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8 出来る事

リクスは聖女と近衛騎士の口調を使い分けています。

彼女の気分の問題であり、どちらも彼女の『素』であります。

 9月13日 23:00


 飛行艦【ブーリア】内の執務室には近衛騎士団第四隊リーシェルトの上席隊員が集っていた。

 そこは落ち着いた調度が成されており、隊長の席たる執務机の後ろの白い壁にはベルパスパ王国の紋章が掲げられている。

 

「そういう事か……」


 騎士姿のリクスは持っていた書類から目を離した。

 重厚な執務室の上に並ぶ四枚の手紙の写真。

 モノクロの鮮明な画像に写った紙には流麗な硬筆の文字が綴られている。

 その内の三枚はタニスン共和国連邦からドックル・ブーレ伯爵へ宛てられた、ベルパスパ王国への裏切りを誘う文章だった。

 

「ルーもポパンもご苦労だった」


 メイド姿のルルヴァとその隣のふくよかな女性、ポパンが頭を下げる。

 

 【千眼 ポパン】

 

 元は流れの占い師だったが、そのあまりに高い占いの的中率から身を狙われるようになり、逃亡の途中でリクスに出会ってスカウトされて近衛騎士、というよりも仲間となった梟の獣人の女性である。

 

「ホホホ当たってよかったですわ。ルーさんに無駄足を踏ませるなどしたらリクスさんからお仕置きされちゃいますもの」


 愛らしい大きな目がパチリとウインクした。

 

「ポパンさんには本当に感謝ですよ。もしあなたがいなかったら僕は見つかるまでメイドの姿をしてなくちゃならなかったんですから」


 【天】の属性に非常に高い適性を持つルルヴァは、万が一監視に引っ掛かっても空間転移で逃れる事が出来る。

 故にルルヴァは、宴から外れてメイド達に混じり、ポパンの占いに従ってこの書類を探していたのだった。

 

「フフ、良く分かってるじゃないか」

「ははは」


 ソファーに寝そべったジルルクが欠伸する。

 

「ボロボロで機能の大半が使えない城塞。敵方は戦略級の魔導兵器と常に一万を超す軍勢。おまけにダルトン城塞司令官は諜略されている最中ときた。もう詰んでね?」


 他の隊員も、給湯室から台車にティーセットを載せて出て来たアルネもその言葉に頷く。

 

「ダルトン城塞と言えば『騎士教習所』や『前線劇場』、『保養城塞』の異名を持ち、有力者の子弟の騎士が送り込まれる場所として有名でしたよね」


 慣れた手際で全員に香茶を配っていく。

 

「サンキュ。傭兵の間でも美味しい話として有名だったニャ。城塞の兵器が敵を粉砕するんで傭兵はそれを立って見物するだけで報酬が貰えるって。ズズゥ」

「私の生まれる前から在ったけど一度も侵攻を許した事が無いと聞いたわね。リバラスを産む前だから……そうね、リクスが産まれる三十年前に夫と来た事があるわ。その時よりもここの設備は凄く拡張されているわね」


 そう言って銀髪のエルフの少女がカップを傾けて香茶を飲んだ。

 

「あらアルネ、腕を上げたわね。美味しいわ」

「ありがとうございますミカゲ様。ガーペラもお代りがあったら言ってね」

「おう」


 カラカラと台車の動く音が続く。

 リクスが机の引き出しから一枚の紙を出す。

 王の署名が書かれたそれは、今回の任務を下した勅書だった。

 

「一週間前に受けた任務はダルトン城塞の救援と内偵。……だがその先があった」


 勅書の最後に書かれた一文。

 

『この任務において聖女リクス・リーシェルトを王の代理人とする』


 任務と釣り合わない大きすぎる権限。

 

「要するにダルトン城塞の陥落もしくは離反を前提とし、その時には俺がこの地方一帯の領主を指揮して侵攻する敵及び離反者を討伐しろ、ということだ」


 勅命を受けた時、リクスはこの任務にはルルヴァとアルネ、見習い十名だけを同道させるつもりだった。

 ダルトン城塞の事を考えたらリクス一人でも過剰な戦力である。

 しかしルルヴァが開拓者組合協会から、【青燕剣】の権限で引き出した情報があまりにも不穏過ぎたのだ。

 

『先のダルトン城塞防衛戦において、参加した600名の開拓者のうち、生き残ったのは4名だけである』


 またポパンの占いも苛烈な状況を示したことで、リクスは【青の軍師】と【島割り】以外の戦力を引連れて来たのだ。

 

「僕はまだ彼らを説得できると思う」


 リクスへと声を掛けたルルヴァ。

 その強い真剣な目を受けたリクスはルルヴァへと向き直る。

 

「それはあの【百人斬り】と話したからか?」

「うん」


 リクスは思案し、他の隊員達も彼らの遣り取りを注視する。

 

「タニスンからの誘いを受けているのはドックル・ブーレ司令官だけだ。それもこの詰んだ状況に追い詰められた所為で……」


 ルルヴァはリクスを見て、そして仲間達を見た。

 

「この状況さえ覆せば問題は無い。僕達にはそれが出来る力がある。そうでしょ」

「……そうだな」

「さすがに彼らの事情を知った身として問答無用は躊躇われます」

「まだ状況は紙一重でござるがな」

「でもぶっちゃけ、タニスンの相手はルーがいれば問題無いだろ」


 パンッとリクスが手を打ち合わせた。

 

「ドックルは説得、敵は殲滅。これで行くが文句は無いな?」

「「応っ!!」」


 全員が立ち上がりリクスへと敬礼する。

 

「面談は俺とルーとアルネが行う。状況は非常に流動的だ。各自がその任の最善を尽くせ」

「「了解!!」」


 それぞれが颯爽と自分の成すべき事へと向かう。

 台車を片付けエプロンを仕舞った制服姿のアルネがリクスの右後ろに控える。

 しかしルルヴァは動けずにいた。

 

「あの、リクス……」

「ん? 何かな」


 メイド姿のルルヴァを後ろからしっかりとリクスが抱きしめていた。

 

「……もしかして、僕この姿のまま?」

「当然だろ」


 頬ずりを始めたリクスの答えに、ルルヴァは着替える事を諦めた。







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