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(第1話:緊急)

メディアを支配する者は大衆を支配し、大衆の心を支配する者は世界を支配する。

それが、ヨーゼフ・ゲッベルスの生涯から私が学んだことだ。

「認識:検体番号17、意識の回復を確認。……コフィン(棺)を解錠、開放を開始します」

際限なく続くかと思われた死の淵からの落下感覚と、底なしの幻覚。それらの感覚の崩壊は、「肌を刺すような冷気」と「微かなオゾンの臭い」によって唐突に断ち切られた。

彼の肉体は、ハイパースリープ用のカプセル、あるいは密閉シールが解かれたばかりの金属製の「棺」と呼ぶべき無機質な装置の中に横たわっていた。

プシューッという圧縮空気の抜ける音が静寂を破る。重厚なポリカーボネート製のカバーが緩やかにスライドして開き、凍てつくような白い冷気が一気に溢れ出し、彼の顔面に叩きつけられた。

警告灯のようなオレンジ色の薄暗い光が、重い瞼を透過して網膜を焼く。極寒の温度が毛穴の奥深くまで浸透し、凍りついていた唇や舌先の神経を無理やりに叩き起こしていく。……本来ならば、あってはならない感覚だった。ひどく寒い冬の朝に目覚めたかのような全身の強い痺れ。しかし、記憶の最後に刻まれていたはずの、肺の底や胃袋を鋭利な刃物で貫かれたあの決定的な激痛は、嘘のように完全に消え失せていた。

カイは重い瞼を押し上げ、ゆっくりと目を覚ました。そこは、彼の知る世界とは根底から異なる異質な空間だった。脳裏に焼き付いている最後の記憶――それは終わりのない無限の落下と、名状しがたい謎のエンティティ(存在)と視線を交わしたこと。その存在はひどくおぞましく、同時に息を呑むほど圧倒的で、なぜか奇妙なほどの「罪悪感」を彼の魂に植え付けた。

だが今、死と共に永遠に失われるはずだった自己の感覚が、不気味なほど鮮明に機能を取り戻している。

己の体を見下ろすと、病院のペイシェントガウンのような簡素な白い綿の衣服を身に纏っていた。視界を広げると、そこは精巧に切り出された黒大理石で構成された広大なホールだった。肌にまとわりつく高い湿度と、厚い壁の向こう側から絶え間なく轟く水流の重低音。それが、この不可解な施設が巨大な「滝」の裏側に隠されていることを無言で物語っていた。

「部屋……なのか?」

掠れた声がポツリと漏れる。彼が目にしたのは、天井、壁、そして床に至るまで、継ぎ目すら見当たらないほど完璧に統合された大理石の空間だった。

改の正面、およそ4メートルほど離れた場所で、天井の仕掛けが機械音と共にスライドした。開いた隙間から透明な水が勢いよく流れ落ち、まるで室内に設えられた人工の小型滝のようになっている。その真下には、直径50センチほどの排水口が口を開け、流れ落ちる水を休むことなく呑み込んでいた。

突然、背後の頭上から重々しい機械の駆動音が響き渡った。同時に、強烈な白色光が放たれ、流れ落ちる水しぶきに乱反射して空間を照らし出す。改はまだ硬直が残る首の筋肉を無理やり動かし、光の発生源へと視線を向けた。

そこにあったのは、無骨で巨大な奇妙な投影機プロジェクターだった。旧世代の軍事設備か、あるいは終末世界ポストアポカリプスを想定して作られたシェルターの備品と見紛うほどの物々しさだ。

なぜそう断定したのか? それは、空間に照射されたホログラム映像の解像度が、せいぜい480p程度という時代遅れの代物だったからだ。おまけに、洞窟のような大理石の天井裏からは、歯車が擦れ合うようなひどくアナログで重苦しい駆動音がガラガラと響いている。

現在の改の心境は、肉体的な極度の疲労、得体の知れない恐怖、そして眼前の状況に対する激しい混乱が複雑に入り混じっていた。

しかし……彼の脳内で展開される思考プロセスは、それらの生々しい感情とは完全に切り離され、真逆のベクトルへと疾走し始めていた。生来の、あるいは前世で培われた研究者としての冷徹な血が、散らばった情報をパズルのように組み立てていく。

