第14話 Scholar of a light brown skin
調査部での取り調べが終わり、鳴鳥の身柄が次に引き渡された場所はARKHEDの研究機関であった。星団連合本部直轄ARKHED研究機関、通称SAR。そこでは発掘されるARKHED、人類の科学力では未だ作り出す事の出来ない機体の謎を研究する為の機関である。
そもそもARKHEDは誰が何の目的で作ったのか、判明していない。新たな機体は精神結晶と共に発掘される物のみである。動力炉に精神結晶を備えており、その純度と大きさは他に類を見ない程の物である。ARKHEDは一つの機体に対し一人の搭乗者、契約者のみ扱う事が出来る。量産機であるARKSと違い、身体を鍛える必要もなく、操作能力がなくても精神作動、音声作動で操作できる。しかし強大な力にはリスクがあり、契約者には枷というデメリットが身体に宿る。
「―――っと、ここまでは聞いているかしら?」
「はい」
SARに来た鳴鳥は初日にランニングマシーンで走ったり、視力検査など体力測定と身体測定を行った。体力測定の内容は学校で行っていたのとほぼ同じだが、一つだけ違う事があった。それは射撃能力である。エーデル・シュタインでアリーチェと遊んだバトリングでもまぁまぁの成績だったが、実銃を扱った事のない者にしては成績が良かった。他の身体能力も同年代の女性の平均値より少し高く、視力聴力は問題なしであったが、身体的特徴…特に胸囲は同年代の女性より少し劣っていた。
二日目である今日は鳴鳥のARKHEDのチェックである。その為に既に研究所に運び込まれていた白いボディに深紅のラインが入った機体、ハンガーにあるそれに鳴鳥は白い調整スーツを着て乗り込んでいる。機体はハッチを開けて傍にある電子機器と沢山のケーブルでつながれていた。ARKHEDは当人しか操作ができないので、機体を調査するのも搭乗者の立ち合いが必要である。今現在はその機体のチェックと同時にARKHEDについて説明を受けていた。
解説をする女性研究員、カルラ・クラウゼ博士は20台の外見にもかかわらず、この研究所、SARの所長である。その姿は研究者らしからぬ健康的な褐色肌、その上豊満なボディであり、天辺で結いあげたオレンジ色の髪のお団子頭で露わになったうなじがセクシーだ。眼鏡に泣き黒子というのもまた彼女の魅力的な部分であり、色香を漂わす一因である。
「それにしてもこの白い機体何なのォ~。この美しさ、今まで連合には無かったものだわ~」
ハァハァと息を荒げながら機体に頬擦りするカルラ。それは日常茶飯事の光景であるせいか、研究員は皆スル―していた。鳴鳥はドン引きと言うよりも見た目とのギャップに驚き目を見開いて凝視していた。
「フォルムもさることながら機体性能も他の機体より上の様ね。精神作動のラグがほとんどない上にAIも優秀で、曖昧な表現でも的確に状況を判断して実行する。まぁ音声作動で融通が利かない点は搭乗者がしっかりしないといけないんだけれど」
機体に対する愛情は見て分かる程に顕著であるが、知識の方もそれと同等に高い。美しい顔立ちを歪めて笑いながら研究を進めるその姿はマッドサイエンティストの様に感じるが、性格は陽気である。
「う~ん。女子学生がロボットに乗り宙を駆けるってのも良いわ。今の軍はオッサンと目つきの悪いクソガキが出張っているからね~。ソフィは滅多に前線に出ないし。貴女が敵をバンバン撃墜していく姿を早く見たいわ」
「は、はあ…」
訂正、性格は少々変わっているようだ。鳴鳥がカルラの妄言にどう反応して良いか困っていると他の研究員の人がスル―してもかまわないと言っていた。けれども無反応なのは良くないと思い、愛想笑いを返すと当人は上機嫌でニコニコと笑っている。
