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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
獣たちの夜戦
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71 その少年、一線を

 俺はその光景に目を疑った。

 騎士二人が素手の相手に圧倒されていた。

 「……終わりだ」

 騎士二人が重い音を立てて倒れる。

 体格は騎士二人の方が優っていた。相手は俺よりも身長が低く、横幅も一般よりもやや薄い。

 「……さて」

 仮面は例の死体に手を伸ばす。

 「ま、待て!」

 俺は今更ながらに尻餅をついた状態から立ち上がる。

 「……なに?」

 顔のない仮面は少し不機嫌そうに言う。

 「それは渡さない。返してもらう」

 俺は聖罰剣が一振り、百獣王牙(ひゃくじゅうおうが) 《ベスティア》を構える。ベスティアを握る手に奇妙な力が入った。

 「……はぁ」

 一瞬にして、目の前にいたはずの仮面は風と共に姿を消した。

 「……遅いね」

 視覚の情報が脳に届く前に仮面は俺の懐に入っていた。

 「ぐっ……!」

 驚く暇さえ与えられずに俺は鋭い蹴りで後方に吹き飛ばされる。

 民家の壁に背中をぶつける。肺の中の空気を全て出してその場に倒れこむ。

 痛みはいつまでたっても消えなかった。

 「……な、んで…………?」

 女神の加護者は超回復の能力があるはずだ。それなのにいつも一瞬で消える痛みは残り続けている。

 「……つまらないな」

 顔のない仮面はそう呟いて、例の死体を持ち上げる。

 それを邪魔するように死体を(さわ)る仮面の右手に苦無が刺さる。

 「……まだやるの?」

 仮面は投げられた方向にいる騎士に視線を向ける。痛みを感じないのか今まで通りワンテンポ遅れた退屈そうな声だった。

 騎士たちがよろよろと立ち上がる。

 一瞬、騎士と目が合う。騎士は何かを期待するような目をしていた。

 「……面倒だ」

 仮面は右手に刺さった苦無を抜く。そして死体と苦無を無造作に捨てて、騎士たちに肉薄する。

 騎士たちはすぐにその場を離れて、仮面との距離を空ける。

 仮面の鋭い蹴りが空を切る。その動きを見て、騎士たちが仮面に斬りかかった。

 仮面は身体を捻って二人がかりの攻撃を躱して、(てのひら)と足の裏を使って騎士二人を軽く押す。そこに生まれた隙を逃さず狙ってゼロ距離戦闘から脱出する。

 騎士たちは連携攻撃で仮面とどうにか競り合っている。

 また騎士と目が合う。俺に何かを頼むような目だ。

 …………そうか。

 俺は騎士の思いを受け取って行動に移す。

 騎士が俺の行動に小さく頷くのが見えたから俺の行動は恐らく間違ってはいないはずだ。

 「……なに? ……よそ見?」

 「ぐっ……!」

 一人の騎士が一瞬の隙を突かれて攻撃を受けて倒れる。

 連携が崩れた。ここからはもう長くは続かないだろう。

 仮面は倒れた騎士が見ていた方向を向く。

 「……なるほど」

 その視界には俺が死体を担いでいる姿が映っているだろう。

 今までの顔のない仮面の行動から、こいつらの目的はこの死体だということはわかった。

 だから騎士たちは自分たちが仮面の注意を惹きつけている間に死体を運んで欲しかったのだ。

 死体を担ぐなんて気味が悪くて嫌だが、そんなことを言っていられる状況ではない。

 「……させるか。…………邪魔だよ」

 仮面は俺を追いかけようとするが、騎士がそれを阻む。

 「……一人じゃオレには勝てないよ」

 俺は背中越しにその言葉を聞いて、街を駆け抜ける。

 しかし、一人分の体重を抱えたまま走るのは何の訓練も受けていない俺には難しかった。三分も経たないうちに息が上がり始める。

 死体を担ぐという精神的疲労も相まって俺の体力は早々に限界を迎えた。とりあえず身を潜めて休憩をとる。

 一刻も早く舞姫にこの死体を届けなければならないが、途中で力尽きて顔のない仮面の連中に奪われては意味がない。

 最悪の場合、騎士二人を倒したあいつとも戦う覚悟をしておいた方が良さそうだ。

 「…………っ!」

 戦闘を想像しただけで背筋が凍る。

 今まで戦闘経験が皆無というわけではない。異世界に来てからというもの何故か戦いの日々が続いている。

 しかし、今の状況と決定的な違いがある。

 それは俺が人を殺せる武器を持っているか否かということだ。

 アルバーレ王国では真剣は一部例外を除いて禁じられている。その代わりにライトソードやバーチャルバレットが用いられているのだ。これらは人を殺めることのない武器だった。

 特定の種族を殲滅する力を持つ聖罰剣とは違う。

 イノシシが人の姿になった時、身体が強張ったのは恐怖のせいだ。

 それを改めて再確認する。

 人の姿になったという予測不能な状況に対しての恐怖ではない。

 あれは人を殺すことへの恐怖だ。

 俺は自分と同じように生活したり、誰かと喧嘩したり、笑ったりしていた者を殺すのを忌避したのだ。

 先程黒ローブにベスティアを構えた時、強張ってしまったのもそのせいだろう。

 だが、覚悟しなければならない。本当は異世界初の戦闘の時に覚悟しなければならないことだ。こちらには殺すつもりはなかったから見落としていた。

 戦闘の本質は殺し合い。

 あちらが殺す気ならこちらもそうする。

 しかし、殺さない。

 最後の一線を見失わない。

 ライトソードやバーチャルバレットがない今、それは自身の力で線引きするしかない。

 俺は静かに目を開ける。

 蹴られたところが痛みを訴える。

 ふとレイは――兄ならどうしただろうという疑問が頭によぎった。

 俺と同じ答えだろうか、いやもっと正しい答えを出すだろうか。

 サキと――幼馴染と会ったせいか、亡き兄のことを思い出すことが多くなった。

 俺は頭を切り替えて、舞姫のところへと休ませていた足を進める。

 刹那。

 「な、なんだ……!? ベスティアが……!?」

 ベスティアが淡い光に包まれた。

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