第27話 Blue lightsword and green lightsword
開戦の意志が示される三時間前ほど、午前四時過ぎ。本来ならまだ布団の中でぐっすりと眠っている鳴鳥であるが、相次ぐ事態に眠気は醒めている。彼女はジルベルトに言われた通り、彼ら特務部の面々のサポートをする為に特務部の休憩室に居た。そこには小さいながらもキッチンなどの設備が整っており、冷蔵庫には食料と戸棚にお米も備蓄されていた。簡単に食べられるインスタントもあるが、数は足りそうにない。朝食の時間までにはまだ余裕がある。
「(鶏肉と人参、椎茸、…それからパンにハムにチーズと卵にレタスに胡瓜。好みがあるだろうから二種類用意した方が良いかな。あ、あとスープも良いかも)」
自由に使ってよいと言われた食材を確認し、調理に取り掛かる。米を洗い、食材を細かく切り、炊飯器に調味料と共に入れてスイッチを押す。卵は茹でて茹で玉子に、食パンにはバターを塗り、具を挟んでいく。
「(そういえば調査部でケーキスタンドのサンドイッチは胡瓜だけのがあったっけ。それも作っておこうかな)」
玉葱、人参、キノコ、ベーコンを細かく刻んだコンソメスープを大鍋で、その間にサンドイッチを作る。そうこうしている内にご飯が炊ける香りが漂う。少し蒸らして冷ましたのち、まだ熱さの残る炊き込みご飯をラップで握る。それは食べながらでも仕事が出来るようにとの気遣いであった。サンドイッチも耳を切り落とし、四分割にしてピックを差す。余った耳は細かく切り刻み、オーブンで焼いてクルトンにしてスープの横に添える。
「おお、これは凄いねぇ…!」
良い匂いに釣られて来たのか、疲労を顔に出したヘニングが休憩室に現れたが、丁度良く整えられた朝食にぱぁっと明るくなる。
「か、簡単な物しか用意できませんでしたが、よろしければどうぞ」
「それじゃあ遠慮なく。…うんうん。やはりサンドイッチは胡瓜に限るねぇ」
思い付きは良いように転んだようだ。ヘニングは嬉しそうに胡瓜のサンドイッチを頬張っていた。ふと彼にスープが注がれたマグカップを手渡しながら鳴鳥は思った。ヘニング以外はこの休憩室に訪れない。どうしたのかと心配になり、鳴鳥はヘニングに訊ねた。
「あの、皆さんは…?」
「ああ、まだ働いているよ」
「え…?」
「仕事の出来る男ってものはこうして休憩を適度に取るものだよ」
「は、はぁ…」
ヘニングは上機嫌でスープを飲み、かしわにぎりにも手を出した。これも美味しいねとニコニコ笑う彼に対し鳴鳥は戸惑いを見せていたが、彼は意に介しない。またサンドイッチに手を伸ばそうとした所、扉を勢い良く開ける者が現れた。ヘニングは彼の顔を見た途端、しまったという困り顔になる。
「ここでしたか…って団長、一人だけずるいじゃないですか」
「いやね、そろそろ君達も呼ぼうと思っていたんだよ」
「いや、私が来なければ一人で平らげていたでしょう?」
「いやいや、この量を全部は無理だよ」
「食べられるだけ食べるおつもりでしたか…」
肩を落としてため息を吐く部下にヘニングは指示を出す。彼は鳴鳥が用意した食事を運ぶように言う。特務部では現在調査部で処理しきれない報告を纏めるサポートを行い、現地に居る警備隊に指示を出したりなどをしている。深夜を通してのデスクワークに疲れ、どんよりとした空気を纏っていた兵士達は、美味しそうな朝食に明るくなる。
「相変わらず美味そうだな」
「ジルベルトさん、お疲れ様です。これ、どうぞ」
「ああ、済まない」
以前話に聞いていた通り、ジルベルトはただ一人、疲れていない様であった。彼は鳴鳥からスープを受け取りおにぎりを手に取る。二人の会話が耳に入ったのか、特務部でデスクワークをこなす兵士は二人の関係を勘ぐるような発言をする。
「相変わらずって…」
「もしかしてこんな可愛い子に毎日飯を作らせているのか!?」
