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隣にはアイドルが座っているけどハッカーな俺には関係なかった 〜『修学旅行で消えた生徒を探せ』編〜  作者: ゆずさくら


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31/31

後日

 修学旅行から一ヶ月ほど経った頃だった。

 俺は高橋(たかはし)にネカフェに誘われた。

 また仕事の依頼か、それとも修学旅行の件の反省会だと思っていた。

 俺が部屋に入ると、部屋のディスプレイにタイトルが表示されていた。

「……うんと、『青春の暗殺鬼』って、何これ?」

「仮題、仮のタイトル」

「今日はこれを観るってこと?」

 高橋の顔を見るが、反応はない。

 ……と思っていると、急に彼女は椅子を叩いた。

「座りなさいよ」

「あっ! 修学旅行で撮っていた映画!?」

 俺は言いながら、急いで座った。

「まだ編集完全に済んでないから、ただ並べただけのやつ」

 彼女は『高橋ひかり』の影武者とはいえ、学校生活とそれに付随することだけを代理で行っていた。

 そして芸能は、全て本人だった。

 そのルールが、修学旅行の時だけ違ったのだ。

 本人がさらわれてしまったからだ。

「もしかしたら、本当に上映される時は、カットされているかもしれないし、取り直しになってるかもしれない」

「見よう、見よう」

 俺たちは、高橋の持ち込んだPCで映像を再生した。

 普通の映画より長めで、だれるところもいくつかあったが、概ねテンポよく話が展開していく。『高橋ひかり』扮する女生徒は高等学校(ハイスクール)に通う次期国王(プリンス)暗殺を目論む連中に立ち向かい、それを阻止するべく活躍する話だった。

「『ひかり』ちゃんって、やっぱ映画だと『凄い』ね」

「ちょっと。私と比較してる?」

 俺は高橋の顔を見た。

「違うよ、映画俳優をやるべくして生まれてきた人、のようなオーラが」

「それは共感するわ。本当にあの()は凄い」

 ストーリーは進んで、銃での暗殺に失敗した暗殺鬼が学校に仕掛けた爆弾を使い、邪魔者である『ひかり』扮する主人公を抹殺しようとするシーンになった。

 俺は手を握られた。

 わざわざ手に触れてくるということは、おそらく、ここが『影武者』が代役(いや、撮っている人たちは彼女を本人だと思って撮っているだろう)をしたシーンなのだ。

 実際の人間としてなら、なんとなく、匂いや雰囲気で違いを感じ取れるのだが。

 映像では影武者なのか本人なのか、正直俺でも分からない。

 挟まれた校舎の間を、屋上に架けたワイヤーで弧を描きながら落ち、同時に爆発を避けるというシーンだ。

 映像処理の具合を見ると、爆発は後で合成しているようだが、校舎の間をワイヤー一本で落ちていくのは本当にやっているようだ。

 何度か顔のアップになっていて、落下の心理など演技も要求されている。

「すごいね。けど、これ、本人にやらせるの無理じゃね」

 忍者で影武者の彼女だから出来た、という気がする。

「けど本人が『自分でやる』って言ったらしいよ」

 不幸中の幸いだったのではないか。

 映画はそのまま一直線にクライマックスを迎え、終わった。

「凄いよ。これが初めてと思えない。これなら高橋が舞台とかもできるんじゃない?」

 俺は手を叩いていた。

 高橋も、満足気だった。

「やらせるわけないでしょ? 本人クオリティを常に出すために学校を私に任せてるんだから」

 しばらくそんな話をしてから、修学旅行の話になった。

「結局、藤原先生は絡んでなかったみたいね」

「そうなんだ」

「住山の位置を教えていたわけじゃないみたい。独自ルートで七星を探していたのと、警察側からの情報が連中にリークされてたみたい」

 もしそうだとすると、今後も逐次警察に情報を流すのは危険だということになる。

「まだ誰がとか、どういうルートで、とかは分からない」

「俺のニセ札画像ファイル生成、印刷スクリプトはどうなるの?」

「警察側と取引したから、罪には問われないわ。そもそも、ニセ札を作るつもりで組んだスクリプトじゃないんだし」

 俺はほっとして、胸を撫で下ろした。

「けど、七星はあれを使って実際にニセ札、刷ったじゃない」

「使う目的でなければ、そもそも罪は軽いのよ」

「まあ、とにかく。よかった」

 高橋はPCを操作して、報告書のファイルを正面に表示させた。

「七億はほとんど残っていたわ。七星さんは復学するみたい。大学の内定ももらった上で」

「司法取引で?」

 高橋は首を横に振った。

「表立ってはそうじゃない。けど、結局は、そういうことね。七億円は可能な限り、被害者に戻るけど、分からない分は警察の資金になる。だから大学の内定ぐらい出せるでしょうね」

「なんか金のために仕事したみたい」

「私たちは、ちゃんと一つの特殊詐欺グループを潰したのよ。それは間違いない事実」

 俺は頷いた。

 学生が修学旅行中に解決できる程度のことで、世の中が全てキレイになるわけもない。

 今はこのくらいでいいのかもしれない。

 俺たちの仕事で、少しだけまともで、正しい世界に近づいたのだ、そう考えよう。



 後日、映画が公開されたが、高橋(かげむしゃ)が必死に撮影した『校舎に仕掛けられた爆弾をワイヤーにぶら下がって回避するシーン』は本人で撮り直されていた。背景や状況も完全CGで、高橋(かげむしゃ)は一切映画に出ていなかった。

 だが、高橋(かげむしゃ)は意外とあっさりしていた。

 俺も前向きに考えた。

 高橋(かのじょ)が世間に知られずに済んで、ラッキーだったと。





 終わり



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