呪われている自分と哀れな婚約者とその兄である親友の話*殿下視点
投稿するかどうか相当悩んだんですが、結局投稿することにしました。
今度は殿下の話です。殿下も鬱展開です。もうこいつらやだ。
苦手な方は前話と同じくブラウザバックをお願いします。
第三話の蛇足的な補完としてご覧ください。
意外にもこの与太話にお付き合いいただける方がいらっしゃるみたいで驚きで嬉しいです。
本当にありがとうございます。
今回はやや短め?
ロマンチストで多分キャラ中一番不憫な殿下に、どうぞ砂を吐くご準備を。
母が死んだのは、自分を産んだせいらしい。
そうと知ったのは5歳の頃だ。
遠い記憶にあるのは、自分と同じ黒の髪。
呪われた王家の色だ。
母は王家の遠縁の娘で、父である王とは幼馴染だったらしいこと。
自分の娘をと望んでいた東を遠ざけて無理を推して血の近い娘と結婚した。
王家こそ自分たちの血に拘りすぎる。という解りやすい例だ。
近親婚が続きすぎたせいで、子供が生まれる事が稀になってしまい濃すぎる血は不惧を呼ぶ。
肉体的にも精神的にも欠損は当たり前、そんな子供が多く生まれたことにより、近親婚を禁じたのは何代前の王だったか。
諸侯の反対を押し切って迎えた黒の姫。
南の嫡男へと下賜する事が生まれた時から決まっていた姫だ。
文書によれば、この姫も例外なく精神的に病んでいたらしい。
民衆に広く伝わってはいないが、すべての元凶はこの姫の容姿のせいにある。
大衆に多く受け入れられた『運命の恋人』事件。
その悲劇を巻き起こしたのは、王家だ。
そして、だから父である王は南に逆らうことが出来ない。
特に、狂気を綺麗な恋の話にすり替えた現当主には。
そして誰からも興味を持たれない子供。
それが自分だ。
内政に明るい東と南。軍事に明るい西と北。
ならば何故、中央などと呼ばれ尊ばれるのは王家なのか。
**
その話をすれば、北の跡継ぎであるルーベルトは呆れたように肩を竦める。
「すべては黒から生まれて、黒に戻る」っていうのが定説だからね。と、友人はまるで大人のような顔で言うのだ。
血縁に関係なく契る民衆には灰や茶などの色味のものが多い。
稀にどこの遺伝が強く出るのか4公爵のような鮮やかな色合いのものもいるようだが、それは本当に稀らしい。
しかし、逆に王家の血が混じらない限り黒と呼べる色になることはほぼないらしいし、王家の血を継いですら灰や茶に似た色になったりすることも多い。
実際父は、灰掛かった暗い髪色をしている。
父の母は西から迎えたため黄みを帯びているからだと言われる。
そのことが父に酷いコンプレックスを呼んで、黒の妻を迎えたというのは考えすぎなのだろうか。
「まあ、色なんてどーでもいいんじゃないの?」
と母の色をそのまま継いだような深紅色を持つルーベルトは嘯く。
「だって僕は別に桜色をしていたとしても、赤だったとしても妹はかわいいし守りたいと思うけど?」
自分こそ銀に縛られているくせに、親友はそう言って笑う。
こいつの自他ともに認めるシスコンぶりはいつ聞いても呆れるほどだ。
「あの性格で赤だったりしたら、僕がきっと南を継ぐことになるんだろうけどさ」
南の宰相よりも明るい色をした目を面白げに歪めて皮肉のように言う。
北を継ぐにしてはルーベルトには覇気がない。と、いうよりも継ぐことに関しての興味が薄いように思える。
きっと妹が居なければ、自分の隣に来ることもなかったのだろう。と、そんな会話をした事もないけれど感じる時がある。
「うちの妹と結婚して、その色を濁してやったらいいんじゃないの?」
その妹が何度会っても視線も合わせない事を知っている癖に揶揄ってそんなことを言うのだ。
花を贈ると言えば断られ、愛は要らないという。
権力というものにも全く興味がなさそうな態度だ。
擦り寄ってくる貴族の態度を見れば、普通であれば必要になくとも侍ろうとし、気に入られようと必死になるはずなのにそんな素振りは、一切ない。
何度も名前で呼んでほしいことを仄めかしているが、他人行儀に『殿下』と呼び一定の距離を保ち続けようとする。
