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《神殺し》の少女は、遠い宇宙の夢を見る  作者: 一式鍵


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第21話:大佐との決戦

 一瞬の立ちくらみを覚えたかと思えば、私とジルは炭鉱の事務所近くに立っていた。ここからは街が一望できる。


 そしてその街の一角が輝いていた。


「師匠の家の方……」


 夕方の頃合いに、まるで太陽がそこに現れたのではないかというようなほどの苛烈(かれつ)な輝きだ。


「何が起きているんだ?」

「わからない、けど」


 尋常じゃない魔力を感じる――ジルは言った。


「師匠に何かあったんじゃ」

「まさか」


 私は首を振った。それは半ば希望だった。事ここに至っては、何が起きたって不思議ではないというのに。


「とにかく行ってみよう」


 徒歩で行くには随分遠い。が、馬車を待っている時間もなさそうだ。


「お、戻ってきたか」

「サレイ!?」


 事務所の裏から姿を現したのはサレイだった。馬を引いている。


「お前たちが炭鉱に向かったのは知っていたからな。こいつに二人で乗っていけ。現場にはラメルが残っている」

「何が起きたの、メルタナーザさんに」

「わからねぇ」


 サレイは(かぶり)を振った。


「だが、良いことじゃぁなさそうだ」

「そんな……!」


 ジルが顔を手で覆う。私はジルの肩を叩き、サレイの馬に飛び乗った。そして手を伸ばしてジルを後ろに乗せる。


「馬なんて乗れるの?」

「乗ったことない」

「だ、大丈夫?」


 引きつった声のジルだ。私の顔はもっと引きつっていたに違いない。しかし私は意を決して馬の腹を蹴る。


 サレイの馬はよく訓練されていた。それは幸いだった。私が特に何もしなくても、道だけ示してやれば馬は従順に従ってくれた。スピードこそ出せなかったが、それでも歩くよりはかなり速い。


 光源に近づくに連れ、私の中の不安が膨れ上がる。尋常ではない輝きに目も開けていられない。私とジルは馬を降りる。馬はそのままくるりと反転して走り去ってしまう。


「これは、炎……?」


 光の正体は金色の炎だった。しかし熱はない。ジルがはらはらと涙をこぼしながら言った。


「結界だ。結界の中で炎が燃えてる」

「結界……メルタナーザさんの屋敷を囲うように?」


 誰がそんなことを。


 私はジルを見る。ジルは唇を引き結んで首を振った。


「師匠は炎と闇の魔法を得意としていたんだ。この炎も、結界も、師匠がやったものだと思う」

「まさか!」


 私は声を張る。周囲に集まっていた人々が私たちを振り返る。人々は手に手にバケツを持っていたが、きっと何の効果もないだろう。それほどまでに炎の勢いは常軌を逸していた。


「ジル! 近付かないで」


 ラメルが私たちに気付いた。ジルがよろよろと前に出て(うめ)いた。


「ラメル、これ、何が起きたの……?」

「わからない。君たちが炭鉱に潜ってしばらくしたくらいだと思う。突然屋敷がこんなことに」

「キーズは何て?」


 私が訊くと、ラメルは沈鬱な表情を見せた。


「闇は光に消え、輪廻の輪が開く。神は目覚め、葬送の列を()す」

「神が目覚める……」


 私はさっきのサイファーとの会話を思い出す。塑像(そぞう)の神。ソピアによって(つく)られた、真なる神(プロパテール)贋作(がんさく)


「師匠からのメッセージだよ、きっと」


 ジルは涙を拭きながら言った。


 転生の魔女、輪廻の輪。


 終わりにしようというんだね、サイレン。


 私の記憶の欠片(かけら)が一つ、カチリと音を立てて(はま)る。


 瞬間、私は抜剣(ばっけん)した。アスタが展開した障壁が、飛来してきた幾本もの槍を粉砕する。


「ラメル、皆を避難させて。ここは危険だ」


 今ので守りきれなかった人々が死傷している。集まっていたグラニカ商会の騎士たちが、ラメルに従って人々を退避させていく。その中にはハイラードの姿もあった。泣き叫ぶ女性を引きずるようにして運んでいる。


