めぐり合わせ
都市高速から、高速に入り、比恵PAに入った時に日の出を見た。とても、大きな朝日が左側の山影からのぞいていた。
俺は、ヘルメットを脱いで、PAの店の中の一杯挽きのカップコーヒーを飲んだ。
高速を走るで、いつものジャケットではなく、エアバック式のジャケットを着ているが、ボンべを積んでいるし、アラミド繊維のため結構重い。
ただし、高速ではカウル無いバイクはもろに風の影響を受ける。頭を持っていかれくらいに、風圧がひどい。100Km/h以上で長時間走行するのは、一種の自殺行為に等しい。こういう時は、クオーターバイクではなく、クルーズ用の大型カウル付きバイクに勝敗がある。エンジンの回転を上げない分振動がすくない。
どうしても。12000以上回してしまうと、振動が半端ではない。1時間も走ると、手が震えて、足ががくがくとなる。それでも、それ事態がバイクの醍醐味なのだが。
バイク屋のオヤジが整備したバイクは、快調に走る。高速用に、やわかめの鉱物油を改質した高VI(VHVI)オイルの5W-40を入れているのでスムーズに回転している。振動もやや少ない。
鳥栖のジャンクションを過ぎて、長崎道に入り随分と車の数が少なくなり走りやすくなった。
やや速度が遅い、ブルーマイカのプレオを追い越して、巡行速度を100km/h前後で走り出した。
嬉野インターの先の、長いトンネルを抜けると長崎県だ。左側に大村湾の琴の海が広がっている。
長崎空港から、飛行機の発着も見えた。
この先は、レーダー式オービスがあるので、速度は落として通過した。
最後のパーキングの木場PAで、休息を取り後は一気に出島有料道路から、大波止ターミナルまで走った。
全走行距離、215kmのツーリングだった。
まだ、普段は回らない強制ファンが回っている。相当エンジンオイルの温度が上がっているのだろう。
五島行のフェリーの車両待機場所の2輪車用のパーキングに、バイクを止めて軽自動車登録証を出して乗船券を購入した。
ターミナルは、観光客でごった返していた。
五島の海は、開発されていないので綺麗らしい。そこに素朴なところが相まって大変な人気らしい。
なぜかこの時期には、五島で見ることのない、"ビキニ"の水着を見ることができる。
都会の女性が結構来島するのだ。
華やいだ、夏の軽装の女性グループがあふれていた。
学生のグループも多そうだ。
夏場の釣りはあまりメジャーではないので少な目だ。
五島の釣りは、大物狙いで冬場から春先までが多い。
ツーリングで来ているライダーもちらほらいた。
俺はだるいので、ボーとしてターミナルのソファーに腰かけていた。
昼前なので、ターミナルのうどん屋でうどんセットを食べて、乗船時間になったのでバイクの所に戻った。他のバイクはエンジンがかけられて、乗車準備がされていた。バイクが自動車より先に乗船させられる。フェリーの側面のスペースにロープで括りつけられると、タラップを上って、2等客室へ入った。すでに乗客で、ごった返していた。テレビの前のスペースはすでに占領されていた。
俺は、売店でビールとつまみの竹輪を買うと、甲板に出た.日差しが強いので屋根のあるところにござを敷いて座り込んだ。
しばらくして、港内スローでフェリーは走り出し、外海に出ると一気にスピードを上げた。波がなく穏やかな海面だった。島影が見えなくなりあたり一面海原ばかりなった。4時間ちょっと船旅だ。俺はビールの缶かけて、飲んだ。
朝早い出発だったので、少し眠気がしてきた。
程よくアルコールが回って、読みかけの本を顔に乗せて少し眠った。
1時間ぐらい眠ったのだろうか、喉が渇いて目が覚めた。アルコールはまだ残っていたので、水を買いにき客室に入った。
水を買って、外に出ると夏だというのに、黒のサマーワンピースを着た女性が俺の敷いたご座の前の欄干に手をついて佇んでいた。
年は俺とあまり変わらず20代後半と言ったところで、長い黒髪が潮風に揺られていた。
背は驚くほど高く、モデルかと思った。サンダルの素足が妙になまめかしかった。
顔は海を見ていたのでよく見えなかった。
