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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
電子の子ども達
82/143

81 その夜、現る

 アルバーレ王国の夜は明るい。

 クリスタル・コアが供給する電子魔力によって街灯や店の看板が街を照らすからだ。

 しかし、それは大通りだったり、夜でも営業している酒場などの飲食店が集まる地域のみだ。つまり、それ以外のところは夜に従うように闇色に染まる。

 『どうだね? 私が発明した強化スーツの着心地は』

 耳元の機械からアキヒロの声が聞こえてくる。

 「うーん、ヘルメットが少し蒸れるな」

 『私は戦闘スーツの方の着心地を聞いたんだが』

 人々の仕事が終わり、酒場が盛り上がる時間帯。

 つまり夜。

 俺はワンセルフと呼ばれる男の子を見つけるために発展途上廃棄街、ダストリーを散策していた。

 「カケルさん、このまままっすぐ行くと騎士の方々に遭遇します。次の角を曲がりましょう」

 「わかった。ありがとな、インフェクト」

 「いえいえお安いご用です」

 隣を歩くインフェクトの指示通り角を曲がって直進を避ける。

 彼女は俺が騎士と遭遇しないうに自身の能力で騎士の場所を逐一把握してくれている。騎士が持っているタブレットのお陰で騎士の居場所は姿が見えなくても分かるらしい。

 街灯などあるはずもない立入禁止の街で、月明かりしか夜道を照らしてくれるものがないため大変助かっている。

 「着心地も何も、使用者の体型に合わせてくれるんだろ?」

 『そうだが、一応その機能が起動しているかの確認だ』

 俺が着ているこの戦闘スーツは以前、セレアの元婚約者ジャロウ・ムラバモスが着ていた戦闘服だ。

 あの時は服の下に着ていたようだが、今回は同じようにできなかった。なぜなら今回の改良版では防御力を高くしており、肩や胸元などの部分に装甲があるからだ。

 更には顔にも特殊な兜を被らされている。首から上をすっぽり覆っているのに蒸れないのが不思議で仕方がない。

 異世界だからってめちゃくちゃするなぁ。灰色と黒色の間をとったような、微妙な色だったのが唯一の救いである。カラフルな色じゃなくて良かった。

 この世界でこんなの着ているのって俺くらいではないだろうか? ……別に俺も好き好んで着ているわけではないが。

 服の下で着ることができたジャロウが羨ましい。

 今獄中にいる者に対して抱く感情でないなと自嘲しかけて思い出した。

 ジャロウ・ムラバモスはもういない。獄中で死んでいたらしい。

 詳しいことは知らないが、アキヒロなら俺の知らない情報も持っているかもしれない。

 「……なあ、全然関係ない話になるけど、いいか?」

 『どうした? ワンセルフを探しながらする分には構わないが……。それに何故小声で言うのだ?』

 「ちょっと穏やかな話じゃないんだ。彼女の耳に届かない方がいいだろう?」

 『……まあ、君の好きにしたらいい』

 アキヒロの妙な言い方は気になるが、一応了承は貰えたので昼から気になっていたことを訊くことにしよう。

 「ジャロウが殺されたって本当か?」

 通話越しから微かに息を飲む音が聞こえる。

 『…………正確にいうなら殺されたのではなく、不審死だ。誰から聞いたのかね?』

 「絶海さんだ……って面識あるんだっけ?」

 『ああ、入院中に挨拶に来てくれたよ。最近この世界に召喚された者だろう?』

 「ああ、その人だ」

 召喚者が出現することは珍しいので、最近となると彼一人しかいない。

 『ふむ………………』

 アキヒロが考え込むように唸った後、黙ってしまった。

 「おーい、アキヒロ聞こえているか?」

 『……あ、ああ、すまない。その事件は女王サマに口止めされていてね。残念だがこれ以上は語れないよ』

 ここでもセレアが出てきた。

 口止め……隠し事。

 アキヒロは彼女の命令を具体的に言わなかったが、恐らく……いや、ほぼ確実に俺に、相島翔に教えないようにという内容だろう。

 ジャンケ達、紅月の民だけに言っているわけがない。

 少し考えれば当然のことだった。

 「何こそこそ話しているのですか?」

 横を向くと、いつのまにか身体が触れ合うくらい接近していたインフェクトが俺を上目に見る。いくら近づこうが彼女には触れないと分かっていながらも急に近づいてこられたらたじろぐものがあるな。

