表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

30.魔王、質の暴力を振るう

 この話はいったんここまでです。

 ひとまずお付き合いありがとうございました。

「あーあ、これは完全にオーバーキルですね」


 イセスが召喚した数十体の魔物達。それを後ろで見ていたシャノンは、誰に言うとでも無くぼそっと呟いた。隣りに立っていたフレデリクが、その言葉に反応する。


「彼らの強さはそれほどまでに?」

「ええ、我々の階級では伯爵級……人間達からはアークデーモンと呼ばれる存在です。お一人で、まあ、成竜一体と同じくらいの強さと思って頂ければ」

「それがこの数、ですか。確かに王女殿下は、お一人で一個軍と正面から戦える力をお持ちのようですね」


 ここまではポーカーフェイスを貫いていたフレデリクであったが、初めてその顔色を変えていた。


「そして、それがクラウス殿の作戦能力と結びつく、と」

「クラウス殿はそれほどの力をお持ちなんですか?」

「数多くの過酷な戦場に投入され続けたにも関わらず、常に不敗を続けていた名指揮官です。占領区域という出自故に中央で出世する事は(はばか)られていましたが、そうでなければ将軍になっていてもおかしくはなかったでしょう」


 フレデリクの説明に、シャノンは肩をすくめて返答する。


「では彼は、初めて正当に評価されるかも知れませんね。あの御方は出自や種族に囚われること無く、実力を正当に評価しますから」

帝国(われわれ)のやり方も、我々なりに根拠はあるのですが、ね。ただ、私個人としては、彼は正当に評価されるべきではあると考えています」


 と、目前の戦闘を余所に、二人は小声で話を続けていたのだった。



              ◇   ◇   ◇



「ば、馬鹿な……!?」


 突撃していたフォルマンの頭上と左右を魔族達が通り過ぎ、振り返るとそこには虐殺としか言えない戦いが繰り広げられていた。

 斬りかかった剣をあっさりと素手の左手で受け止められ、無造作に振った剣で板金鎧の胴体ごと切断される騎士。

 強力な攻撃魔法の"雷撃"が直撃したものの、魔族は全くダメージを受けた素振りもなく、魔族が何事か唱えたかと思った次の瞬間、全身が炎の柱に包まれる魔術師。

 取り囲んで一斉に鉾槍(ハルバード)を突き立てたにも関わらず、魔族が足でぽんと地面を突いた次の瞬間、爆発的に衝撃波が広がり、バラバラに四散する兵士達。

 自らの部下達が殲滅されつつある光景を眼にしたフォルマンは、素早く馬を返し、魔族達に斬りかかろうとした。


「魔族共め、やらせるかぁっ!」


 が、次の瞬間、フォルマンは自分が全く身動きできなくなった事に気付く。


「何!?」


 彼の愛馬は彼を残したまま魔族達の方に(はし)っていき、一刀のもとに斬り捨てられていた。フォルマンは空中に(とど)まったままであったが、ゆっくりと地上に降ろされる。

 フォルマンが(かろ)うじて動く首で左右を見回すと……街壁の上に立っていた魔王を僭称する女が、フードの下に見える黄金の瞳を文字通り輝かせながら自分を見据えている事に気付いた。


「奇妙な技を……動けッ!?」


 目が合ったことに気付いたのか、イセスは不意に翼を広げると街壁から飛び立ち、フォルマンのすぐ背後に着地した。そしてそのままつかつかと歩み寄ると、フォルマンの耳元で囁きかける。


「うぬは死なせるわけにはいかんのでな。ここでうぬの部下が全滅するのを見守っていて貰おうかの」



              ◇   ◇   ◇



 フォルマンがイセスの邪眼によって拘束されていたのは僅かな時間であった。しかし解放されたときには、既に帝国軍で生きているものは存在しなくなっていた。

 総ての作業を終えた魔族達はイセスに対して膝をつき、任務完了を報告する。


「ご苦労であった。近いうち、汝等自身とこの地でまみえようぞ」


 イセスは召喚した魔族達を送還し、次いでフォルマンの拘束を解いた。地面に崩れ落ちるフォルマンだったが、そのまま振り向きざまに背後のイセスに向かって長剣を走らせる。


「おのれ、よくもッ!」

「ほっほ、せっかく残した命じゃ、無駄に散らすでないぞ」


 ひらりと躱して数m後方に着地するイセス。フォルマンは目を血走らせながら、イセスに向けて突進し、鋭い斬撃を繰り返す。


「一軍をむざむざ失い、オレ一人で帰参できようかッ! せめて一矢なりともッ!」

「その根性は見上げたものじゃが、な。うぬにはメッセンジャーになって貰わねばならん」


 あくまで自然体の口調を崩さぬまま、最小限の動きで斬撃を躱し続けるイセス。


「貴様の思い通りになってたまるかッ!」


 全力の突きを繰り出すフォルマン。イセスはやはり躱したかと思うと、彼の剣先の上にひらりと降り立った。そして、次の瞬間、軽く跳躍したと思うと空中でくるりと一回転し、フォルマンの背後に着地する。


「おやすみなさいな、坊や」


 フォルマンの背後から両手でかき抱き、彼の耳元でぼそりと呟くイセス。そして次の瞬間、フォルマンはびくっと硬直したかと思うと、そのまま力なくくずおれたのだった。


「さて、少し頭を冷やせば落ち着くかの」


 両手を軽く打ち合わせて埃を落とす仕草を見せるイセス。その背後から男性の声が掛けられた。


「殺したのですか?」


 振り向いたイセスは、そこに領主クラウスと彼の騎士と兵達が来ているのに気がついた。軽く肩をすくめて返答する。


「いや、意識を刈り取っただけじゃ。まあ、半日くらいは寝ておろうな」

「その……なぜフォルマン将軍を残されたので?」

「なに、此奴には、帝国皇帝とやらに余の力を示すメッセンジャーになって貰おうと思ってな」


 回答を聞いたクラウスは、しばし考えたが、一つ肯くとイセスに対して優雅に頭を下げたのであった。


「承知しました。確かに将軍の言葉の方が影響力があるでしょうな。では、捕虜として国境まで護送、解放する事にいたしましょう」



              ◇   ◇   ◇



 このフォーゼンの戦いを契機として、それから一ヶ月を経ること無く、帝国自由都市カウフバイアの例外を除き、ロンスベルク辺境伯の旧領はイセスの傘下に加わる事となったのだった。


 なお、この面積は帝国総領土の1%となる。

 どれを中心に続けていくかに関してですが、本作品は有り難い事にもっとも高い総合評価をいただいております。

 ただ、ブックマーク数としては前作の「フライブルクの魔法少女」を下回っており、ご期待に添った作品が提供できているとは考えづらい状況です。

 今回のキャンペーンそのものの総括は、「へっぽこ小説書き斯く戦えり」で報告させていただくつもりです。


 続きを書くつもりはありますが、まずは、力量を上げるため、当面は本作とは別の、短い話をなるべく短いスパンで掲載したいと考えています。

 お気に入りユーザに登録していただければ、それをお知らせできるので、ぜひ登録いただけると嬉しいです。


 何か動きがある時には、こちらも更新させていただきますので、できればブックマークを登録したままにしていただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2022年11月現在、新刊3本同時進行キャンペーン実施中です。
本作と以下2本を第30話頃まで同時進行で掲載しています。そしてその後、最も推されている小説を重点的に継続し、イラストの掲載も進める予定です。
他の小説もぜひご覧下さい!

banner_novel1.jpg
banner_novel2.jpg

以下は既刊の小説です
banner_novel1.jpg
script?guid=on

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