表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
電子の子ども達
84/143

83 その少年少女、影の中

 「久しぶりだね、カケル! 何で裸でたおれてるの? あとこの火事は何?」

 「ああ、久しぶり。この姿については……まあ…………色々あってな。火事も同じく色々あったんだ」

 何ひとつ説明になってないな。しかし、話せば長くなるし、彼女に具体的に話してもいいのか俺には判断がつかない。

 彼女がこんな中身のない説明で満足してくれたらいいのだが。

 「ふうん? ま、いいや!」

 いいらしい。よかった。いや、知り合いの男が半裸で倒れているのに大して追求してこないことはそれはそれで心配だが。

 「それよりもアレ何? 気味が悪いんだけど……」

 俺の今の状況を深く追求しなかったのはそれ以上に黒ローブの存在が衝撃的なものだったからのようだ。顔を引きつらせながら、黒ローブを指差す。

 「俺にもよく判らないんだ」

 「だけどさっきカケルの名前を呼んでたよ?」

 呼んでたと言うよりは連呼されてたけどな。しかもかなり憎しみの篭った声で。

 問題は俺は相手が誰なのか分からないことだ。知らない相手が一方的に自分のこと知っているのって怖いな。そんな相手と二人っきりだったかと思うと全身の毛が逆立つほど寒気がする。そういう意味でもシェリーが来てくれたことは非常にありがたかった。

 シェリーの質問を受けて俺の知り合いで心当たりを探る。

 「……っ!? 申し訳……ありません」

 すると、黒ローブが突然謝ってきた。先程の呪いの言葉のように俺の名前を連呼した奴とは思えないくらい怯えている。

 訳が分からずシェリーと一緒になって首をかしげる。

 黒ローブはそそくさとワンセルフを担いで背を向けた。

 その時、ローブの頭巾の奥が少しだけ見えた。

 「あ……」

 ()()()だ。一瞬だけだったから自信はないが。

 でも何で今更ここに……?

 「あり? 逃げた? それに謝ってきたし……実はいいヒトだったとか?」

 「うーん、どうだろう……。まあ、これでようやく一安心だな。改めて礼を言うよ。ありがとう」

 「どういたしまして……って一安心するのはもう少し後だよ! 早くここから離れるよ!」

 シェリーが火事現場を見て、顔を曇らせる。倉庫は完全に火に包まれていた。

 「ああ、急ごう」

 身体中に力を入れるが、体は石になったかのように動かない。

 「悪い、今体力が尽きて立てないんだ」

 「えー!? どうすんのさ! ほら、手を貸すから立って、立って!」

 シェリーは倒れたままの俺の身体を起こそうとする。

 「痛い痛い! 無理やり引っ張るな! ちょっと待って! 今戦って疲れて本当に動けないんだよ!」

 とりあえず俺の上半身を無理矢理起こしたところで、彼女は俺を立ち上がらせるのをやめた。そして確かめるように遠くを見回す。

 「どうした?」

 「火事に気付いてここに騎士たちが集まって来てるよ。これなら大丈夫だね」

 特別能力(ユニークスキル)を使ったのか、騎士の動向が把握できるらしい。彼女は騎士に保護してもらうことを考えているのだろう。

 「……騎士が来るのは……ちょっと……」

 騎士に保護されると俺は少し厄介なことになる。アキヒロに騎士には見つからないようにしてくれ、と念を押されたから、騎士に保護されては意味がない。

 「何かまずいの? 騎士なら助けてもらえるじゃん」

 事情を知らないシェリーが不思議そうな顔をする。

 「いや、ここに俺がいるがバレると面倒っていうか、厄介っていうか…………」

 事情が事情だけにどこまで話していいか分からない。明瞭さに欠ける説明だったが、騎士に会いたくないということは伝わったようだ。

 シェリーは鷹揚に頷いてくれた。

 「よし、それなら任せて!」

 シェリーは自信にありげに胸を張って答える。

 「影渡(シャドウオーバー)!」

 彼女は火事で地面に映し出されている自身の影に手をつけると、ズブリと彼女が影にめり込んだ。しかし、地面に特に罅などは入っていない。まるで影の中に吸い込まれるように彼女の身体は沈んでいく。

