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つけられている

 修学旅行の二日目。

 今日は一日班別の行動だった。

 今日も、高橋は途中途中で参加することになっていた。

 それ以外は、俺たち四人で行動することになる。

 俺と高橋の予定でいうと、今日は七星が盗んだバイクの持ち主である寺の住職から話を聞くことになっていた。それともう一つ、七星本人が潜んでいるのではないか、と言うエリアを探索するつもりだった。

 わざわざ、この調査の為に俺と高橋が班の連中に働きかけて、市街の寺の調査を課題にしたのだ。

 先生のオリエンテーションが終わると、班ごとの行動が始まった。

「あれ、今日は縦ロール巻いてないじゃない」

 と吉村が言った。

「あれ、支度にすごい時間がかかるの」

「そうなんだ」

「住山は縦ロールじゃない渚鶴院、どう思う?」

 中島が急に俺に話を振ってきた。

 渚鶴院の今日の髪型は、シュシュを使って後ろでまとめているだけだ。ポニーテールというような高い位置ではなく、後ろが広がらないようにしている状況だ。

 だが、いつもの豪勢な縦ロールよりシンプルで、若返っているように思える。

「えっ、いいんじゃない?」

「ほら、ツバサ。良いんだって」

「……」

 俺と渚鶴院は、顔を見合わせると、黙ってしまった。

 中島が俺たちを見て「プッ」と吹くと、渚鶴院が口を開く。

「逆に、住山、縦ロールが嫌なんだよね」

「そんなことないよ、縦ロールも似合ってる」

「良かったじゃない。どっちも好きだって」

 渚鶴院が真っ赤になって黙り込む。

 待て待て。これはどういう状態なんだ。

 中島と吉村が渚鶴院をからかうように笑うと、三人で何かを話し始めた。

 そうしている内、俺は班の人から離れてしまい、かなり後ろを歩いていた。

「ちょっと、ごめん、歩くペースが……」

 渚鶴院が気づいてくれて、俺の方を振り向く。

「!」

 一瞬、俺の後ろの方に視線を向けた後、彼女はこっちを見てゆっくりとやってきた。

「ごめん、歩くペース速かったよね」

「ちょっとだけ、遅くしてくれると助かる」

「速くならないように……」

 彼女は俺の手を握ってきた。

 俺も彼女の手を握り返した。

「?」

「どうしたの?」

「ちょっと、こっちに避けて」

 通りの建物の軒下に入ると、渚鶴院が後ろを見ろという風に仕草をする。

 俺はそれとなく後ろの方を見る。

 顎だけ髭を生やし、頭の毛はミリ単位で刈り込んでいる男がいた。サングラスをかけて、シャツのボタンを真ん中あたりまで外している。

 もう一人の男は、ツーブロックの頭にタンクトップを着て、両腕は肘のあたりまで青い幾何学模様の刺青を入れていた。

 道端で二人は話し込んでいるように向き合っている。

 時折、位置を変えながら、こっちを見ているようにも思えた。

 俺は小さい声で、渚鶴院に訊ねた。

「あの二人が?」

「さっきからずっと後ろをついてきてるみたい」

「……全然心当たりないな」

 彼女は班のグループLINKにメッセージを入れた。

『その先にバーガートップあるでしょ。そこに入って待ってて』

 そして俺に言う。

「バーガートップに入って、出ても彼らが外で待っているようなら、本当につけている、よね?」

 俺は頷いた。

 軒から出て、手を繋いで歩き『バーガートップ』に入る。

 中島と吉村が、座席で小さく手を上げた。

「何があったの?」

「つけられているみたいな気がして」

 オニオンリングを頼んで、四人で囲んで食べる。

 吉村は俺たちに向かって言う。

「なんかつけられるようなことした?」

 俺は首を横に振る。

 渚鶴院は言う。

「誰がつけられているとか、そんな事はどうでも良いのよ。修学旅行で問題が起こったら大変じゃない」

「それはそうなんだけど」

「吉村くんちょっと見てきてよ。こんな短い髪をした顎髭サングラス男と、両腕タトゥー男」

「えっ、怖いよ」

 現時点で、誰を狙っているのか明確ではないのだ。一人出て行った吉村が掴まる可能性だってある。

 その時、グループLINKにメッセージが入った。

『私、寺に着いたけど、皆んなは今どこ?』

 吉村が言う。

「高橋だ」

 中島はスマフォのスケジュール表をみんなに見せると、言う。

「予定の時間よりかなり早いじゃない」

「なんて返そうか」

「バーガートップにいるって返してさ」

「じゃあ、ついでに高橋に男の特徴言って、外にいるか見てもらおうか?」

「それがいいね。それなら自然な流れで確認できるし」

 俺は立ち上がった。

「それはダメだよ!」

 そんな事は絶対にダメだ。

 渚鶴院も立ち上がると、俺の肩に手を置いた。

「わかったから、落ち着いて」

「流れからすると、ツバサか住山をつけているんだと思うけど」

 渚鶴院は俺の顔を見た。

「わかったよ。俺が囮になる」

「ダメよ。私の可能性もあるんだから、二人でやりましょう」

「このアプリでタクシーを呼んで、来た頃に通りに出てすぐ乗れば」

 このやり方なら、つけてくる連中がタクシーをつかまえる間に、()けるだろう。

「……それなら住山の体に負担はかからないわね」

 俺はスマフォを操作してタクシーを呼んだ。

 約四分と表示される。

「二人も十分気をつけてね」

「うん」

 アプリに『まもなく到着します』の表示が現れる。

「自然に乗り込もう」

 渚鶴院は静かに頷く。

 バーガートップを出ると、停車中のタクシーに声をかけた。

 呼び出したタクシーで間違いない。

 アプリで呼び出したので、行き先を告げる必要もない。

 俺から先に、落ち着いて乗り込むと、車のフェンダーミラーやルームミラーを見ながら、周囲につけていた男二人がいるかを確認する。

 俺は確認出来なかったが、彼女は確認出来たようだ。

「やっぱりいたわ」

「……」

 タクシーは静かに市内を移動していった。




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