1-10 異世界の対人戦
お昼寝したら夜でした。
遠くで聞こえる狼の吠声と人の声、彼女の顔色を伺うに声の主は知り合い、村の人達なのかも。まぁ、折角友好的な関係を築きつつある現状下で見捨てるのは得策ではないか。
周囲を伺っていた狼も向こうの喧騒に合流したようだし、余り悩んでいる時間はない。最優先事項は彼女と村の人々との友好的な関係構築、うまく狼を撃退した後に彼らをここに呼んで彼女と村に戻ってもらおう、不安視していた村の方向や、狼の排除問題等一気に解決できる上に俺の有用性と友好的な態度を示せるはず、俺は彼女に向き合いサムズアップして頷き走り出した。
狼の吠え声をたよりに薄暗い森の中を走る。だんだんと近付くにつれて人の声もしっかり聞こえてきた。相変わらず意味はさっぱりわからないが声から察するに3人の男性のようだ。
前方に見える茂み向こうが、松明を掲げているのか明るく見える。勢いのままに跳び越そうと地面を蹴り茂みの上に出ると、ちょうど狼が松明を持つ男性に飛びかかろうと地面を蹴った所だった。
距離は5メートル位か、なら踏み込める距離だ。着地した左足に力を込め踵を少し浮かせる、ひざを少し曲げ体を気持ち前に倒す。口を大きく開けて襲い掛かる狼と、それを松明を向けて防ごうとする男性を視界に納め。軽く息を吸い込み腹に力を込める。
男性の腕を食いちぎろうと狼は顎を少し上げた。
それを確認した俺は溜めた力を一気に解放し前に飛び出す。
八極拳にはさまざまな技術や技がある。その内のひとつ沖捶というものがある。ものすごく大雑把に言ってしまうと中国拳法の地面を踏みしめる震脚の力を推進力にしてしまう移動技術と攻撃手段を一緒にしたものだ。
震脚の力の強さがそのまま推進力になるなら、今のチート性能を誇るこの体に出来ないはずがないと思い、とっさの思いつきのままやったのが悪かった。
たしかに、俺の拳は狼を捕らえ無事に男性の窮地を救った。が、勢いがつき過ぎてそのまま狼ごと男性前を素通り、その向こうにあった木に打ち付けてしまった。挙句、目一杯力を込めて打ち出した結果、打ち付けられた狼は口から色々撒き散らすし、木は轟音を上げて倒れてしまった。
先程までの喧騒が嘘のように静まり、狼も人も俺に注目していた。
は・・・恥ずかしいぃぃぃ!いや、俺の中では華麗に踏み込んで狼を殴りつけてドヤ顔するイメージだったんだよ?それが思いの他飛びすぎてそのまま、ね?
しかも狼がグロイ。そりゃどてっぱらに思いっきり良いのが突き刺さったんだし、内臓損傷するぐらいはやる気だったさ。口からスプラッタなマーライオンは想像の範疇外の事ですよ。
うわ、もう一回間近で見ちゃったよ。恐る恐る振り返って周りを見てみた。人も狼も皆一様に『うわぁ』って顔してるよ。
そりゃそうですよねぇ、乱入というか闖入者かと思ったら暴力的な猛威を振るうスプラッタですもの。そりゃドン引きですわ。って俺も呆けている場合じゃないや、
よくよく考えれば俺も狼同様人間にとっては討伐対象者なんだし、呆気にとられている内に残り3頭ぶちのめして置こう。
俺が行動に移ると一番最初に立ち直ったのは狼達だった。直ぐにきびすを返し走り出そうとする。今逃げられると何の為にここまで走ってきたのか意味がなくなってしまう。今度は地面をなぞる様にイメージして力加減をし距離を一気につめる。
ここで弓を持った男性の一人が我に帰り弓を構えるが、狼とゴブリンのどちらを優先するのか悩んだのか、狙いが今一定まっていない。余り時間をかけると俺の方に向けられそうだな。
真ん中に陣取っていた1頭を、下からアッパーを撃つように手刀を打ち込み爪で腹を切り裂いた。狼は血を混じらせた声で呻くとそのまま動かなくなる。貫いたまま腕ごと大きく振り、死体を切り裂くと同時に右側にいた狼の顔面を爪で切り裂いた。
残り1頭と思い振り返ると同時に狼の頭から弓が生えた。
ここで改めて男性達を観察してみる。襲われていた松明を持った男性が一人、今狼を打ち抜いた弓を構えた男性と、同じように弓を構えている男性。弓を持った方は狩人か何かかな?
松明を持った男性は着ている者が普通の服っぽいから彼女の父親かもしれないな。
さて、彼らをどう彼女のいる所まで案内しようか、と思った瞬間2本の矢が飛んできた。まぁ、有害討伐対象種族だろうし当然の対応だろうけど、せめて一言あってもいいんじゃない?
右に飛んでよけると1本は地面に突き刺さり、残りの1本は後ろの木に刺さる。あぶねぇな!結構やる気満々だぞ?!
と、すぐさま弦のしなる音が聞こえる。さっきまで呆けてたのに立ち直ると判断早いな?!
どうする?彼女の時みたいにこちらの行動を伺うまで無く躊躇も容赦も無い。友好的な対応は難しいな、等と考えてると第2射が飛んでくる。
っち、弓ってこんな連射できるの?!考える間もない。再び飛んでくる矢を避けつつ手近な小石を拾い松明を持った男性に投げつける。さっきの沖捶のように考えなしで投げつければえらい事になるかもしれない。やまなりになるように手加減をし投げた小石は男性の足元に落ちる。
弓を持った二人が警戒心を強め構え直そうとする。その隙に後ろに飛んで茂みを盾に一度彼女の所まで逃げよう。こちらを誘導するより彼女に来てもらったほうが早いな。
1段落10話完結で考えていましたがここまで話が長くなってしまいましたので一度お話を切り次話の11話で序章完結としま・・・
・・・完結を目指します。
出来たら良いなぁ。頑張ろう。




