第七章 山の神様と竜の神様
真琴が振り向いてりさの顔を見る。
「このおっさんと爺さんは、りさの友達なん?」
「違うわよ、山の神様と竜の神様よ」
「えっ、マジ? 俺、こんなおっさんと爺さんを毎日お願んでたんけ、最悪やし!」
真琴は両手を下して頭を抱えた。
「あほ、何を言うておるのじゃ! これは仮の姿じゃ!」
「はっ?」
「仮の姿を下界に合わせているだけじゃ、ほんとはもっと神聖な姿をしておるわい」
二人は神社の敷石に腰をかけると、着物の懐からガムを取り出した。
「あっ、それ俺のガムやん! 返してや!」
「あかん、これは神様の捧げものや」
山の神様がガムを食べながら真琴に答える。
「ほな、後で十円ちょうだいや! 駄菓子屋にガム買いに行くし」
「分かった、おまえがビー玉の勝負に勝ったらやる」
「おっさん、ケチやな、ほんまに神さんけ?」
「あほ、勝負の世界は厳しいんじゃ、なあ、竜の神様」
「そうや、りさに負けたらガムの代金は没収や」
竜の神様もガムを食べながら真琴に答えた。
「竜の神さん、なんぼ賭ける?」
「そやな、りさに三十円でいっとくか」
「よし、なら、わしは真琴に三十円じゃ」
二人は着物の懐から小銭を取り出すと、敷石の上にその小銭を並べて置いた。
「えっ? 神様が賭け事をしてもええんけ?」
「ええんじゃ、神様が賭け事をしたらあかんという法律は無い」
「法律?」
「おまえもビー玉を賭けてるやろ、それと一緒じゃ」
「それ、屁理屈やん、お金を賭けたらギャンブルやし」
真琴は右目を細めて山の神様に愚痴をこぼした。
「あはは、真琴、その神様達はギャンブル好きなのよ」
りさが笑いながら真琴に話し掛ける。
「そうなん、まあ、ええわ、ほっとこか。弘、続きやんぞ!」
真琴が右手を差し出して弘を立たせると、弘は両手でズボンをずり上げた。
「りさ、このおっさんと爺さんは、ほんまに神様なんけ?」
「そうよ、普段は見えないんだけどね」
「ほな、なんで今見えるねん?」
「さあ? 退屈なんじゃない」
「そんな理由で見えるん?」
「そうみたい、でも大人には見えないわよ」
「えっ、なんでや?」
「神様の姿は疑いの心を持たない純真な子供にだけ見えるのよ」
りさは弘にそう答えると、弘のお尻を叩いて砂を払った。
「さあ、弘、やるわよ、ビー玉!」
「OKやし! りさ!」
「弘、待ち伏せ大作戦に勝てる方法はあるの?」
「ある。りさ、穴を狙ったらあかん、真琴のビー玉に当てるんや」
「そっか、真琴のビー玉を穴から遠ざけるのね。さすが、弘、頭いいじゃん」
りさが狙いを定めて思い切りビー玉を弾くと、真琴のビー玉は神社の階段の方に吹っ飛んだ。
「あっ!」っと真琴が声を上げる。
「待ち伏せ大作戦破れたり~!」
りさが両手の親指を立てて喜ぶ。
「ええぞ、りさ!」
弘は右手の拳を上げてりさを褒め称えた。
「きぇ~!」
真琴はまた奇声を上げて、神社の階段の下まで転がったビー玉を追いかけた。
「りさ、その調子じゃあ!」
「あかん、わしの三十円が……」
竜の神様が嬉しそうにパチパチと手を叩くと、山の神様は両手を合わせて天を仰いだ。