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回想

 ほんの数年前から小説を書き始めた若輩者です。それに加え、あまり書いたことがない青春ものを書いてみました。至らぬところが多々ありますが、なにもかもが初ということを理由にせず、良いものを書けるように精進しようと思います。

 僕はこう思っていた。


 夢に向かってひたすら突き進む。

 誰もがポジティブにとらえるだろうこうした気持ち。

 だけど、そんな簡単なことではない。夢をかなえるというのは、なによりも自分勝手な行動なのである。夢をかなえるという言葉は、言いかえれば我を通すということだ。何よりも自分の道を優先して、突き抜けていくということだ。バカだと言われ、ウザいと言われ、いい年して夢なんてと嘲笑されてもなお、夢や憧れなどという戯言を吐き続けることが出来る人間。

 それが、夢をかなえる人間なのだと僕は思う。

 夢といえるような憧れの感情を、僕は持ち合わせたことがない。そんなものは必要ないと思っていたし、夢なんてただの重しで、年を重ねるたび、現実から逃れるための言いわけに変わっていってしまうだけのものだ。それなら、そんなものは持つ必要はない。夢なんかなくても生きていける。平凡な人間は平凡に生き続けるし、一部の天才と呼ばれる人間たちは、九九%の努力と、一%のひらめきがあったから今の自分があるという甘い言葉で人々を迷わせていく。

 はき違えてはいけない。凡人と天才の決定的な違いは、積みに積んだ九九%の努力ではなく、一%のひらめきなのだ。

 僕はそれを知っている。身近にいる天才からそれを学んだ。その謙虚な天才は、夢を見つけるわけでも、夢を掴むわけでもない。人々が羨望の眼差しを送る「夢」が、向こうからやってくるのだ。

その理不尽さを僕は知っている。だから、夢をみない。夢なんて夜みるもので、現実に持ち込むものじゃない。


 そして、今僕はこう思っている。

 夢を見るのも案外悪くないんじゃないかと。

 別に、達観した気になっていた若者が、なんらかな才能を開花させたというサクセスストーリーを歩んだわけではない。僕は今でも世の中のことを見据えた気になっている痛い奴だし、達観した気になって、道行く人と自分を比べて、「僕はこいつらとは違う」なんて痛い事を考えてもいる。

 単に夢を見るってことは、最低だけど最高でもあるってことを知ったというだけ。

 ある女が僕にそれを教えてくれたってだけのこと。

 朝起きて、思いっきり伸びをする時に、ふと思い出すのが彼女の顔。

 今日からゴールデンウィーク。長くもなく短いともいえない中途半端な休み期間。せっかくだから、僕はこの中途半端な休み期間を、回想に使おうと思う。机の引き出しからノートとシャーペンを取り出して、少しずつ記憶を掘り返しながら、僕はペンを走らせる。


 初めて彼女と出会ったのも、確か4月だったな。

 4月7日。ラッキーセブンな日。そんなことを言っていた気がする。

 僕は、その時のことを思い出し、少し笑う。まずは、そこから書き始めよう。


                      


                   ※



4月7日、土曜日。土曜ということで学校は休み。僕は特にやることがないので、外をぶらぶらと歩いていた。外はまだ暖かいとは言えないけれど、少し春らしい陽気になってきたとは思う。風はまだ冷たいが、日差しは暖かい。歩くには丁度いい気候だ。僕は着ていたジャケットのジッパーを下げ、深呼吸する。深呼吸は次第に欠伸に変わっていった。

「眠い」

 休みの前の日というのは、何故夜更かしをしてしまうのだろうか。せっかくの休みが、睡眠で浪費されるというのは凄く勿体ないではないか。だが、分かっているのにやめられない。今日は少し早く目が覚めたので、二度寝する前にこうして外にでたわけだけども、結局強烈な睡魔に襲われてしまった。

 しかし、このまま家に帰るのも癪だ。帰宅してベッドに寝転がったら、3秒で寝る自信がある。それでは、勿体ない。

 そんな事を考えていると、公園が見えてきた。しょぼい滑り台と、ぼろいベンチ、何年も前から修理中のブランコしかない寂れた公園だ。少し歩けば大きな公園があるので、ほとんど人はそっちに行く。僕は、「しめた」と思った。この公園で寝てしまえばいいではないか。丁度良く、ベッド代わりに出来るベンチもあるわけだし、例え寝てしまっても、外、それも公園で寝たのだから、決して無駄では無い。いい年してこんなところで昼寝なんてと思われるのだから、極めてイレギュラーな休日を僕は過ごしたことになる。

 僕は、軽い足取りで公園に向かい、着ていたジャケットを毛布代わりにして、ベンチに寝転がる。

「かてぇ……」

 ベンチはごりごりとしていて、寝心地は最悪だった。背中が痛くなりそうだなと考えつつも、やはり三大欲求のひとつである睡眠欲。そんな不快な感情もゆっくりと溶けていき、僕の意識は眠りの世界へ落ちていった。




「…あ…は……」

 遠くから声が聞こえる。

「あたし……かな……ゆ」

 妙に力強い声だな。頭の中に直接響いてるみたいだ。

 僕はゆっくりと目を開ける。頭に響いた声。それが幻聴かどうかを確かめようとしたのだ。幻聴だったら、また寝直せばいい。そう考えて、僕は起き上がる。

 毛布代わりにしていたジャケットが、するりと下に落ちる。

「おっとと」

 僕はそれを慌てて拾い上げる。ジャケットを拾い、少し視線を上げると、足が見えた。

 少しずつ、視線を上へ。

 膝から太ももへ。ホットパンツをはいている。

 太ももから腰へ。随分と可愛らしい感じの服を着ている。

 腰から……もうやめよう。これでは僕が変態みたいではないか。

 一気に視線を上げ、顔を見る。古臭い映画の様な言い方だけど、その時、僕の心にびびっと電気みたいなものが走ったように感じた。

 それは、視線をあげると、そこに可愛い少女が立っていたということと、その少女が僕の方を真っ直ぐみつめていたからだった。なんというか、その瞳がまっすぐすぎて、僕はその瞳を見つめてしまっていた。

 しばらくして、僕は見知らぬ少女の目を見つめるということがどれだけ恥ずかしい行為であるかを思い出し、慌てて目をそらした。少女は、なにも言わない。微妙な空気が流れていくのに耐えきれなくなった僕は、ジャケットを手に取り、彼女の脇を通り抜け、公園を去ろうとした。

「ごめん」

 すれ違う時にそう言い、一気に走りぬけようとする。だが……

「ちょっと待って」

 少女の声が、僕を引きとめた。

「なに?」

 僕は振り返り、少女の方を見る。

「今、暇? まあ、こんなところで寝てる位だから暇だろうね」

 少女はそう言って笑う。瞳と同じで、少女の笑顔はきらきらしていた。少女は僕に近付き、手をとる。

「な……なに?」

 慌てる僕をニヤニヤみつめながら、彼女は言った。

「あのね、私の演技みてくれない?」

「え?」

「演技の練習に付き合ってって言ってるの」

 いつの間にか風は止み、暖かい春の陽気が周りを包んでいた。

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