筆頭の婚約者のその態度に諸侯は安心しきって、事あるごとに娘を娶せようとしてくる厚顔さも閉口するが。
「嫌がってんのに勝手に結婚しようとしたら、僕はリカを連れて逃げるけどね」
笑って言うが、それが本心であることも知っている。
そして、その時は一切の痕跡を残さずに姿を消すのだろう。
その時は追うことも許されず、元の予定通り義母のような権力欲に溺れる花嫁を自分の隣に置いて。
権力に興味のない兄妹だとため息をつきたくなるのはこんな時だ。
**
彼女に初めて出会ったのは城の一室の事。
王からの命令では打ち崩すことはもっての外。
東が相当に粘ったからしいが、弟を後見をするという意思は固く、それは即ち自分たち兄弟が敵になるということだった。
7歳年下の弟はまだ本当に子供で手のかかる盛りであり、このいつも静かな城の中で華やいでいるのは弟のいる一画だけだ。
顔を合わせることは殆どない兄妹だったが、色味の似ている近い年頃の子供がいないせいか親近感を持っていたのは確かだ。
望んだ妃から生まれた完全な黒を持つ自分を父は時折疎ましいように見つめる。
その父が、自分の相手にと選んだのは頭の上がらない南への嫌がらせのように決めた銀の姫だ。
(これが、ルーベルトの妹か)
話だけは何度も聞いていたが、友人の話で聞くとそんな完璧な令嬢は本当に存在しているのかと聞きたくなるような内容ばかりで逆に存在感がない。
艶やかな銀の髪に、光が透けて金にも見える琥珀の瞳。
ルーベルトによく似ているが、彼よりも柔らかな曲線の目許は儚げに見える。
これが、自分の婚約者。
やっと何もかもが儘ならない自分の、自分だけのものになる。
「初めまして、我が花嫁どの」
その視線に自分を入れたくて両手を掴み、呼びかければ息を呑み、顔を上げこちらを見つめた少女の目が大きく見開かれた。
一体何を考えているのか、目まぐるしく目の中に感情が流れるのが見える。
「こちらこそ、初めまして。
お会いできて光栄ですわ。殿下」
一拍を置いてそう笑いかけられた時にはもう動揺は収まっていたが、はにかむ様に紅潮した頬が年相応で可愛らしさを感じさせる。
零れ落ちそうな目は潤んだように輝いていて、その深い色に魅入られそうだ。
「ああ。こんな美しい姫を頂けてうれしい限りだ」
余りにも見つめすぎては失礼だろうと、視線を逸らしてそう言った面白味のない自分の言葉。
感情が表に出にくい分だけ、ちぐはぐに聞こえるだろう台詞は王家で決められた婚約者へ向ける最初の挨拶の常套句だ。
「ありがとうございます」
と、そんな意味のない挨拶にもほんの少しだけ照れたような声で応えられ心が浮きたつ。
ちなみにこの話を後にルーベルトに言った所、失礼なことに「お前、孤独すぎるだろ」と呆れられた。
自分のものが一つでもあるということが信じられない。
それが、ほとんど意味のないものだと知っていても。
この柔らかそうで健やかな可愛らしい姫は、その吐息さえも数か月前から自分のものになった。
完全な能力主義で、王家に阿ることのない南の姫。
その能力の高さ故にさぞや高慢な少女が来るのだろうと思っていたのに、微笑む姿にはまったくの色味がない。
(あのルーベルトの妹だしな)
ルーベルトの初回でもロクに会話を交わさなかった。
一年を超えるころになってやっと会話をしたのが不思議だったが、母であるリシュリアからすればルーベルトから声を掛けてきたこと自体がすでに奇跡に近いらしい。
話せば案外面白くて皮肉めいていて失礼な奴だが、変に媚びたり顔色を見たりするところが無い分だけ付き合いやすい相手だ。
その男の目に入れても痛くない程かわいがっている相手が、この妹か。
多くの貴族たちはまだ自分と弟のどちらにつくか測りかねているところがあるらしく、あまり人付き合いなどをすることがない。
北と南が自分に兄妹を近づけた事によっていずれ何かが変わるのだろうが、妹に関してはあくまで「南」を後見にという意味合いの方が強く彼女もそう思っているようだ。
向けられるさらりとした好意が好ましい。
恋愛と呼ぶには色がなく、友情とか共感めいたものが強い視線。