「ジル」

「アタシは逃げないから」


 ジルは言う。私は頷く。


「私から離れるな」

了解(アイ・コピー)


 そして、姿を見せたのはあの騎士だ。すなわち、ブレイク大佐だ。前回とは違い、全身に青白い炎を纏っている。まだ二十メートルは距離があるにも関わらず、熱風が押し寄せてくる。


「アスタ! 出力全開!」

『りょーかいっ! 出力全開。モード・イシュタル・レディ!』


 大剣(アスタルテ)の輝きが数倍になった。直視できない明るさだ。金色の輝きがやがて赤く変わっていく。


『ペルソナ・イシュタル、いつでも行けます』

「ジル、行ってくる」


 私は剣を握りなおす。


「いってらっしゃい」


 ジルの柔らかな声が私の心に染み渡る。


 地面を蹴り、大佐に向けて一気に跳躍する。大佐は長大な刀を持っていた。大剣(アスタルテ)の倍の長さがある。


 アスタの力で灼熱の炎を中和する。地面がぐつぐつと泡立っている。生物の生存不可能な熱量が、空間に満ちている。大佐が刀を振るう度に街に飛び火する。超高温の炎を受けた建物は一瞬で溶解してしまう。


「厄介なものを!」

『さぁ、()()()のスカーレット。貴様はその罪の記憶とともに消滅するのだ!』

「罪なものか!」


 大剣(アスタルテ)が大佐の剣を弾く、だが、体勢を崩せない。相手は巨人のような大きさだ。そう簡単に付け入る隙を見つけられるはずもない。


「貴様とソピアのわがままに宇宙(せかい)を巻き込むな!」

『神の創造こそ我が望み。ソピアとの利害の一致を見たまで』

「それがわがままだと言う!」

真なる神(プロパテール)とやらの箱庭で、未来永劫地獄を歩むことになろうともか!』

「だとしても、お前たちのわがままで宇宙(メビウス)を壊してよかった理由にはならない!」


 撃剣に終わりは見えない。メルタナーザさんの炎の柱を背景に、私たちは斬撃を交わし合う。


『貴様の存在が地獄を存続させた!』

「なんだと!」


 大上段からの一撃を受け止める。両足が地面にめり込んだ。


『貴様が滅べばゼタも滅ぶ。ゼタが滅べばこの世界は安寧の地、真の楽園(エデン)となるだろう! これは魂への福音なのだ、分からぬか!』

「ああ、わかんないよ!」


 大佐の刀を押し返す。すかさず反撃を繰り出す。大佐は大きく後ろに跳んだ。


「さも人類のため、みたいな言い方するけど! 誰がそんなことを望んだ! あの世界(メビウス)の人々の大多数は不条理に思ったはずだ。(いわ)れもなく、罪もなく、ささやかに生きていた人々が!」

『笑止!』


 大佐は声を立てて笑った。たまらなく不愉快だった。


『自ら道を開こうともせず、誰かの後塵を拝することでしか生きられぬ魂に何の価値があると言うのか! 地獄の世界を楽園に変えようと、そんな努力もしない愚民など、滅びて(しか)るべきではないか!』

「人間は誰もが勇者じゃない」


 睨み合う。


「強い人がいれば弱い人もいる。愛する人もいれば憎む人もいる。善人もいる、悪人もいる。だけど、それが人間だ。総体的にどうだこうだと勝手な判断をして、そこに勝手な願望と理想で断罪を加えようだなんて、言語道断!」