「…クソっ!リア充めっ!」
男達の中で不平不満が噴出する。それはこの激務のストレスも相まっているのだろう。ジルベルトはそんな関係ではないと言い切り、鳴鳥は困ったように笑っている。すると兵士達の不満は同僚である少ない女性兵士へ、やれ女らしさを見習えだの何だのと難癖を付け、女性兵士は差別発言だとか、女にモテないからってと反論する。皆の為に作った料理でチームワークが乱れてしまうのではと鳴鳥は心配であったが、ヘニング曰くこれは日常茶飯事らしい。
「本音を言い合えるのは信頼の証だと思うね。陰口を叩き合うなど生産的ではないだろう?」
「そうですね…。気兼ねなく想いを伝えられるのは素敵な事ですね」
ジルベルトの態度や言葉が辛辣だと思っていたが、彼は何だかんだと言い鳴鳥を守ってくれ、想ってくれている。その事を思い直して鳴鳥は微笑む。
「(でも、身体的特徴を馬鹿にするのは止めて欲しいな。気にしているのに…)」
鳴鳥とはそういった関係で無い事を証明する為に、ジルベルトは兵士達に彼女の身体的特徴を小馬鹿にしつつ、自分の趣味は違うと言い張る。その姿を見て鳴鳥はぐぬぬと拳を握りしめて睨みつけた。
疲れを感じ、顔にまで疲労を滲ませていた兵士たちであったが、美味しいご飯と気を緩めた会話で幾分かリフレッシュ出来たようだ。各々おにぎりやサンドイッチ片手に職務に戻る。
「お前も少しは休んでおけよ」
「あ、はい。大丈夫です」
配膳を終え、空いたトレーを片していた鳴鳥にジルベルトが声を掛けるが、彼女は心配ないと笑い、食器を集めて休憩室に引っこむ。その姿をやれやれと見守っていた彼に対して男性兵士は妬ましそうに睨みつけ、女性兵士とヘニングとスティングは微笑ましく見つめていた。
朝食を取り終えて山積する仕事に取り掛かる皆だが、ヘニングの元に緊急通達が入る。それは軍でも上官に当たる者達にのみ伝えられた事項であり、その内容にヘニングは残念そうな顔をする。溜息をひとつ吐いたのち、彼は手を叩いて注目を集める。皆の視線を集めた所でこれから星団連合の重大な発表があると言い、ひとまず手を止めるよう促した。このタイミングで上からのお達しとなれば一つしかない。そう、皆は覚悟を決めていた。
第27話 Blue lightsword and green lightsword
皆が見守る中、大型モニターにはミリアム議長の姿が映し出された。彼女は堂々とした佇まいで演台に立ち、真剣な面持ちで真っ直ぐに見据える。
「先刻、聖王星テレンティアの聖王、エドアルド・エルカーン12世と私は言葉を交わしました。そして今回の幾多の場所で起きた襲撃はかの星の、エドアルドの指示である事が分かりました」
皆はやはりという表情でさして驚く様子は無い。許しがたい暴挙に対し、思う所は同じであり、拳を固く握りしめて険しい顔になりミリアムの言葉を待った。
「交渉もままならず、かの星は攻撃を続ける意志を見せました。星団連合は如何なる理由があろうとも一方的に他の星に攻撃する事を許す訳には参りません。テレンティアの宣戦布告と取れる動きに対し、星団連合は一丸となり是を退けるべきだと判断いたしました。…即ち、ここに開戦を宣言致します」
皆の眼の色が変わる。ヘニングはそれがとても顕著で、緩やかな様子は無く、事前に通達されていた通り、指示を出す。普段密命を帯びて行動する特務部は荒事にも強い。無論戦闘をこなせる者も多く、本部隊に合流する。
ジルベルトと鳴鳥はARKHEDで出撃準備を、スティングはアルヴァルディの操舵士として出撃命令が下った。船長であるジルベルトが離れる為、アルヴァルディの指揮権はアランに委ねられる。彼らは既にスタンバイしているらしく、ジルベルト達はARKHEDが収容されている起動エレベーター先のハンガーへ、スティングはドッグに収容されているアルヴァルディに向かった。
