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Xenoverse  作者: 葉月はつか
phase one : geotaxis
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第16話 Black coffee and tea with milk

 聖王星テレンティアへ向かうこと二日目の夜、貨物船ロスメルタ号の食堂にて今回の任務について最終確認のためのブリーフィングが行われた。

 リーダーはジルベルトであるのは皆の納得のいく所であったが、サブリーダーがアリーチェに決まっていた事には皆が驚いた。発表したジルベルトと任命されたアリーチェ自身は驚いていないようで、アリーチェに至ってはさも当然だと言わんばかりなドヤ顔を見せている。


「当人も納得しているな。と言う事で俺の班、実動部隊はアランとコンラード、それからナトリ、お前もだ。この四人で潜入する」

「はぁ?!なにそれ!?」


 上機嫌であったのが一変し、アリーチェはテーブルをバンっと叩いて立ち上がった。その反応を予見していたが為のサブリーダー発表であったが、上げて落とすような真似になったようで逆効果であった。

 ジルベルトは納得いかないと睨みつけて来るアリーチェから視線を外して説明を続ける。


「アリーチェの班はスティング、マリアンだ」

「はいはいはーい!班分けに異議ありよ」


 話の腰を折られたジルベルトは眉間に皺を寄せる。手を挙げて喚くアリーチェを放置したい所だが、このままでは進行に支障をきたす。内心舌打ちをしながら彼女が納得いくような説明をした。


「アリーチェにはこの船に積まれている荷物の受け渡しを行って貰う。先方にもバルニエール商会との取引だと伝えてあるからお前が居ないと話にならん」

「そんなの代理で良いわよ」


 普通の人ならばその言葉で納得するだろうが、アリーチェは簡単に折れない。納得がいかないと反論する彼女に対してジルベルトは溜息を吐いたのち、彼女の瞳を見つめて言った。


「…アリーチェ、お前の容姿は目立ちすぎる。その華やかさは人目を引くから潜入捜査には向いていない」

「ジル…!やだもー!皆の前でそんな熱烈にアプローチするなんて!キャー!恥ずかしいー!でも嬉しいー!」


 コロッと態度を変えるアリーチェは顔を真っ赤にしてクネクネしながら席に着く。ジルベルトの棒読みな心のこもっていない褒め言葉に納得したのか、それなら仕方がないと納得したようだ。当人を除く他の者はその様子に呆れて乾いた笑みを浮かべていたが、アリーチェはその事に気づくことなく、ジルベルトに言われた言葉を反芻して悦に至っていた。

 一人厄介なのが片付いた所でジルベルトは話を進めようとする。しかしその前にとマリアンが質問を投げかけた。


「私とスティングはどうして小娘のお守なのかしら?」

「…俺自身が差別をする訳ではないが、エイゼル教では性別を変える事を禁止されている。あとテレンティアの人種はヒト科のみで他種を排斥する。コンラードは隠していれば目立たないがスティングは難しいだろう」

「ああ、なるほどね。ってスティング、貴方あまり驚いていないようだけど知っていたの?」

「敵地に赴く時はその地を知らねばならん」

「私も一応資料に目は通していたつもりなのよ。経典は分厚くてパスしたんだけどね」


 マリアンが納得した所でジルベルトは話を続ける。


「潜入部隊は武器コンテナに身を隠し、保管庫に潜入。その後テレンティアの保有兵器の確認と内部調査だ。丁度よく、到着した次の日に聖王サマの有難い言葉が聞ける月に一度のミサが行われるらしい。この場に行く事で奴ら上層の考えを知れるだろう」

「その間アタシ達はどうすればいいの?荷を降ろした後はすぐに出港しないと怪しまれるでしょう?」

「そこは船体にトラブルが見つかったと言って停泊許可を申請してくれ。その後、部品の買い出しは…多分向こうも警戒しているだろうから取り寄せてくれるだろう。到着して搬入が明日の13:00、そこからすぐに輸送されたとして首都圏までは三時間、調査は夜間に行った方が効率が良いだろうから24:00を過ぎてからだな。翌日、10:00からのミサを広場で見届けた後、船に戻るとなると15:00位か。26時間持たせてくれ」

「まぁいざとなれば空の船で帰るのは惜しいとか言ってワインでも買い付けるわ」

「頼りにしているぞ」

「うふふ!アリーチェ様に任せなさい!」


 フフンと鼻を鳴らし、腰に手を当ててふんぞり返るアリーチェ。彼女は相当自信があるようだ。内心不安で仕方がないジルベルトはアリーチェに頼むと言いつつ、同じ班であるマリアンとスティングに目配せをした。その意図を理解したマリアンはウィンクを返し、スティングは瞳を閉じて頷いた。