 「ほら、カケルも来て!」

 「いや、ちょっ………………!」

 呆然と他種族の女王が沈んでいくのを見ていると、その女王に地面に触れていない方の手で手首を掴まれてしまった。

 「うっ、ぷ……!」

 直後、倒れている場所が底無し沼のように俺を沈ませる。彼女の影は変形して俺とシェリーの下に来るように地面に広がっていた。

 咄嗟に水の中に入った時のように、息を止めて目を瞑る。

 やがて、火事の喧騒が聞こえなくなった。

 「カケル、大丈夫! 息もできるし、目も開けていいよ」

 すぐ近くでシェリーの声が聞こえてきた。彼女の言葉を信じてそっと目を開ける。

 「すげぇ…………」

 目の前に広がる光景は辺り一面黒いが、シェリーの姿がはっきりと判る不思議な空間だった。真っ暗な空間に加えて地面の感触がない。しかし、宙を浮いているというより宙を歩いているという感覚に近かった。浮遊感はあるのに歩くことができるというは不思議な話だ。

 「……あれ? 歩ける……?」

 さっきまで立つこともできない体力だったのに今はそんな疲労感はなかった。

 「ここならカケルも歩けるよ。まあ、外に出たらまた倒れちゃうけどね」

 俺は真っ黒に塗りつぶされた周囲をもう一度見る。

 「ここは……影の中、なのか?」

 「そうだよー。影があればどこでも潜れるんだ! 自分の影に潜ると近くの他の影まで飛ばされるけどね。それにしても影の中ってよく分かったね?」

 「まあ、シャドウって言ってたし……」

 英語を学べば序盤で覚えるような初級英単語だ。学校で英語が苦手科目のひとつだった俺でも分かる。

 「それよりもどうしてシェリーはこの国に? 会談でもあるのか?」

 シェリーは俺の問いかけにビクッと肩を震わす。

 「え!? ああ、うん。そ、そんな感じかな?」

 シェリーは目を逸らしながら、曖昧な説明をする。もの凄く気になるが、曖昧な説明はお互い様なので追求しないことにした。

 「さて、とりあえずどこに行けばいいかな?」

 アキヒロが待つ協会のような建物に行きたいが、シェリーを連れていくわけにも行かない。

 「シェリーは泊まる場所はあるのか?」

 「いや、ないよ。セレアに頼もうかなーって思ってたんだけど……」

 流石にこんな夜更けではもう寝ているだろう。さすがのシェリーも困り顔だ。

 このまま放っておいても可哀想だな。

 ていうか、泊まる場所もなく、護衛も付けていない時点で色々と察することができるのだが、それは置いておくことにしたので考えない。

 「じゃあ、俺の家に来るか? シェリーが嫌じゃなければだけど」

 同じくらいの年齢の女子にこんなセリフを言う日が来るとは思わなかった、と謎の感慨に耽っていると、シェリーが笑顔を見せる。

 「いいの!? よかったー、最悪また野宿を覚悟してたよ」

 「女王様が簡単に野宿を覚悟するなよ。………うん? また?」

 「そう、前来た時も野宿したんだ。ほら、セレアとキミに初めて会った日の前日にね」

 「ええ!?」

 既に野宿を経験済みだった。アクティブすぎる。というか、一種族の代表が他の種族の島で野宿とか大問題だろ。

 「それ、他の人たちには……?」

 「言ってないよ。だって、爺やが知れば卒倒して目が覚めた後朝から夜までお説教してくるだろうし」

 つまり、誰にも言っていないらしい。

 「よし。このことは墓場まで持っていくんだ」

 「んー、ボク的には棺桶の方がいいかな」

 「え? ああ、吸血鬼だからか……じゃなくて!」

 絶対に他言してはいけないようなことを知ってしまってテンションがおかしい俺だった。普段はやらないと誓っているノリツッコミまでしてしまった。

 「あははは、大丈夫だよ。二度とこっそり来れなくなることは言わないよ」

 シェリーは可笑しそうに笑う。もう自分の状況を隠すことは頭から出て行ったらしい。