「ん~それにしてもこんな凄い機体が枷なしで稼働するなんてねぇ」
「枷、ですか」
何故だか鳴鳥には枷と言う名のリスクなしでARKHEDと契約をしたようだ。今の所ジルベルトの枷は不死身である事、その一例しか鳴鳥は知らなかった。他の者がどのような内容で枷になっているのか訊ねてみたが、本人達にとっては精神的苦痛なものが多いらしく、プライベートな事なので当人の許可がなければ口外出来ないとカルラに言われた。
「まぁ今のところ何事もないようなら大丈夫かもね。機体自体も他のARKHEDより優れているようだし。そう、今までの機体の次世代バージョンなのかもしれないわ」
「そうですか…」
「でも油断は禁物よ。いつ枷が発動するか分からないらしいから事が起こってから自覚する場合もあるしね」
「…気を付けておきます」
素直にそう言い頷いた鳴鳥に対しカルラは「わかればよろしい」とニッコリ笑みを浮かべる。そして彼女は手を鳴鳥の頬に添え、うっとりとした表情で瞳を見据える。
「女子学生…かわいい…!」
どうやらカルラは少々変わっている訳ではなく、かなり特殊な趣向をお持ちのようだ。振り払う訳にもいかずにされるがままな鳴鳥はえへへとぎこちない笑みを返す。カルラの仕事外に向きつつある暴走にさすがにまずいと思ったのか、彼女はまともな研究員二人に引き剥がされた。良い所を邪魔されたとふてくされるカルラに対し、研究員たちはコンコンと説教をする。どちらが上の立場か分からない光景である。
おちゃらけた様子であったが、彼女の元に通信が入るとこれまでの陽気な態度を一変させ、キリっとした表情で応答した。しかしその真面目モードもすぐさま元通り、相手が親しい人物なのか、明るく返事をしていた。音声のみの通信、通話内容は分からないが、何やら約束をしているようで最後に時間と場所を確認してから通信を切った。
「んー。今日はこのくらいにしておきましょうか。時間も時間ですし。と言う訳でお疲れ様、ナトリちゃん」
「お疲れ様です。えっとでは失礼します。あ、あと、明日もよろしくお願いします」
「こちらこそ、ヨロシク。と、ナトリちゃんはこの後は自室に戻るだけよね?」
「は、はい。えっと、何かありましたか?」
「仕事じゃないわ。ご飯に行きましょう」
「「「え?」」」
驚き声を上げたのは鳴鳥一人ではない。研究員達も仕事をこのまま放置して行くのかと非難の目を向けている。時間を見ればまだ午後五時、朝から調査に付き合っていた鳴鳥はともかく、所長であるカルラがこの時間に仕事を終えるのは異例らしい。しかし当の本人は我関せずと言った態度で話を進める。
「うーんと約束の時間は7時だから6時半までに支度を済ませといてくれる?私迎えに行くから」
「え、えっと。私、外出しても良いんですか?」
「ええ、私が同行するから平気よ。それにもう一人待ち合わせ場所の店に来るんだけどね、その子連合議会の議長やっているの。なんか貴女に話があるらしくて、そうなら皆でご飯でも食べながらなんてどうかなーって思ったら向こうもOK出してくれたのよ」
「連合議会…議長?」
なんだか偉い人っぽい役職の人物が話題に挙げられ、鳴鳥はポカンとする。一方、カルラが早上がりするのを内心咎めていた研究員達もその人物に対し視線を泳がした。動揺する研究員に対しカルラは平常心、と言うよりご機嫌である。
「と、言う訳だからヨロシク~」
ひらひらと手を振りながらカルラは呆然とする皆を残して研究室を出て行った。
第14話 Scholar of a light brown skin
「(連合議会の議長さんってどんな人なんだろう…)」
SARに併設された宿舎、そこでは泊まり込みをする研究者や、鳴鳥のように研究に協力する者が寝泊りをしている。そこもこれまでと同様に設備が整っていて、居心地が良い空間であった。