 各自の動きと時間確認を済ませ、次の内容に移ろうとしているとアリーチェが手を上げて質問した。また途中で遮られ、ジルベルトは面倒臭そうな顔をするが、仕方が無いなとアリーチェに発言を許した。


「気になる事が一つあるわ」

「なんだ?」

「普通は諜報活動ってその国とか星とかに溶け込むように…と言うかそこの住人になりきるぐらい滞在して長期にわたって地道にこつこつと自陣に情報を流すもんじゃないの?」

「星や国同士が互いに睨みをきかせていたり、腹の探り合いをしている場合はな。今回は状況が状況だからアランに任せる」


 ジルベルトはチラリとアランに視線を移す。話題を振られた彼はアリーチェに向き直り、説明をした。


「今回は端末に自動情報送信プログラムを仕込む予定です。あとアナログな情報処理も行われているようなのでマイクロカメラを積んだ昆虫型スパイ機器も数匹分放ちますね」

「何それ怖い。眼鏡君、アンタまさかエーデル・シュタインにもハッキングとかしていないでしょうね?」

()はしていませんよ。あ、ちなみに僕がしているのはクラッキングでハッキングと言うのは―――」

「な、なにもしていないなら良いのよ、それで」


 天真爛漫でハキハキと物を言うアリーチェは満面の笑顔でサラッと答えるアランにえも言えぬ不安を感じてどもりながら話を終わらせた。彼女はジルベルトの方に顔を向けると説明を続けるよう促した。と、言っても後は装備品と連絡用の通信機の確認で終わった。ジルベルトは最後に質問は無いかと皆に尋ね、誰も手を挙げなかった為、そこでブリーフィングは終了した。

 各々が自室に戻る中、鳴鳥は今回の件でお礼を言う為にジルベルトに声を掛けようとした。しかし彼の元にはアリーチェがピタッと寄り添っていたので声を掛けるのを躊躇った。


「(アリーチェさんの邪魔をしたら悪いよね…。お礼は任務が終わった後でも良いかな)」


 鳴鳥は踵を返して自室へと戻った。彼女の背中を見つめる者がいると気付かずに。ジルベルトもまた、鳴鳥と落ち着いた所で話したいと思っていたが、アリーチェがべったりとくっつくせいでそれは叶わなかった。ここで強引にアリーチェを引き剥がせば、彼女はへそを曲げるだろう。そうなれば任務に支障をきたす。どうにか丸めこんで別の班にしたのが台無しになりかねないので任務までは彼女の好きにさせておく事にした。

 話したいという気持ちは同じだが、鳴鳥とジルベルトはすれ違ったままであった。




     第16話 Black coffee and tea with milk




 二日目の深夜、正確には三日目の午前二時頃、鳴鳥は緊張からか寝つけずにいた為、休憩室へ向かっていた。


「(ホットミルクでも飲もうかな…。カモミールティーでもいいんだっけ?…ん?と言う事はカモミールのミルクティーを飲めば一番良いのかも)」


 どうにか寝付けるようにと考えながら訪れた休憩室、そこには先客がいた。


「ジルベルトさん…」

「…ナトリか」


 彼は声を掛けられて振り向いた。彼の手元にはブラックコーヒーが注がれたマグカップがある。鳴鳥は自分の飲み物、カモミールのミルクティーをカップに注いでジルベルトの席に近づいた。


「隣、良いですか?」

「おう」


 気づけば彼の手元にはもう一つ、吸いかけの煙草が消された灰皿があった。自分のせいで吸うのを止めたのかと思うとなんだか悪いような気がして鳴鳥は謝る。


「すみません、煙草、途中で止めさせてしまって」

「いや、いい」


 ジルベルトは気にするなと短く言いきった。互いに話したい事があった筈だが、いざこうして二人きりになると言葉は出てこない。鳴鳥は暖かいミルクティーを一口飲み、カップをソーサーに置いた。


