第2章 九嫁三伏のデッドヒート PART11 (完結)
11.
「それでは投票の結果に移ります」
司会が述べ皆がその開票を待ちわびる。
「まず先ほどのルールを適用して九条様のポイントを8倍にさせて頂きます」
司会はそう告げてパネルを操作する。
「お待たせしました、それでは結果を述べます。無効票の多数決には……《《なりませんでした》》」
皆、安堵の表情を浮かべる。九条の他に入れる人はいなかったということだ。
九条の表情が強張る。これで強制シャッフルの可能性はなくなった。安心して勝負の行方を眺めることができる。
「では男性陣から先に述べさせて頂きます。男性陣には……『九条』様が選ばれました」
九条に反応はない。無効票が成立しなかったため、覚悟はしていたのだろう。
「では次に女性の投票です。女性陣からは……」
選ばれたということは過半数を超えたということだ。心臓が大きく鼓動を告げる。
「女性陣からは……『陸弥』様が選ばれました」
「え、本当ですか」
陸弥が席を立ち、頭を下げている。穏やかな表情が浮かんでいる。
「投票の結果ですから、わたくしは従います。九条様、これからよろしくお願い致します」
陸弥はそういいながら席を立つ。作り笑顔はなく、頬を紅潮させている。きっと本心で嬉しいのだろう。
「……仕方ないな、俺様も結果には従うしかない」
九条は納得のいかない感じで眉間に皺を寄せながら席を立った。
……おかしい、意外に素直だな。
先ほどまで悪態をついていたのに、彼の行動に疑問を感じる。
「それで俺様達はどうすればいい?」
「こちらに来て頂けますか、九条様、陸弥様」
シロウが彼らを誘導し、入場したドアの反対側の扉を開ける。
「ではこちらで誓いの口づけを交わして頂きます」
「ふん。そんなものはいらんっ」
九条が声を上げると、陸弥は悲しそうに彼の顔を見る。
「わたくしとでは嫌ですよね、申し訳ありません……」
「そういうわけではないが……なぜ全員の前でやらなければならない」
「そういう決まりになっております。時間がないので、申し訳ありませんが、マキでお願いします。九条様」
そういってシロウは牧師の制服を着こみ、神父のように片言の日本語を話していく。
「汝、愛を誓いますか。誓いの口づけをして下さい」
「ふん、俺様は……そんなことはしない」
「では、失礼ながら投票の結果をここでお話しても?」
シロウがにやにやしながら九条の顔を見る。
「ふん、勝手にしろ! 俺様は愛を誓う口づけなどしない」
「そうですね、もうすでに《《投票》》で誓ってますからね」
シロウはそういいながらパネルの数字を公表した。
「先ほどの開票の結果ですが陸弥さんに陸弥さんに《《13》》票、七草さんに4票、無効票は0となっていました」
「「「え?」」」
全員が驚愕する中、九条だけ司会を睨んでいる。
「え、九条様、それは……つまり……」
陸弥が九条を見ながらいう。
「まあ、そういうことです」
シロウが二人を見ながら笑顔を見せる。
「誰が誰にいれたかなんて野暮なことは聞かないで下さい。お二人にはこれからこそが大切なんですから」
司会のいうことを間に受ければ、九条は《《陸弥》》に投票したということだ。
「九条様、どうして……」
「いったろう。俺様は皆の結婚を祝福する。もちろん今回だってそうだ」
九条は立ったまま乾いた笑みを浮かべた。
「確かに俺様は一度、お前を選択した。だが三年だけだ。三年終わればそれでこの結婚は終わる。俺様は再び独身に戻るというだけだ、俺様は付き合っていた《《全員と結婚する》》ことを選択するつもりだ」
どうやら彼は嘘をつくのが下手らしい。顔が赤くなっており、言葉にも威厳が見当たらない。
きっと自分の言葉を曲げないようにするために繕っているのだろう。
「だからだ。3年後、今度はなっちゃんを選びに行く。誰と結婚しようが3年後、お前を迎えに行くからな」
「……はい、お待ちしています」
七草は朗らかな笑顔を見せていう。
「陸弥さん、それまでお願いね。3年なんてあっという間だろうけど」
「3年もあれば、この人を私だけのものにするには十分です」
陸弥は流していた涙を振り切っていう。
「七草さんには絶対に渡しません。必ずくーちゃんの心を掴み続けて見せますよ」
陸弥の闘争心に素の表情を見る。きっと勝気な性格なのだろう、それをフロント業を称して、仮面を作り続けていた。
だが九条の熱い心に打たれ、彼との生活を夢見ておりながらも、独身を貫く決意を固め、仮面を塗り固めていった。
……やはり俺が選んだ選択は正しかったようだ。
零無の顔を見ると、眉が寄っており、冷静を保とうとしているようにもみえる。きっと俺が陸弥を選んだことをわかっているのだろう。だが九条本人が陸弥に投票したのだから、俺達の投票には意味がなかったといえる。
「……零無、やはりお前はウェディングプランナーだな。今回はお前の話に乗ってやる」
九条は不意に呟いた。
「俺様が陸弥と結婚した所で現状は変わらない。お前が予想していたことにはならないぞ」
「……お気遣い、ありがとうございます。これからも善処致します」
「ああ、俺様はそこまで器は小さくないぞ。《《親父達の考え》》など俺様が吹き飛ばしてみせよう」
九条がにやりと笑うと、零無も微かに笑みを零した。何か二人の間に問題があったのかもしれない。
「……だが、本当にいいのか?」
九条が陸弥の顔を見ていう。
「 これでお前の《《苗字》》は変わるし、《《今まで守り通してきたものを》》……全て失うことになるんじゃないか」
「……いいんですよ、九条様」
陸弥は満面の笑みをしていった。
「わたくしは確かにしきたりに囚われていました。それはあなたも同じでしょう? 幸せになるためには犠牲は必要です、全てが今までと同じということは停滞しているということですから。私も覚悟を決めて自分に投票したんです」
「……そうか」
「それにそれを教えてくれたのはあなた様でしょう? 嘆いても始まらない、全ては自分が第一歩を踏み続けなければならないと」
彼女の笑みに九条も笑みを零す。どうやら本当に好きあって付き合っていたらしい。
「ああ、そうだな。凛、これからよろしく頼む。シロウ……後は任せたぞ」
支配人の目に緩く涙が滲む。その視線はマネージャーに注がれている。
「かしこまりました。私もベストを尽くさせて頂きます」
……めでたいな。だが俺にはその気持ちはわからない。その気持ちは一生味わうことはないだろう。
彼らの安否に不安を覚える。結婚生活の甘い部分は最初だけだ。それ以降は地獄だとしか思えないに決まっている。
違う人間が同じ所に住んで上手くいくはずがないからだ。月日が経てば、メッキは剥がれやがて錆びた関係へと陥っていく。
……敬礼をして見送るか。
心の中で九条に祝福を送り続ける。彼はいわば自分の生贄でもあるのだ。ここから出る時は自分はどちらの立場にいるのかはまだわからない。しかし願わくば独身のままでいたい。
もし彼と同じ立場になってしまったら……。
俺はきっとこういわずにはいられない。
……靖国で再び会おう――、と。