鳴鳥はシャワーを浴びた後、下着だけを身に纏って衣服を選ぶ。ベッドの上にはフェルスボウデンでジルベルトに買って貰った天然繊維のシャツとチノパン、マリアンに通販で頼んで買って貰った近未来的なデザインのワンピース数枚と上着数枚、それからこの部屋のクローゼットに置かれていた連合軍のジャケットとシャツとスカートがある。同席する相手がお偉いさんである事は確実である為、TPOを弁えた格好をしなければならない。なのでここは無難に、この室内に置かれていた連合軍の一式を着る事にした。
鳴鳥は化粧をしないので時間にはまだまだ余裕がある、と思っていたが、カルラは予定時刻の十五分前に鳴鳥の元を訪れた。カルラの衣服は研究所に居た時と同じセクシーなもので色気を振りまいている。唯一違うのは白衣を羽織っていない所であった。
「やっぱり冴えない格好をしてる!もうっ、そんな服じゃつまらないでしょう」
「え?!で、でも、連合議会の議長さんと会うんですよね。だったらこっちの方が―――」
「あ~あの子ならそんな事気にしないから。ねっねっ、こっちの服に着替えましょう」
「ええっ?!このヒラヒラしたのをですか!?」
カルラが持参してきた衣服、それは白色とピンク色の甘い雰囲気のロリータ服である。リボンとフリルがふんだんにあしらわれた物で、お姫様が着ていそうな、地球でこれを着て歩いていたら二度見されるレベルの服に鳴鳥はたじろぐ。
「あ、あの~…。私にはこういうの似合っていないと思うのですが」
「そんなこと無いわよ!絶対似合うからっ、ねっねっ、取り敢えず着てみて頂戴」
「で、でも…っ」
「な、なんなら私がお着替えするのを手伝いましょうか?」
ハァハァと息を荒げて爛々とした目を向け両手をわきわきと動かすカルラ。その姿は獲物を目前にした飢えた獣のようであって、身の危険を感じた鳴鳥は服を受け取り寝室に引っこんだ。
姿見の前で衣服を自分の前に持ち、合わせて見てみる。やはり想像していた通り、このようなヒラヒラしたものは似合っていないと感じる。しかしこのまま着替えずにいてはカルラや連合議会の議長を待たせてしまう。どうしたものかと悩んでいる鳴鳥であったが、時間は刻一刻と過ぎて行く。気恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだが、覚悟を決めて袖を通した。
「…お、お待たせしました」
寝室の入口から顔だけを覗かせる鳴鳥。彼女は未だ恥ずかしさを捨てきれないのか、おずおずとした態度でその姿を全て晒そうとしない。カルラはムフフとニヤつくと鳴鳥の傍へとにじり寄る。びくびくと怯えて引っこみそうな鳴鳥の手を掴むと軽く引き寄せた。
「はわわわっ。かわいいいい!!!やっぱり私の見立ては間違いないわね!」
「そ、そんなこと無いですっ」
「このひらひらスカートとオーバーニーソックスとの間の僅かな肌の露出。絶対領域ハァハァ…」
荒い息使いのカルラは鳴鳥を壁際に追いやり左手を壁に着く。そして空いている右手で鳴鳥の左もも、絶対領域を撫で上げた。
「(こ、これって所謂壁ドンってやつですか?そうですか?初壁ドンが女の人相手だなんて…)」
追い詰められてパニック状態の鳴鳥だったが、このまま大人しくなすがままになるつもりはない。慌てつつもどうにかカルラが身を引いてくれないか制止を呼び掛けた。
「あ、あの、そろそろ待ち合わせ場所に向かいませんか?議長さんを待たせるのは申し訳ないですし!」
「ああ、それもそうね。でもその前に一枚だけ、一枚だけで良いから写真撮らせて~!」
「は、はぁ」
その後カルラは一枚だけと言いつつ何枚も写真を撮っていた為、慌てて待ち合わせ場所に向かう事となった。
