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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
電子の子ども達
96/143

95 その少年、ワンセルフ

***

「あああああああああああああああああああ……!」

 身体の内側から引き裂かれるような痛み。強大な力を納めるには小さすぎる身体(いれもの)はそこかしこで軋んでいた。

 ワンセルフの身体はほとんど視認できないほど電子魔力に溶け込んでいる。

 白紙化した心に絶望の色が付く。

 このままでは自分は死ぬ。

 元々は自身のみの強化しかできない自己強化(ワンセルフ)にアルバーレ大陸全土の電子魔力を制御させたのだ。いくらクリスタル・コアを取り込んでいようとも、ちょっとした動揺ですぐに崩れてしまう危ういバランスだ。

「……ぐっ…………!」

 ワンセルフは激痛の中、つい先ほどのことを走馬灯のように思い出した。

 年上の少年のあの笑顔は何だったのか。あの場面で向こうが笑うほど愉快な場面でもなかったはずだ。それに笑っていると言うにはやや不完全すぎる。

 不完全。そう言い切れる自分は完全を知っていることが前提となる。

 施設で場違いに笑っていた同じ被検体が脳裏を過ぎる。

「……どいつも……こいつも…………!」

 施設では感情を消さないと生きていけなかった。筆舌尽くしがたいほどに辛い実験の日々に一々反応していたら文字通り身が持たない。

 生きるために、感情を捨てたのだ。

 それなのにどうしておれが。あいつじゃなくておれが。


――――――――なら、どうして生きたかったの?


 声が聞こえた。

 いつの間にか激痛は考え事ができるくらいに収まっている。

「どう……して…………」

 なぜ自分はそこまで生に執着したのか。辛かったのなら死ぬなり何なりすれば良かったのに、ワンセルフはそれを選ばなかった。

「…………そうか」

 行き着いた結論は今までの自分の傲りだった。

 ワンセルフは生の執着はまるでない。しかし、それに反比例するかのように死への恐怖があった。それは施設で自分と同年代の子達が死んでいくのを見続けた彼にとって当然の想いであり、それと同時に感情を捨てたとする彼の恥だ。

 捨てきれなかった感情がひとつだけあった。

 恐怖、とりわけ死の恐怖は彼と共に生き続けた。

 そして、ここで共に死ぬ。


――――――――大丈夫。わたしも一緒だから。


 また声が聞こえた。大丈夫と言うには何の根拠もなかった。

 気休めの言葉だ。

 その気休めの言葉は不思議と温かく感じた。言葉に温度はないはずなのに。

 誰かがワンセルフの頬に触れる。逆にそこにあるべき体温はなかった。人肌の暖かさも、廃棄になって使われていない機会の冷たさも、そこにはない。

 その手が触れると同時に暴走していた電子魔力が安定する。ワンセルフの中にあるクリスタル・コアも暴れるのを止めた。

 否、クリスタル・コアは暴走を止めたのではなく彼の中から消えていた。空気中で暴れていた電子魔力を統括するためにその身を電子魔力のサイズまで分解したのだ。

 クリスタル・コアと深く同調していたワンセルフは同じ結末を辿る。

 彼の身体は一層透けていく。

 クリスタル・コアを制御して調整した声の主は同調し過ぎた電子魔力に変わる。

 彼女の身体は一層透けていく。


 一際強い二つの光が現れる。それらは重なって一つになった。


 強く夜を照らした後、光はどこかに消えた。




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