どう見ても、帰省する地元の人間ではなかった。かといってサマーバケーションという雰囲気でもなかった。どこか、人を寄せ付けないところが感じられた。
俺は、ご座に腰を下ろすと水を飲みながら、女性のほうを見ていた。
決して、やましい気持ちではなく。その女性の醸し出す雰囲気に違和感を覚えた。
その違和感は、かつて俺が感じていたものに近かった。
女性は俺が後ろにいることも、気にかけずに海原を見ていた。
航跡が白く海に広がっていく様を飽きもせずに眺めているようだった。
俺は、やっとその違和感の意味が分かった。
幸を失った時の喪失感に似ていた。
大切な人を無くした時の喪失感のそれだ。
女性の後ろ姿から、俺はそれを感じ取った。たぶん、ほかの人にはわからないものだと思う。
自分の存在する意味すら、分からない。どうして、今がここにいるのかさえ分からない、喪失感と未来に向けた自分の居場所がない。
そんな、そんな感じがするのだ。
俺は、声をかけた
「旅行ですか」
俺の声に驚いて、女性は振り返った。
潮風にはらんだ、ストレート髪を手で押さえながら、
「そんなものです」
とそっけなく言った。その眼は、俺を見ていなかった。
死人の目に似ていた。
この世のものに、未練がない。
生に執着のない目だった。
"死にきたなと"
と俺は思った。
五島は意外と死にに来るやつが多い。
しかも、死んだことすら判断できない。要するに死体が上がらないので死亡認定ができない。
失踪宣言でもしない限り無理だ。
海で死んで、3日すりゃ死体は沈んで浮かび上がりもしない。
そのまま、音信不通となる。
たまに、底引き網に人間の骨がかかることがある。
外洋の海流があるため沖に流されて遺体はあがらない。
実際の死者数以上が、ここでは死んでいると思われる。
「どこか、見て周るんですか」
と俺は会話を続けた。
「特には、ただ海が見たいだけです」
「そうですか、俺、あの島出身なんでよかったら案内しますよ」
女性は返事をしなかった。
なおも俺は、会話を続けた。
「みみらくの島、ここでは死んだ人に逢えるといわれているところがあります」
女性はびくっとして俺を見た。
「蜻蛉日記ですか、聞いたことはあります。」
と女性は答えた。
「興味があれは、案内しますよ、島の中心からは外れていますから」
女性はしばらくたって
「ご厚意はありがとうこざいます、自分で周れますので結構です」
と答えて、俺の前から去って言った。
俺は、後ろ姿を見送りながら"狭い島だ、必ず見つけることができる"と確信していた。
前方に、鬼岳が見えてきた、以前は死火山とされていたが最近は活火山として認定されているスコリア丘群の美しい稜線が特徴的な火山だ。
登れば、カルデラ火口が見える。昔、人を食らう鬼が住んでいたという伝説がある。
到着30分前となり、俺はバイクのところまで戻った。
重油の焼けるにおいと、機械音が船底に響いててた。
フェリーが接岸すると、バイクを固定していた縄が説かれフェリーの前方が開いた。
船員がバイクのエンジンをかけろという風なそぶをして、バイクのエンジンをかけた。
そろそろとバイクを動かし、フェリーの外に出た。本土とは違う太陽があった。
潮の香りの満載した、乾いた風があった。
ゆっくりとターミナルの構内を出ると、前方に黒のワンピース姿の女性が視界に入った。まっすぐに歩いているところを見れば、港近くのリゾートホテルに宿泊するようだ。
俺は、女性を追い抜いて、リゾートホテルの入り口まで先回りした。
予想通り、ホテルに入ったので、そのまま実家までの道のりをたどった。
たぶん、どこかでその女性には必ず会える確信があった。
この島でなければならない、何かが俺のにそう確信させた。
俺は、空港通り道路り上り坂を多少バンクさせてバイクで駆けた。
眠れなくて、書いてしまいました。最近 酒を飲むと寝れないですね。すぐに起きてしまいます。
いよいよ、みみらくの島での女性との出会いになります。残念ながら、劇的な恋愛物語が進行するわけではありませんが、それなりのことを書いていこうと思います。
ぜひ、お付き合いください。
いつも、読んでいただいている方に感謝します。