惑星アストリアに着いてから鳴鳥は初めて市街地へと赴く。軍本部もそうだが、アストリアの建造物はエーデル・シュタインと違い、近未来的なスタイリッシュなデザインであり、温かみは感じない。けれども夜景は鮮やかで、目を奪われるものであった。
鳴鳥とカルラを乗せたタクシーは繁華街のとある高層ビルの前で停止した。飲食店が多く軒を連ねる複合ビル、そこはこれまでの風景と違い、色々な星の文化が垣間見える外観の店が並ぶ。その内の一軒が予約をしていた店の様だ。
「ここですか?」
「ええ、そうよ。さ、入りましょう」
瓦屋根に漆喰の壁、入り口には巨大な招き猫の置物。そこは和風な飲食店…と言うより居酒屋であった。カルラも取調官のダニエル同様、鳴鳥の故郷の様子を知って気遣ってくれたのだろう。外観同様、店内も畳が敷かれており、障子で区切られた向こう側からは飲んだくれの騒ぎ声が聞こえてきた。店員に案内され、鳴鳥とカルラは奥の方、離れにある個室に通された。時間ギリギリであるが、議長はまだ到着していないようだった。
「そう言えばナトリちゃんはお酒飲める歳だっけ?」
「えっと、今18歳なのですが、私の住んでいた国では二十歳からお酒と煙草が飲めたり吸えたりします」
「んー。この星、と言うか連合ではどちらも18歳からOKなのよね。なら初のお酒いっちゃいますか?」
「え、わ、私は…その…」
鳴鳥の父親は接待でお酒を飲んで帰る時がある。その時の父はウザいことこの上ない。足にしがみついて「嫁になんか行かないでおくれ~」だとか言いながら酒臭い息を撒き散らして絡んできていた。その事があるせいか、どうにもお酒に対し苦手意識を鳴鳥は持っている。その事を知らないカルラは飲み易いのからにしましょうねとメニューに目を通していた。と、そこで閉ざされていたふすまの向こう側から声が掛った。しかしその相手は幼い少女の声であり、店員にしては若すぎると思い鳴鳥は首を傾げた。
「お待たせしました」
「ううん、私達も今来た所よ~」
ふすまが開かれた先に立っていたのは可愛らしい声に似つかわしい愛らしい少女である。彼女は鳴鳥と同じようなひらひらとした浅葱色のドレスに近しい洋服を身に纏っている。サラサラの銀髪が照明の光で輝き、その姿は西洋人形の様であった。彼女は鳴鳥の姿を見るとホッと胸を撫で下ろすようなしぐさをした。
「事前にお店の雰囲気を把握していなかったのでこの格好じゃ浮いてしまうと思いましたが、お仲間がいたようなので安心しましたわ」
「え、わ、私ですか?」
「ええ、可愛らしいですね、そのお洋服。とても似合っていらっしゃいますわ」
「そ、そんなこと無いです!えっと、貴女の方が良く似合っていると思います!」
「まぁ私の見立ては間違いなしで、二人とも可愛いのは間違いないわね!」
腰に手を当ててドヤ顔をしているカルラに対し、少女はニコリと笑みを浮かべる。そして彼女は上座に当たる席に座った。そこでようやく彼女が同席する予定である議長なのだと鳴鳥は知り、驚いて目を見開いた。
「初めまして。連合議会議長を務めております、ミリアム・ウーヌ・アストリアと申します。以後お見知りおきを」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。えっと、奈々…ではなくてナトリ・ナナツカと言います。えっと本日はお招きいただきありがとうございます」
「この席を設けたのはカルラなんですけどね」
「あ、そ、そうですね。カルラさんありがとうございます」
「どしたのナトリちゃん?もしかして緊張している?」
「え?!あ、はい…それはもう」
「ふふっ。正直なお方ですね」
クスクスと笑う愛らしい少女。どう見ても彼女が多くの星を纏める議会の議長には見えないが、当人がそう名乗ったのでそうなのだろう。それに、彼女は屈強な護衛を引き連れて現れた。護衛である男二人組は閉ざされたふすまの向こうで待機している。
