可哀相な僕と不憫な妹の婚約者の話*兄視点
前回に予告した通りの兄と殿下の話です。
興味ない人はすみません。そしていつもの感じとはちょっとテイストが違いますので
鬱展開が苦手な方はブラウザバックをお願いします。
これまた綺麗な黒髪だな。というのが僕が王子を見た最初の印象だ。
王家に黒髪多しと言ってもそれそれで、灰掛かった色合いからそれもう焦茶色って言うんじゃないかなって色合いも多い中。
漆黒ってこういうのを言うんだろうなっていう位の綺麗な黒髪の僕と同じ年の子供を遠目に見る。
この場所にいる子供は僕を含めてもそう多くはない。
僕らの国は、混じりけのない色を持って公爵とする。
僕は赤の髪をもって北の公爵の跡継ぎだし、妹は透き通るような銀の髪を持って南の公爵の跡継ぎだ。
東の公爵は白髪が混じり始めたとはいえ見事な青い髪をしているし、西の公爵は明るいカナリアのような黄色い髪をしている。
そして中央を治める王家の色は黒だ。
この時はまだ、戴冠式にはさぞ黄金の冠が映えるだろうな。
とか、その程度くらいにしか思っていなかった。
まあ、まだまだ王は20代とお若いからそれは当分お預けだろうしその頃には僕が将軍として右隣に並ぶんだろうかとぼんやりとそんなことを考える。
丁度、王の隣に胸当てだけの鎧をつけ褒章を山ほどつけたマントを着て、槍を掲げた母が控えているように。
それとも、もう一人の逆位置に立つ副将軍の位置になるのだろうか。
それとも僕の席はあちらだろうか、と妹と同じ銀色の髪を持つ父に視線を向ける。
官服をさらりと着こなした父と、父よりも20歳は年嵩だろう内政公爵の並ぶ姿を見て嘆息する。
どちらにしても茨の道だ。
基本的に人前に出ることが面倒な僕は、官位そのものよりもこの式典に絶望する。
出来ることならば人に会う以外の面倒なことなら全部僕がやってあげるから、どちらも物怖じしない妹にその座を譲りたい。
そう思ったのが、5歳のころの僕の話。
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それからすぐに王子に面通しされ烏滸がましくも光栄に友人の一人になったのは、まぁ僕の能力というよりは母の能力だ。
そうじゃなければコミュニケーション能力が著しく低い僕と、何を考えているのかさっぱりわからない無表情で無口な王子との間で友情が芽生える事はほぼ皆無と言っていいだろう。
母は簡単に言ってしまえば、脳筋の天然である。
装えば見事に化けるとは言え、均整の取れた素晴らしい身体と天性の勘の良さと鍛え上げた北の技を持っている。
ちなみに槍と強弓を得物としているので、見える所には一つとして傷がない。
内政官の父には肩口にざっくりと裂けた傷があるというのに。で、ある。
父曰くこの傷は名誉の負傷とのことなので、父が巷に流行らせた寒気がするほど甘ったるい呪いの物語の最後に出てくる母を庇ってできた傷なのだろう。
それは結構な美談だけど、酒を飲むたびに僕に見せてくるのだけはやめてほしい。
父のそれは誇り高い男の勲章だけれど、それと同時に僕からすればただの呪いの痕だ。
と、ずっと心の底から思っている。
話が逸れてしまったが、母に槍の指南を受けている王子と僕は毎日同じ様に母にボッコボコにされる。
着心地が良くて軽い綿の服は何度も絞ってすぐにボロボロになるし、毎日ドロドロになるから何度も洗うしですぐ駄目になる。
王子ってそんなに強い必要あるの?と、帰り道の馬車で母に聞くが母は僕の疑問に笑顔で答える。
「心の強さは体に連動するから。
安心しなさい、ルーベルト。
勿論、来年にはリカにも同じことをさせるから」
うん。やっぱり母は安定の天然で脳筋だ。
その言葉で僕が安心すると思うところがやっぱりおかしい。
リカは妹だしあんなにも儚い姿をしているのに。
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しかし、王子も大概おかしな奴だと僕は思っている。
あんなにいろんな護衛がぴったりと何人も何人もくっついているのに、強くなる意味があるのだろうか。
僕でもいい加減に嫌になるような訓練の中で、同じようにボッコボコにされてドロドロにされて嫌じゃないんだろうか。
「殿下は嫌じゃないの?
毎日毎日、うちの母さんにフルボッコにされて」
人見知りが酷い僕が勇気を奮い起こしてそう話しかけたのは、お互いに無言のまま過ごして流石に気まずくなってきた10回目の訓練の時である。
何で王子が庭に水をやるための水道でシャツを無言で自分で洗って力いっぱい絞って、また着てるのだろう。
まあ、公爵家嫡男の僕も同じことしてるからそれについて深く掘り下げるのもおかしいんだろうけど。
「強くなるために必要な事なんだろう?」
訓練が、嫌。
とか、一度も考えたこともなさそうな顔で王子はそう言った。
勿論、今まで会話をロクにしたこともない僕が王子の表情をまともに読めるわけがないんだけど。
「何でそんなに強くなりたいのさ?
