俺は悪くない……はず?
「ふぅ」
終わったかな?
【まっぷ】で確認すると、赤い点が薄くなっている。まもなく消滅しそうだ。
セシリアを示す白い点は、じっとしたまま動かないけれど、特に問題はない。
ミスリル弾を真上から隙間なく、雨のように降らしたのだが、どうやら上手くいったようだ。
よかった。
俺は扉に手を当てて、ゆっくりと押した。
ギィーーッ
軋む音を立てた木の扉がゆっくりと開く。
そして――
部屋の中にいるセシリアが見えた。
(え!?)
彼女も俺に気がついたようだ。
「ルイ!!!」
立ち上がって、俺に向かって駆け出してきた。真っ裸で(・・・・)。
「ストップ!!!!!」
俺は右手を上げて急いでセシリアを止める。
「え? どうしたの?」
「ふ、服……」
「…………」
ようやくセシリアも、自分の状況に気がついたようだ。
みるみる顔が真っ赤になって……
「キャーーーーッ!!」
その場にうずくまった。
……うん、俺は悪くない――――はず。
■□■□
5分後。
「ご、ごめんなさい」
「いや、俺の方こそ、気がつくのが遅くなったから……」
服を着た、まだ真っ赤なままのセシリアが俺に向かって頭を下げていた。
俺も、横を見ながら頬をかく。
「け、怪我とかしていない?」
「え、ええ、平気よ。ルイがかけてくれた【まもる】だったかしら? スキルのお陰ね」
「なら良かった」
ようやく少しずつ、普通の会話が成立し始めた。
ふぅ。
セシリアの向こう側では、迷宮ボスが黒い靄に姿を変えている。よく分からないけれど、この現象が、スタンピードボスだったファイヤーシープが転移したアンラビフォン迷宮前で瘴気に変わったのと関連しているなら、この靄が瘴気であってもおかしくはないが、ただの魔素だ。
しかも、討伐されたゴッドシープは、ファイヤーシープよりも遥かに強い魔獣になっていた。
この部屋に元からいたのはSSランクのサンダーシープだったはず。
それが、なぜゴッドシープに変わったのか、そして他の魔物たちが迷宮内から姿を消したのはなぜなのか、そしてこのファイヤーシープが転移で消えた後に、この迷宮内へと戻っていった魔物たちがどうなったのか、わからないことだらけだけど、とりあえずこれで一区切りはついただろう。
「そういえば、この服は……誰の服なの?」
セシリアに渡したのは、スキッパーシャツのような七分袖のシャツと、バミューダパンツのようなひざ元まであるゆったりとしたパンツ。色はシャツがネイビーでパンツがグレー。大人っぽいトラッド感は、セシリアに合っていると思うのだけれど……
「き、気に入らなかった?」
「え? そうじゃないわ。とても気に入ったわ。ただ――」
「ただ?」
「これまでは、ルイの大切な人が来ていた服なのかな、って思っただけ」
(は?)
俺は慌てて手を振った。
「ち、違う。これは俺が着るために用意していた服なんだ」
「え? ルイって……まさか、そういう趣味があったの?」
「待った! ち、違うから!」
何か変な誤解をされている。
「そ、そうじゃなくて、俺には変身できるスキルがあるから、それを使ったときのために準備していただけ!」
あれ? これじゃまるで俺が女性に変身する趣味があるように思われるかもしれない。
「一応言っておくと、いざというときのためのものだからね。一度も、その服には袖を通したことがないから!」
それから、セシリアの誤解を解くのに、しばらくの時間がかかってしまった……
■□■□
(ふぅ)
いろいろと変身してみせることを約束して、なんとか収まった。
「そういえば、ここはボス部屋でよかったのよね?」
「うん。間違いない。急いでここまで降りて来たら、扉が開かなくて少し焦ったけれどね」
「あの無数の弾のようなものも、ルイのスキルだったの?」
「うん。【しゅうのう】に入れてある、光速の1,000分の1のスピードまで加速させておいたミスリル弾を取り出したんだ。100万発ほど」
「え? 収納? 加速? 光速の1,000分の1に加速したミスリル弾を100万発?」
セシリアが目を白黒させている。
「全部出したら、1,000万発以上あるけれど、このボス部屋の広さだと、そんなに打ち込めないからね。ああ、もちろん、セシリアは【まもる】のひらがなスキルを使って守っていたよ」
「え、ええ。それは分かっているわ。でも1,000万発も収めているなら、もしかすると、ルイの収納って無制限なの?」
どうやら、セシリアが目を白黒させていたのは、スピードや威力でなくて、1,000万発という部分だったようだ。
そういえば、普通の【収納】スキルは、★4でようやく体育館ぐらいの大きさしかなかったんだっけ。
「ほら、前に話したよね? 俺のスキルには異世人に現れる特殊な『ひらがなスキル』があるって」
「そうなのね」
「うん。【収納】の普通のスキルだったら、★5まで成長させれば100キロ四方ぐらいの広さになるんだけれど、ひらがなスキルの【しゅうのう】は、その★5の【収納】スキルの約――――うーん、難しいんだけれど何兆倍じゃすまないぐらいの大きさがあるんだ。事実上の無制限?」
どうやら、セシリアには正しく伝わっていないようだ。
もちろん俺にも説明が難しい。
太陽系の広さは一辺が約2光年(約19兆キロ)、と言われていた。その広さの立方体をに100キロ四方のサイコロが何個入るかと計算すると、1,900億×1,900億×1,900億になるから、68溝5900穣個となる。
「溝」や「穣」なんて単位は、地球でも、まずお目にかかることがなかったからね。
それだけの広さの空間を、埋めきることなどできないから、事実上の無制限、と言っても大丈夫なはず。
「ふーん」
十分な説明にはなっていなかったけれど、セシリアはどうやらそれで満足してくれたようだ。
「あのボスって、めちゃくちゃ強かったのよね。それをあっさり倒すことができたんだから、そのミスリル弾って凄いのね。というか、それが当たったのに私は全然平気だったから、【まもる】も凄いわ」
「ははは。とにかく怪我無く無事に倒せてよかったよ」
ホント、ボス部屋に入れなかったときはどうしようかと思ったけれど、上手くいって良かった。
「セシリアは、1階層にあったあの部屋から、このボス部屋に転移で飛ばさたんだよね?」
「ええ。気がついたらここにいたという感じかしら」
「体に異常は感じない?」
「大丈夫よ。というか、絶好調かもしれないわね。レベルも上がったようだし」
罠の効果は「転移」だけだったようだ。よかった。
そして討伐により得られる経験値だけれど、あれだけの強さの魔獣だから、相当なものがあったはず。俺のレベルはいつも通り1だけ上がるだけだったけれど、セシリアはどれくらい上がったのかな?
「見てもいい?」
「もちろん」
どれどれ。
俺は、セシリアに【かんてい】をかけてみた。
「【かんてい】!――――え!?」
表示された内容に俺はドキリとし、そして固まっていた。