 「い、いや、何でもないよ」

 一歩後退して彼女の圧から逃れる。

 「嘘ですね」

 俺の言葉はスパッと切られた。

 信用されてねぇ……。

 「いくら声を落としても私も小型の通話機を付けているから丸聞こえでしたよ」

 「あ……」

 そうだった。

 アキヒロから支給された小型の通話機は三人同時に会話が可能なものだった。

 恥ずかしい。

 色々考えて気を遣ったつもりの行動だったので一層恥ずかしい。

 アキヒロのさっきの妙な言い回しはそれのせいか。

 言えよ。教えろよ。

 通話機越しに感じる忍び笑いが凄く腹立たしい。

 「嘘までついて……まったく! わたしは怒りましたよ!」

 インフェクトが頬を膨らませて、そっぽを向く。

 そんな典型的な怒り方、初めて見た。

 そんな俺の感想はさて置き、ここは俺に非があるので素直に謝った方が良さそうだ。

 「悪かったよ。嘘ついてごめんな、インフェクト」

 「分かってくれたならいいです!」

 数秒前とは一転。

 無邪気な笑顔を見せてくれた。

 本当に表情がコロコロ変わる子だ。

 謝罪が受け入れられたところで、ワンセルフなる子供の捜索に励む。

 「……あの、ずっと気になっていたのですが…………わたしもカケルさんに質問してもいいですか?」

 しばらくしてインフェクトが話を切り出してきた。

 「うん、俺の答えられる範囲なら」

 と言いつつも、誤魔化そうとしたお詫びを込めて何でも答える心積もりでインフェクトの言葉を待つ。

 「わたしのこと……平気なんですか?」

 「どういうこと?」

 「で、ですから! わたしは今普通じゃないのに……触れることもできない……き、気味の悪い存在と一緒にいて……その…………」

 また一転。

 何かに怯えるような目でこちらを見てくる。

 「わたしがそんな存在と知っても怖がっている様子がなかったので…………」

 インフェクトは不安げに胸の前で手を弄る。

 ああ、そういうことか。

 インフェクトがこうなったのは今日のことで、しかもその正体を知っている人は限られている。つまり、誰かにそんな風に謗りを受けたということはないはずだ。

 しかし、想像はできる。他人から今の自分の状態はどう映るのか。身体が存在しない自分にどう接してくれるのか。

 加えて、自分が異常になった時の不安と恐怖。

 恐らくカグヤと出会った時からずっと抱えていたのだろう。

 「最初は驚いたけど、今は慣れたよ。それに、そんなことでインフェクトを怖がったりしないよ」

 最近、狼男に会ったり、元はヒトだったモンスターと対峙したりと刺激が強い体験が続いたから耐性ができたのかもしれない。

 俺としては安全に快適に過ごしたいんだけどなぁ。

 今もこうして危険の臭いが漂う事件に関わっていることからその願いは遥か彼方である。

 「そ、そうですか……」

 俺の答えを噛みしめるようにゆっくりと顔を上げる。

 曇り切った目が打って変わって晴れ模様になっていた。

 「それなら良かったです!」

 「ていうか、アキヒロも怖がってなかっただろ?」

 「アキヒロさんはわたしの正体を知ってむしろもの凄い勢いで食い付いてきたので……その、変わった人だなぁっと…………」

 「アキヒロ、お前…………」

 『何だね、その呆れた声は? 私も色々調べたり尋ねたりしたかったが、状況的に自重したさ。十個質問するだけに留めた。責められる謂れはない』

 「いや、がっつり質問してるじゃん!」

 アキヒロの自重のブレーキはあまり効かないみたいだ。

 隣ではインフェクトが俺たちの会話を聞いて可笑しそうに笑っていた。

 「アキヒロさんが選んだヒトがあなたみたいないいヒトでよかったです」

 「いいヒト……」

 『無個性の代名詞だな』

 「否定しづらいことを言うなよ……」

 俺もそう思ったけど。

 捻くれ者二人の会話にインフェクトは疑問符を浮かべる。褒めたつもりなのに当の俺の反応がイマイチだったせいでもあるのだろう。

 その純粋な心が捻くれた精神に染み渡る。