起動エレベーターまでは軍用の飛行機を飛ばす。機内はピンと張りつめた空気であり、軍人達は皆、死地に赴く覚悟があるのか、誰ひとりとして取り乱す者はおらず、真っ直ぐに前だけを見ていたり、目を閉じている。
いよいよ戦争が始まるが、不安な気持ちが拭えない鳴鳥は一人だけ取り残された気持ちでいた。彼女の落ち着かない様子を察してか、ジルベルトは小刻みに震える手に大きな手を重ねる。ふと鳴鳥が見上げるとジルベルトは言葉に出さないが、大丈夫だと言っているように思える笑みを浮かべる。大きな手は温かく、逞しく、安心感を得られる。彼が居るなら怖くは無い、自分はやり遂げられる。決意を新たにし、鳴鳥は心の中で彼に礼を述べた。
「(今までありがとうございます…。ジルベルトさんも居るから大丈夫。久城センパイは私が止める…。この命に代えてでも…!)」
鳴鳥の真意…決断はジルベルトに伝わってはいなかった。
ハンガーに入る前、ARKHEDには必要無いがパイロットスーツを着用する。機体を降りる可能性や万が一の事を考慮してのことだ。着替えを手早く済ませ、ジルベルト達はそれぞれの機体に向かう。乗り込んで簡単な動作確認後、管制官の指示に従い射出カタパルトで宙に出る。持ち場に向けて発進する前、ジルベルトは鳴鳥に言い残す。
「何かあれば必ず呼べ、俺が何とかする」
「分かりました。ジルベルトさんもお気を付けて…!」
「俺の事は心配いらない。どうせ死にはしないんだ」
「それでも…!やっぱり傷つく所は見たくないです!」
「…分かった分かった。互いに無理はしない。これで良いな?」
「はい…!」
ジルベルトは既にARKHEDの襲撃を受けたという最前線へ向かう。鳴鳥は事前通達通り指揮を執るミリアムが居る本陣にて待機である。星団連合議会議長であるミリアムが指揮を執るのはARKHEDを所有しているからというのもあるが、彼女の指示は頼りないか弱い少女の見た目と違い的確であり、判断が速く迷いが無い。彼女の浅葱色に黒いラインの入った機体は連合軍最大級の戦艦、ブリューナクの甲板に着艦しており、戦況を見極めて指示を出す。
絶えず入る戦況通信。まだテレンティアのARKHEDは防護フィールドを突破していないらしいが、各星の軍は内部で起こるテロ行為に対応が追われ、全ての戦力、人員を防衛に割く事が出来ない。ARKHEDが突入するのも時間の問題ではあるが、襲撃を受けた星々にはジルベルト、フラヴィオ、ラウナが向かっている。
本陣の前には防御力の高いソフィーリヤ機が、右翼にクヴァル、左翼にアリーチェ、それぞれがARKSの一団を率いて進軍する。
鳴鳥の機体のメインモニターに通信が入りミリアムの姿が映し出された。
「ナトリさん、急な出撃となりましたが、わたくしの後に、頼めますか?」
「は、はい…っ。が、頑張ります…!」
「ふふ、そう緊張せずとも貴女の想いを伝えれば皆の力となります」
「私などの言葉にそのような力があるのでしょうか…?」
「ええ、わたくしが保証します」
「…わかりました、やってみます」
連合所属の全ての戦艦、ARKS、ARKHEDに通信が入る。ミリアムは全兵士、並びに共同戦線に立つエーデル・シュタインの者達に告げた。
「わたくし、星団連合議会議長ミリアム・ウーヌ・アストリアは此度の戦にて指揮を執ります。既に存じ上げているかもしれませんが、再度確認を致します。今回の戦は断じて侵略ではありません。わたくし達は守る為に戦うのです。その事に誇りを持ち、暴虐を行うかの星と戦う事を誓います」
テレンティアの目的は伏せている。かの星が狙う者達は罪人、それをここで知られる訳にはいかない。敵の真意を知れば兵士達に迷いが生じるかもしれない。上層部は無論、把握している。薄々察している者もいるが、口にはしない。彼らも迷いを抱いてみすみす死に至る訳にはいかないからだ。そんな不安を抱える兵士達に呼び掛けたのは鳴鳥であった。