「話をしたい所ですが、まずは食事にしましょう」
「さんせ~い!」
「は、はい」
「とりあえずビールをお願いします」
「あ、私も。ナトリちゃんはカシオレとか飲み易くて良いからこれにしとく?」
「じゃ、じゃあそれでお願いします」
「あとは―――」
ミリアムとカルラが率先してオーダーをする。注文してから数分も経たぬうちにお酒とお通しが届き、何故だかよく分からないが乾杯をして一口飲んでいた所で頼んでいたものが運ばれる。テーブルの上には彩り鮮やかなシーザーサラダに揚げたての鳥の空揚げ、尾頭付きの刺身の盛り合わせなどなど所狭しと並べられた。
「さぁさぁ遠慮なさらずに、どんどん食べて下さい」
「そうそう、今日は大事なお話があるから公費で落ちるので遠慮しないでね~」
「は、はぁ…。えっと、それでは遠慮なく頂きます」
大事な話があると言いつつもミリアムは酒を飲むペースを落とさず、箸も止まらない。それ以上にカルラは浴びるように酒を飲んでいた。初めてお酒を飲んだ鳴鳥はアルコール度数が低いため、普通に飲む事が出来た。けれども勢いよく飲み干すまでには至らず、ちびちびと口にしている。お酒はそれほどであるが、料理は故郷を思い起こさせるものばかりで、その味は全てが一緒ではなかったが、食べれた事が嬉しく箸が進んだ。
「カルラ、貴女そろそろ身を固める気はないのかしら?」
「いいえ、ありませんよ~だ。研究一筋ですし、こんな可愛い子たちと一緒に御飯が出来るなら独身で良いもんね~」
「カルラさん、美人なのに勿体ないですね」
「ん~!ありがとうナトリちゃわ~ん!!」
「え?あ、ちょっと苦しいですっ!」
感激したカルラは鳴鳥を抱きしめて自らの豊かな双丘に埋める。そのふかふか具合は心地よいものでもあるが、自分の枯れた大地の事を思うと無い胸が痛かった。
たわいもない話が続いた後、テーブルの上の皿も空になり、お酒をのペースが落ちてきた頃、ミリアムは人数分のデザートと水を頼んだ。ひんやり冷えた抹茶アイスとお冷は火照った体を落ち着かせてくれる。食事を終えた所でミリアムが咳払いを一つして本題に入った。
「今回ナトリさんに来て頂いたのには重大な用件があっての事です。本来ならもっとちゃんとした場所で申し上げるべきなのですが、この場になった事を先に謝っておきます」
「え~。それって私が悪いのかな~。それじゃあ次は洋食にしましょうか」
「わ、私はここのお店好きです。食事も美味しかったですし」
「あはっ!やっぱりナトリちゃんは良い子ね~」
「カルラ、貴女は少しの間、口を閉ざしていただけないかしら」
「は~い」
ミリアムに軽くたしなめられたカルラは不貞腐れたように返事をして抱きしめていた鳴鳥を解放し、水を一気に飲み干した。真剣な眼差しを向けてくるミリアムに対し、鳴鳥は佇まいを正す。
「ナトリさん、聖王星テレンティアの事は聞き及んでいますよね?」
その星の名を聞き、鳴鳥は一気に酔いが醒めて息を呑む。彼女はミリアムの問いかけに深く頷き答えた。
「私が住んでいた星、地球を滅ぼしたARKHEDを所有している星ですよね」
「そうです。星団連合としては無抵抗の星に対しての一方的な行いを赦しておくべきではないという考えなのですが、相手がどういうつもりで事を起こしたのかを明らかにしなくては手が出せません。そこで数日後にかの星へ潜入調査隊を送り込む事となりました」
「はい、そこまでは調査部のダニエルさんから聞いています」
「そうですか、話が早くて助かります。そこで、潜入捜査の結果次第では貴女にお願いしたい事があります」
「結果…次第ですか?」
「はい。その結果とはテレンティアと戦うべきだと判断した場合です」