 「……っ! 見つけました。彼……ワンセルフです」

 唐突にインフェクトが目の前の暗闇の更に奥を見つめる。

 「この道をまっすぐ、です。そこに彼が……た、大変です! ワンセルフが騎士と遭遇しました!」

 『カケル!』

 「ああ、急ごう!」

 「はい!」

 インフェクトと共に現場へ急ぐ。

 しばらく走ると、前方から剣戟の音が微かに聞こえてきた。

 その音はどんどん近づいて大きくなる。

 瞬間、前の暗闇から何かが飛び出してきた。

 地面に乱暴にぶつかって転がってくるそれは騎士だった。脇腹を酷く損傷している銀色の甲冑からは血が流れている。

 「大変だわ! 大丈夫ですか!?」

 インフェクトが騎士に駆け寄る。

 返事はなかった。

 意識がない。

 俺は手負いの騎士の息があるか確認するため、騎士の兜を脱がせて首に軽く触る。

 ドクンドクンと脈打つ振動が指に伝わる。

 どうやら生きているみたいだ。

 インフェクトにもそのことを伝えて、、二人して胸をなでおろす。

 「……ん」

 騎士の意識が戻ってゆっくりと目が開く。

 傷のせいで苦痛に耐えるように顔をしかめる。そして、ぼんやりと何もない空を見て、それから俺の姿を捉えた。

 すると、騎士は化け物にでもあったかのような形相で近づけていた俺の手を振り払って俺から距離を取る。

 「く……来るな、来るな…………!」

 騎士は倒れた時に落とした剣を取って、じりじりと後退する。

 意識が飛んだことで錯乱状態になっているのだろうか。

 咄嗟にインフェクトをを庇うように前に出る。

 『まあ、戦闘中に意識が飛んで目が覚めたら妙な格好の輩が現れたのだ。当然の反応だろう』

 アキヒロが騎士の反応を冷静に分析する。彼は俺が被っている兜に取り付けてある魔道具で俺たちの状況を観測できるらしい。

 アキヒロの言葉で自分の格好を確認する。

 俺の服装は確か……変な所しかないな!

 ていうか、その妙なモノを着るように、俺に強制したのは何処のアキヒロだったか……。

 とりあえず、騎士が警戒している原因は分かった。こちらが無害であることを証明すれば誤解は解けるだろう。

 「落ち着いてください。確かに見た目は怪しいですけど、あなたに危害を加えるつもりは……」

 「新手か……!? くそっ、もう一人いたとは……!」

 もう一人?

 そういえば騎士の発言は少し気になった。

 来るな、と言うだけで俺が何者かは問わなかった。

 まるで俺の正体が何であるかを知っているかのように。

 騎士がこちらに刃を向ける。

 戦闘独特の緊張感と静けさが辺りを包む。

 『……静かになったな』

 アキヒロの気の抜けた発言に苦笑する。

 何を暢気なことを……いや。

 俺は()()()()に気づいて周囲も警戒する。

 アキヒロが言いたかったことは騎士が転がってきた時もずっと鳴っていた剣戟の音がいつのまにかピタリと止んでいるということだ。

 倒れている騎士とは別の騎士が奮闘して勝っていれば良いが、吹き飛ばされた騎士の安否を確認しに来ないことからその可能性は低い。

 今までは剣戟の音がワンセルフの位置を示してくれていたが、その音が無くなった今、彼の居場所がわからなくなった。

 遠くに行ったのかもしれない。

 はたまたこちらに接近しているかもしれない。

 的中したのは後者だった。

 騎士の背後から規則性のある金属音が聞こえてくる。騎士は怯えた様子で俺とその音から背を向けないように移動した。

 廃れた街に音が寂しく響く。

 音の正体が足音であることに気づいた時には音の発信者は闇夜から姿を現していた。

 「な、何で……!?」

 その姿は俺にとって予想外だった。

 しかし、それと同時に騎士の言動に納得がいった。

 騎士の甲冑を軽装化したような戦闘スーツの格好。

 顔全体を覆う兜。

 目の前には今の俺と似たような格好の奴がいた。

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