あんなに君に護衛がついてるんだよ?」
母の得物の間合いに入りたくないのかそれともほかに理由があるのか分からないが、遠巻きに見ている護衛の皆さんを示して言えば王子は静かにかぶりを振った。
「あれは第二妃の手のもので、護衛というより見張りだ」
どうやらほかの理由の方だったらしい。
しかも、結構重めの理由で。
「へー…」と思わず間抜けな相槌を打ちぽかんとした顔で護衛の皆さんと思っていた集団を見ていれば、初めて王子が苦笑らしきものを漏らした。
「東は結構、貪欲だからな。南とは違って血で縁を繋ぎたがる」
「殿下やるのも大変だねー」
「結局はいつも南に筆頭を取られるのに…残念なことだ」
ちなみに南というのは僕の父の事で、東というのが式典で見たあの壮年の内政官の事を言うのだろう。
「いずれ後を継ぐということになれば、俺も東から嫁を貰うことになるんだろう」
「……ほんっと、大変だ」
諦念に満ちた科白に、僕は流石に呆れかえってしまってため息交じりに肩を竦める。
「君だって大変じゃないのか?」
「僕は別に命を狙われたり常に見張られたりもしないし、許嫁を勝手に決められたりすることはないよ?」
「………だが、両親が『運命の恋人』だろう?」
その台詞に、シャツを絞る手が止まる。
「な、な、な…。なんでそれを…」
僕が人前に出ることが著しく嫌いになった原因をさらっと口に出され、手が震え出した。
物心がついたころから、父や母について行くたびに僕の顔を見て、誰もが言う。
『あの『運命の恋人』の子供たち。
人形のようにそっくりで愛らしい。
今度は君たちがあの悪魔のように私たちに地獄を運んでくるの?』
大人たちは低い声で呪うかのように笑って、僕やリカルダを撫でる。
それはもう、壊れ物に触れるようなやさしいやさしい手つきで。
僕たちに危害を加えれば、母に斬られ、父に陥れられる。
だから、ぞっとするほどやさしい手つきで僕たちに触れる。
そのたびに僕は触れられた場所がまるで呪われたような気分になって、妹を必死で守る。
ちいさくてかわいい妹だけは撫でさせまいと必死に守る。
そうするたびに、大人たちはどこか壊れた人形のような奇矯な動作で笑う。
『おやおや、今度の『赤騎士』は『男』だね。
前は『女』の『赤騎士』が必死に『銀』を守っていたのに。
おかしいね。
でも色や顔立ちはそのままだから『大丈夫』だね』
そのたびに、道化になったような気分になるのだ。
たぶん、大人たちは僕ら兄妹を一対としてしか見ない。
まるでよくできた人形のように僕らを扱おうとする。
まるで僕ら兄妹が『運命の恋人』であるかのように扱おうとするのだ。
母の領地ではそれが顕著に出る。
幼いころから許嫁同士だった父が、母の領地で過ごした期間が長かったせいだ。
父の領地でも同様だけど、父は幸いにして三男だったため、そこまでの期待や溺愛は受けていなかったお陰で大人たちの記憶に薄い。
僕は母の跡取りだ。この深紅の髪や母に似た顔立ちがその決め手になったらしい。
しかし今は、妹が赤髪だったらむしろ母の領地に置いてはおけないと安堵すらしている。
僕が銀の髪を持ち、妹が赤髪である方がきっと不幸だ。
そう、安堵している。
ずっとタウンハウスの敷地の中で永遠に引きこもって生きていきたいと願ってきたけれど、この外を知らなさそうな王子の口からすらその話題が出るとなれば、この国に安息の場所など、どこにもないのかもしれない。
こうなったら早々に妹を連れて他国に亡命でもすればいいんじゃないか。
と、ぐるぐるとしだした思考の中でそう思ったところで肩に手を置かれ大袈裟な程、ぐらりと身体が震えた。
「……おい、急にどうした。貧血か?顔が青……」
狭まる視界の中で慌てたように走ってくる母の深紅の髪が見えたのを最後に、みっともなく僕はその場で昏倒した。
嗚呼、やっぱりどこまでも妹を連れて逃げたい。
「………………っ!?」
ふわりと意識が戻った所で、目に映る見慣れない天井にがばりと体を跳ね上げる。
(どこだ………ここは…?)