(低解像度のプロジェクター? 室内の人工滝? それに外から響く巨大な滝の轟音……。情報を統合すれば、ここは『滝の裏側に隠された地下シェルター』といったところか。)

(だが、この奇妙な『テクノロジー』の数々はどうだ? 一般的な創作物のセオリーに当てはめるなら、刺殺された直後にこんな場所で目覚める現象は、俗に言う「転生」……アメリカのオタク連中が一括りに『Isekai』と呼ぶジャンルに分類される。だとしたら、あの死の直前に『視線を合わせた』謎の存在、あるいは死にゆく脳が見せた走馬灯のバグのようなアレは、一体何だったんだ?)

(神、だとでも? ……馬鹿馬鹿しい。)改は心の中で冷笑した。即座にその仮説を切り捨てる。この施設のコンテクスト(文脈)や宇宙観は、宗教的な概念や剣と魔法のファンタジーの枠組みからあまりにも逸脱している。

この無駄に洗練されたコフィン(棺)の造形と、先ほどシステムが告げた『検体番号17』という無機質な響き。これらを環境要因と掛け合わせれば、導き出される答えは一つに絞られる。

(ここは、俺の知る地球よりも高度なテクノロジーを持つ文明、あるいは徹底的なハードSFの世界観に基づく『実験場』だ。)

思考を加速させる一方で、鉛のように重い体を動かそうとした改の視線が、壁面に埋め込まれた縦長のディスプレイに釘付けになった。緑色に発光するガラス管の中で、絶望的な数値が点滅している。

『残存エネルギー:6%』

『警告:5%まであとわずか……』

(……なんてブラックジョークだ。)

改は心の中で毒づいた。死の淵から這い上がり、見知らぬ世界で奇跡の蘇生を果たしたばかりだというのに、目覚めた場所が『バッテリー切れ寸前の部屋』だと!?

カシャッ! カシャッ!

ガコン……ブツン!

不作法な機械の作動音と共にフラッシュのような強い光が瞬き、彼の張り詰めた思考を容赦なく分断した。

やっと状況を飲み込み、論理的な分析へと没頭し始めていた改の表情が歪む。僅かに安堵しかけていた彼の唇は、隠しきれない苛立ちによってきつく結ばれた。

低解像度のホログラムが小刻みに震えながら、落下する人工滝の水幕をスクリーンの代わりにして映像を結ぶ。画面全体に酷いノイズ(静電気の乱れ)が走り、やがて、旧時代のプロパガンダ映像を彷彿とさせる安っぽいテキストとアナウンスが流れ始めた。

『G.M.T. 公式:ティタネラ(Titera)における生存と生活のガイドライン』

『対象確認:検体番号17……クリゾラ・カイ・ソコロフ。』

明滅を繰り返すホログラム映像と共に、コンピューターで合成された無機質でどこか歪んだ女性アナウンサーの声が室内に響き渡る。

「……歓迎します、新たなる開拓者の皆様。ここは希望の大地、ティテラ。あなたの輝かしい第二の人生が、今、始まります……ピーッ……ザーッ……ガガッ……」

耳を劈くような電子ノイズが音声にかき消される。改は、まるで深夜の怪しいテレビショッピングのようなプロパガンダ映像と、ちょうど今『5%』へと転落した壁のエネルギー残量を、底なしに虚無的な眼差しで交互に見つめた。

(……希望の大地での生活ガイド、だと?)

こんなふざけた映像を再生するために貴重な電力を消費している暇があるなら、その残りのエネルギーでさっさとこの部屋のロックを解除しろ。そう心の中で毒づきながら、改は重い体をカプセルから引きずり出そうと腕に力を込めた

連絡や感想はこちらへ:https://x.com/memAnanta (フォローよろしくお願いします!)

まだ不慣れで変な文章があるかもしれませんが、アドバイスをもらえると嬉しいです。最近は仕事がハードで、Xに課金する余裕もない日々です(笑)

— Mem

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