追憶(43)VS 金色の魔草
(くる!)
可視化した魔力が、金色に光る粒子となって集まり形作られたのは――――背の高い、辺り一面に生えている草。魔草だ。
だが、明らかに他の魔草とは違う。
高さは、他の魔草と比べると一回り、いや二回りは大きいか。
全体が薄っすらとした金色の光に包まれているので、見た目は美しい。だが、その美しさは、同時に人を惑わせる「何か」を纏っていることが分かった。
他の魔草と同じく、当然だが目も口もない。
しかし…………
その「金色の魔草」は、確かに俺を見ていた。じっと……静かに……
すでに辺りには夜の帳が下りている。だが、空に浮かぶ三つの月は、その帳を払うかのような光を辺り一面に満たしていた。金色の魔草の影が地面でゆっくりと揺れているのが見える。
生暖かい風が俺の顔を撫でていく。その風で金色の魔草」の葉が揺れる様は、俺に向かって「近くにおいで」と告げているように感じた。
だが……
金色の魔草には、普通の魔草とは違う威厳が溢れているのが分かる。いや、違うか。威厳と言うよりもプレッシャーかもしれない。
「【かんてい】!」
何か異様な状況がないかを確認しておこう。
種別:ゴールド・マジックグラス(ダンジョンボス)
レベル:1,608
攻撃力:16
魔力 :8,114,935
防御力:5,500,805
精神力:6,064,234
運 :1,608
スキル:マジックイレイズ、デスグラント(★★★★★)
な、なるほど……
かなり尖ったステータスだ。
攻撃力が16? 物理的な攻撃力が皆無ということか。まあ、動くことができないようだからこれはそうなのだろう。
魔力や防御力、精神力は7桁ある。
師匠の話では、人族だったら6桁ある人が僅かしかいないと言っていた。金色の魔草が持つ7桁の数値を上回るためには、よほど強力なスキルを持つ者でないと届かない。というか、戦いにすらならないんじゃないか?
一か月前の俺なら、各ステータスは5万台だったから同じく手も足も出なかった。今なら35億を超えているから大丈夫だろうけれど。
その時――
『否!!、行動を。魔力全損まで、残り50秒です』
【かんぱ】の叫びが脳裏に響き、俺はハッと我に返った。
『49秒、48秒、』
【かんぱ】のカウントダウンを聞きながら急いでステータスを確認すると、35億を超えていたはずの魔力が、すでに2,700万台になっていた。
(やばっ! そうだった!)
こいつは、2秒ごとに魔力を半減させているんだった。スキルの「マジックイレイズ」の効果だ。さっき、見たときに★がついていなかった。階層ボスの「銀色の若芽」も、同じような魔力を減らす力を持っていた。ということは、ひらがなスキルのように、ボス固有のスキルなのかもしれない。
危ない、危ない。少し額に冷たい汗が浮かんだのが分かる。
一つ目の課題に取り組む前に、敗れるところだった。
『――42秒、41秒、』
【かんぱ】のカウントダウンが進む中、俺は急いで金色の魔草に近づくと、ガシッと茎を掴んだ。
淡く纏う金色の光が慌てたように揺れる。
『――38秒、37秒、』
目に見えない何かが俺の体を貫こうとして弾かれのが分かった。
【かんぱ】が言っていた、即死させるスキル――デスグラント(★★★★★)を使ったようだ。もちろん、防御力、精神力が35億を越える俺は、★5であろうとも完全にレジストできるから問題ない。
デスグラントの効果がないことが分かったのか、金色の魔草が大きく揺れたのが分かった。もしも顔があったなら冷汗が見えたかもしれない。
『――32秒、31秒、』
警告のカウントダウンを聞きながら、俺が掴んだ茎を思い切り引っ張ると、ほんの僅かな抵抗を手のひらに感じた。
だが、それも一瞬で、甲高い悲鳴のような音が脳裏に響くと――――俺は金色の魔草をスポッと大地から抜いていた。
『――――討伐、完了です』
体をジュワンとした感覚が包む。レベルアップだ。
確か【かんぱ】が、この世界で最高のステータスを持つ生き物は、1,000万弱の攻撃力を持つドラゴンだと言っていた。
ということは800万台の魔力を持つこの金色の魔草は、この世界で上から数えた方が早いランクにいると考えてよいはずだ。
普通なら、膨大な経験値(で良いのだろうか?)を得られる敵であるはずが、俺の場合、得られる経験値は金色の魔草でも普通の魔草でも、同じ「1」。
そう考えると、ちょっともの悲しさが沸き上がってきたかのように思えた。
まあ、俺はその「1」さえあれば、ステータスがアップするんだけれどね。
とにかく、これで一つ目の課題は完了したと考えてよいだろう。
討伐までにかかった時間は、30秒強。俺は、あまりにあっさりクリアできたことに若干の戸惑いを覚えながらも、急いで、次の課題に意識を向けた。
これから、俺の地球での記憶が蘇ることになる。帰還をしなければ理由を知ったとき、果たして俺は、それを受け入れないでいられるのだろうか?
ブルブルッ
身が震える。
正直、恐怖を拭いきれないが、だがここで地球に戻りたいという意識に囚われたまま「選択の時」を迎えると、誤った選択をすることになる。
俺は強く葉を食いしばった。
(俺の願いはなんだ!? そう、俺の願いは師匠を救うことだ!! 忘れるな!!!!)
強く強く、自分に言い聞かせる。
俺は、抜き終わった金色の魔草を手に握ったまま、記憶が蘇る時を待ち構えていた。
だが…………10秒、20秒、そして一分が経過したはずだが何も起きない。
「【かんぱ】、どうなって――――」
【かんぱ】に状況の説明を求めようとした俺は、ふと目の前にあるものが浮かんでいることに気がつき、言葉を止めていた。
(こ、これは…………)
目の前には――半透明のボードが浮かんでいた。
俺は、いつの間にか手にした金色の魔草を地面に落としていた。そして、ボードに書かれていた文字を読んだ。
《「運」のステータスを使用しますか? Yes No ▽残り時間60秒》
(え? な、なんだ、これは……)
俺は、頭が真っ白になったのを自覚しながら、ただ、目の前に浮かぶ半透明のボードを見つめていた――――