「私はナトリ・ナナツカ…いいえ、奈々塚鳴鳥と言います。私の母星である地球はテレンティアのARKHEDに滅ぼされました。後進惑星であり、何の罪も犯していない人々が、家族が、友人が失われました。無抵抗の星を滅ぼすという行為、それは如何なる理由があろうとも許されないと思います。私は亡くした者達の無念を晴らす為、剣を取りたいと願いますが、私には力がありません…。ですので、皆さんのお力を貸して下さい…!」
どう見てもまだ軍学校を卒業していなさそうな少女の姿が映し出された瞬間、兵士達は訝しげな表情になる。けれども、彼女の境遇を知り、想いを知り、その悲痛な面持ちに彼女の願いを叶えたいと思う気持ちが生まれ、兵士達は声を上げた。
ミリアム達上層部の目論見通り、鳴鳥は役目を果たし、士気は高まる様子を見せる。緊張していた鳴鳥も、皆の声に励まされたような気持ちになり、ここに居る事が間違いではないと知る事が出来た。
士気が高まりを見せた所でミリアムは進軍を開始する。鳴鳥も気持ちを引き締めるようにハンドグリップを強く握りしめた。と、そこに見知った人物から通信が入ってくる。それは彼女とジルベルトが協力の約束を取り付けた相手、フラヴィオである。
「ナトリちゃん。俺様のカッコ良い姿を見せつけてやるぜ!」
「ふ、フラヴィオさん…!あの、無理はなさらないで下さいね」
「気遣い嬉しいぜ。そうだな…あのクソ野郎より撃破数が多ければご褒美のキスを―――」
「フラヴィオ、気を抜いては駄目よ」
「ラウナさんも…。ご助力、感謝します」
「私は…別に」
「お気を付けて…!」
「貴女もね。貴女が居なくなるとフラヴィオが困るわ」
フラヴィオはまるで戦場に居る様子ではなく、陽気な様子で手を振りながら通信を切り、ラウナは以前と変わらぬ無表情のまま通信を切った。
次に通信を入れてきたのはソフィーリヤである。彼女は女性でありながらも軍人であるからか落ち着いていて、初めて戦場に立つ鳴鳥を気遣って柔らかい笑みを浮かべていた。
「ナトリさん、大丈夫?」
「はい、私は大丈夫です」
「いざとなれば遠慮なく助けを呼んでね」
「お気遣い、ありがとうございます。そうならないよう善処します」
「そうだ、ソフィに手間は掛けさせるなよ」
「え!?あ、はい…。気を付けます…」
「クヴァル…。貴方って人は…」
ソフィーリヤ第一のクヴァルに想われている当人は頭を抱える。優しく気遣うソフィーリヤと彼女を想うクヴァル。一方通行は相変わらずで鳴鳥はこんな状況にも関わらず、笑みを溢した。鳴鳥の緊張が解けたと感じたソフィーリヤは笑顔で通信を切り、クヴァルはソフィを呼ぶくらいなら私を呼ぶようにと言い残して通信を切った。
続いて通信を入れてきたのはアリーチェである。彼女にはジルベルトとのことで嫌われていたかと思いきや、そうでもないらしい。
「アナタの事、最初は気に食わないトコもあったけど、今では気にならないわ」
「アリーチェさん…!」
「今度、良い男紹介してあげるから楽しみにしていなさい」
「あ…、ありがとうございます…」
「あ、でも良い男と言ってもジルは駄目だからね!」
「はい、その事は十分承知しています」
分かっているなら良いのよとアリーチェは通信を切った。彼女は鳴鳥が久城を想っていた事を知っている。男を紹介と言うのは彼女なりの気遣いであるのだろう。今は新たな恋など出来そうにもないが、彼女がそこまで気にしていてくれる事が鳴鳥にとっては嬉しかった。
アリーチェとの通信を聞いてか、次に通信を入れてきた人物、母艦のハンガーで待機するカルラは慌てた様子であった。
「男!?男の紹介なんていらないわよね!ナトリちゃん!」
「か、カルラさん!?」
「男なんて野蛮で裏切るし下心あるし最低よ!そんなのは相手にしなくて良いからね」
