第2章 九嫁三伏のデッドヒート PART6
6.
「「「ええっ!?」」」
皆の視線が陸弥に向かう。まさか九条は七草だけでなく陸弥とまで付き合っていたというのか!?
「支配人、本当にお二人と付き合っているのですか?」
壱ヶ谷が呼びかけるが、九条は沈黙を貫いたままだ。もしかすると陸弥だけでなくまだいる可能性がある。九条はさっき付き合っている人数は二桁だと豪語したのだ。
「もしかしてまだ……他にも……」
「違う! この中では2人だけだ」
九条は大きく顔を歪ませながらいった。明らかに狼狽した表情を見せている。先ほど七草との付き合いがばれた時よりも動揺しているようにもみえる。
……しかし陸弥までがまさか九条の恋人とは。
修也は顔をしかめ二人の彼女を眺めた。この流れは完全に想定外だ。仮に九条が二人とも付き合っているとして2次投票ではどちらを選べばいいのだろう?
そもそも零無はここまで考えていたのだろうか――。
彼女に視線を寄せるが先ほどと変わらず冷静を保っている。もしここまでが彼女の想定内だとするのなら彼女に全て任せるしかない。
……しかし、確実に決まったことがある。
それは第一の男性への投票は《《九条》》で決まりだ。条件は自分の仕事を失う覚悟を持って彼に投票しなければならないことだが、俺にはできる。
零無の方を再び見ると、彼女の涼しい表情から余裕が伺えた。まだ秘策があるのだろうか?
「九条様、ここまで皆に露見しているんです。本当に御自分の意思を通さなくていいのですか?」
零無が容赦なく九条を追い詰める。まさに犯罪が判明して自供に持ち込もうとしている刑事のようにだ。
「…………」
それでも九条は首を縦に振らない。零無をまっすぐに見つめ静止している。
……どうして零無は九条の交友関係を知っているのだろう?
修也の頭に別の考えが沸いていく。自分が会社の人間に興味を持っていなかったこともあるが、彼女は特別知りすぎているような気もする。もしかすると彼女自身、九条と付き合ったことがあったのかもしれない。彼の性格を熟知しているからこその仕掛けだと思えば合点がつく。
「さあ九条様。今ならお二人のうち、御自分の意思で選べるのですよ? もしここでシャッフルで決まってしまえば、3年間は間違いなく離婚できません。それに会社の者と結婚するとなれば周りに及ぼす影響は大きいです。とても離婚などできる状態にはならないでしょう、九条様がご決断されるのが一番利点が大きいと思うのですが」
仮に九条がどちらかを選べば延長上の付き合いになるだけで大したデメリットはない。しかしシャッフルで他の者と結婚することになれば色々と都合が悪くなるだろう。
最悪のケース、離婚となればホテルの経営状態にまで影響が出る可能性がある。
「俺様は……結婚などせん」
九条は顔面蒼白のまま自分自身に唱えるようにいい続ける。まるで矢を受けた落ち武者が懇願しているようだ。状況が不利なままでも認めようとしない意思の固さはある意味、男らしい。
だが10股以上している男だ。それでいて結婚したくないと駄々をこねている男だ。こんな男をこれ以上、世に侍らせていいのだろうか。
……もちろんいいはずがない。
ここは潔く結婚して貰わなければならない、自分のためにも。何とか彼を納得させる方法を見つけ出さねば。
「九条様……」
陸弥が目を潤ませながら彼を見つめる。先ほどまで微かに残っていた笑みはすでにもうない。九条の思いを知って落胆しているようだ。
……こんな男と付き合う方が悪い、ざまあないな。
心の中で毒を吐く。支配人とはいえ彼の性格を知っておいて付き合いを続けたのだ。それなりのリスクもある中での付き合いだから、こればかりは仕方ないだろう。
複数人と付き合っている相手を信用できること自体が奇跡に近い。
……後は九条がどのように証言するかだ。
彼の発言によって場の空気は左右されるだろう。すでに逃げ道は零無によって封鎖されている。
「さあ、九条様。ご決断を」
「俺様は……」
「すいません、声が小さく聞こえません。もう少し大きな声でお願いします」
「お、俺様は……」
九条は再び腕を組み直して告げた。
「俺様は二人とも同じように《《愛している》》。他の者にしてもそうだ。だから……ここで一人の者と結婚してしまえば、その一人しか愛していないことになってしまう。だから結婚はできんっ!」
……え、なんだって?
九条の思いを聞いて耳を疑う。勝手な思い込みで考えていたが、ただ独身を貫きたいだけではないのか。
「皆、平等だ。だからこそ誰か一人を選ぶことなどするつもりはない」
「だから……お二人のうち、どちらかを選ぶことはできないと?」
「そうだ」
零無の問いかけに九条は即答した。
「俺様は付き合っている皆、愛しているため生涯独身を貫く。これは決定事項だ。だからあの二人が他の者と結婚しようと俺様の思いは変わらない」
……いっている意味が全くわからない。
修也は頭を悩ませながら九条の意見を纏めていく。皆を平等に愛しているから結婚できないといっているのだ。
愛しているから、誰一人選べない。
愛しているから、別の人と結婚することを認める。
彼はそういっているのだ。
……おいおいマジかよ。
頭を抑えながら九条を見る。こんなふざけた理由で結婚しない奴がいると思うと、頭が割れそうになる。これが日本一のホテルの責任者の言葉だと思うと、言葉が出ない。
「九条様……、勿体ない言葉、ありがとうございます」
陸弥は九条に対して憧れの念を抱いているようにいった。
「わたくしはその言葉だけで本当に幸せです。九条様の愛を、生涯胸に留めておきます。ああ、生きていてこんなに幸せなことは、他にございません」
……大丈夫なのか、こいつは?
陸弥は自分を愛してくれている気持ちを知って感動しているようだ。恋は盲目というが、目だけでなく耳まで潰れているのかもしれない。
「九条様、それは本当ですか? 本心からそういってるんですか?」
零無が再度確かめると、九条は大きく頷いた。
「何度でもいおう。俺様はなっちゃんもりんちゃんも、どっちも愛している。だから二人のどちらかを選ぶことなどできんっ!!」