「(何か話さないとおかしいよね。折角隣に座ったんだし…。あ、そうだ)」


 話す切っ掛けが無いかと探る鳴鳥はジルベルトの飲んでいた飲み物について聞く事にした。


「ブラックコーヒーって眠れなくならないんですか?」

「身体のせいか、あまり眠らなくても平気だ」

「あ…すみません」

「いや、謝る事は無い。これはこれで使えるからな。だが、長い夜というものは退屈だからたまにコレを使う」


 そう言いながらジルベルトが胸ポケットから錠剤が入ったケースを取り出してテーブルに置いた。


「これは?」

「睡眠導入剤だ。お前は緊張でもして眠れないのか?ならコレを飲むと良い」

「あ、ありがとうございます」


 鳴鳥は礼を言って錠剤を受け取りペーパーナプキンで包んだ。そしてもう一度礼を言う。


「あの…ありがとうございます」

「そんなに何度も礼を言う必要など無い」

「いえ、この薬の事もですが、今回の任務についてです」

「ああ、その事か…」

「任務に参加する事、認めて頂いてありがとうございます」

「それはだな…」


 真摯な態度で礼を言う鳴鳥に対してジルベルトはバツの悪そうな顔で後ろ頭を掻いた。そして彼はコーヒーを一口飲んで本当の事を話す。


「俺は何もしていない。お前が任務に加わる事を知らされていなかった。後からヘニング特務部団長に聞いたが、ミリアム議長の計らいだそうだ。上の判断なら従わざるを得ない」

「そう…なんですか」

「俺としてはお前を危険な目に遭わせたくはないが、今の状況がお前が望む事なんだな」

「はい…。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」


 心配をしつつも是非を問うジルベルト。しかし鳴鳥も自分の想いを曲げる事は出来ない。手間を掛けさせると分かっていながら決めた事を、想いを貫く。しゅんと項垂れ謝罪をするが、彼はフッと呆れたように笑いかける。


「まぁ、お前に迷惑を掛けられるのも、もう慣れつつある」

「う…。ごめんなさい。えっと、任務中は足を引っ張らないように気を付けますので」

「ああ、その事だが、いざとなれば俺を盾にして逃げればいい」

「!」


 さも当然だと言わんばかりにジルベルトは自身を犠牲にするという手段を提示した。だが、鳴鳥は彼の提案に素直に頷く事が出来なかった。彼女は俯き、両手でカップを握ると薄茶色の液体に波紋が広がる。


「そんな…ジルベルトさんは自分の事を大切にし無さ過ぎです」

「今回の任務もこの身体だからこそ俺に任された。お前が気に病むような事ではない」

「でも…なんだか怖いです。死に急いでいるようで、もし、突然普通の身体に戻ったらその時はどうなるんですか?」

「その時はその時だ。それに、守れる者は守りたい。これ以上失うのは御免だ」


 遠い目をするジルベルト。これ以上失うという事は過去に大切なものを無くしてしまったのだろうか?気になる所ではあるが、鳴鳥は辛そうなのを堪えて自嘲の笑みを浮かべるジルベルトの表情を目の当たりにして聞くのを躊躇った。

 しんみりとした空気になったのが居心地悪く感じたのか、ジルベルトは咳払いをして話題を変えた。


「そんな事よりだ、俺の方こそ言わねばならん事がある」

「は、はい。何でしょうか」


 俯いていた鳴鳥は顔を上げ、佇まいを直してジルベルトに向き直る。聞く気満々である彼女に対して彼は少したじろぎ、そっぽを向いてポツリポツリと話しだした。


「その…悪かった」

「?…えっと、何がですか?」

「日記、読んだ」

「!!?」


 ジルベルトの言う日記とはアランから貰った手書きの日記帳の事だ。それにはジルベルトに対する罵詈雑言が綴られている。その事を思い出した鳴鳥はあわあわと慌てふためきだした。しかしジルベルトは先に言った通り責めるのではなく謝罪を続ける。


「記憶の事、言いそびれて不安にさせただろう」

「あ、その事でしたか」

「その事って…お前、何とも思わなかったのか」

「あ、いいえ。その、地球での事、それから皆さんの事、忘れちゃうかも知れないと分かった時は凄く辛かったですけど、ダニエルさんやミリアム議長とお話をしていて記憶を失う事は無さそうだなって思ったので、今は大丈夫です」

「そう、なのか」

「はい。あ、でも、軍学校?に通う事になりそうですが、お世話になった皆さんに恩を返すにはその方が手っ取り早いとダニエルさんに言われました」

「軍学校か…あまりいい思い出は無いな」

「え?ジルベルトさんも通っていたんですか?」

「連合軍の軍人は大体がアストリアの中心国であるガルレシアの軍学校卒業生だ。まぁ俺の場合は途中から入れさせられたってのが居心地が悪かった原因だがな」

「そう…ですか」


 ジルベルトは言いたい事を言えてホッとしたのか、溜息を吐き、マグカップに残っていたコーヒーを飲みほして席を立つ。


「もうこんな時間だ。明日の晩は休める保証がないから今日はしっかりと寝ておく方が良い」

「あ、はい」


 鳴鳥もジルベルトと同じように残りのミルクティーを飲み干し、席を立つ。そして彼女はトレーに自分のカップとジルベルトが使っていたマグカップと灰皿を載せて片付けようとした。


