【第8話】 「名前のある死者と、名前のない生存者」
【第8話】
「名前のある死者と、名前のない生存者」
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翌朝、朔夜は再びダンジョンへ向かった。
今回は準備が万全だった。飲み水、軽食、そしてエルナ・ヴェイラの店で買った簡易救急セットを持っていた。さらに小さな灯りも持参した——地球の最新式の懐中電灯ではなく、レスウィンの道具屋で売られていた結晶ランタンだ。
彼は同じ岩の隙間から中へ入った。
内部は、昨日よりも暗く感じられた。あるいは、そう感じただけかもしれない。
彼は同じ通路を進んだ。
昨日遭遇したゴブリンたちは戻っていなかった。ダンジョンコアを破壊しなかったため、魔物の再生に時間がかかっているのかもしれない。あるいは、別の理由があるのかもしれない。
彼は歩き続けた。
約三十分後、彼はまだ探索していないエリアに到達した。ここの通路はより狭く、石の壁には分厚い苔が生えていた。空気はより湿っていた。
その時、彼は音を聞いた。
魔物の音ではない。
人間の声。かすかなうめき声と、咳が混ざっていた。
朔夜は足を速めた。
通路の突き当たりに、小さな部屋が開けていた。そこには二つの人影が地面に横たわっていた。一人は男、一人は女。どちらも負傷していた。
男は腕に傷を負っていた——深い裂傷で、すでに化膿し始めている。女はまだマシに見えたが、足首を捻っており、顔色は出血のため青白かった。
朔夜は彼らのそばにしゃがみ込んだ。
「大丈夫か。聞こえるか?」
男が目を開けた。その目は虚ろだったが、意識ははっきりしていた。
「……君は誰だ?」
「冒険者だ。このダンジョンを調べに来た。」朔夜は男の傷を調べた。「ひどい傷だ。すぐに手当てが必要だ。」
「……僕たちはここに二日間閉じ込められていた」男は掠れた声で言った。「ここの魔物たちは……普通じゃない。もっと攻撃的で、もっと強い。」
「何があった?」
男は咳をした。
「素材を狩りに来たんだ。だが入った途端、襲われた。普通のゴブリンじゃない。もっと大きな何かが……下層にいる。」
朔夜は眉をひそめた。
「もっと大きな何か?」
「それが何かはわからない。でも見たんだ。」男は弱々しく朔夜の腕を掴んだ。「君はここから出るべきだ。ギルドに報告してくれ。」
「まずは君たちを外に連れ出す。」
朔夜は男を起こすのを手伝った。彼はアイテムボックスから水筒を取り出した——リュックからではなく、素早く動いたので男はその出所に気づかなかった。
「飲め。」
男は水をがぶがぶと飲んだ。
「俺の名前はローラン・ミレクだ」彼は飲み終えると言った。「こっちはテッサ・アーウィン。俺たちはアーチェンフォールのDランク冒険者だ。」
「サクヤだ。ランクE。レスウィンから来た。」
ローランは驚いたように彼を見つめた。
「ランクE? それで一人でこのダンジョンに入ったのか?」
「調査しているだけだ。」
ローランは首を振った。
「よく生きていたな。」
朔夜はテッサの方に向き直った。彼女はまだ半ば意識が混濁していたが、その手がかすかに朔夜の腕を掴んだ。
「……このダンジョンは何かがおかしい」彼女はかすかに言った。「ここの魔物たちは……本来こんなに攻撃的じゃないはずだ。」
「どういう意味だ?」
「マナのバランスが崩れている」テッサは言った。「私にはわかる。私は魔術師だ。ここのマナは……乱れている。不安定だ。」
朔夜は、汚染されたホーンドヘアから見つけた魔石を思い出した。
「汚染だ」彼は言った。
テッサは弱々しく頷いた。
「ええ。まさにその通りだ。」
朔夜は立ち上がった。
「君たちを外に連れ出す。歩けるか?」
ローランは立ち上がろうとしたが、再び倒れ込んだ。
「……足が動かない。」
朔夜はため息をついた。
「おぶって行く。テッサ、君は支えがあれば歩けるか?」
テッサは頷いた。
「大丈夫。」
朔夜は身をかがめ、ローランを背負い上げた。男は思っていたより軽かった——脱水と失血のせいだろう。
「行くぞ。」
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出口までの道のりは二時間近くかかった。
朔夜は慎重に歩き、魔物の潜む可能性のある通路を避けた。テッサは彼の横を歩き、時折立ち止まって息を整えた。
