9、神子
町の中心に戻ってきたネロ達三人は裏の商人の使いである動物を探すことにした。もちろん、モエギにネロが精霊種族であることを伏せた状態のままなので、使いの説明が難しくなったのは言うまでもない。
「砂地や砂漠に適した生き物はあまり居ないから、普通の生き物が居ればそれは使いの可能性が高いわ」
「って言ってもねえ……。カジュカの時は蝶々だったし、虫なら結構居そうだけどなあ」
「モエギには良くわからないです。普通の動物をどうやって裏の商人の使いって見分けるです?」
「それは……まあ、目印があるのさ」
「モエギにも分かるです?」
「さあね。貴女の観察力次第かしら」
「納得いかないです……。精霊種族と交流のある裏の商人に進んで会いに行きたくはないですが、モエギだって役に立ちたいです」
実際、普通の動物種族が裏の商人を探し出すことは可能である。
晶霊石を売っている商人を経由して会うと言う方法があるが、以前話したように裏の商人も反精霊種族派にとってはこの世界の敵である。相当な信用がないと裏の商人の元へ案内はされず、案内されても裏の商人が動物種族と会うかどうかは分からない。
多種族町カジュカで会った孔雀のピコも、普通の動物種族であるルゥ(実際には第三種族だが)やエーテルが一緒にいることに内心驚いたことだろう。
過去にも何度か商人が案内した動物種族によって裏の商人が殺される事件は起こっている。
「貴女達、裏の商人を探しているの?」
キョロキョロと周囲を見回しながら歩く三人を不思議に思ったのだろうか、それとも先ほどまでの会話が聞こえていたのかは分からないが、涼しげな声の女性に声を掛けられた。
女性は短く切った金茶の髪に露出の多い服を纏った健康的な肉体の、象の動物種族だった。
露出の多い服装もそうだが、何よりネロ達の目を引いたのは女性の顔立ちである。
「エーテルさんそっくりです……」
「血の繋がってるクレアより、アタシに似てるな……」
「本当ね」
種族は違えど、双子と言われてもおかしくないほどエーテルに似ていた。
「……なるほどね。猿の子と出会ったのも何かの縁だし、良いことを教えてあげるわ。裏の商人の使いを探しても無駄よ。ムルドに使いはいないわ」
「どう言うこと?」
「私が使いみたいなものだからよ。外で立ち話もなんだし、良かったらうちに来ない? ああ、警戒しなくても大丈夫よ。フードを目深に被ったお嬢さん」
象の女性はネロが精霊種族だと気付いているようで、安心させるような笑顔を見せた。
ネロは彼女のことを警戒していたわけではないが、フードで表情も見えないのに焦燥や不安を見抜かれたことで観念し、ため息をひとつ吐いて彼女の誘いに乗ることにした。
象の女性はスクィと名乗った。
案内された彼女の家は他の建物よりも幾分上等な造りをしていて、モエギがその事について尋ねると『神子』をしているからだと答えが帰ってきた。
「神子? 初めて聞くわね」
「ネロでも知らない事なのか?」
「ええ。石貨の件といい、この世界は進歩してきているのね……」
「それで、神子ってなんです?」
「神子っていうのは、動物種族でありながら特殊な力を持つ者のことよ。第三種族とは違って、精霊種族の力が使えるわけじゃないけど……そうね、動物本来の能力が強かったり、風を読む事に長けてたり、第三種族が見分けられたり色々ね」
スクィが説明した神子の特徴の中に、つい最近聞いたことのある特徴が含まれている事に反応したのは、やはりエーテルだった。
「動物本来の能力って、嗅覚が優れてて足の感覚が鋭いとか、力が強いとか? じゃあ、あの象の男も神子……?」
初恋の相手に似ているだけあって、良く覚えていたようだ。
そんなエーテルの話に、今度はスクィが反応を示した。
「もしかして貴女達、タスカに会ったの?」
「タスカ?」
「象の動物種族よ。視力が弱くてほとんど見えないのに、世界を旅して回ってるの」
「確かに目がほとんど見えない、エーテルの言った特徴を持つ象には会ったわ。名前は聞かなかったから分からないけれど」
「タスカ……タスカよ。絶対そうだわ。ねえ、貴女達。タスカがどこに行ったか分からない? ずっと探しているのよ」
「どこに向かったかまでは聞いてないです」
「でも、村に帰るとか言っていた気がするわ」
「確かに。そんなこと言ってた気がする」
「そう……」
珍しい象の動物種族。
大サボテンで出会った男とは真逆の生活をしている彼女は安堵と悲しみが綯い交ぜになった表情で嘆息した。
その顔でエーテルは悟った。
彼女もまた、愛しい人を探しているのだと……。
「会えると良いな……」
「ありがとう。でも、私の想いは届かないわ」
エーテルの一言に対してスクィはそれ以上の想いを吐露した。
顔が似ていることが関係しているのかは分からないが、泣き笑いのような表情でスクィは話た。
「初恋は実らないって知ってるかしら?」
「聞いたことあるです」
「神子という職業柄、私は一生独身を貫かなきゃいけないのよ。タスカを追ってこんなところまで出てきた私の、愚かな判断の結果なんだけれどね……」
「でも、タスカがアンタの事を好いてたら良いじゃないか」
エリクには想い人、クレアが居たから自分の入り込む余地はなかったのだと……。想われているなら可能性はゼロではないと暗に言ったエーテルにスクィは言葉を続けた。
「想われてる……ね。無理よ。タスカは、動物種族に対して魅力を感じないもの」
「は?」
「動物種族に対して性欲がないの。魅力を感じるのは動物の象。性欲自体も少ないし、私よりもよっぽど神子に向いているわ」
「それは……本人に確認したのか?」
「ええ。本人に確認もせずにこんな出鱈目なんて言わないわ」
「……モエギには重すぎる恋愛話です」
「そんな動物種族も居るのね。世界には知らないことがいっぱいだわ……」
本人のあずかり知らぬところで特殊な性壁を聞いてしまった三人は微妙な空気に包まれた。
「スクィさん、今良いでやんすかー?」
「良いわよ」
微妙な空気を霧散させるような間延びした声に、スクィが何事もなく返事をしたことでネロ達も少し気分を持ち直した。
扉を開けて入ってきたのは、声から想像できる通りの脱力感満載の狐の青年だった。
「あやー、来客中でやんすかー。すんません」
「私が入室を許可したんだもの、ルドルフが気にすることじゃないわ」
「あざす。で、スクィさんに砂地の行商人から航海の日程について相談したいって言ってるでやんすー」
「今?」
「外で待ってるでやんすよー」
「しょうがないわね……。少し席を外すけど、裏の商人の場所が聞きたいなら待っててもらえるかしら?」
「わかったわ」
「ごめんなさいね」
そう言ってスクィは部屋から出て行った。
ルドルフと呼ばれた狐の青年も彼女について行くのかと思って居たが、どうやら客人であるネロ達の相手をしてくれるようで部屋に残ったのだった。
エーテルさんに似た象のお姉さん登場。
彼女は風を読むことに長けた不思議な力の持ち主です。
実際、エーテルさんも特殊です。
晶霊石を全種類器用に扱えるのはエーテルさんだけです。はい、ここでぶっちゃけます。
まあ、この話は後々本編にも書くかもしれません。覚えていれば……。
19,8,24 誤字修正。