「…カルラさん、えっと、その…」
「男なんかより、また私達、ミリアムも誘ってご飯に行きましょう」
「あ、はい…!ぜひまたご一緒に」
機体に何かあったらすぐに戻るようにと大事な事を最後にサラっと言い、カルラは通信を切った。女の子好きで男嫌いな彼女だが、こうして好いていてくれる事に鳴鳥は嬉しく感じる。
最後に通信を入れてきたのはアルヴァルディの面々であった。
「ナトリ、無茶はしたら駄目よ」
「マリアンさん…。分かりました…!」
「我々に任せろ」
「スティングさんもお気を付けて」
「僕達なら心配要りませんので」
「アランさん…。はい、皆さんの事、信じています…!」
「な、ナトリさん。この戦いが終わったら俺と―――」
「それは死亡フラグだから止めなさい」
「え!?そ、そんなぁ…」
何か言いかけたコンラードをマリアンが途中で遮る。彼らも戦場の最中であるというのにいつも通りであり、鳴鳥は安心できた。
アルヴァルディからの通信が切れた頃、ジルベルト機が敵のARKHEDと交戦状態にあると通信が入る。続けてフラヴィオとラウナも戦闘を開始した。
通信モニターに映されるARKHED同士の戦闘は速く、目で追える状況ではない。それはアニメや映画を見ているようにも思えるが、その機体には鳴鳥にとって大事な人達が搭乗しており、命を賭して戦っている。
自分はここでただ見守る事しか出来ない。その事が鳴鳥は悔しかった。久城を止める為ならば命を賭けても構わないと思ってもいたが、皆からの通信、言葉に込められた想いにその決意は揺らぐ。
「(皆が私の事を想ってくれている。地球は無くなって、お父さんもお母さんも棗も留美ちゃんも、もう居ない。久城センパイも…。…でも今の私には皆が居る!お願いします…。もし神様が居るなら、もう私から大切なものを奪わないで…!)」
鳴鳥の願いに反して戦禍は広がって行く。
テレンティアにもっとも近い連合所属の茶色い星、そこでは防護フィールドと数機のARKS、数隻の戦艦が緑色のARKHEDの侵入を阻もうとしていたが、力の差は歴然でARKSは次々と倒され、戦艦も破壊されていく。機体のパーツが方々に散らばり、沈みかけの戦艦が見えた先、防護フィールドを破壊する手前でジルベルトはその場に辿り着く。背後を取ったかと思われたが、敵もそこまで甘くはない。青く輝く光剣を敵機は大きな槍で受け止めて薙ぎ払う。
緑色の敵機からの通信、そこにはエメラルドグリーンのショートカットの女性が映し出されている。彼女はその美男子にも見える姿に似つかわしい凛とした声で嬉しそうに笑う。
「お前は…連合の黒い死神か」
「この前は世話になったな」
「ああ、今度は差しで勝負できるな」
「勝負だと?笑わせるな、お前など相手にしている暇はない」
ジルベルトとしては一刻も早く倒して心配な奴の元へ、傍に居たいと思うのだが、相手は戦いを楽しんでいるかのようだ。彼女はまるで決闘をするかのごとく名乗りを上げる。
「我が名はセルベリア、聖王エドアルド・エルカーン12世の命により邪魔立てする者を排除する」
「悪いが遊んでいる暇などない。いくぞ!」
長槍を持ったセルベリア機は目にも止まらぬ突きを繰り出す。光剣ではリーチに差があるので、ジルベルトは茶色い惑星に背を向けるよう位置取りをして銃弾を放つ。しかし威力の弱い攻撃は槍の衝撃波に消されてしまう。
「どうしたのだ!?貴様の力はその程度かっ!!」
「クソっ!」
ひとまず距離を取り、槍撃から逃れて次の攻撃を模索しようとする。しかしセルベリアはジルベルト機を逃さぬよう次の手に打って出た。掲げた槍から勢いよく射出された先端、それはジルベルト機を越えて翻り、機体を絡め引き寄せる。待ち構えていたのは銃弾の嵐であったが、まともに食らうジルベルトでも無い。光剣で弾きながらも何とか急場を凌ぐ。
「(懐に入れば…!)」
