(第1話:急げ? (Hurry?))
本来なら第1話と一緒にまとめるつもりだったが、アルゴリズムという残酷なシステムと格闘した結果、当初予定していた5,000〜7,000文字のボリュームから大幅に削られ、個人的にはかなり苛立たしい短さになってしまった。
「何文句言ってんのよ」 by -----
要するにだ。
「とっとと俺をここから出させろってことだ!」
天井の照明がゆっくりと光を失っていくのに気づいた直後、静寂を破るように自動システムの音声が響き渡った 無機質な機械音声が空間に響き渡った。
【システム警告:残存エネルギー、残り5%】
「F*c* Y**……まじで?!」
血の気のない唇から、短く鋭い悪態が漏れた 冷静な理性や、頭の中で渦巻いていた量子論の考察など、もはや何の役にも立たない。
死の淵から蘇ったばかりだというのに、今度は「酸欠」か「地下の金属棺での生き埋め」が彼を待ち受けているのだ。部屋のエネルギーが尽きれば、出口の扉は完全にロックされる。長きにわたるコールドスリープで麻痺した四肢ですら、今は命取りになる障害だった。
改《改》は奥歯を噛み締め、痺れる腕と手を乱暴に振り回した。背後で480pの低解像度ホログラムが、耳障りな挨拶とともに平和な世界の広告を垂れ流しているが、そんなものに構っている余裕はない。
感覚が戻り始めた指先で自分の後頭部を掴み、無理やり頭を持ち上げる。体幹の筋肉を強制的に起動させるためだ。
生理学的に言えば、脊椎を直立させ「自己受容覚」を刺激することで、脳へ運動開始のシグナルを送る意図があった。脊髄にある歩行のリズム制御系――CPG(中枢パターン発生器)を強制再起動させるための、冷徹かつ論理的な荒療治だ。
「——が、理屈はいい今は一秒でも早く、この筋肉の塊を動かすのが先決だ!」
脚の筋肉に歩行の準備をさせるためだ 、無理やり動かした体がミシミシと悲鳴を上げたが、パニックによって分泌されたアドレナリンが一時的に痛みを麻痺させていた。
改《改》はハイパースリープのカプセルから転がり落ちた冷たい大理石の床に裸足と手をついた薄暗い光の中、部屋全体を見渡す。
薄暗い光と競争するように、彼は部屋全体を見渡した。右側には簡素なバスルームがあるようだが、奥にあるキッチンほど重要ではない。だが、一番気になったのは左側のスペースだった。
「服……食料……武器……あるはずだ。このイカれたシステムがわざわざ俺を起こしたんなら、絶対に必要なものを準備しているはずだ」
改は素早く思考を巡らせる。金属の棺の縁に両手をかけて体を支え、背筋に力を込めて冷たい大理石の上に立ち上がった。
『痛いほど冷たい……床の温度は273.15ケルビン以下か?』
だがその時、改の脳は地球上では経験したことのない形で反応を示した。奇妙な感覚が全身を駆け巡る。それは単なる血流ではなく、目に見えない何らかの『エネルギーの波』が空気中を漂っているような感覚だった。
『いきなり温度が上がった? 俺が思考しただけで温度が変わったのか? いや、今はそれどころじゃない!』
目に見えない非自然的な感覚に気を取られている暇はなかった。それよりも遥かに鬱陶しい機械音声が、部屋に響き渡ったのだ。
「システム『コンシェルジュ』および『ペースメーカー』。検体番号17『クリゾラ・改・ソコロフ』の意識回復を確認。要件を満たしています。音声によるベース操作が可能です。フル機能を使用する場合は、ARデバイスを装着し『カストディアン』を経由してください」
人間の真似事のようなAIの声が、ほんの少しだけ俺のパニックを鎮めた。俺は即座に叫ぶ。
「ドアを開けろ! どれくらいかかる!?」
「約3分で開放可能です。フル機能を使用するには、ARデバイスを――」
俺の視線は、壁に埋め込まれた収納スペースに釘付けになっていた。オレンジ色のLEDランプが点滅し、『サバイバルキット』の文字が浮かび上がっている。
彼は生まれたての小鹿のように覚束ない足取りで、そこへ飛び込んだ。
改は歩き始めたばかりの子供のように、よろめきながらそこへ飛び込んだ。
中には確かに求めていたものがあった。しかし、研究者である彼の眉をひそめさせるには十分すぎるラインナップだった。