庭に面した子供には不相応なほど広い部屋。窓から見える風景にも覚えが無く闇に沈んでいる。
調度品は高級かつ良質なもので品がよく、いかにも金の掛かった部屋である。
手触りのいい服を着せられ、広いベッドに寝かされている。
(また、どこかに浚われたのか…?)
嗚呼、でも自分だけでは不十分だ。
僕たちのような愛玩人形を欲しがる人間は多いけれど、そう言った相手は概して僕たち兄妹を『一対』で、欲しがる。
僕のような色合いだけは派手だけど、遺伝に残りやすい色合いの人形の方だけを欲しがる人間は案外少ない。
あの物珍しい銀と金を持つ妹を欲しがる人間の方が多い事を僕は知っている。
だから、きっと僕を浚ったということは妹を手に入れようとする人間がいる。と、いうことだ。
夢見がよほど悪かったのか少しだけ体を動かすのですらひどく億劫で、薬でも使われたのだろうかと言うほどに倦怠感が酷い。
それでも無理矢理によろよろと体を起こし、音を立てないよう素足で絨毯の上に立ち上がる。
どうしても、どこまでも『銀』を守ろうとするのは母の血か、それとも『金』を愛した父の血か、それとも僕にかけた大人たちの呪いか。
自嘲しながら音を立てず扉から出ようとしたところで、その扉が開いた。
「……!!」
そこにある顔を見て僕は仰天し、相手も僕を見て驚愕したようだ。
「殿下!?な、なんで?ひとりで突っ立ってんの?」
侍女でも兵士でもなく、第一王子が明るい廊下に一人で突っ立っている姿に仰天し、思わず上ずった声で誰何する。
「友人を見舞って何が悪い」
標準装備の不機嫌そうな顔で堂々と胸を張ってそう言われるけど、いや、それはどう考えてもいろいろ拙いだろう。
あんた、命狙われたり、見張られたり、してるんじゃないのかよ。
と、呆れ返って思ったところでふいにずっと緊張していた胸にすっと安堵が広がった。
まあ、広い意味で言えば僕ら兄妹はこの黒の『対の人形』になる運命だ。
どの位置であれ、南と北は対角線上に置かれるし。
まあ、順当にこの人が王になれば、の話だから、近々生まれるだろう第二王子が継ぐ場合でもそちらの人形になるだけの話だけれど。
誰を娶っても誰と契ってもこの黒に使われるという予定は、今のところ覆されることはない。
勿論、それは妹を連れて僕が国外へ逃げなければの話だけど。
「……ああ。でも、まあ、そっか」
はは。と乾いた声で笑って僕は、この黒の前でならば安堵できるかもしれない。と、初めて気づいて期待する。
腹黒い父の前でも、天然の母の前でも僕は安堵しない。
何故なら二人は僕らに呪いをかけた張本人たちだから。
この僕が。
近い将来、母を凌ぐ『天才』にならなければならないこの僕が、
僕を『友人』と呼び、
僕を『人形』と知らずに、
僕を『使おう』とせず、
自分が強くなりたいこの黒の隣を守ればいいのかと。
(…人形だって、持ち主を選んでもいいはずだ)
僕がいいと言えば、妹だって、両親だって今更文句も言うまい。
ならば、僕ら兄妹はこの黒の線上に立つのだろう。
僕が彼の後ろで、妹は檀下の最前列で、とびきりに美しいよく似たかんばせで、微笑むのだ。
それはきっと母そっくりの、父そっくりの、ふてぶてしく誇らしい笑みだ。
きっと二代続く良く似た『人形』に大いに貴族たちも大衆も沸くだろう。
きっと式典やパーティのたびに僕は憂鬱になって、妹はそんな僕を見て笑うのだ。
(まあ、それでもいっか……とりあえず、今のところは)
この黒に見どころがなければ最悪、妹と逃げればいいし。
と、今までになく深呼吸をした後のような軽い気持ちで僕は覚悟を決める。
これは、そう腹を括ったところで殿下にいきなり土下座され(ちなみにその時殿下は母に殴られたのか頬が腫れていた。……母って本当に…いや、骨が折れてないってことは加減したんだろう…多分、だけど。そして謝り方は母から聞いたと言った。……母よ…)将来仕える予定の人の土下座とか本気でやめてほしいって焦ってから、その後に簡単に頭下げるなって怒って、結局、何故か殿下を愛称で呼ぶ事になる直前の僕の10歳の頃の話だ。
兄は結構なコミュ障鬱野郎です。
書いてて結構、なんだこの野郎!と思ったわけですが、
妹がああなのに兄がこうってなんか兄だけ可哀相なやつだなあと思ったんですけど。
まあ、妹が救済であり呪いってことですよねー。
ああ、どんどん最初の予定と離れていく…(涙)
ちなみに次は殿下の話。いろいろ大変申し訳ない…。
早くリカの能天気な話に戻したいなあ…。(;´・ω・)