「済まないな」

「いいえ、このくらい、ジルベルトさんにお世話になった分には到底敵いません」


 その後ジルベルトは鳴鳥の部屋の前まで彼女を見送る。船内に危険な事など無い筈だが、部屋に戻るまでは安心できないようだ。


「あの、薬、ありがとうございました」

「いや、いい。それよりも、明日は俺の傍を離れるなよ」

「はい。了解しました」


 びしっと佇まいを直して敬礼をする鳴鳥に対しジルベルトは苦笑しながら「わかれば良い」と言い残して立ち去った。

 その後、鳴鳥はジルベルトから貰った錠剤を飲み、床に着いた。その薬のお陰か、カモミールミルクティーの効果か、はたまたジルベルトに伝えたかった事を言えたからか、ぐっすりと安らかに眠れた。






 翌日、貨物船ロスメルタ号は予定通り聖王星テレンティアへと到着した。他の星との関係が悪化している筈のテレンティアの宙域にはさほど軍事兵器の配備がなされておらず、とても攻撃を仕掛けた星であるとは思えない様子であった。それでも荷を受け渡す際にアリーチェがドックに降り立った瞬間、武装した兵士に囲まれた。彼らはこちらの動きを警戒するように目を見張っている。その目つきは鋭いものだが、スティングと目が合った者はサッと視線を外した。彼の容姿は睨みつけていなくとも凄みがあるようだ。

 一人の兵士が前へ進み出て、恐る恐るアリーチェへ声を掛けた。


「この状況下での武装兵器の輸出、感謝いたします」

「お金さえ払っていただければ良いのよ。エーデル・シュタインの企業は何処の星にも属さないのだから、金さえ払えば取引は続けるわ。まぁ今回は事が事だけにあまり表だって動ける企業はいないようだけれどね」

「そうですね」

「そうですね、って他人事の様に言うのね」

「…」


 取引を担当する男性の兵士は口をつぐむ。軽く探りを入れた所で、彼らが上の者のやり方に口を出せない状況であるのが分かった。そこでこれまで黙っていたマリアンがアリーチェを押しのけて兵士近づき、そっと胸元に触れた。


「いい胸筋しているわね。服の上からでもわかるわ」

「…!えっ…あの…っ…!!」


 マリアンは胸元を撫でつつ胸ポケットに紙幣を数枚入れた。そして先程の探りを入れるような言葉をもう一度呟く。男性兵士は鼻の下を伸ばしつつ、耳元に小声で現状を吐いた。


「わ、我々にも詳しい状況は説明されておりませんので…」

「そう…。あ、そうだ」


 ぴったりとくっ付いていた身体が離れ、兵士は寂しそうな顔をする。しかしマリアンがニコっと笑みを浮かべると、兵士はまだ何かあるのかと期待の眼差しを向けて尾を振る犬のように待った。


「船の調子が悪い所があるようなのだけれど、部品の買い付けに市街地へと行く許可は頂けないかしら?」

「はい!それでしたらこちらで部品を用意しますので!あ、整備班も呼びましょうか?」

「ありがとう。整備の方は規格が違うでしょうからこちらで何とかするわ」


 そう言いながらマリアンは必要な部品が書かれたメモと部品の代金を手渡した。兵士は提案を受け入れて貰えなかった事に少々落胆した様子を見せるが、メモと代金を受け取る際にマリアンが優しく手を添えると頬を赤らめてハキハキと答えて了承した。


「そうですか、では停泊許可と部品を手配するのでお待ちください」


 荷を降ろした後もこの場に留まれるようにという交渉は上手くいった。大方はジルベルトの予想通りであったが、マリアンの性別に気が付いていない兵士に対してアリーチェとスティングは内心同情した。

 一方、アリーチェ達が受け渡しと交渉をしている時に鳴鳥達はコンテナの中であちこちをぶつけ、窮屈な思いをしていた。


「(苦しい…)」

「(ひぁ!なんか変なとこ当たっている…っ?)」

「(ああ…なんだか柔らかいこの感触は鳴鳥さんっスか?)」

「(これは…目的地に着くまで持つのでしょうか…)」


 バルニエール商会からテレンティアが買い付けたもの、それは防護フィールド装置だ。これは宇宙に打ち上げ星を守る衛星となるのだが、遠隔操作でき、ピンポイントで攻撃を弾く事が出来る。武器に関してはARKS(アークス)の弾薬、のみであり、長距離ミサイル等攻撃に使われる兵器は必要ないようだ。