剣を突き立て貫こうとするが、セルベリアはその剣撃を見切って掴み、止める。パチパチと青白い火花が散り、直接掴んだアーム部分がダメージを受けている筈だが、セルベリアは余裕を見せている。その様子に嫌な予感を感じたジルベルトは咄嗟に剣から手を離し逃れようとした。だが、槍の柄の部分と先端を繋ぐ強固な鎖により身動きを封じられ、逃れられない。ジルベルト機の背後にはもう一人の敵が迫っていた。
「チッ…!」
緑色に光る剣を突き出し迫る黒い機体。それはジルベルトの良く知る者、真っ先に倒さなければならない者だった。
「クランドか…っ!」
「死ねェェェっ!!」
がら空きである背中を狙った筈だが、その進路上に紫色のレーザービームが数発放たれた。上から現れたのは黒いボディに紫のラインが入った機体、フラヴィオの機体であった。
戦闘機状態のフラヴィオ機はビームを放ちながらジルベルト機の周りの敵を蹴散らす。拘束を解かれたジルベルトの元にはせせら笑うフラヴィオが映っていた。
「ダセェな、アンタ」
「一先ず礼を言おう」
「契約は果たして貰わなきゃなんねーからな」
「ゴチャゴチャと…っ!!僕を無視するな!」
再び光剣を構えて突進してきたクランド機をジルベルトは新たに光剣を握り直して迎え撃つ。鍔迫り合いをするニ機に横やりを入れようとしたセルベリアであったが、フラヴィオの攻撃により阻まれる。
青い光と緑の光、光剣がぶつかり合う度に鮮やかな火花が散る。テレンティアの時と変わらず実力はジルベルトの方があるようで、クランドは押されている。
「…お前を殺せば鳴鳥の絶望した顔が見られると思ったんだけどな」
「残念ながら俺は死なない」
「そういえばそうだったな。ならば―――」
ひと際力を込めた一振りの後、クランド機は銃撃をしながら身を引いた。彼の向かう先は本陣の方、鳴鳥の元だと察したジルベルトはすぐさま追撃しようと迫る。
「お前がここに居るという事は鳴鳥の元には誰も居ない!待っててくれ、今すぐ殺しに行くからさ…!」
「させるか…っ!!」
戦闘機モードに変換し、鳴鳥の居る場へと急ぐクランドを追いかける為、ジルベルトも戦闘機モードに変換し銃撃を行う。青い光と緑の光を放つニ機は宙を駆け抜ける。真っ直ぐに本陣へと向かっていたクランドであったが、ジルベルト機からの攻撃をかわす為に急上昇し、追撃を避ける。
クランドの鳴鳥に対する執念深い殺意。それは鳴鳥の話を聞く限りでは支離滅裂なものである。ジルベルトは後を追いつつもクランドへと通信を繋いでその曲がった考えを正してやろうと試みる。
「おい、お前。ナトリから聞いたが、随分と勝手な言い分じゃないか」
「貴方には関係のない事だっ!そもそもお前は鳴鳥のなんだと言うんだ!?」
「…俺はっ!」
クランドの言葉にジルベルトは迷いが生じる。子どもの様な言い訳で他者の命を無慈悲に摘み取り、心の底から想ってくれている鳴鳥を悲しませる愚か者にひとつ説教でもしてやろうと思った所、逆にこうまでして鳴鳥の為に必死になるのか、自分にとっての彼女の存在は何なのかと突きつけられて即座に答える事は出来ず言葉を詰まらせる。迷いはARKHEDの操作に支障をきたす。クランドはその隙を見逃さなかった。彼の行く先へと追い続けていたジルベルトであったが、敵機二機が立ちはだかる。金色と銀色の機体からは戦場には似つかわしくない陽気で可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。
「デクセス、デクセプ、後は頼んだぞ!」
「りょーかいっ!」「任された!」
金色と銀色の機体、クランドにデクセスとデクセプと呼ばれたニ機は彼を逃がしジルベルトの行く手を阻む。二機のコンビネーションは絶大であり、絶え間なく続く剣撃に射撃にジルベルトはクランド機との距離を離されていく。
