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ぷらすわん ~1しか上がらないけれど、最強が目指せます~  作者: 雷風船
第一章 運命の扉

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追憶(38)12億本


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 荒い息の中、俺は辺りを見渡した。


 見当識障害が起きたのか、ここがどこかが分からない。


 ベットの脇にあるサイドテーブルには、小さな灯りが置かれ、ほんのりと淡く部屋を照らしている。


 俺の吐く息以外の音は何も聞こえない。


 静かな部屋だ。


 上を見ると、木が入り組んだ天井が見える。


 そして――――


「――――そ、そうだ!!!!」


 唐突に俺は、今の自分の状況を思い出していた。


(そうだ、今日は師匠を救えるかどうかの最終日だ!)


 何をしなければならないのか、もちろん分かっている。


 だが、その前に――――


 俺は、宙を見上げながら呼び出した。


「【かんぱ】」


『是、なんでしょうか?』


 呼び出したときの答えがスムーズに返ってきた。

 まあ、当たり前か。【かんぱ】はスキルだし、寝ていたわけじゃないから、寝ぼけないか。


 おっと、今はこんなことを考えている場合じゃなかった。


「【かそく】を使った場合、もっともベストな形で魔草を抜く方法は?」


 そう、つい今しがたの夢の中で、俺は【かそく】のスキルでスピードを上げながら空を飛んでいた。


 今いるこの緑島では、魔草原による影響で【ひこう】のスキルが使えるのは、師匠のトネリコの木の周囲だけだった。だから、これまで夢で感じた猛スピードを出したことはなかったし、【ひこう】のスキルで試したことがあるのは、ただ宙に浮くことだけ。


 だが、夢の中で俺が【かそく】を使って出したスピードは、時速500万キロ以上。

 それも、限界ではなく、どんどんそのスピードを上げることができた。


 当然だ。【かそく】のスキルは、最大限であれば、限りなく光速に近づけるスピードが出せる。それも、質量に関係なく。


 ということは、【かそく】のスキルを使えば、俺自身の動く速度を大きく上げることができる。そしてその大きく上げられる速度は、前に進むということだけでなく、魔草を抜くスピードも同じなはず。


 今まで思いつかなかったのだが、そのスピードで魔草抜きチャレンジを行えばどうなるのか? おそらく、とんでもない数を抜くことができるんじゃないだろうか?


 魔草原は魔力により発動したスキルを、魔力を散らすことでキャンセルさせる働きがある。

 だが、そのキャンセルの対象は魔力だけだ。一度、動き出した物理的なエネルギーまでもキャンセルできるわけではないはず。そのエネルギーの維持自体に、魔力が関わっているわけじゃないからね。


 つまり、【かそく】を使って猛スピードで魔草原に突入すれば、【かそく】のスキルはキャンセルされても、いったん加速されたスピードがキャンセルされることはないはずだ。


 そして――


 その俺の考えが正しかったことは、【かんぱ】のスキルが教えてくれた。


『――是、光速の99%を基準に発動させた【かそく】のスキルにより得られる運動エネルギーは、10の7乗メガトンになるため、スキルがキャンセルされても一定距離を進むことができます。同時にその速度で魔草抜きチャレンジを行った場合、腕への負担、その回復、往復に必要な準備時間を考える必要があります。それら諸々を考慮すると、海に向けて加速、一定地点で往復しながら魔草を抜くのが最善の選択肢です』


 どうやら、俺が考えた方法は正解のようだ。


「【かんぱ】、その方法で一時間に抜ける魔草の数はどれくらいだ?」


『是、今のステータスを考えると、魔草は触れるだけで抜くことができます。一回の加速で抜ける魔草は100万本プラスマイナス1万本、一時間当たり100回の試行が可能です。したがって、一時間で抜ける魔草の総本数は、1億本プラスマイナス100万本と推測します』


 期待値は1億本、か……十分だろう。

 あとは、一応念のために確認しておこう。


「【かんぱ】、海に向けて【かそく】を使って走った場合、海上のどの地点で折り返すのがベストだと思う?」


『是、海岸から3キロプラスマイナス1キロがベストです。それ以上進むと、島影を見失う恐れがあります。なお、3キロ地点では、魔草原の魔力に対する干渉は効力を発揮していませんので安全です』


 よし、これならば俺が考えた作戦が使える。


 心配だったのは、【かそく】を使って魔草原に突入した場合、【かそく】のスキルそのものはキャンセルされてしまうので、すでに得られている運動エネルギーでどこまで到達できるのか、ということだった。

