第2章 九嫁三伏のデッドヒート PART9
9.
「ふう、何とか首の皮一枚で繋がったわね」
休憩所で零無が紅茶を飲みながら呟く。
「……本当にぎりぎりだがな。だが可能性はとことん薄い」
修也は呟きながらため息を漏らした。今更ながら自分のいった条件が悪いことに気づく。
九条がパスに入れて、《《陸弥がさらに続けば》》そこで終了だ。この休憩中に九条は陸弥に根回しをしているだろう。借金の肩代わり、さらに旅館の再生に力を入れているのだ。彼女が彼のいうことを聞かない訳がない。
「悪いが、俺は何も考えていない。あそこはああいわなければ九条が乗ってこないと思ったんだ」
「……そうだと思ったわ。だからこそ私は咄嗟に反応したの。あそこで間が空けば皆、不安に思うだろうから」
零無は肩を竦める。
「でも今はいってもきりがないわ。四宮君、おさらいをしましょう。まず私達が勝てる最低条件は?」
「九条を除く全員が誰かに投票することだ」
この条件を超えなければ道はない。陸弥と七草以外は必ず投票するだろう。何しろ自分達の仕事に、いや生き方に関わってしまっている。問題は陸弥と七草だ。
「そうね。男性は九条さんで決まっているとして……それで女性は誰に投票したらいいの?」
「陸弥か七草だ」
「正解。じゃあそのどちらを選べばいいの?」
「………」
それがわからない。どちらも九条に相応しい気がするし、どちらとも選んでもいい気がする。
「……わからない」
修也は正直に答えた。
「確かに私達の主観で見れば答えはみつからない。だけど、あの二人の立場になって考えたらどう?」
陸弥の立場で考えると、九条はとても大切な人物だ。それを七草に奪われるのは癪だと考えるだろう。もちろん自分が結婚する意志がないとしてもだ。
七草にしてもそうだろう。自分の許婚を陸弥に奪われるとなると、家庭内で問題となるかもしれない。最悪、家を出らなければならない可能性がある。
「どう? あの二人が時間を置いたとしてパスを選ぶと思う?」
「ないな。つまり陸弥と七草の票は必ず自分達に入るということか」
投票する場合、自分に投票することは禁止されていない。つまり九条がいない所でシャッフルされるくらいなら自分達に投票すると断言できる。
すでに九条の《《負け》》は確定しているのだ。
「そういうこと」
零無は笑みを浮かべ答える。
「問題は他のメンバーよ。3人除いた7人が勝負の鍵となる。ここで私とあなたが同じ所に票を入れればすでに3票となる。後は5票中、残り2票を取ればいい。つまり60%の確率で勝てるわ」
彼女の計算に舌を巻く。そこまで読んでいたからこそ、自分が出した条件を飲んだのかもしれない。つくづく隙がない女だ。
「だが60%では薄い。攻めて後一人確実に票が入る方向がわかればいいんだが」
「それは簡単よ」
彼女は何の気なしに答える。
「二岡君は間違いなく陸弥さんに入れるわ。七草さんに気があるようだから」
先ほどの会議を思い出す。確かに二岡は七草に気があるような素振りを見せた。やはり彼は七草を残そうと考えるだろう。
「そうだな。じゃあ俺達が陸弥に入れれば勝ったも同然か」
それに陸弥に入れた方がこれからの展開に予想がしやすくなる。七草では男連中に人気があるわけだし、彼女の温厚な性格は誰とでも合わせられるだろう。
「そうね。でもね、四宮君。ここで陸弥さんに入れたら《《駄目》》よ」
零無の真剣な視線が突き刺さる。
「少し条件は悪いけど、七草さんに入れて欲しいの」
「……なぜだ? 何か理由があるのか?」
「ここでいくらでもいうことはできるけど、勘よ」
零無は修也の目を見ていう。
不意に彼女の瞳がざらつく。先ほどまで光っていた瞳が一瞬にして陰りをみせる。
「だけどこれだけは確実にいえるわ。前の休憩で宣言した通り、絶対に九条支配人を結婚させてみせる。だからお願い、理由を聞かずに七草さんに入れて」




