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隣にはアイドルが座っているけどハッカーな俺には関係なかった 〜『修学旅行で消えた生徒を探せ』編〜  作者: ゆずさくら


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30/31

オタク

 高橋(かげむしゃ)は怒っていた。

「私が来るまで待って、って」

「ごめん」

「……まぁ、今回は間に合ったからいいけど」

 高橋は右手に何かを握っていた。

 何を持っているか、よく見えない。

「これ? 細いワイヤーよ。特殊なものだから、簡単には見えないかも」

 高橋はゆっくりと両手でを使い、ワイヤーを手繰った。

 中の扉開放ボタンが引っ張られ、作動する。

「!」

 高橋は扉の隙間に滑るようにして中に入る。

 激しく物がぶつかる音がした。

「大丈夫か!」

 俺が中を見た時には、高橋(かげむしゃ)は一人の男を床に倒し、もう一人の腕を背中側にねじ上げていた。

「住山!」

 渚鶴院はそう言って俺の背中に回り込んできた。

「この人が助けてくれたの」

 高橋が『声色』を使っていう。

「君、そっちを押さえるの手伝って」

「は、はい」

 俺は床に倒れている男を押さえ込んだ。

 押さえ込む男の腕に、見覚えがあった。

 幾何学模様の刺青。

 こいつは修学旅行中、俺を追跡してきた男だ。

 高橋が腕を捻じ上げている男を見る。

 そっちはサングラスはしていないが、やはり顎鬚に特徴があった。

 なぜ、奴らがここまで追いかけてきている?

「そこのお嬢さん、この二人と一体何があったのかしら?」

「……」

 渚鶴院はなかなか口を開かなかった。

「何か言ってくれないと、押さえ続けるわけにも」

 トイレの扉は開いている。通路をいく乗客は不審な顔で覗き込んでくる。

「誰か呼びましょうか?」

 渚鶴院が手を振って扉を閉める。

「すみませんなんでもないんです。すぐすみますから」

 扉が閉まると、彼女は話し始めた。

「ちょっと、トラブルになりまして」

「そうだ、もとはといえば、この女が悪い!」

 顎鬚の男が大きい声を出すと、高橋が腕をねじあげる。

「どういうトラブル?」

 彼女は俺の方を見て言った。

「住山はこの二人見覚えあるでしょ? この二人、実は『高橋ひかり』のファンなのよ、いや、ファンというかオタクというか、ストーカーというか……」

「それで?」

 そう言うと目線を逸らしてきた。

「お姉さんは分かりにくいと思うんですけど、修学旅行に、途中途中でアイドル女優の子が参加するっていう情報を、私がこの二人にだけ流したんです」

「なんで?」

「……」

 渚鶴院は唇を噛むように動かした。

「そうだ。住山は耳塞いでて」

 俺は両腕タトゥーの男の背中に乗っているだけだったから、手を耳に当てた。

「ちょっとそのアイドルの子にジェラシーを感じてて」

「ジェラシー? 相手はアイドル女優なんでしょ。あなたも芸能界を目指しているとか?」

「そうじゃなくて、ある男子生徒がいて」

 高橋が俺の方に視線を送ってきた。

 渚鶴院は視線をずらして話し続ける。

「アイドルの子がその男子生徒と仲がいいんですよ。もしこのストーカー的なファンがいれば、その男の子と仲良くすることはないんじゃないか、つまり、邪魔ができるんじゃないかと」

「けど、そんな貴重な情報をあげたのなら、あなたがこの二人から何かされることは……」

 もしかして二人の口が動いている限りは、俺は耳を塞いでいなければならないのか。

「アイドルに会えなかったんです。その私とその男子で、この二人を『マク』ように逃げちゃって、結果として『高橋ひかり』に会えなかったんです。だから、約束が違うって」

 彼女は項垂れた。

「そう…… とにかく二人を鉄道警察に引き渡しましょう。暴力振るわれたとか具体的な被害はない?」

「警察は勘弁してくれ」

 高橋はまた腕を捻り上げる。

「こんなところに男二人で、女子高生閉じ込めて『話し合い』でした、というのは通じないわよ」

「あっ、あの、被害者の私が何か言わなければ、捕まらないですよね」

 彼女は助けるつもりだ。

「そうだけど、不安じゃない?」

「痛い、もう関わらないよ。約束する」

 高橋は俺の方を見る。

「そっちは?」

「ああ、もう忘れる」

「……」

 高橋は腕を離した。俺も、謝りながら男の背中からおりる。

 扉を開けると、男たちは逃げるように出ていった。

 俺は気になって、つい声にしてしまった。

「あの態度、大丈夫かな?」

「そう思うなら守ってあげなさい」

「あの、ありがとうございました。お礼をしないと。お名前は? よろしければ住所を」

 高橋は渚鶴院を押さえるようなジェスチャーをした。

「あ、そういうのいらないから」

 そう言うと出ていってしまった。

 俺と彼女もトイレを出て、自分たちの席へと通路を戻った。

 列車の通路が狭いので、彼女が先を進んだ。

「住山はさっきの女性(ひと)の名前知ってる?」

「いや、知らない」

「どうやって助けてくれたのかしら」

 俺は少し考えてから言った。

「俺が中から複数の男女の声が、と言ったらなんか、あっという間に」

「強くて優しい女性(ひと)ね。私もああなりたい」

「そうだね。俺もそうありたい」

 彼女は振り返った。

「ねぇ、私の真似しないでよ」

「真似したわけでもないし、そうなりたいって思うのは勝手でしょ」

「住山の言い方が、なんか、引っかかるだけ」

 勝手だなぁ、と思いつつも、もしかしたら、と、俺は考える。

 彼女の直感で、助けてくれた女性(ひと)が『高橋(たかはし)』だと気づいたのかもしれない。

 あるいは俺の発言から、あの女性がなんとなく高橋ではないかと気付いた。

 そんな気がする。




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