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ぷらすわん ~1しか上がらないけれど、最強が目指せます~  作者: 雷風船
第一章 運命の扉

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追憶(19)おんがく



 その日の夜。


 いつものように、広い浴槽に師匠と一緒に並んでつかった俺は、なるべく視線を師匠に向けないようにしながらふと思ったことを尋ねた。


「師匠?」


「何?」


「師匠も、ひらがなスキルを持っている、と言っていましたよね?」


「ええ。持っているわよ。私もルイと同じくギブスキルだったわ。この世界に転生した最初から与えられえていたの」


「そのひらがなスキルって、聞いてもいいですか?」


「もちろん、別に隠すつもりはないわ。私が持っていたひらがなスキルは『おんがく』よ」


「え? 『おんがく』って、音を奏でる音楽?」


「そう、その音楽よ」


 おお。師匠はどんなひらがなスキルを持っているのだろう、と思っていたけれど、想像していたより、随分と斜め上のスキルだった。


(ああ、だからもしかすると……)


「最初に師匠に会った時、歌ってくれたのは?」


「そうよ。私の『おんがく』スキルは、いろんな状態付与の力があるスキルなの」


「状態付与?」


「ええ。簡単に言えば、強力なバフ、デバフスキルと考えてよいわ。他にも集団で相手を眠らせたり回復させたりすることもできるわ」


 おお、それは凄い。音楽が届く範囲であれば、広範囲に効果を与えることができる、ということか。


「強力なスキルなんですね」


「それほどでもないのよ。必要条件として、音楽を聞かせないとダメだし。それに、力の発動までにどうしても時間が必要になるわ」


 ああ、そうか。効果を相手にもたらすためには、一定の時間、音楽を聞かせる必要がある、といいうことだ。


「一曲、歌う必要があるんですか?」


「いいえ。一つの『おんがく』として認識させられたら良いのだけれど、手っ取り早いのはやっぱり、歌うよりも演奏の方がいいわね」


「演奏?」


「そう。歌は歌詞も効果に影響を与えるから、どうしても長くなりがちなの。演奏だったら単純に音を聞かせれば良いから、短い時間で効果を与えられるわ」


「なるほど。ちなみに、師匠は何の楽器で演奏していたんですか?」


「そりゃ、もちろん……メインはカスタネットよ」


「は? カスタネット?」


「考えてみて。例えば戦闘中に、戦闘力を上げる状態付与を与えようと思ったら、どれだけ短い時間で与えられるかが勝負になる――ということよ。わかるかしら?」


「時間?」


 分かったような分からないような……

 戦闘前ならゆっくりと楽器で音楽を奏でるのもありなのだろうけれど、戦闘中なら時間が勝負になるということ?


「そう、時間なの。私の『おんがく』スキルは、相手に音を届ければ効果を示せるわ。カスタネットだったら持ち運びも簡単だし、リズムを使って音を伝えられるから、戦闘向きだったのよ」


「でも、短時間で効果を与えると、その効果は弱かったりしなかったんですか?」


「もちろん、しっかり演奏したり、最後まで歌った場合ほどの効果は示せないけれど、元が『ひらがなスキル』だから、効果は十分だったと思うわよ」


 そうか。ひらがなスキルは、同じ効果を持つ普通のスキルの★5レベルよりも強力だったっけ。


 だったら……


「……もしかすると、死んだ人でも生き返らせることができるとか?」


「残念だけれど、地球と同じで、死んだ直後なら場合によって蘇生させることができるスキルはあるけれど、RPGのゲームであるような完全な死者を蘇らせるスキルは、この世界にはないわね。簡単に言えば、魂が肉体から離れてしまうまでは、蘇生のチャンスがあるといった感じかしら」


「そうなんですね……」


「それと、簡単な予知のスキルもあるけれど、100%ではないし、時間を戻ったり進めたりスキルも見たことがないわね。もちろん、私が見たことがないだけで、本当はあるのかもしれないけれど…………」


「スキルの力は万能じゃない、ということ?」


「スキルがどうこうじゃなくて、世界の成り立ちが万能というカードを用意していない、と考えた方が良いかもしれないわね。私は、この世界は……いえ、この世界だけじゃなくて私たちが元いた地球もそうだけれど、必ず始まりと終わりが存在しているということが世界を成り立たせている絶対条件だと考えているの」


「始まりと終わり?」


「そう。全ての事象には、必ず始まりがある。そして、始まりがある事象は同時に必ず終わりも存在する、ということね」


(うーん、難しい……)


「この世界は、地球で作られていた異世界の話と全てが同じじゃない、と思っておけばいいわ。まあ、でも地球ではあり得なかったこともたくさん、この世界では現実として味わえるけれどね」


「あり得なかったことって……魔法とか?」


「そう、魔法もそうね。ダンジョンとか魔物や魔獣もそう。スキルも。当たり前という常識は、少し横に置いておいた方が楽になるわよ」


「なるほど……」


(常識、か……)


 常識に固執した場合の危うさは、俺の知識の中にある。宗教戦争もお互いが持つ「常識」の違いにより生じたと言っても良いのではないだろうか?


 俺が持つ常識=正しいこと、という認識は、この世界では誤っていることがあることを肝に銘じておくべきかもしれない。


「そういえば……師匠って、レベルはどれくらいなんですか?」


 師匠のレベルは、前から俺が尋ねたいと思っていたことだ。


「私? ふふふ。どれくらいだと思う?」


「どうでしょう……500ぐらい?」


 確か、レベル500以上がたまに現れると言っていたはず。


「私のレベルは最終的に1,000に少し届かないぐらいだったわ。987ね。ステータスは8万ぐらい。ただ、運が20しかなかったの」


 少し師匠の声に寂しさが滲む。


 師匠のレベルが思ったよりも高くてびっくりしたけれど、俺はその師匠の声色が気になった。


 1,000近いレベルで、ステータスも8万あったなら、間違いなく師匠はこの世界のトップクラスだったはず。それこそ、片手で数えられるぐらいのポジションなんじゃないだろうか?


(なぜ、師匠は「木」になってしまったのだろうか?)


 だが、俺はその言葉を口にすることができなかった。


 少しの沈黙。


 ポトリ


 浴室内に、何かの雫が落ちた音。


「――――ルイ。望むものが手から零れ落ちる、という思いを抱えないよう頑張るのよ」


「……はい」


(零れ落ちる、か……)


 師匠は、何かを自らの手から零れ落としてしまった経験があるかもしれない。


 ただ、俺はそれが何かを尋ねる勇気がなかった。


 再び沈黙が浴室内を覆った時、俺は何かを喋らないとと思い、ふと前から疑問に思っていたことを尋ねることにした。


「ところで……師匠の職業って、なんだったんですか?」


 俺の職業は伏字だから分からない。唯一のヒントは■が4つなので、4文字かもというところか。


 ただ4文字の職業だが、簡単には思いつかない。錬金術師、暗黒騎士、黒魔術師や白魔術師、あるいは魔物使い?


 うーん、どれもパッとしないなぁ……「ぷらすわん」のスキルに近い職業が全く思いつかない。


 そして師匠だが……最初、師匠は勇者とか賢者とか、主人公クラスの職業なのでは、と思っていた。でもギブスキルが「おんがく」だったから違うように感じる。


 というか、「おんがく」なのだから「音楽家」?


 いや、まてよ? もしかすると、とんでもない職業が考えられないだろうか? 例えば「神」や「英雄」、いや女性だから「女神」や「天女」かも……


「私? 私の職業は、芸術家よ」


 ……うん、ごくごく普通だった



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