「気が合ったようで良かった。殿下に庭でも案内させよう。二人で存分に語り合えばいい」
自分が一目で気に入ったことに気付いたのか、はたまたその隣にいる彼女の両親に気遣ったのか。
今日はたまたま機嫌が良かったのか。
それとも単に少女には聞かせられない話をしようと言うのか。
多分後者だろう。と思いながら、彼女の小さな手を取り庭へ案内する。
自分よりも僅かに温度の低い、その体温に珍しく泣きたいような気分になりながら。
一つ年下とはいえ、子供と呼んでいいだろう年頃にも関わらず慣れた貴婦人のような優雅さで庭を眺め、どんな話を振っても淀みなく会話できる。
会話の切り返しの一つ一つにに裏打ちされた知識を感じて舌を巻いた。
ベーレンツの娘だと思わせる聡明さとバルフェットの明快さを併せたような口調。
子供の肩には重いだろう正式なドレスを悠々と捌く足取りの軽さは彼女が普段から運動をしている証拠だろう。
「素晴らしいお庭ですね」
花を見つめ、吐息をつく甘い横顔に思わず見惚れてしまうのは仕方ないだろう。
自分の目には庭に咲くどの花よりも彼女は優雅で可憐に映る。
ひょっとしたら思っていたよりもずっとルーベルトに毒されているのかもしれないな。と苦笑して説明する。
「……ああ。ここは4公爵の花が揃っているから」
東西南北の土地の花が育てられるこの庭だったが実際の所あまり好きではない。
自分には花の名前を諳んじることはできても、いずれ散ってしまう花を愛でるという習慣がないからだ。
それを彼女に見抜かれているのではないだろうかと、つまらない面白味のない男だと思われるのが何故か、嫌だと思った。
官女たちが池の周囲で何か準備をしているのを見て、池へと誘えばけぶるような東の花を咲かせる光景に眩しげに目を細めている。
その視線が、焦がれるように森の近くに配された薄色の花を咲かせる樹に向けられ、その目の色が僅かに曇るのを見て苦笑する。
あれは、確か、北に春を告げ潔く散ってしまう桜の木だ。
彼女は何も別に自分に会いたくて来たわけではない。
ルーベルトからは自分との婚約に彼女が相当に泣き散らしたということは聞いていた。
今の彼女からはそういった嫌悪は綺麗に隠されているが、内心、決められた結婚に対しての嫌悪のようなものは強いのだろう。
相手が自分でなく弟だとしても同じような顔をして同じ笑顔を向けるのだろう。
いや、王家でなくても同じだ。
決められた相手が誰であれ、彼女は同じように微笑み、潤んだような視線を向けるのだ。
それを思えば、今出会えてよかったのだろうと思う。
もしも数年後に、婚約者が決まった状態で彼女の姿を見たら自分は彼女と言葉を交わすこともない。
「花が好きなのか」
一向にこちらを見ようとしない彼女に声を掛ければ、遠くに向けていた視線をこちらに戻して曖昧な笑みを浮かべた。
柔らかな視線は綺麗に自分を素通りし、かたくなに視線を合わせない彼女の屈託を感じさせる。
可哀相なことをしている。
と、思い花を贈ろうと言えばあっさりとかぶりを振って断られた。
慰めにもならないのだろうか。それとも、花すらも自分から贈られることがそんなにも嫌なのだろうかと自嘲する。
官女たちがお茶の準備をし、少女が紅茶を口に含んだところでふとその口許が綻び、お茶を運んだ官女に微笑みを向け感謝を伝えている。
ここに来るのを嫌がっている彼女が、少しでも居心地のいいものになればいいと思い、その官女に視線を送れば官女は心得たとばかりに小さく頷いた。
今日彼女に出したものはすべて記録され、その好みを元にしてまた彼女の喜ぶだろうものを用意するのだろう。
貴族たちからは横柄な態度ばかり取られる官女たちなので、あのように礼を言われることなどない。
きっと熱心に彼女の好みを調べ、また微笑みを向けられることを楽しみにするのだろう。
官女たちの好意的な視線を受けても平然としているということは、演技ではなく当たり前のように屋敷でも同じことをしているということだ。
「ところで、ルーベルトから。その……君が婚約を嫌がっていると、聞いた」