 もしも、魔草原内で止まるようなことになれば、魔力が散らされる魔草原では再び【かそく】を使うことができないし。

 だが【かんぱ】は、魔草原の魔力を散らす影響を受けない海上までたどり着くことができると教えてくれた


 海上でも、俺は【ひこう】のスキルが使えるから、魔力が使える場所なら溺れる心配もない。いざとなれば、【かいてき】も使えるからね。


 俺が考えた作戦は、単純な作戦だった。


 島の中心地であるこの場所から海岸線までは約1,500キロ。俺の今の50万を越えたステータスなら、【かんぱ】が予想したように、魔草は触っただけの勢いで抜くことができる。

 だから俺は、【かそく】を使って俺自身を加速させて、魔草に触れながら一気にこの島を縦断しようと思った。


 そして、それは可能なことが分かった。


 一度の【かそく】で、100万本の魔草が抜けるなら……抜いた魔草を集めることはさすがにできないが全く問題ない。大切なのは、抜き終わった魔草じゃない。魔草を抜くという行為だ。


「【かんぱ】、俺が99%の【かそく】を使った速度で魔草抜きを行った場合、注意点はあるか?」


『是、ウラシマ効果で相対時間が異なります。光速の99%の速度で動いた場合、約7倍の時間が経過します。ほぼ問題はありませんが注意は必要でしょう』


「7倍? それが――――」


 どうした、と言いかけた俺は【かんぱ】が何を言いたいのかに気がついた。


 光速に近づけば近づくほど、時間の歩みは遅くなる。特殊相対性理論の「ウラシマ効果」だ。

 光速の99%で7分の1遅くなるなら、俺の経過時間に注意が必要だろう。


 もしも気がつかずにいつもと同じように18時間の魔草抜きチャレンジを行ったら、この島では126時間が経過していることになる。


 もっとも、その前提は、18時間全てを光速の99%の速度で動き続けていた場合。


 実際には、例えば海上で停まったとき、【ひこう】のスキルを発動させる時間が必要だし、帰りの【かそく】も発動させなきゃいけない。

 それに、新しく生えたスキルも、簡単にチェックする必要があるだろう。


 光速の99%の速度で動いている時間は、1,500キロしかないから、一度の【かそく】で約0.005秒ぐらいか。


【かんぱ】は、その往復の準備時間を考慮して、一時間で100回の試行と計算していたようだ。


 100回×0.005秒×7倍と考えると、実際、「ウラシマ効果」により余計に経過する時間は一時間あたり数秒ぐらいじゃないかな。


 ほとんど無視してよい時間だ。念のため、終了を一時間早くすれば問題ない。


【かんぱ】が、「ほぼ問題はない」というのはその通りだ。まあ、注意を向けておくことを忘れてはいけないけれど。油断は大敵。


「ありがとう、【かんぱ】」


『どういたしまして』


 感謝を込めた俺の言葉に、【かんぱ】が返した返事は、少し照れているように感じたが気のせいだろうか?


 というか、「ウラシマ効果」がこの世界での通用するということは、この世界の物理法則は、地球と同じ、あるいは非常に似通っているということか。


『留、同じ法則、違う法則、いろいろです』


「…………」


 今、【かんぱ】のこと呼んでないよね? もしかすると、俺の心を読んだ?


 …………まあいいか。あまり深く考えないでおくとするか。ちょっと人間味があった方が、親しみやすいし。


 それよりも……


 考えなければならないのは、これからの行動のこと。


 最終日、光速の99%の速度で動きながら魔草抜きチャレンジを行った場合の期待値は、魔草抜きチャレンジを12時間行うとした場合、12時間×100回×100万本で12億本。

 レベルが12億も上がれば、なかなか生えなくなっているとはいえ、さすがに複数のひらがなスキルが生えてくれるんじゃないだろうか? 1,000万で一つと考えるとその期待は120個、1億に一つしか生えないとしても12個。


 あとは、その中に希望するひらがなスキルが生えてくれるのを願うだけ。


 俺の運は、今、10万単位だし、レベルが上がれば上がっただけ運も増えていく。


 その運が「仕事」をしてくれることを祈っておこう。


 時計を見ると、時刻は夜中2時。


 まだ真夜中だ。


 でも、新しくできることが分かった今、いまから二度寝などしていられない。1分でも2分でも多くの時間を使えれば使うほど、ひらがなスキルが生えるチャンスが生まれるのだから。


 俺に「予知」のようなスキルは生えていないが、最終日に【かそく】のスキルの働きを夢で見たのは、これは「夢のお告げ」のようなものなかもしれない。

 そして、その夢で【かそく】のひらがなスキルを使うことを気づかせてくれたのは、もしかすると、俺の50万オーバーの「運」が働いていくれたからではないだろうか?


 俺は、ベットから降りると、最終日のチャレンジに向けた準備を始めることにした。



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