 「ひとまずこの街から出よう……ってこの景色じゃあ場所が分からないな」

 見渡す限り黒一色。

 目印など存在しないためどっちに行けばダストリーを出られるのか分かりようもない。

 「大丈夫! ボクには分かるから。さあ、出発だ!」

 シェリーが俺の手を引いて進む。

 「……なあ、手はもう放してもいいんじゃないか?」

 別に嫌ではないし、むしろ女子と手が繋げて男子高校生の年相応に嬉しいのだが、十六にもなって手を引っ張られて歩いている光景は少々恥ずかしい。まあ、ここには俺たち以外誰もいないから誰にも見られることはないだろうけど。

 「うーん、だけど手を放したらカケル消えちゃうし……」

 「消える……って迷子になるってことか? 確かに影の中に入ったのは初めてだからシェリーと逸れたら迷うかもしれないけど……」

 そんなアニメや漫画のように彼女が目を離した瞬間に消えたりはしない。第一、彼女についていけばいいだけだ。ここは黒一色の世界だが、不思議と何も見えない訳ではないから彼女についていくことも難しくはないだろう。

 「いや、そうじゃなくてね。本当に消えるの」

  シェリーはどう説明したものかと数秒唸って話を続けた。

 「昔、ここでハンカチを落としたことがあったんだけど、拾おうとして下を見たら無かったんだ。んで、不思議に思って石ころをここに持ってきて試しに落としたら手を放した瞬間に消えたんだよ。だから、たぶんボクが触れてないとダメっぽいんだよねー……ってカケル?」

 俺は無言で彼女に掴まれている手とは逆の手で彼女の手を握る。

 少々恥ずかしい? 命綱とも言える行為を恥ずかしがっていられるか!

 「あははは、安心して。そんなに怯えなくても絶対に放さないからさ」

 その後もしばらく歩く。ちなみにその間の話でもこの女王様はまた隠れてこの国に来たということが分かる発言が何度かあった。

 「あれ? カケル、さっきのヒトが近くにいるよ」

 さっきの……って倉庫で俺を襲おうとした奴か!

 しかし、俺では辺りをどれだけ注意深く見てもそいつの姿を捉えることはできない。能力を持つ彼女だけが影の外を確認できるようだ。

 「何処にいるんだ?」

 「港の近くかなー? あ、何か三人になってる。仲間かな? 建物に入ってくよ。追いかける?」

 「いや、今夜は止めておこう」

 シェリーの話では影の外に出たらまた体力ゼロに戻ってしまうらしい。そんなお荷物状態では何もできないだろう。

 しかし、彼らの情報を知れたことは幸運だ。整理すると、ワンセルフを担いで逃げたあいつには仲間がいて、港近くの建物に入った。そこを拠点としているのだろうか。

 「……ちょっと待って」

 「どうしたの? あ、やっぱり追いかける?」

 「いや、そうじゃなくて。 近くにあいつ等がいるのか?」

 「え? うん、そうだよ」

 シェリーはきょとんとした顔で頷く。

 港近くにいたそいつ等の近くに俺たちもいた。つまり俺たちも港にいる。

 ちなみにダストリーの港は街の端っこに位置する。

 つまり帰り道と逆方向だ。

 「シェリー、今更な確認だけど……道は分かっているよな?」

 シェリーは満面の笑みで元気よく答えてくれた。

 「分かんない! でも適当に歩いてたらつくでしょ!」

 そういえば彼女は俺の家に来たことないからどこにあるのかも知らない。何の迷いもなく進むから不思議に思わなかった。

 その後、火事現場まで戻ってもらってシェリーの影の外の情報を頼りに俺が道案内をすることになった。

 似たような倉庫しかないこの街で、言葉のみで道を案内するのは難しく、何度も道に迷ってしまった。そしてようやく家に帰り着いたのは空が少し明るくなってきた頃だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