緊張で口が乾きそうになるのを茶で湿らせながら聞けば、兄の名が出たことに驚いたのか大きな目を更に丸くしてにこりと笑みを浮かべた。
「ええ、殿下にお会いするまでは」
視線を合わせ、そう言って笑う姿と台詞にとりあえず今はそれ程嫌がっていないのだろうか。
笑う姿は、どこか冷たいような色合いなのに愛嬌が零れると言わんばかりだ。
と、内心胸を撫で下したところで少女は無邪気に言葉を続けた。
「ですが、殿下に想われる方が出来ましたら、私に至らない部分がありましたら。
いつでも身を引きますのでそうおっしゃって下さい」
にっこりと綺麗に笑って残酷なことを言う少女だと思う。
多分、少女の兄と同じように、自分に資質を求めているのだろう。
口癖のように「見込みがなければ妹を連れて逃げる」と言っているその兄と同じように。
「君を愛せるよう努力する」
官からは好意を持たれ、咲く花を摘むことを残酷という少女に好かれたいと、思う。
しかし、その言葉にも憂鬱そうにかぶりを振る少女が求めているのは自由なのだろうが、それを与えることは多分、今の自分には難しい事だ。
「い、いいえ。お心のままにお過ごし下さい。私も、そのようにさせていただきますので」
自分からの愛は必要としていない、好きにするから好きにさせてほしい。
まるで不倫を推奨するようなそんな台詞に、驚いて誰何する。
「そのようにするとはどういうことだ?
他にいい相手がいれば、そちらを愛するということか?」
このまま話が進み結婚した後に愛する人を作り、その相手にだけ本当の笑顔を見せるのだろうか。
想像して、胃の奥がひやりとする。
手放すことは出来ないだろうけれどせめて人並みの幸せを与えたいと告げた所で、それを無為と言われた事に。
「そんな無節操なことはいたしませんわ。
ですが、無理に殿下の愛を頂きたいとは思いません。
……もちろん、良好に過ごしたいとは思いますけれど」
自分の言葉にかぶりを振って返ってきたのは、政略結婚というものをそういうものだと最初から諦めているのだろう。
そんな台詞だった。
自分の父は誰も愛することのない男だ。
黒の妃を求めたのも己のコンプレックスからきているし、第二妃だって、言われるがままに娶っただけの相手で愛などない。
自分がそうならないとは限らないし、たぶん似たようなものだろう。
決められた婚約者にこうして簡単に好感を抱いているのも単純と言えば単純な話なのだから。
「君は思慮深く聡明な人だ」
一つ年下の少女にすらそう見抜かれてしまう自分に、情けないと思いながら言えば苦笑を向けられかぶりを振られる。
「…………あまり買いかぶられますと早々に幻滅なさると思いますわ」
そう曖昧に微笑んで言う彼女が哀れで、いつか本当の姿を見せてくれればいいと思う。
この話題では互いにいたたまれなく感じ話を変えたいと思ったのか、少女が官女に茶を頼むのを見ながら内心でため息をついた。
ここの国のガキは親のつけを強制的に払わさせられる人が多いんですかね。
しっかし、殿下の色眼鏡こっわー!(笑)
前話もそうだったのですが、まあ所詮10歳そこそこの子供の戯言よって感じ。
兄視点の殿下とリカの補完話も書いたのですが、まぁそれはいずれ公開ということで。
次はやっとリカちゃんの学園生活スタートします。
リカのほうが楽だわー…
本当の補完は『運命の恋人(いつも運命の変人って書きそうになるやつ)』事件だとは思うのですがさらっとそういう事があったよ的なくらいに思っていただければそれで大丈夫です。
ちなみにここでさらっと作成秘話(ってほどの事でもない)を。
この国のイメージは色相環です。(RGBKで、あーって思って下さい)
青赤緑だとインパクトが薄いので西だけ黄色になってます。
(黄色と青が混じると緑になるし)
東西南北の方に行けば行くほど色が濃くて逆に南(下)は白ってね。
真ん中に行けば行くほど濁るってのはまあそういうことでしたー。
で別注色の黒が中央っていう単純な話。
興味のない人には興味のない話ですが、ああなるほどねーって思っていただければ嬉しいです。