「(コイツ等、さっきのセルベリアもそうだが、テレンティアの時には手を抜いていたのか)」
「ほらほらどうしたの?」「あはは!死なないならいたぶり放題だね!」
セルベリアはフラヴィオが引きつけている為、この二機だけを相手にすればよいのだが、その二機が厄介である。片方の剣撃を光剣で受ければがら空きの背中目がけてもう一方の機体が迫る。息つく暇など与えず繰り出される攻撃にジルベルトは完全に足止めを食らう。
余裕が無いジルベルトに比べ、少女達はケラケラと楽しそうに笑いながら彼を追い詰めていく。このまま彼女達に抑え込まれ手の出せぬままクランドが鳴鳥を、と思うとジルベルトは焦りを感じる。彼女の居る場所、本陣の前にはソフィーリヤが居る、いざとなればクヴァルとアリーチェも駆けつけるだろう。そしてミリアムがただ手をこまねいている筈がない。皆を信じてはいるが自分が真っ先にあの場に戻らなければという気持ちが焦りに繋がる。
「待たせたわね」
「なっ!」「アンタは!!」
紫色の機体、ラウナ機はジルベルト機を阻んでいたニ機に杖を向ける。空間に突として現れた氷塊、それはデクセス機を捉える。一方の攻撃が阻まれた事により、ジルベルトはもう一機に全力を叩きこむ事が出来る状態となり、危険を察知したデクセプ機は距離を取った。
「ウザいんだよ!アンタ」「そーよそーよ!邪魔しないで頂戴!」
「五月蠅いのはどっちかしら」
デクセス機は機体の周りを覆う氷を熱を発して解かそうと試みる。だが、そうはさせまいと絶えずラウナが力を発現するのでそのあがきは無駄に終わる。手足は氷漬けにされているが、一極集中して溶かした部分、推進エネルギーが射出される場所を利用し、太陽の様な熱を発する恒星の赤外線を浴びる位置へと移動する。一気に溶かされる氷にラウナは顔をしかめる。宇宙空間での氷撃は場所を計算しなくてはならない。そもそも無から有、水を生み出す行為は精神力に負担が掛る。地上の、水辺であれば一番やりやすいのだがと、ラウナは内心溜息を吐いていた。
ラウナの攻撃は無効化されているが、氷撃以外にも攻撃手段はある。これで三対三になった訳だが、クランドは鳴鳥の元へと向かっている。一刻も早く彼女の元に戻らなくてはと焦るジルベルトは目の前の銀色の機体、デクセプ機に集中しようと心掛ける。
連携を崩されたデクセス、デクセプの実力はさしたるものではない。が、彼女らの危機に黒い機体がレーザービームを放ちながら現れた。
「(これで五機、いや、あの大きさは本体ではない)」
その機体はレーダーに捉えられない機体、テレンティアでも不意に現れた六機目であった。デクセプ機に切り掛っていたジルベルトであったが、咄嗟に機体を翻してレーザーを避ける。一機を相手にするだけで簡単に片を付けられるかと思いきや、またしても邪魔が入る。クランドを倒すのは自分がやるべきだと思っていたが、この状況ではどうにもならない。歯がゆい思いを押さえつけたジルベルトは、今は目の前の敵に集中する事にした。
「フラヴィオ、ラウナ、やれるか!?」
「俺様を誰だと思っていやがる?」
「一機くらい増えてもどうという事も無いわ」
「よし、行くぞ!」
ここでつまらない事を言い合っていては命を落とす事になるかもしれない。ジルベルトは死ぬことはないが、鳴鳥の元に行ったクランドを一刻も早く追わなくてはならない。利害の一致。互いに思う所はあるが、敵は共通している為、肩を並べて共闘する。
フラヴィオは戦闘機形態のままの攻撃で敵をかく乱、ジルベルトが斬り込みに入り、ラウナは彼の背後についてサポートをする。
一方、敵も易々とは退かない。デクセス、デクセプの連携は再び苛烈を極め、逃れようとした所にセルベリアともう一機が迫る。
最前線でARKHED同士がぶつかり合うが、テレンティアのARKSと戦艦の進軍は止まらない。戦禍は次第に広まって行く―――。




