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12.お前もう杖振るなと言われて後がなさ過ぎて死にたい

「レオニード。金輪際、杖は振るな」


 ライオネア伯爵家のタウンハウスの一室に、威圧感のこもった男の声が響く。

 シンバ・ライオネア。伯爵家の現当主にして、レオニードの父親その人だ。

 二人はよく似ていた。金髪にアイスブルーの瞳。長身で身体能力にも恵まれている。

 執務机についた父親の前に立たされて、青年は困惑の表情を浮かべた。


「父上……約束したではありませんか。次の大会まではチャンスをくださると!!」

「黙れ。お前が襲撃を受けたのも、魔法決闘などという遊びを続けてきたせいではないか」

「襲撃者の件は私の油断もありました。反省しています。しかし、お言葉ながら決闘術は遊びではありません。その国の魔法使いと、関連する技術レベルを推し量ることができます。興業の盛り上がりも世界規模ではありませんか?」


「ああ、そうだともその通りだ。だが代理戦争で世界が平和になるものか? たかが娯楽のために軍備をおろそかにする国など、滅んで当然。シュイク連邦を見ろ。奴らは魔石鉱山の開発に躍起だ。隣国の度重なる軍拡によって、ハルモニア王国は危機に瀕しているのだぞ」

「それは……」


「頂点だ。最強の軍備を持ち続けねばならぬのだ。一位でなければ意味が無いと、何度教えればわかる?」

「くっ……」

「お前が頂点に立つのであれば、多少の遊びには目をつむると言った。が、お前は勝てないではないか。グラーヴェ学園の双子とやらにな。片方を倒す程度ではもはや生ぬるい」


 事実を突きつけられて反論の余地もない。


「でしたら次の大会で必ずやあの二人に…… ヘリオス・ジェミナスとムーナン・ジェミナスに勝利してみせます」

「ハンッ。似たような台詞を何度繰り返す? 聞けばお前は学院の新入生にも負けたというではないか? しかも大勢の生徒が見ている前で。自分から決闘を申し込み敗北した相手は、女だ。おまけに魔力値たった5の雑魚なのだろう?」


「父上。私のことは構いません。敗北も事実です。が……ラポム・ブルフォレスト嬢への誹謗中傷はおやめください」

「知ったことか。お前は決闘に負けただけでなく、何も奪われずにいるというではないか? 敗者にすらなれぬ未熟者め」

「うぐっ……」


「女といえば、パピメルの娘にどれだけ甘えれば気が済む?」

「そのような言い方はなさらないでいただきたい」

「アレはもう他人だ。くれぐれも間違いを起こさせるなよ。かつての魔法使いたちが行った純血主義のおぞましさは理解しているだろう?」

「……わかって……おります」


 何を言っても父親には届かない。

 仮に勝利したとしても、認めてもらえないかもしれない。

 レオニードの右腕が痙攣したように震える。

 左手で掴んで押さえ込もうとするが、止まらない。 

 シンバは大きなため息をついた。


「魔法決闘などライオネアの次期当主がするようなことではない。いい加減、諦めろ。すでに学院を卒業できるだけの単位は取得済みだ。飛び級扱いでこの茶番を終わらせ、来月から私の仕事の手伝いをしてもらおうか」

「お願いです。父上。どうか……あと一度だけチャンスをください」


 青年は頭を下げる。

 深い沈黙が部屋を満たした。

 ほんの数秒が永遠のように長い。

 シンバは執務机の天板を人差し指でトントン叩くと……。


「誓え。次が最後だ。くだんの双子に勝利できなければ、すぐに私の片腕になると」


 拒否権はない。断れば即座に卒業の手続きが行われるだけである。


「誓い……ます」

「話は終わりだ。出て行け」


 追い払われるようにレオニードは父親の執務室を後にした。

 屋敷の廊下でゆっくり息を吐く。

 右腕の震えは収まらない。


(――ああ、君が……父君と仲の良い君がうらやましいよ)


 壁に背を預ける。追い詰められた青年は、自然とラポムの顔を思い浮かべた。

 右腕の麻痺するような感覚が薄れる。

 ようやくレオニードは落ち着きを取り戻した。


 ここ数日、赤毛の雑用係は放課後になるとパピメル家の研究工房に直行で、言葉を交わせない日もあった。

 君に会いたい。

 そんな気持ちが堆積たいせきしつつある。ラポムを心から必要としていることに青年自身まだ、気づいていなかった。


 



 大会を控えて練習試合の日程が組まれた。

 相手は王都でも常に団体戦ベスト8に入るジョレン高等学園。

 エースはいないが、弱点もないバランスのとれたチームである。


 この日からラポムは雑用係に復帰した。

 杖の開発は急ピッチで進められている。ラポム発案の「サンドイッチ」はいくつかの試作品と、ラポム自身の試打によって形になりつつあった。

 ロゼリアが蝶の扇をぴしゃりと閉じる。


「本当に、あなたの杖を素材にしてしまってよかったのかしら」

「きっとあの子も望んでます。折れたままよりも……形が変わってもまた、一緒に遊べるようになる方がいいって」

「そうなることを、わたくしも祈っていますわ」


 練習試合は一進一退。レオニードはシングルスとダブルスにエントリーしたのだが、格下相手にダブルスで勝ちを逃した。


 組んだ副部長も弱くはないのだが、レオニードとの力の差からアンバランスなペアになってしまった。

 一方、ジョレンのペアはダブルスに絞って練習を重ねてきた試合巧者だった。


 負けた分を取り戻すべく、レオニードはシングルスの試合に臨む。

 ロゼリアが黄色い声援を上げた。

 講堂二階席にはレオニード親衛隊が集まっている。

 校内試合とはいえ、応援にも気合いが入った。


 ジョレンの主将とレオニードの試合は、一方的なものだ。

 ほとんど順手フォアを振らずに逆手側バックハンドのみで金髪の貴公子は相手を圧倒した。

 ラリーにさせない試合の組み立て方である。


 二階席は大歓声。

 お嬢様もレオニードの仕上がりっぷりに「これは大会も優勝間違いなしですわね」と太鼓判だ。


 ただ独り、ラポムだけが青年の異変をみ取っていた。

 隣ではしゃぐロゼリアに告げる。


「レオニードさん……絶好調の逆かもしれません」

「おかしなことを仰いますのね。ゲームスコア4-0の大勝利でしてよ? 大会前に弱気はいけませんわ!」


 なんでもできるロゼリアだけど、試合の内容だけは見ることができない。

 お嬢様は魔法決闘じゃなくて、レオニードの活躍する姿を見ているんだ……とラポムは気づいた。


(――やっぱり、わたしがレオニードさんに伝えてあげないと)


 練習試合はユーニゾン魔法学院の勝利で幕を閉じたが、ラポムは危機感を強めたのだった。

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