第八十二頁 — ときどき、立ち止まって周りを見てみれば(一)
レンに会ってから、何を切り出せばいいかわからなかった。顔は無理やり別の方向へ逸らしているのに、足は少しずつ彼の後を追おうとしている。
頭の中がだんだん空っぽになって、周りの空間も色を失っていく。
いつものように行き交う人影と、東京の夜にきらめく街灯があるだけだった。
あれ?
僕は何をしてるんだ?
急にどうしてここにいるんだ?
どうしてレンについてきたんだ?
今はあの暗い公園にいるはずじゃなかったのか?
彼が呼んだだけでついてきてしまった。結局...
...
ザッ.
レンが止まって、遠くの誰かに手を振っているみたいだ。
僕も少し止まって、彼が手を振っている方向を見てみる。
もし何かおかしかったら、今すぐ離れるつもりだ。
そもそも、クラスのみんなや誰かが悪いわけでもない。
...
...
でも、たぶん、そう言うにはまだ早すぎる。
目の前にあるのは、華やかでも人通りの多い場所でもない。
ただの普通の食堂で、店内もこの時間にはだいぶ空いてきている、
こちらに手を振り返しているのは、僕が想像していたみんなではなく、そこにいたのは、
ツメコさんただ一人だった。
...
なるほど。
いつから気づかなかったんだろう。
二人はもうそんなに親しくなっていたんだ。
たぶん今の僕は、ただ邪魔してるだけだ。
一番いいのは...
...
ガシッ.
「また逃げようとしてるのか?」
「少なくとも何か食べていけよ。」
なぜ、この瞬間にレンが僕の手首を強く掴むんだ?
今ここにいたら邪魔じゃないのか?
僕の手を掴んでいるくせに、まだ別の方向を向こうとしてるじゃないか!
離してくれ。こうした方が二人のためじゃないか?
離してくれ。
離してくれ。
...
「ヤマザキさんも俺もまだ食べてないんだ。」
「一緒に少し食べるくらい...いいだろ。」
レンはそうして、軽く手を引いてあの扉の方へ進む。
どうして彼はこんなことをするんだ?
理解できない。だんだんわからなくなってくる。
そして一番わからないのは、
なぜ...この体が...
彼についていってしまうんだ?
.........
チリン……
店の中に入ると、最初に目に飛び込んできたのは、
夜のきらめく色とりどりの光でも、通りを行き交う人波でもなく、
ただの小さな食堂で、どの食堂でも見かける、明るい店内の照明だけだった。
何人かの店員がまだ働いていて、何テーブルかはまだ人が座っている。
でもなぜか、ここがただ普通の基準で客を迎えるよう設計された場所だとわかっているのに、
少し安心するような、言葉にしにくい安堵感があった。
そして一瞬、前に一度来たことがあるような気がする。
ただ...今はもう思い出したくない。
...
ドゴッ!
突然、拳が目のすぐ横をすり抜けて、
まっすぐレンに向かって飛んでいき、顔面に直撃し、彼の体を床の上でかなり遠くまで吹き飛ばした。
誰にも何にも当たっていなくてよかった。さもないと面倒なことになる。
...
レンの顔は今、片方の頰が赤く腫れ始めて、体全体で起き上がろうとしてまっすぐこちらを見ている。歯はまだ強く食いしばられていて、片方の手は頰を押さえている。
「急に何してんだよ!」
「もう少し優しくできないのか?」
...
「ふん!」
「まだそんなことが言えるなら大丈夫だろ。」
「どうせ全部お前のせいだ、コバヤシさん。」
「女の子をこんなに長く一人で待たせて、恥ずかしくないの?」
ツメコさん?いつからそんな話し方をするようになったんだ?
レンをずっと見てる目つき、彼の顔を殴った直後の明るい笑顔、そして今の表情も...
やっぱり、離れるべきだ...
...
ふるっ……ふるっ……
ちょうど背を向けた瞬間、手が肩を強く掴む。
汗でびしょびしょの手が、何度も震えながら僕の肩を掴んでいる。
「ねえ...行かないで...」
「お願い...行かないで...」
「お前が行ったら...俺は終わりだ...」
...
なぜか、その時僕はまた振り返ってしまった?
何があっても、自分が離れればすべてが楽になるはずなのに。
どうして、また振り返ってしまったんだ?
止まれ、僕...
...
「この二人の馬鹿と一緒に置いていかないでくれ!」
「二人に何時間も耐えるのはもう限界だ!」
「お前が二人に勉強を教えてるんだから、ちゃんと引き止めてくれよ!」
へっ?イシカワ...さん?
どうして急にここにいるんだ?
レンは、自分と……だけだって言ってたのに……
それより重要なのは、お前は何を言ってるんだ?
なぜか急に、頭の中がこんなにもかき乱されていく?
...
...
コトッ.
「お客様、どうぞ!」
もう遅かった。
いつの間にか、店のテーブルに座って、うどんまで注文してしまっていた。
イシカワさんは僕の向かいに座って、ラーメンとオレンジジュースを追加で注文した。
...
そして疑っていた通り、
僕たちと同じテーブルに座らず、レンとツメコさんは隣の空いてるテーブルに座ることにした。
まあ、悪い話じゃない。
二人なら、むしろ喜ばしいことなのかもしれない。
でもなぜ?その光景を考えると、少し...
...
「ねえ、トガミさん。」
「正直、どう切り出せばいいかわからない!」
「だから、これから話すことを聞いてくれる?」
「嫌なら断ってもいいけど、」
「『いや』って言ったら許さないからね。」
突然、イシカワさんが目を丸くしてまっすぐ僕を見て、少しも動かず、瞬き一つしない。
両手をテーブルに突いて、それから組んだ両手の間に頭を乗せる。
...
「あ...うん...いいよ。」
「できる範囲で頑張るよ。」
「言ってくれ。」
かなり大事なことを言いそうな雰囲気だ。
聞いてみるくらいなら大丈夫だろう。
...
(・_・)
「トガミさん...」
「私と結婚して!」
...
...
カタンッ.
「は?」
僕は、今何を聞いたんだ?




