6 咆哮
一か月前。
ダルトン城塞はその戦いで兵士の半分を失った。
先頭で戦っていたゴッホンは瀕死の重傷を負い、大切な仲間を一人失った。開拓者の駆け出しの頃からの親友は、ゴッホンを守るためにその身代わりとなった。
部下の兵士達も、共に戦った開拓者達も。
多くの者が死に、生き残った者達も無傷の者はいなかった。
ドックルも皆を助けるために切り札を使い、一時は昏睡状態になった。
ほぼ機能の停止したダルトン城塞へ近隣の領主が応援に駆け付け、その惨状に絶句した。
それからトタード共和国が攻めて来る事は無く、城壁も最優先で修復され、派遣された神官団の必死の治療によって現場で戦う者も多くが復帰を果たした。
「でもな、普通だったらこんな事にはならなかったさ、余計な奴らがいなけりゃなあっ!!」
石壁さえ振動するゴッホンの怒りの咆哮は、しかし悲痛に嘆く泣き声に聞こえた。
「お前らの前に第一王子のパーナクが此処に来て戦場を引っ掻き回しやがった。整った容姿に次期国王を狙える地位。舞踏会に出れば引っ張り凧だろうよ。だがあいつは凡人だ。戦士としても指揮官としてもな」
二カ月前。
リクスのよりも大きく華美な飛行艦から意気揚々と降りて来たパーナク。
この時はゴッホンは何もしなかった。
(王族が箔付けにでも来たんかね)
と思うだけだった。
実家への顔だしと小遣い稼ぎを兼ねて、A級開拓者の【爆剣 ゴッホン】は彼がリーダーを務めるパーティー【大冒険者】の仲間と一緒に、ダルトン城塞の傭兵をやっていた。
この時はまだ生きていたゴッホンの叔父が城塞の隊長を務めていた。
一週間が経った頃。
パーナクはこの城塞の運営について何かと口を出すようになってきた。
一般的な軍事の知識はあれども、経験も才能も無いパーナクの命令は現場を混乱させた。
日々悪くなる空気にゴッホンは辟易し、パーナクと直接やり取りするドックルと叔父は疲弊していった。
そして一か月前。
何事も無く終わる筈だったトタード共和国の侵攻は、城塞の皆の制止を振り切って己の側近と共に前線に立ったパーナクによって大混乱となった。
普段なら軽く撃退できるトタード共和国の兵達を押し戻すことができず、予想外の苦戦をゴッホン達は強いられた。
そしてその時。
トタード共和国によって【十三十字の遺物】が使われた。
際限なく溢れ出す悪邪の群れ。
絶望的な戦場で、パーナク達は真っ先に逃げ、さらには城門を閉じてしまった。
この時に叔父は討たれ、ゴッホンの親友だったカーマックは命を落とした。
残った仲間達とお互いを必死に守り合いながら後退した。
最後にはこの城塞の切り札をドックルが使った事で、辛うじてこの地を防衛することができた。
パーナクはボロボロの城塞をすぐに去った。
立ち上がれるようになったゴッホン達は近隣領主の協力を得ながら、必死で城塞の修復と戦力の確保に動いた。
まともに眠る事さえできない日々が続く。
治りきらない身体に無理をさせ、ゴッホン達は必死に働いた。
その中で協会から情報が入った。
『パーナク第一王子が前線まで赴いた理由は、戦功を上げて聖女である元許婚の気を引く為であった』、と。
パーナクが王都に帰還してすぐに。
この大失態は彼を支持する貴族達によって隠蔽された。
その結果、目眩ましの為に【百人斬り ゴッホン・ブーレ】という英雄が生み出される。
見た目だけを取り繕い戦力の落ちたダルトン城塞。
そこへ【十三十字の遺物】の対応も考慮され、聖女リクスが率いる王国最強といわれる第四隊が派遣されることになったのだった。
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