第五章 きつねの攻撃
真琴がズボンのポケットに両手を突っ込んで、足元の椎の実を蹴りながらりさに話し掛ける。
「俺のな、父ちゃんもな、単身赴任やねん」
「そうなの? お父さんは何処にいるの?」
「俺の父ちゃんは新潟やし」
「へぇー、あんたも偉いじゃん、寂しくない?」
「大丈夫や、俺は母ちゃんと、姉ちゃんが居るし」
「ふーん」
りさが唇を尖らせながら頷く。
「ほな、続きやんぞ、りさ」
「よっしゃ」
「おっ、関西弁やし」
「あたり前田のクラッカーよ」
りさはビー玉を握ってしゃがむと、「ふふふ」と不気味に笑って弘のビー玉に狙いをつけた。
「あっ!」
弘のビー玉が神社の鳥居の方に吹っ飛ぶ。
「きぇ~! きつねの攻撃やん! きつねの悪魔や!」
「許せ、弘、勝負の世界は厳しいのよ」
弘が奇声を上げてビー玉を追いかけると、りさはビー玉を拾って次の穴に進んだ。
弘のビー玉は神社の鳥居を超えて、階段の敷石の上に転がっている。
鳥居の横には石の灯篭と椿の垣根があって、ビー玉遊びの場所は階段から見えない。
「りさ、俺のビー玉、何処まで飛ばしてくれてんねん。えーと、ここから穴を狙うには、縁石に当てて……」
弘はビー玉を拾って周りを見回すと、境内の縁石に狙いを定めてビー玉を放り投げた。すると、弘の狙い通りビー玉は境内の縁石に当たって跳ね返った。そして穴の方に向かって転がった。
「弘、お帰り!」
「弘二等兵、ただいま戻りました!」
真琴と弘が兵隊の仕草を真似て互いに敬礼をする。
「次、真琴の番やし」
「よっしゃ、一番最初に殺し屋になったるわい」
真琴がビー玉を弾いて次の穴を狙うと、ビー玉は穴の縁をかすめて通り過ぎた。
「あかん、外した。次、りさやし」
「OK、行くわよ」
りさが次の穴に狙いを定めてビー玉を弾くと、ビー玉は少し蛇行しながらギリギリ穴に入った。りさは穴からもう一度ビー玉を弾いて真琴の後を追った。
「次、弘よ」
「よっしゃ、俺も直ぐに追いついたるしな」
弘はそう言うと服の袖をまくってビー玉を勢いよく弾いた。