8、不安と焦り
エーテル達が砂地の行商人の男と別れてからおよそ1時間後、太陽が遠くに見える山へ沈み始めた頃にネロは戻ってきた。
風の祠から多種族町ムルドに戻ってくるには、大回りをして違う場所から戻るという面倒な手順を踏まない限り、エーテル達が待っている道が最短距離である。
そして、ネロは面倒を嫌うために最短距離で戻ってきた。
しかし、道の端で暗い顔をして立っている二人を見つけたネロは、大きなリュックでエーテルを、鮮やかな緑の頭巾でモエギを確認したが、愛おしい暖色の服を身に纏った狼の姿が見当たらないことに気付いて駆け寄った。
「……ねえ、ルゥはどこに行ったの?」
「その、なんて言ったら良いのか……」
「謝罪も言い訳もいらないわよ。簡潔な状況説明だけしてちょうだい」
嵐の前の静かな海のように、凪いでいながらも空恐ろしい雰囲気のネロに気圧され、どう説明したものかと悩んでいるエーテルを他所に、素直に焦りと怒りを表に出しているモエギが説明を始めた。
モエギの説明は精霊種族と第三種族に対する怒りや恐れを織り交ぜながらの説明で、ネロの所望した簡潔とは程遠いほど回りくどく、かつ精霊種族である彼女と第三種族であるルゥを傷付けるような、聞いて居て不快になるものだったが、『ルゥ自らがカザミについて行った』という部分を聞いて話の長さなどどうでも良くなった。
──ルゥが……自分から……? まさか記憶が……? いえ、記憶が戻ったのなら、必ず二人にもわかるような変化があるはずよ。それに、完全には戻ってない……戻らないはず……。
「ともかく、ルゥを追うわ。どっちに行ったか覚えている?」
「えっと……太陽が沈んでいる山の方です!」
「……確率は五分五分ね」
「どういうことさ」
「西の方角には、あの山と、トワイノース大陸唯一の森林地たいの二つがあるわ。どっちに行ったかまでは分からないから五分五分なのよ」
ここまで来て、ようやくネロは周りにも分かるように焦り出した。
「どうしよう……」
「ルゥの居場所とか、なんか追える方法ないのか?」
「いつもはあの子が私を追う立場だったから、こんなことは初めてなのよ……」
「っそうです! 裏の商人に聞けば分かるかもしれないです!」
「どういう事?」
怪訝な顔をして聞き返したネロは、エーテルが先ほど行商人の男に聞いた事を掻い摘んで話し出した。
「……へぇ、今の裏の商人はそんなこともやっているのね。でも、情報量に黒1は取りすぎじゃないかしら?」
「モエギもそう思うです!」
「……どれでも、他になんの手立てもないなら、大金を払ってでも近付きたいって、アタシはそう思うよ」
「……そうね」
普段しっかりしているネロとエーテルの、共感できる弱さだった。
「そうとなれば裏の商人探しね」
「裏の商人ってどこに居るです?」
「さあ? ムルドの裏の商人はどこに居るのかしらね」
「知らないです? じゃあ、どうやって見つけるですか?」
「使いを探すのよ」
「使い……です?」
「行商人が言ってた客引きのことさ」
ネロの説明では要領を得ないモエギに、エーテルが補足説明をしていく。
一歩進むごとに歩みを止められるような苛つきに説明が面倒だと思い始めたネロは、いっその事自分が精霊種族でルゥは第三種族なんだと暴露してしまおうか……とも考えたが、それはそれで面倒なことになりそうだと口にする言葉を変えた。
「とにかく、町の中心部まで戻りましょう」
「行ったり来たりですぅ……」
「文句があるのなら、貴女はここで別れてくれて良いわよ?」
「誰もそんな事言ってないです!!」
「はいはい、良いから行こう。ルゥと合流して、なるべく早くフォロビノン大陸に入りたい」
いつもならネロとモエギの間を取持つエーテルも、マイムとエリクの手がかりを手に入れた今は、この機会を逃すまいと急いでいるようだった。
それを和やかな雰囲気に変えるルゥが居ないこの状況に、どこか空気が重く感じる三人だった。
いつになったら主人公は現れるのか……。
まだまだ主人公不在の話が続きますが、もう一人の主人公であるネロのことも見守っていただきますようよろしくお願いします。




