」

「ああ…そうか」


 ラウナはいつもの無表情でしれっと言い切る。それに対してジルベルトは納得したようで追及はしなかった。クヴァルは良いのかとラウナに視線で問いかけるが、彼女はそれを無視した。

 フラヴィオの目的は鳴鳥であるからその点に関しては問題ないと考えるクヴァルであるが、追いかけたソフィーリヤの事が心配になったのだろう。彼は迎えに行くと言い、立ち上がる。彼が向かったのは化粧室がある会場内ではなく、テラスを降りた先、庭園である事に疑問を抱いたジルベルトは再びラウナに問いかけた。


「フラヴィオは何処だ?まさかお前一人で来た訳じゃないだろう」

「さぁ、何処かしら?」

「…っ!」

「ん?船長、何処行くんっスか?」

「ナトリを探しに行く。どうにも嫌な予感がする」


 ジルベルトはコンラード達に鳴鳥を探すように指示を出し、自らも庭園に向かって走り出した。一人残されたラウナはテーブルの上に用意された料理を摘まみつつ夜空を見上げる。


「(不思議なものね、あの子の存在がまるで世界を動かしているようだわ)」


 そうぼんやりと考えていたが、その考えが間違っていないと気付くのはまだ先の事であった。




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