69 その頃、長たちは
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セレアはそっと目を開ける。そこで初めて自分が寝ていたことに気づく。
「あれ? ……ここどこ?」
辺りを見ると暗くてよく見えないが、だだっ広い畳の部屋のようだ。セレアは布団に寝かされていた
彼女は落ち着いて記憶を探る。
(ええと、たしか舞姫様と一緒に累の塔に行って……)
侵入者。
その単語で全てを思い出した紅髮の女王は辺りを警戒する。
あれからどうなったのか。不知火は無事なのか。
状況確認も含めて辺りを見る。
しかし、誰もいないようだ。
その現場はセレアに更なる疑問を抱かせる。
(舞姫様はどこかしら? そもそも本当にここどこ?)
セレアは立ち上がって歩き回ろうとする。
その時、ガラリと引き戸が開いて光が差す。
「うむ? おおセレアよ、起きたか」
「舞姫様。ここは一体……?」
「なんじゃ? まだ寝ぼけておるのか? 昨日の昼間も来たであろう」
舞姫が部屋に上がってセレアの近くに座る。
「もしかして、舞姫様の家ですか?」
「そうじゃ」
「けど、なんでここに? 累の塔にいたはず……」
舞姫は眠たそうに欠伸をしてから言う。
「あれから地下まで降りて地上に出てここに至るといった感じじゃな。ウヌは落下の時から気絶しておった故、妾が運んだのじゃぞ。感謝せい」
セレアは恐怖の自由落下を思い出し、ぶるりと身体を震わす。そして、慌てて頭を下げる。
「あ、ありがとうございます」
「うむうむ、苦しゅうないぞ。にゃは!」
舞姫は満足したように笑顔を見せて、話は終わりと言わんばかりに寝転がる。
「……えっと、待ってください」
「何をじゃ?」
セレアの制止に舞姫は横になりながらきょとんと首をかしげる。
しかし、セレアはそんなことは気に止めず今の会話で疑問に思った点を整理していく。
「さっき昨日の昼間って言いましたのね?」
「言ったぞい」
「てことは日付変わりました?」
「変わったのう。今、お天道様が顔を出したくらいじゃ」
その言葉でセレアは自分がどのくらい寝ていたのかが分かった。
疑問点が多いから次々に質問をぶつける。
「地下ってなんですか?」
「この地に張り巡らされておる地下通路じゃよ。妾たちはそこに落ちたのじゃ。まあ、あそこは専用通路じゃから誰もいなかったがのう」
街の人たちもその地下通路とやらで(専用通路以外の道から)避難したらしい。
そのような場所があるなんて全然知らなかった。
「…………マレイさんは無事でしょうか?」
「質問ばっかりじゃな。まあ、よい。マレイは無事とは言えんが生きてはおる。今しがた様子を見に行っていたところじゃ」
「……そうですか」
セレアは舞姫の言い方から不知火が大怪我をしたと察して、顔を伏せる。
そして何もできない自分にため息をつく。
「では次はこちらの質問に答えてもらおうかの」
横になった舞姫はセレアの質問責めが終わったのを見て口角を上げる。
セレアはその笑みにただならぬ身の危険を感じて構える。
「な、なんでしょう?」
「風呂の時に聞けんかった答えについてじゃ。……ずばり、カケルのボウズのことを好いておるのか?」
下世話な興味を隠さずに舞姫は聞いてきた。
「なっ……!?」
露天風呂に入った時にも話の流れで舞姫に聞かれた。その時は不知火が止めてくれたから答えずに済んだが、二人だけの状況でそれは望めない。
諦めて答えるしかない。
セレアはそう決意して少し考える。
ミラノやライザーのような年の近い者は少なからずいた。というか、その二人しかいないのだが。
しかしミラノはともかくライザーは昔からあちらが従者として振舞っているので友達としての感覚は薄い。
したがって男の子の友達はカケルが初めてと言えるだろう。
「友達としてカケルのことは好きですが……」
「ほう、して恋愛という面では?」
舞姫が興味津々といった感じで聞いてくる。
セレアもそこで舞姫が満足するはずがないことはわかっていた。
舞姫が言った好きの意味も自分が答えたものとは違うことも理解していた。
決心して続きを話すが、恥ずかしさから少し声が小さくなる。
そしめ顔が熱でもあるかのように赤くなる。
「……分からないです。そういう感情になったことがないから…………少し、憧れてはいますけど……」
小さい頃に読んだ物語では恋をしている姫や町娘はとても楽しそうに、輝いているように思えた。
それなら自分もしてみたいとは思うが、それには相手が必要だ。一人ではできない。
そもそも現れるのかが疑問だが。
そう思っていると、目の前にいる巫女服の女性がやけに静かなのに気づいた。
「あの、舞姫様?」
まだ頬に熱が残っているのを感じつつ、セレアはソウルビーストの長に近づく。
「…………い」
「はい?」
舞姫が何かを呟いたようだが、聞き取れなかったセレアは顔をさらに近づける。
「かわゆい!」
その瞬間、セレアはぐっと頭を引き寄せられた。
「へ? わっ、ちょ、うっぷ……!?」
「なんと今時こんな初な娘がおるとは! 悪い男に騙されそうな危うさもあるがそれもまたいとおかし! むしろ長所!」
「んーー!」
失礼な事を言われた気がするが、舞姫の豊満な胸に顔を埋められているセレアはその抗議もできない。
しばらく必死に抵抗してやっと解放してもらえた。
その間に褒めているのか貶しているのか分からない発言が続いたが、息ができなくてそれどころではなかったセレアの耳には届いていない。
セレアは解放された瞬間、舞姫と距離を取る。そして乱れた髪や呼吸を整えた。
舞姫は悪戯っぽく笑う。
「どうじゃ? 少しは緊張も解けたかえ?」
「え……?」
セレアはそう言われて、変に強張っていた力が解けていることが分かった。
「……ありがとうございます」
「にゃは! 良い良い。妾の暇つぶしも入っておるからのう。そう純粋無垢にお礼を言われるとまた抱きつきたくなるわい」
「いや、それはちょっと……」
セレアは再び抱きつこうとするフリを見せた舞姫に対して苦笑いでそう答えた。




