2 決着
「青野郎。この俺が真の強さってもんを教えてやる」
大剣を上段に構えるゴッホン。
ルルヴァは腰の剣を抜く事無く、無手のまま相対する。フルフェイスの兜に包まれてその表情は見えないが、その佇まいは静かに落ち着いている。
「お前、剣を抜かないのか」
「その必要があるのか?」
目に憤怒を湛えたゴッホンが疾風の如き踏み込みで間合い詰める。
ルルヴァの頭上へと鋼の輝きが打ち下される。
それを難なく避けるルルヴァ。
避けられたゴッホンの大剣は、地で返され、逆袈裟の剣撃となってルルヴァを襲う。
「とった!!」
しかし振り抜かれたゴッホンの大剣は空を斬った。
コン、とゴッホンの鎧の胸部に左拳が当てられる。
ゴッホンが眼を向けると、静かに佇んだルルヴァがそこに居た。
冷や汗が流れる。
逆袈裟切り以降のルルヴァの動きが全く見えなかったのだ。
「続けるか?」
ルルヴァの声に揺らぎは無い。
「まだだああああ」
ゴッホは後方に跳躍して間合いを取る。
「確かに甘く見ていたがなぁ。全力だ! これでお前を討ち取ってやる」
ゴッホンの大剣の魔導機構が起動。
流し込まれる魔力に呼応して、内蔵された火錬石の赤い魔力洸が剣身を包み込む。
この状態の大剣の刃は、鉄の塊も易々と溶かし斬ることができる。
「あのおっさん頭に血が上って試合って事を忘れてるな」
ジルルクはちらりとリクスを見る。
相変わらず穏やかに微笑んでいるが、内心では圧倒するルルヴァの姿に快哉を叫んでいるのが解る。
この試合が始まるまでは憤激して切れていたというのに。
全く同じ微笑みで、しかしその内心はかけ離れている様に、改めて女は恐いとジルルクは思うのだった。
「死ねええええ」
強化コンクリートの床さえ砕け散るゴッホンの踏み込み。
音を置き去りにした一撃。
灼熱の大剣が、常人には見る事も出来ない速度でルルヴァへと振り下ろされた。
爆音と共に熱風が周囲を駆け抜ける。
魔法障壁によって無事ではあるが蒼褪めるドックルや兵士達。対して泰然としたリクスと近衛騎士達。
ゴッホンの炎を纏う大剣はルルヴァの右手に受け止められていた。
煌々と脈打つ赤い魔力洸を放つ大剣。
魔力洸など欠片も発していないルルヴァの右手。
「うおおおおお」
絶叫するゴッホンは、しかし顔中に汗を浮かべながらも僅かにも自身の大剣を動かす事が出来ない。
「ゴッホンさんが相手になって無い……」
「現実の光景なかのか、これ」
兵士達の声は、まるで悪夢を見ているようだった。
そして。
ルルヴァの左拳が放たれる。
ゴッホンの胸部へと打ちこまれたそれは、重く深い音を響かせて、百メートル先の壁までゴッホンを吹き飛ばした。
減り込んだ壁から崩れ落ちるゴッホン。
「勝者、私のルルヴァ」
眩い笑顔でリクスが決着を告げる。
異論のある者は誰もいなかった。
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