まず、服だ。ファンタジー風の革鎧でもなく、中世の鉄兜でもない。耐久性を極限まで高めたジャケットとパンツ。黒とオレンジのツートンカラーで、マットな質感と光沢が混在している。右腕の袖口にはオレンジ色に発光するラインがあり、まるで消防士とケイブダイバーの装備を掛け合わせたようなデザインだった。 改は患者服を脱ぎ捨て、急いでそれを身に纏った。生地は優れた保温性と耐スクラッチ性を備えているのがすぐにわかった。
次は食料。小型の保冷庫(これ、何年間電力を食い潰してたんだ?)を開けると、そこにあったのはありふれた軍用レーション(MRE)ではない。綺麗にスライスされた最高級のハモン・イベリコ(スペイン産生ハム)、硬いパンの塊、数種類のソース、そして10本のボトルウォーターだ。
「なんだこの高級食材は……壁の裏で食品工場でも稼働してるのか?」心の中で悪態をつきながらも、横にあったバックパックにすべてを躊躇なく詰め込んだ。
【システム警告:残存エネルギー、残り4%】
再びアナウンスが響く。室内の照明が点滅し、部屋の中央を流れていた人工滝の水流が弱まった。ポンプが停止しかけている証拠だ。
「急げ、急げ、急げ……ッ!」
残りの装備を掴み取る。タクティカル・フォールディングナイフ、凶悪な見た目のトマホーク。そして一番異彩を放っていたのが『モンキーレンチ』だ。絶妙な重量感と実用性を考慮し、俺は迷わずそれを手に取った。巨大な鉛のハンマーもあったが、重すぎるのでパスだ。それらをベルトとショルダーストラップに固定する。
再びアナウンスが響く。室内の照明が点滅し、部屋の中央を流れていた人工滝の水流が弱まった。ポンプが停止しかけている証拠だ。
ロッカーから最後に引きずり出したのは、クリアレンズの『ゴーグル』だった。装着した瞬間、視界にAR(拡張現実)インターフェースが浮かび上がり、左手にはスマートフォンに酷似したデバイス『カストディアン』が握られていた。
そっくりのデバイスが握られていた。間違いなく、これがカストディアンだ。 スマホの画面が眩しく光り、今この状況で最も苛立たしい通知が表示された。
[GPS信号に接続しますか? 有効にすると、このIDが設定され、正しい位置にスポーンします]
取り憑かれたように承認ボタンを連打する。一刻も早く終わらせようと、改は必死に働いた。
「ああ! わかった! わかったよクソッ!」
【システム警告:残存エネルギー、残り3% 2%……生命維持および非常用防壁の維持が困難になります。】
「2パーセント!? さっき4パーセントだっただろッ!?」
エネルギーの消費速度が異常に跳ね上がっている。セキュリティドアを開放して外に出るには、最低でも1%の電力が必要だという警告表示を思い出した。もし1%を下回れば……俺は極上の生ハムと一緒に、この大理石の棺桶で干からびることになる。
俺はバックパックを背負い直し、トマホークとモンキーレンチを両手に構え、廊下の突き当たりにある分厚い金属ドアに向かって全速力で駆け出した。
「クソったれ! 電力が尽きたらドアがロックされる! 今すぐ開けろ!!」
ドアの上のホログラムが、点滅する赤色から緑色の『OPEN』へと変わる。
ガキンッ……ズズズズズッ!
ロックが外れる重厚な音が響く。巨大な金属扉が動き出す振動は、目を覚ました野獣の咆哮のようであり、天井裏に隠された無数の工業用歯車が軋む音と混ざり合っていた。
扉の隙間が徐々に広がっていく、そのわずかな数秒の間。
パニックに支配されていた若き研究者の脳が、ようやく『ある事実』を処理し終えた。
……待てよ ――ちょっと待てよ。
このARグラス、バッテリー内蔵でフル充電されてるよな?
改《改》は大きく目を見開き、開きかけの扉の目の前でピタリと立ち止まった。
カバンの中には食料がある……水だって10本もある。
この部屋の温度も、まだ十分に耐えられるレベルだ……。
改《改》は目を大きく見開き、開きかけている扉の前でピタリと足を止めた。
『……じゃあ俺はなんで、わざわざ外の世界の危険を冒すために、パニックになってドアを開けろなんて叫んだんだ!?』
後悔が脳天を突き抜けた時には、もう遅かった。
わずかに開いた扉の隙間から、未知の化学物質の臭いと、身を切るような外界の極寒の風が、容赦なく室内に吹き込んできたのである。
「フル広告を自分で書くのはかなり難しいと感じています。なので、カイが持っているような『AI搭載のメガネ』を通して、自分の想いやストーリーを伝えていければと思っています。」