ついに通路の先に陽光が見えた時、朔夜は安堵した。
彼らはダンジョンから出た。
新鮮な空気が彼らを迎えた。
朔夜はローランを近くの木の下に下ろし、テッサが座るのを手伝った。
「一旦休もう。それからレスウィンへ行く。」
ローランは頷いた。
「……ありがとう、サクヤ。命を救ってくれた。」
「礼を言うな。」朔夜は彼らの隣に座った。「このダンジョンについてもっと話してくれ。」
ローランはため息をついた。
「俺たちはここが素材の豊富なダンジョンだと聞いて来たんだ。だが入ってみると、全てがおかしかった。ここでの魔物は、ギルドで説明されていたものとは違った。もっと大きく、速く、攻撃的だった。」
「下層には何がある?」
ローランは首を振った。
「下層には到達しなかった。そこに着く前に襲われたんだ。だが何かを見た——遠くから紫色の光が。それに匂いは……焼けるようなマナの匂いだった。」
朔夜は眉をひそめた。
「焼けるようなマナ?」
「不安定な魔法だ」テッサが静かに言った。「本で読んだことがある。マナが一箇所に過度に集中すると、腐敗することがある。それが魔物や植物、さらには人間にも影響を及ぼす。」
「何が原因でそうなるんだ?」
「多くの要因がある」テッサは彼を見つめた。「損傷したダンジョンコア。失敗した魔法儀式。あるいは……」
彼女は言いかけて止めた。
「あるいは?」
「あるいは、誰かが意図的にやっているのかもしれない。」
朔夜は何も言わなかった。
彼はダンジョンで見つけたノートを思い出した。
行方不明になった冒険者たち。
汚染された魔石。
「……ここで何かが起きている」彼は言った。
ローランは頷いた。
「俺たちはアーチェンフォールのギルドに報告するつもりだ。だが今は、生きてここを出たいだけだ。」
朔夜は立ち上がった。
「レスウィンに戻ろう。」
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二時間後、彼らはレスウィンに到着した。
ミラは朔夜が負傷した冒険者を二人連れて戻ってきたのを見て驚いた。
「何があったんだ?!」
「彼らはダンジョンで閉じ込められていました。」朔夜はローランをギルドの前の椅子に下ろした。「手当てが必要です。」
ミラはすぐに村の治療師を呼んだ——ソレル婆さんという老女で、薬草と包帯の詰まった革袋を抱えてやって来た。
その間、朔夜はローランの隣に座った。
「君はアーチェンフォールから来たと言ったな。あそこはどうなっている?」
ローランはため息をついた。
「アーチェンフォールは大きな都市だ。ギルドもあれば、学術院もある。多くの冒険者がいる。だが最近、この地域周辺のダンジョンについて多くの噂が流れている。魔物たちがより攻撃的になっている。何人かの冒険者が行方不明になっている。」
「ギルドは何か対策を取っていないのか?」
「調査はしている。だがまだ結果は出ていない。」ローランは朔夜を見つめた。「君は……普通の冒険者とは違うようだ。」
「どういう意味だ?」
「俺たちを見ても動揺しなかった。ダンジョンに入っても怖がらなかった。」ローランはかすかに笑った。「そして一人で俺たちを連れ出した。」
朔夜は答えなかった。
「やるべきことをやっただけだ。」
ローランは頷いた。
「もし助けが必要なら、アーチェンフォールに来い。ギルドで俺を探せ。恩がある。」
朔夜は頷いた。
「覚えておく。」
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その夜、朔夜は宿に戻った。
彼はベッドに横たわり、木製の天井を見つめた。
今日、彼は二つの命を救った。
しかし同時に、答えよりも多くの疑問を見つけた。
汚染された魔物。
不安定なダンジョン。
何かがおかしいという噂。
そしてアーチェンフォール——レスウィンよりも大きな都市。そこで答えを見つけられるかもしれない。
彼は目を閉じた。
「……明日、アーチェンフォールへ行こう。」
【次回 第9話 — 「街へ行けば、問題は増える」】
翌朝、朔夜はレスウィンを離れ、アーチェンフォールへ向かって歩き出す。旅は二日間かかる。到着すると、彼は想像よりも大きく、複雑で、問題の多い都市を発見する。税金、ギルド、闇市場、社会的不平等——そのすべてがそこにあった。
【次回に続く……】




