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桜川夫妻の記念日

 今日は謙斗が帰ってくるから私はカフェを「臨時休業」にした。こういうとき自営業って便利だなーと思ってしまう。世の中の経営者の皆さんから怒られそうだ。

 私は特にこだわりはないので、海外から戻ったからって和食が恋しくなったりしないけど、謙斗はどうなんだろう。好き嫌いがないし、私が作ったものはなんでも「おいしいよ」と言って食べる。

 カフェのスイーツを試食してもらうときも、甘いものが苦手なくせに「うん・・・お・・・おいしいよ」と頑張る姿がちょっとかわいい・・・と言ったら怒られるか。 

 うーん・・・謙斗の元彼女たちならきっと彼の好みを熟知して気の利いた食事を出すんだろうけど、私ってそういうの気にしないのよね。特定のものが食べたいって言われたらそれを作るけど、「なんでもいい」って言われた場合は、じゃあ私の好きなものをってなる。

 それで「これは嫌だった」とかモトカレに言われたりして、「じゃあ何でもいいって言うな」とケンカになって別れたこともあったなあ・・・。

「うーん、今日の夕飯どうしようなあ」

 頭に浮かんだのは肩ロース肉と大根のしょうゆ煮。だったらあとは、きゅうりときくらげの酢の物、あつあつのご飯に豆腐と野菜がたっぷり入った味噌汁・・・。

 でも謙斗がパスタ食べたいって言ったら、きっと私は「しょうがないなあ」って言いつつパスタをゆでちゃうんだ。うひゃー独身の頃とはえらい違い。どうした私。

 そんなことを考えていると鍵を開ける音がしたので、玄関に迎えに行くことにした。


「おっかえり~」

「ただいま・・・奈歩、いたのか」

「今日は謙斗が帰ってくるから臨時休業にしたんだ~・・・・」

 謙斗がまじまじと何か言いたげな顔をしているから、こっちも後の言葉が続かなくて見つめる形になる。

「奈歩」

 低い声で名前を呼ばれたかと思ったら、私は謙斗にキスをされていた。びっくりして固まった私を優しくなでながら、角度を変えて何度も降ってくる優しいキス・・・なんか、キスが気持ちよくて力が抜けてくる。

 そんな私の様子が分かったのか、謙斗はキスをやめるとちょっと笑ってネクタイをゆるめた。

「け、謙斗?」

「・・・黙って」

 もう一度キスされて、今度は深くて思わずシャツの袖をつかむ。こんなに溶けそうになったのは久しぶりかもしれない・・・。

 どれくらいキスしてたんだろう。謙斗がまたキスをやめて、今度は照れつつも改まった様子で私を見つめる。

 とても真剣なのが伝わってくるから、私も自然に背筋がのびる。


 彼が手を伸ばして、私をぎゅっと抱きしめてきた。とても大事なものを扱うように、でも力強く。

「奈歩、好きだよ」

「・・・私も謙斗のこと好きだよ。・・・キスには驚いたけど」

「俺の好きは、友達としてじゃない。分かってるのか?」

 それはつまり、その・・・女性として私のことを好きってこと、だよね。じゃあ私は?

 さすがに謙斗のプロポーズを受けた直後は戸惑いばっかりだったけど結婚してから自分の知らない彼を発見していくことが楽しくて。

 でも隣にいるときの心地よさは変わらなくて、いないだけで部屋が広く感じて寂しくなる。

 なにより、私は彼のそばにいると、その仕草や笑う顔にどきどきしてしょうがないのだ・・・ああ、そっか。私は謙斗のことをちゃんと一人の男性として好きで、求めてる。

 だったら私も彼に応えよう。

「分かってる。だって私の“好き”と一緒だもん。謙斗、大好き」

 そう言って背中に手をまわして私も彼を抱きしめる。

「そっか・・・よかった。じゃあ」

 そういうと、なぜか私の体が宙に浮いた。

「へっ?!え、えええっ?!お、降ろしてよ!!」

 謙斗にお姫様抱っこをされ、私が足をばたばたさせるとなぜか不敵な笑みを浮かべられてしまった。

「やだね」

「やだねって、何。ちょっと、私重いから!!」

「大丈夫、奈歩が10キロ増えたって平気。今の体重はだいたい・・・」

「言うなああああっ!!」

 彼が楽しそうに笑う。

「俺さ、明日休みなんだよ」

「私は明日カフェを開ける予定なんだけど」

「・・・・善処するよ。だから、おとなしく俺のものになって?ほら、暴れると落ちるから」

「・・・・」

 謙斗ってこんな性格だったっけ?大学時代からは想像もつかないんですけど。暴れたら本当に落ちそうだから、私はおとなしく彼の首に手をまわした。

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