5 お伽噺
「お嬢ちゃんは近衛騎士共と一緒に此処へ来たんだろう。忠告するが早くこの地から離れた方が良い。死ぬぞ」
「ええと、それはとても難しい話なのですが……」
「……まあ貴族の側仕えだからな。だったら俺から兄貴、ここの領主兼司令官に話を付けてやるぞ。俺より弱くて優男だが政治の腕は大したもんだからな」
「あの、ちょっと……」
「何だ? ああ、お嬢ちゃんとんでもなく綺麗だからな、誰かの手付きか……」
「違いますっ!! ……いえ、まあ、その」
気まずくなったゴッホンが視線を外す。
「すまん」
「いえ。いいです」
許しの言葉は得たが、向き直ったメイドの視線はとても冷たくなったのをゴッホンは感じた。
どうにもばつが悪くなり、何かを話すべきと思うが、何も思い浮かばないゴッホン。
そのダメダメな状況を見たメイドは、自分から話を向ける。
「死ぬとおっしゃいましたが、ここの城壁や配備された武器等は最新式のものですよね」
第十二回魔王戦争からの平和に対して軍の予算は削減へと舵を切っている。
それに対して、メイドは『ダルトン城塞の予算は聖域と化している』と、友人の官僚から話を聞いている。
「少なくともダース単位の竜や千を超す巨人の軍勢が来ても大丈夫だと思いますが」
……
「お嬢ちゃんは【十三人の奴隷】って知ってるか?」
「貴族の子弟への教材に良く使われていあのお伽噺の、ですか?」
「そうだ」
古き帝国の時代、その末期。
異世界より皇帝の側近により召喚され、皇帝の奴隷となった十三人の人間。
帝国に尽くし認められやがて信頼され、その全てを裏切って災禍を撒き散らす。
遂には皇帝を殺し帝国を滅ぼして、自らを【十三王】と名乗る。
この世界の住人を欲望のままに奴隷とし、鬱憤を晴らすために虐殺した。
そして積み上げられた骸の玉座に満足せず、遂には神へと成ろうとして神界へと攻め入った。
しかし御使いたる天使に懲罰の杭を打たれ、人から化け物へとその姿を堕とされる。
そして十三人はこの世界の人類によって討伐され、暗い悪邪の巣へと落とされていった。
十三人はこの世界を呪いながら、しかしもう二度とこの世界に来る事は無い。
聖典を抱き祈りを捧げる教会で司祭は十三人を悪徳の象徴と教える。
彼ら十三人はその最後まで、彼らが抱く暗い感情の奴隷であった。
「そいつらが残したこの世界への呪い、【十三十字の遺物】がタニスンの糞共の手に在る。そしてそれをあいつらは動かす事が出来る」
「馬鹿なっ、あれを使えばどうなるか知らない訳じゃないでしょう!! あれを使って魔法の実験をした前大統領がタニスンの四分の一を吹き飛ばしてから五年も経っていないんですよ!!」
絶句するメイド。
「そうですか……遺物、敵に使われたのですね」
「ああ」
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