戦うべき。つまりは戦争になる場合だ。実の所、未だに自分の星が滅ぼされたという事実に正面から向き合えていない鳴鳥は、かの星に対して恨みを抱いているかと言われると複雑な気持ちである。どちらかと言うと何故テレンティアが地球を滅ぼしたのか、理由を知りたかった。
戦争になった場合、ARKHEDと契約してしまった自分も前線に出るのだろうか?しかし軍人でも無く戦争を経験していないどころか、まともに戦った経験も無い鳴鳥に何ができるのだろうか?と思い悩みながらミリアムの言葉を座して待った。
「連合からの願いはその際、貴女に御旗を掲げて欲しいのです」
「戦いに参加するのではなく、御旗…ですか?」
「はい。戦争には大義名分が必要です。貴女は滅ぼされた星の生き残りであり、テレンティアへの報復を行う権利があります。そのような立場の貴女が連合軍を率いてくれれば士気も高まります」
「それって傀儡って事じゃない。ナトリちゃんのARKHEDならそこまで足を引っ張る事はないと思うんだけどな~」
それまで黙っていたカルラは鳴鳥の扱いに不満なのか、口を挟んだ。彼女の専門的知識からの意見のようだが、実の所女子学生が戦う姿を見たり、新しいARKHEDの戦闘データが欲しいという思惑もある。戦に身を投じること自体は問題ないようだ。そういったカルラの意見に対し反論を唱えたのはミリアムでなく鳴鳥であった。
「あの…。私なら問題ありません」
「あらそうなの?」
「貴女には断る権利もあります。その場合不利な立場に陥る事もありません。貴女の意志を尊重しますので、こちらの機嫌を窺うような事はなさらなくて結構ですよ」
あっさりと承諾する鳴鳥にカルラは驚き、ミリアムは優しく諭すように別の道もあると示唆をした。けれども鳴鳥の意志は固いようで揺らがない。それは膝の上に置かれた強く握られた拳から伝わってきた。彼女はミリアムを真っ直ぐと見据えて自分の気持ちを告げる。
「私は、私に出来る事がしたいです。連合の方々、皆さんにはよくして貰っていますし、何か恩が返したいと思っていました。その…御旗を掲げるといった事が具体的にどうすればよいのか分かりませんが、私に出来る事なら何でもします」
「…わかりました。献身的なそのお考えにこちらとしては感謝の言葉もありません」
恭しく礼をするミリアムに対し鳴鳥は慌てる。ミリアムは断る権利もあると言ったが、今の鳴鳥には彼女の要求に応えるしか出来なかった。むしろ自分など足手まといになると思っていたが、戦場に立てる事、誰かの役に立てると分かり嬉しくも感じた。
今回の話はあくまでテレンティアと交戦状態になった場合の事であると前置きし、ミリアムは今後の事は追って伝えると言った。話はここで纏まるかと思いきや、意義を唱えた人物がいた。それは酒に酔い、顔を赤らめて目をトロンとさせたカルラであった。
「んも~。ナトリちゃんは謙虚すぎ。こ~んなに可愛いくてか弱い女の子にそこまでの大任を任せるならそれなりの対価を払って貰わなくちゃ」
「え?!い、いいえ。私は今も十分良くして貰っていますし。そんな対価だなんて」
「なるほど。カルラの言う通りですね。戦が終わった際にはアストリアに居を構えられるよう手配しましょう。それから報奨金もお支払いいたします」
「そ、そんな…。なんだか申し訳ないです」
「いいのいいの!貰えるモンは貰っちゃえ~!」
「は、はぁ…」
家に大金に、普通の女子高生だった鳴鳥にとってはどちらも易々と手に入れられるものではない。戦場に、先陣に立つ訳ではなく、お飾りとしているだけにもかかわらず、それほどの対価を支払うと言ったミリアムは涼しい顔でさも当然だと言う態度である。しかし鳴鳥はあまりにも桁違いに感じる提示に委縮していた。カルラは軽く貰ってしまえと言うが、ここで安易に返事を返してしまっても良いのかと戸惑う。それと同時に鳴鳥にはある一つの願いがあった。その事を口にしても良いのかと悩むが、カルラが他にも何か要求が無いのかと絡んでくる為、ダメもとで希望を口にしてみた。