 防護フィールド装置が積まれたコンテナの奥は壁があり、空間が確保されていた。鳴鳥達はその空間に身を潜めているが、四人が入るには狭く、身を寄せる形となる。コンテナは数個あるが、別々に潜り込むとなると配備先が別れた時に合流する手間が掛る為、こうしてぎゅうぎゅうの中で我慢を強いられる事となった。


「(甘い匂い…)」

「(煙草の香り…。ジルベルトさん?)」

「(クンクン。あぁ~この良い香りは鳴鳥さんに違いない…!幸せっス…)」

「(少々息苦しいですね)」


 コンテナが揺れるたびに身体は右へ左へ、配備先に運び込まれるまで息苦しく窮屈な思いをした。

 数時間後、配送する貨物車の音も聞こえなくなり、扉が閉められる音がコンテナ越しに聞こえてきた。どうやら巨大な倉庫に収容されたようだ。取り敢えずコンテナの奥から出てきたジルベルト、鳴鳥、コンラード、アランの四名であるが、鳴鳥が解放されて気が緩み溜息を吐きそうになる。しかしまだここに人が居なくなったとは限らないのでジルベルトがすぐさま手で鳴鳥の口を塞いだ。

 ジルベルトはアランに目線で指示を出し、頷いた彼は薄いノート型PCを起動する。そして小型の虫型カメラを放ち倉庫内の様子を窺う。PCの画面にはカメラが捉えた映像が映し出される。人影は居ないようだが監視カメラはあるようだ。


「赤外線のセキュリティも無いようですし、カメラも精度は低そうです。一応念の為、光学迷彩服にしておいた方が良いかと」

「そうだな」「了解っス」「りょ、了解です」


 鳴鳥達はもしもの時の為にグレーの作業員服の格好をしていた。しかしこの服装はボタン一つでぴったりと身体にフィットした真っ黒なドライスーツの様な衣服に変化する。防御力に優れ、ショックを和らげるそのスーツは様々な衣装に変化し、ステルス機能と光学迷彩も兼ね備える。便利なものであるが、何故常用しないのかを鳴鳥がジルベルトに訊ねた所、コスト面でと返された。一着当たりに莫大な値が張る為、上層部や特別な任務に就く者にしか支給されないそうだ。

 時刻はほぼ予定通りの16時過ぎである。日中は人目に付くのでこのままコンテナの中で日を跨ぐのを待つ。その間、携帯用食料を夕食として食し、交代で仮眠を取っていた。


「そろそろ時間だ、起きろ」

「ふぁ…?はい…」


 こんな状況でも眠れるのかと呆れるジルベルトは寝ぼけ眼の鳴鳥の肩を揺する。彼女は大あくびを口で隠しながらしたのち、両手をぐっと伸ばして身体を解す。その後目を擦り、ぼんやりと周りを確認した。ジルベルトは溜息を吐き、アランは苦笑い、コンラードは微笑ましくこちらを見守っていた。今更ながら、寝顔を見られていた事と、のんきに寝ていた事に恥ずかしさを感じ顔を赤らめあたふたと慌てる。


「スーツを頭まで被っておけ、あとマスクもな。装備品の確認も忘れるなよ」

「は、はい」


 皆はあとマスクを付ければ良い状態まで準備が整っていた。鳴鳥はジルベルトに言われた通り、スーツを頭まで被り、腰のホルスターとポーチの中の通信機を確認後、マスクを被った。一瞬視界が真っ暗になるが、こめかみのあたりにあるスライドスイッチを上に押し上げると通常の見え方に戻る。更にスライドスイッチを上げると視界が緑色に染まる。最初のは閃光弾を使われた際の光を遮る役割であり、最後のは暗視機能である。鳴鳥は視界機能動作を確認後、準備が整った事をリーダーであるジルベルトに伝えた。


「よし、行くぞ」


 ジルベルトは小声で皆に向かって声を掛け、皆は静かに頷く。

任務開始に鳴鳥は不安を感じていた。けれどもジルベルトの背中は逞しく、彼が居るなら大丈夫だという安心感もあった。

 暗闇に乗じてジルベルト達は動き出す―――。








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