 駆け出す。


「大佐、私があんたを裁く!」

『世界を崩壊させた原因である貴様が、何を偉そうに言うか』

「だとしても!」


 互いの刃が互いを弾く。耳鳴りがするほどの澄んだ音が夜に響く。爆炎が、剣圧が、空間の熱量を押し上げていく。


「私は私の罪から逃げない!」

『ならば()()()の記憶とともに、滅べ!』


 赤熱した巨大な岩が落ちてくる。突如出現した半径五十メートルにも及ぶそれは、ゆっくりと私に向かって落ちてくる。


「ジル!」

「こりゃ無茶だよ」


 諦めたような声。私は大佐と鍔迫り合いを続けながら、打開策を探る。


 アスタは今の状況を維持するので精一杯だ。


 ジルの魔法では歯が立つまい。


 他のあらゆる物理手段は無力だ。


「でもまだだ」

『!?』


 私は大佐に弾き飛ばされる体で距離を取る。


「私はまだ、()()()()()()()を持っていない」

『なに……!?』


 明らかに激しく動揺する大佐。


 その時、空が青く輝いた。


 落下していた岩が粉砕され、燃え上がって消えた。


 衝撃波が地上を蹂躙し、メルタナーザさんの屋敷の周囲一帯が瓦礫の山と化した。


 私は素早くジルを抱きかかえていた。降り注ぐ熱い瓦礫を感じながら、私は必死にジルを守った。


 衝撃波が過ぎ去るなり、私はジルとともに立ち上がる。高温の土煙が私たちの足元を流れていく。


「ジル、大丈夫?」

「かすり傷が百個くらいできた」

「顔が無事なら良いよ」

「じゃ、きっと無事だ」


 そう笑って答えたジルを背後に回し、再び大佐に向き直る。


「大佐、どうやら女神ソピアに一杯食わされたようだな」

『ばかな……』


 どうやら私の記憶の「最後のピース」となるのが、この(ゼタ)だ。


 私は輝きを鎮めたメルタナーザさんの屋敷――があった場所に視線を送る。もはや何も残っていないその空間には、確かにメルタナーザさんの気配があった。あの巨大な岩を粉砕したのも、メルタナーザさんの力だったのだと私は理解する。


『そんな――』


 甲冑姿の巨大な騎士が吠える。


『そんな馬鹿な話があるものか!』

「いい加減――」


 私は両手に力を込める。


「この宇宙から、消え去れ!」


 大剣(アスタルテ)が真紅の輝きを放つ。炎のようなオーラを纏った刃を振りかぶり、私は突進する。


 一撃、二撃、三撃――矢継ぎ早に放つ攻撃を大佐はそれでも軽く()なしてくる。防戦に回るな、攻勢を続けろ。疲労を感じ始めた筋肉を叱咤(しった)し、私は前に前にと出続ける。


「アスタ!」

『モジュール・ティルヴィング・レディ』


 必中の剣(ティルヴィング)か。


 私の中で何かのスイッチが入る。


 大佐の長大な刀が私の頭目掛けて落ちてくる。身体を低くし、頭上に掲げた大剣(アスタルテ)でその刀の軌道を変える。鎧の左肩に切っ先が当たる。魔法障壁と切っ先が反発し合う。構わず前に進む。


 一閃。


 大佐の両膝が切断される。


 大佐はしかし、すぐにダメージを再生させると、私の背中に向けて刀を()ぐ。私は身体を捻りながら地面を転がり、その刃を紙一重で回避する。風圧で頬が切れたが気にしてはいられない。腹筋を駆使して跳ね起きると、私は再度大佐に向けて吶喊(とっかん)する。大剣(アスタルテ)が輝きを増す。


『ティルヴィング・発動(インヴォーク)!』


 どん、と空間が揺れた。私が振るった刃の圧力が、限界まで大気を圧縮していた。


 大佐の甲冑が粉砕され、身体が分断される。鎧の中身は、空だった。鎧のゼタ――それが大佐の正体だった。操られるだけの虚ろな器、それがブレイク大佐の今の姿だった。


『ソピアめ……姑息な……!』

「消え去れッ!」


 私の怒号で、また空間が揺れた。転がっていた甲冑が塵と化す。


 ブレイク大佐。


 妄執に取り憑かれた哀れな人だ。


 あんたにはあんたにとっての地獄(メビウス)こそが相応(ふさわ)しい。


 私は大剣(アスタルテ)を鞘に収め、まだ熱の残る地面に座り込んだ。


スカーレットの記憶は、ついに宇宙へと躍り出る。そこに待ち受けていたのは、女神の望みが生み出した「神」の似姿――回り続ける捻れた環だった。失われたものすべてを背負い、彼女は決断する。いまこそ、神を討つ時だ。次回、「神殺し」――その記憶の欠片が最後のピース。

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