「あの…。私は家とかお金より、やりたい事…。ううん、確かめたい事があるんです」
「それは何でしょうか?遠慮せず仰ってください」
「私は知りたいんです…。テレンティアがどんな所か、地球を滅ぼしたARKHEDの搭乗者が何を考えていたのかを…」
「それなら数日後に潜入部隊が―――」
「待っているだけではなく、私も行きたいんです…!」
鳴鳥の言葉に驚きミリアムとカルラはポカンとした気の抜けた表情になる。これまで真面目な話をしていたが、カルラのお陰でどこか和やかな空気で在った場が一瞬にして変わる。しんと静まる座敷に鳴鳥は慌てて取り繕うような言葉を述べる。
「…えっと、やはりダメでしょうか。と、言うかダメですよね…」
返事はNOであると決め込んだ鳴鳥は俯き落ち込む。彼女は生意気で身の程知らずの事を言ってしまったと気付き、居た堪れない気持ちになる。どのような返答が返ってくるのか、恐る恐る相手の顔をのぞくが、ミリアムは以外にも笑顔であった。
「ダメではありませんよ。軍事教練を受けていない者が任務に就く事は本来なら認められません。しかし、貴女の能力を確認させていただいた所、軍学校入学レベルには達しています。それに、今回は同じく軍属ではなく、軍事教練を受けていない者も任務に同行する事ですし、貴女だけを無下に扱う事は出来ませんね」
「えっと…それはつまり…」
「任務の前には訓練を受けて頂く事になりますが、それでよろしければそのように任務部隊編成の調整を致しましょう」
「は、はい…!私、頑張ります!」
予想外の色好い返事に鳴鳥はパァっと表情を明るくして意気込んだ。その様子にミリアムとカルラは優しく微笑む。
「(テレンティアに行くことができる…!嘘じゃないよね。もしかしたらあのARKHEDの操縦者とも会えるかもしれない…!)」
今まで自分は非力で何も出来ないと諦めていたが、こうして希望を叶えられると分かった。気持ちは昂り握りしめた拳にさらに力が入る。
「よかったわね、ナトリちゃん」
「あ、はい…!ありがとうございます、カルラさん。ミリアム議長もご配慮いただきありがとうございます」
「私は相応の提示をしたまでです。寧ろ年端のいかない貴女に大任を任せる事となり、心苦しい所です」
「う~ん。やっぱりナトリちゃんはイイ子ね~。そんなイイ子にあんな事やこんな事をしたくなるわ…ハァハァ…」
「え?!あ…ちょっ…カルラさん女同士でそんな所…ダメです…っ」
「よいではないか~よいではないか~」
「ふふふっ」
「み、ミリアム議長、笑っていないでこの方を止めて頂け……ひゃんっ!」
その後、カルラは鳴鳥を無理やり引き連れて二軒目へと梯子。明日も早くから職務があると言うミリアムとは一軒目の店の前で別れた。
庁舎近くの居住区に向かって進む送迎車に乗車しているミリアムに警護の内の一人が声を掛けた。
「ミリアム様、あのような民間人を同行させるのは早計ではありませんか?議会への説明はどうなさるおつもりで?」
「議会には…そうですね、彼女をかの星に送り込むメリットを提示しましょう。仮に彼女がテレンティア内で命を落とせばこちらとしても弔い合戦、大義名分ができます」
「…なるほど」
「しかし、私は信じています。彼女の瞳には確たる意志の光が宿っていました。彼女なら成し遂げてくれるでしょう」
窓越しに流れる夜景を見つめ、ミリアムは鳴鳥の事を思い浮かべる。
「(新たなARKHEDと意志の強い少女。何かが変わるかもしれない―――)」




